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異世界の吸血鬼殺し  作者: 配線トルーパー
異世界の吸血鬼殺し
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プロローグ

必死になってやってきた甲斐なく、夜明は涼火の家が炎に包まれている様子を目にした。手の施し用の無いほどの炎を前にして、夜明は村の消防団ではどうすることも出来ないことを悟った。


だが、夜明はそんな中でも涼火はまだ生きていると信じていた。


「加藤涼火はどこですか!?」


夜明は近くでバケツリレーをしていた男に尋ねる。夜明の目の前では、近所の男の人たちが一生懸命バケツリレーで消火にあたっている。しかし、それが焼け石に水であることは言うまでもない。この村の消防団がやってくるまでの形だけの消化活動でしかなかった。


「まだ中やと思う。今、火を皆で消しとるからちょっと待て!………心配するな、絶対消してやるから!」


消化活動中の男は夜明にそう言って、回ってきたバケツを隣の人に渡しながら笑う。


夜明がこの季節にも関わらず汗まみれで息をあげていることから、その男は涼火の知り合いだと分かったのだろう。夜明を安心させる為だけの笑顔をその男は見せていた。


だが、もうバケツリレーでどうにかなるレベルの火ではないことは見るまでもなかった。このバケツリレーは、ほとんど意味を持たないものだったのである。


夜明はそれをただ見ているだけでいられるはずもなく、リレーを構成する男からバケツをひったくる。そして、夜明は中の水を頭から被った。三月の凍えそうな夜に水を被った夜明の体は一瞬震えるも、それはすぐに止まる。そして、夜明は燃えている家だけを見据えた。


「馬鹿な事をするな!あの火じゃもう無理だ!生きているかも分からないあの子を助ける為に、あんたが死ぬことはない!」


先程の男が夜明を怒鳴りつける。そして、その声を聞いた多くの人が夜明に注目した。視線を夜明に向けた多くの人は、今の状況に目を見開く。


周りから見れば、夜明は死に急いでいるようにしか見えてなかった。そして、多くの人は夜明を見ながら絶望していた。


この火事の原因は、夜明の頭の中ではとっくに予想がついていた。それが正しいのであれば、涼火は夜明の所為でこんな事に巻き込まれてしまった事になる。


今更どうする事もできない。だが、何もしないなど夜明にはできなかった。可能性があるのであれば、一刻も早く助けなければならないと夜明は考えたのだ。


「誰か!あの馬鹿を止めろ!」


後ろで誰かが叫ぶもそれは少し遅く、夜明は完全に火に飲み込まれてしまっている家に走る。そして、割れていた窓ガラスから家の中に侵入した。


「涼火!」


夜明は大きな声でそう叫ぶ。呼吸をするたびに熱気によって喉が痛めつけられるが、夜明はそんなことを気にしてはいられなかった。


能力のおかげで火事による火傷をなんとか耐えていた夜明は、そのまま家の奥へと向かった。


ただそんな中、火傷を負う度に治癒していく自分の身体を、夜明は気持ち悪く感じた。生理的嫌悪がこみ上げてきて、夜明は鳥肌を立てる。


ただ、それは夜明は大丈夫だということを示しているだけに過ぎない。むしろ夜明とは反対に、普通の人間である涼火がこんな火の中で長く耐えられるはずがない。その為、一刻も早く涼火を見つける必要があった。


そうして夜明が身をかがめて進んでいたとき、夜明は揺らぐ炎の中にはっきりとした動きを確認した。炎が揺れたのではなく、確かに何かが動いたのだ。


「………涼火か?」


それが涼火であると信じながら、夜明はそう呼びかける。もし動いたのが涼火だとすると、それはまだ生きているということになる。


その可能性だけを信じて、夜明はその場所へと走った。


「………やっと来たのね」


だが、そんな夜明の期待を裏切るかのように、夜明がその場所に近づくと突然そんな声が空気を震わせた。


涼火の声ではないと判断した夜明はすぐに警戒する。その声は冷たく重いもので、その中に美しさが詰まっていた。


「誰だ。………ってまあ予想はついてるけど」


夜明がそう言うと、声の主は炎の中から姿を現した。黒の布を身に纏っていて、髪は銀髪のロングヘア。顔は整っていて美しく、身長は夜明よりやや小さいほど。誰が見ても見惚れてしまうそんな少女は、不釣り合いなことに右手に剣を握っていた。


「あの時は散々ボコボコにしてくれたな。まあ、今日はその時のお礼でもさせてもらおうか。フィーチャー?」


そう言って、夜明はフィーチャーと対峙する。そんな夜明の姿を見て、フィーチャーは小さく微笑んだ。


「できるものならやってみなさい。この子を救いたければ」


フィーチャーはそう言うと、炎の奥から何かを引きずって持ってくる。それを見た夜明は怒りに身体を震わせた。そこには、ピクリとも動かない涼火が横たわっていたのだ。


「貴様……!」


夜明とフィーチャーの三度目の戦いが始まったのは、その後すぐだった。

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