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異世界の吸血鬼殺し  作者: 配線トルーパー
異世界の吸血鬼殺し
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第一章 日本国立対魔学園(3)

森はその境界部がはっきりとしていて、森を抜けると辺りは畑が広がっていた。そのまた遠くには、ポツポツと家が建っている。


森を抜けた瞬間、一気に周りは明るくなり日差しが照りつけてくる。ただ、先程までの蒸し暑さは無くなり、ほどよい空気が夜明を包んだ。


空の明るさから、今はおよそ正午過ぎだと夜明は推測する。しかし、夜明のその感覚は先進世界でのものであって正しいとは言いきれない。


出発前、アルワードは昼の三時前に学園に着くと言っていた。その為、夜明が唯一分かることは、今はそれより時間が経っていないということだけだった。


後進世界では時間の概念を全て先進世界と合わせている。それでも、後進世界での一年の周期に問題は起こらないのだという。従って、後進世界でも一日は二十四時間で、一年は三百六十五日となっている。


「ちょっとここで待機だ。もうすぐ迎えが来る」


畑の中央を通る道のずっと先を見つめて、アルワードはそう言った。この時に涼火はため息と舌打ちを再び繰り出したが、夜明はそれを無視した。


迎えを待っている間、夜明はこの辺りの気候が非常に過ごしやすいものだと感じた。森を抜けてからの気候が、春に入ったばかりの日本の環境に似ているのだ。今、周りに桜があればと夜明はふと思う。ただ、ここは異世界で桜自体がない可能性がある。


以前、夜明はアリスという両界編制軍の兵員から、後進世界の環境は一年を通してほとんど変わらないと教えてもらっていた。多少の寒暖の周期があってそれが一年を表しているらしいが、そうはいっても平均気温が一度から二度変わる程度だと言う。その為、常に春のような気候で変わらないのだった。


「ねぇ……」


夜明がそんなことを思案していると、横から涼火が話しかけてきた。


「………なんだ?」


また理不尽な暴力があるのではと警戒し、夜明は身構えながら答える。だが、それは杞憂であった。


「体はもう大丈夫なの?あれからまだ数日しか経ってないけど……」


涼火が心配そうな声を出す。それを聞いて、夜明は度肝を抜かれた。加えて、夜明の身体中は騒めき始める。


夜明は数日前、確かに大怪我を負う羽目になった。すでに傷は完治しており、それは涼火も知っているはずである。ただ、そんな涼火が夜明の身体を気にするなど、全く考えられないことだったのだ。


それ以前に、涼火も夜明と一緒に相当な傷を負った身である。自分を差し置いて人の心配をする涼火の姿は、夜明の覚えている限り初めて目にするものだった。


夜明にとって涼火が心配してくれることはとても嬉しいことである。しかし、それと同時に涼火が何かを企んでいるような気もしていた。涼火ほどの性格の悪さならば十分あり得ることなのだ。


だが、夜明は涼火の顔を見て、その疑いを拭わなければならなかった。


大きく鮮やかな涼火の目は、ずっと夜明の方を心配そうに見ている。これが演技の類でないことはすぐに分かる。何故なら、夜明はこんな無防備な涼火の顔を初めて見たからだった。


「ああ、それに関しては心配いらない。至って快調だ」


夜明は全てを悟ってそう言うと、涼火は一つ息を吐いた。安堵してくれたのか分からないが、珍しいことで夜明の涙腺は緩みそうになる。


しかし、そんな感情に浸ることも束の間、夜明を涼火のローキックが襲った。狙われたのは夜明のすねだった。夜明はその衝撃で後ろの畑に倒れ込む。衝撃を受け流す為に夜明はとっさに後ろに飛んだため痛みはそんなになかったものの、新しい軍服はドロドロになった。


「……全く。心配をかけないで」


涼火はそう言うとスタスタと夜明から離れていった。夜明は苦笑いを浮かべる他なかったが、涼火がローキックの前に安堵の表情を浮かべていたのを見ていたので、怒りが湧くことはなかった。


先程のローキックは、躱そうと思えば躱すことはできていた。だが、夜明はあえてそうはしなかった。それは、あのローキックは今までのような無差別な暴力ではなく、涼火の安心したという意思表示を含んでいたからだった。


決して、夜明は蹴られることを望んでいた訳ではない。出来るものなら、暴力に頼らない意思表示方法を涼火にお願いしたいと考えている。だが、性格に大難を抱えている涼火がこうして自分の意思を行動で示してくれることは大きな進歩であり、それを避けることなど夜明にできるはずがなかった。


そんなやりとりから五分ほどが経った頃、道の向こうからたくさんの馬を連れた男がやってきた。彼も同じ軍服を着ており、両界編制軍の兵員であることが分かる。


「遅れてすまない。なかなかこいつらが言うことを聞いてくれなかった」


まだ三十代だと思われる男はアルワードに敬礼をしてからそう言った。敬語ではないところから、夜明はこの男の立場がアルワードと同じ位かそれ以上だと予想する。


しかし、それにしてはいくらなんでも若すぎると夜明は感じた。そのため、夜明は新しい考え方として、この男は後進世界の人間であるため、日本語の敬語という考え方があまり分かっていない可能性を見い出した。


後進世界では二種類の言語が使われている。一つは後進世界で昔から話されていた後進王政言語。これは、後進世界の一般庶民の人たちが使う言語である。


そしてもう一つは日本語である。これは軍や学園などの組織内、貿易時などに使われている。その為、後進世界の子供達は小さい頃から日本語教育を受けていた。


彼らが日本語を習得する理由は日本人が英語を習得する理由と同じであり、技術面で進んでいる先進世界の言語を習った方が、今後のためになると後進世界では考えられていたからである。そんな理由で、アルワードやこの男も日本語をしっかりと習得しており、日本語がかなり達者であった。


またこれから分かるように、後進世界では先進世界の存在が秘匿となっていない。


「ハハハ、相変わらず動物には好かれんようだな。さて小早川、加藤、彼は両界編制軍精鋭団兵員であり私の親友のケイラー•オルスマンだ。今から彼も学園まで行動を共にしてくれる」


アルワードはそう言ってケイラーの自己紹介を進めた。ケイラーはそれを聞いて苦笑いを浮かべる。ケイラーは身長が高く、茶に金が混じったような髪をしている。夜明が顔を見たところ、ケイラーはイケメンの部類に入っていた。


また彼らが行った敬礼は、よく知られている右手を額につけるものだった。


「二度も言う必要はないですが、私は両界編制軍精鋭団兵員のケイラー•オルスマンと申します。以後よろしくお願いします」


ケイラーが軽く自己紹介をする。そんな中、アルワードによるケイラーの自己紹介と彼自身の自己紹介を聞いて、夜明はなるほどと思いそれと同時に感心した。


夜明は初め、ケイラーは敬語をあまり理解していないものだと思っていた。その為、アルワードに対してタメ口に近い言葉を使ったと考えていたのだ。


だが、ケイラーは敬語を知っていた。少なくとも夜明や涼火に対しては敬語を使った。


そして、アルワードがケイラーは親友だと言っていたことを夜明はふと思い出した。今更考えると当たり前のことであるが、親友という関係があったためにケイラーはアルワードに敬語を使わなかったのである。


このように母語でもない日本語を、ケイラーを始め後進世界の人間が匠に操ることが出来ることを知って、夜明は感心せざるを得なかった。日本人でもしっかりと日本語を使えない人間は多い。


とはいえ、職務中であることを考慮すると、あまり褒められることではないように夜明は思った。


ケイラーが自分の名を名乗り、夜明も自己紹介をすることになる。


「こちらこそよろしくお願いします。僕は日本軍両界編制軍特別兵員の小早川夜明です」


「同じく、加藤涼火です」


夜明が自己紹介をすると、涼火もそれにならって自己紹介をする。


「それにしても、彼女は非常に美しい顔をしている。思わず見蕩れてしまったよ」


夜明らが自己紹介をすると、下心があったのかは定かではないが、ケイラーは不意に涼火を絶賛しはじめた。世界は違えど、男が見蕩れてしまう容姿は同じのようである。


「………どうも」


涼火は夜明の顔を一瞥してからそう言った。夜明はその時に特に表情を変えなかったが、涼火も別段照れているようでもないようだった。


「取り敢えず出発しましょうか。私のせいで時間も押していることですし」


ケイラーはそう仕切り直すと、連れてきた馬を皆に配っていった。それは競馬で使われそうなほど大きな馬である。


夜明に渡された馬は、茶色の毛のものだった。夜明にとって馬をこんなに近くで見たのは初めてで、乗ったことなどあるはずがない。


夜明は都会ではなく村の出身であるが、農業が中心の自治体だったため動物と触れ合うことはあまりなかった。せいぜいイノシシと猿に遭遇する程度である。そんな馬に乗ったことのない夜明は、アルワードが馬に乗るところを見てそれを真似をして乗ることにした。その結果、意外と簡単に乗ることができる。


夜明が乗り終えると、横から馬のいななきが聞こえた。そちらを見てみるとそこには馬に乗った涼火がいた。そして、夜明にはその馬が泣いているように見えた。


「では出発する。スピードはそんなに出さないが、落ちることのないようにしろ。こちらに来た瞬間に怪我なんてさせたら、おそらく王都追放だ」


ケイラーは自虐的に笑って夜明と涼火にそう口にする。そして周囲を見回した後に馬を進め始めた。


現在、夜明と涼火は先進世界の代表として、後進世界の対魔学園に向かっている。その護衛は非常に重要な任務らしく、その為に両界編制軍精鋭団の兵員が動員されていた。さらに、その中佐までもだ。


軍の階級的には夜明らの方が下なのだが、夜明らが極めて特殊な立ち位置にいるために夜明と涼火は重要人物となっていた。そんな中、もし夜明や涼火が怪我を負えば、彼らに処分が下ることは間違いない。それは決して、夜明らにとっても気分がいいものではなかった。


馬は先頭が出発すると、それにゾロゾロと列を成して進むように調教されているようだった。その為、夜明らが何もしなくても馬は走り始めた。


こうして、特に変わったことのないまま夜明らは順調に道を進んだ。景色は畑がが段々と街へ変わっていく。王都がかなり広いことを夜明はこのことから理解した。


馬で出発してから約一時間。夜明が座っている感覚を失ってきたころ、夜明の目の前に長い塀のようなものが見え始めた。いま通っている道の両端には三階建ての建物が連なっており、この道の一番先にそれらに挟まれるように長い塀が見えていた。


高さは五メートル位。コンクリートでできているようで、上には有刺鉄線が張り巡らされている。また、塀の上で等間隔に見張り兵が銃器を持って立っていた。夜明はそれを見てやや緊張する。


そのまま夜明らが塀の一部に設置されている門に近づいていくと、そこには日本語で大きく学校名が書かれていた。


日本国立対魔学園


そこは夜明らの目的地だった。

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