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第08話 メイドと銃

まあ、そんな事が中心のお話です。


それと、そろそろメイド、でサブタイトル始めるのがきつくなってきましたw


なのでそのうちサブタイトルの書き方を変えるかもしれません。それまでのサブタイトルはそのままですがねw


「フラン、いるかしら?」


いつものように朝の仕事を終わらせ、レティアを送り出したフランは自室に戻ってアフェシアスの掃除に勤しんでいると、扉が数度叩かれ、外からメリスの声が響いてきた。


「メイド長? ちょっと待ってください、今開けます」


解体して機関部の掃除をしていたため、机を揺らさぬようそっと椅子を引いて立ち上がると扉の鍵を開けて扉を開く。


「今いいかしら?」


「ええ、何かお仕事ですか?」


部屋の中にメリスを招き入れようとすると、メリスは「それには及ばない」と手で制した。


「外を見て頂戴」


廊下の窓から外をメリスが指差し、フランは部屋から出ると窓から空を見上げてみる。


「これは、降りますね」


空には低い高度に灰色の雲が立ち込めており、時折遠雷の音が聞こえてくる。風が少し強くなっているようで通りの木々が揺れていて、門から見える通りを足早に人々が歩いている様子が見える。


雨が降るのは時間の問題だろう。見ればクレアが廊下沿いにある窓を1つずつ閉めている。


「朝は晴れていたんですけどねぇ」


今日の朝は快晴とも言えるほどの青空だった。雲も少なく、数時間でこうなるとは思いもしなかった。


「もし雨が降るような事があったら、悪いけどお嬢様を迎えに行ってくれるかしら?」


「お嬢様、傘を持っていかれなかったので?」


「ええ、あれだけ晴れていたら、私でも傘は持っていかないわ」


「……メイド長なら、便利な空間に格納しておけばいいんじゃ……」


「あそこのスペースだって無限じゃないのよ」


そうは言うが、傘の1本も入らないくらいたくさんの物が入っている、という事なのだろうか。先日の特訓の際にどこからともなく出てきた氷嚢は、あの空間に入れておいたのものなのだろうと、今さらながら見当をつける。


フランには、最近レティアの学園、グローリア魔法学園に行くような仕事が回ってくるようになった。おそらく宿題を持っていったあの件でレティアがご満悦だったからなのだろう。


あの日以来、レティアは事ある毎にフランに宿題の手伝いをさせるようになっている。実技はメリスやグラントと共にやっているが、筆記に関してはフランに問題を見せて半分程度はフランに解かせているような状況だ。


メリスもおそらく気が付いてはいるのだろうが、フランが答えまでの道筋を全て示すような教え方をしていないのを見て、傍観の態度を崩さないことにしたようだ。


とはいえ、レティアの宿題を共に解く様になって、レティアが学園でいかに大変な勉強をしているのか、目の当たりにした。フランの常識で言えば、数時間じっくり教えられてから問題として出されるような問題をジョブはプリント1枚にまとめてそれを説明なしで解かせているのだ。


以前、何故そんな放任主義な授業をしているのか、とレティアに聞いてみたが、「あたしのクラスはそれで何とかなるようなクラスだから」という答えが返ってきた。


なんでもレティアのクラスはもともと学生の自立性が特に高いそうで、教師が何か言うまでもなく自分たちでやるべきことはやるそうだ。


確かに、そう言われてみればかなり自立性に富んでいるのは間違いない。


「それじゃ、頼んだわよ」


「はい、頼まれました」


メリスはフランの返事に笑みを浮かべると自分の仕事に戻っていった。


フランはそれを見送ってから部屋の中に戻り、自室の窓のカーテンを引いて外を見る。


「……2、3時間ってとこですか」


雨が降るであろう時間に見当をつけ、一度今の時間を確認する。お昼前だが、レティアが全ての授業を終えて帰宅の途につく頃には降り出しているだろう。


「さっさと終わらせておかなければ……」


窓の外を一瞥して再び椅子に座ると、フランは解体されたままだったアフェシアスと向き合う。


大きな部品は銃身、シリンダー、グリップに分解されており、さらに各部細かい部品が白い布の上に乗せられている。布が白いのは細かい部品を見失わないようにするためだ。初めて解体清掃をした時は普通に机の上でやってしまったために丸い部品は転がり、組み立て直した後に1つだけ部品が余るという面倒な事態になった事もある。


その点布を下に敷いておけば、転がりにくくなり、また1つひとつの部品が目につきやすくなる。


銃、という兵器はこの魔法技術の発達した現代非常に稀有な存在なのはフランも分かっている。メリスやグラントにお願いして銃について書かれている文献を探してもらい、それをフランが理解できるように説明してもらう必要があった。


それでも、火薬式ではないアフェシアスを常に万全の状態にしておくには情報が足りず、一時は完全な手さぐり状態だった時もあった。


銃自体の整備も弾丸の調達並みに苦労したのだ。


だが、その苦労の甲斐もあって今では手引がなくても解体、掃除、組み立てを行えるようになった。人を殺すために作られた物を手入れが上達するなど嬉しくもなんともないという気持ちもあったが、アフェシアスがないと自分やレティアを守れないのも事実だ。


魔法が使える者ならば、結界を作るなり、障壁を作り出すなりして身を守ることが出来る。


だが、フランは魔力こそあれど魔法に変換できない。身を守る手段はグラントに叩き込まれた体術とアフェシアスのみだ。


時折、なぜ自分がアフェシアスを持っているのか疑問を持つことがある。


記憶がないためどうしようもないのだが、これが必要に迫られるような場に自分がいたのだろうか、と考えを巡らせる。


今まで、誰にも言わずに心の中に押し込めていた想いだ。


自分は何者で、何をしていたのか。


「はぁ……」


天気が悪いと自然と気も滅入ってしまうのだろうか、そんな事を考えている自分にフランはため息をついてしまう。


ふと、フランは銃を組み立てる手を止めて、そっと眼帯に触れる。


レティアが自らの手で作ってくれた特製の眼帯だそうだ。書物で作り方を調べ、肌に馴染む素材、フランの顔のサイズに合った物をフランに気が付かれないように作っていたそうだ。


それまで包帯を頭にグルグルと巻いて屋敷を歩いていたフランがあまりにも見ていられなかったのだろう。顔の左半分の傷がスッポリ隠されるように作られたそれは、フランの心の傷をそっと慰めてくれるような気分にさせてくれた。


「こっちは、どうしようもできませんけどね……」


左手の袖を捲り、その腕を見つめる。


おそらくまだレティアも誰も気が付いていないだろう、フランの左腕に刻まれた「9」という印。これが何を意味しているのかも分からないが、この刻印を見ていると無性に怒りがこみ上げてくる。


それほど大きな刻印でもないし、普段はこうして袖に隠れているため忘れている事も多いが、不意に思い出すと心が波立ってしまう。


何かの識別番号とも考えられる。


名前の代わりになるようなもの、名前を必要としない場所に自分がいたのかもしれない。


「そんな所、寂しすぎる……」


本当の名前を知らない、だからこそ、名前というものに対する執着が強い、その自覚はフランにもある。「フラン」という名を貰い、その名を大切に思っているのも、そういう理由があるからなのだろう。


見ているだけでもあまり良い気のしない「9」の刻印を袖で隠し、視線をアフェシアスに戻す。


「……あ」


ほとんど本来の姿に戻ったアフェシアスと、その傍に置かれている小さな部品を見てフランは間抜けな声を上げてしまう。



















「それでは行ってまいります」


「気を付けて行ってらっしゃい。帰ってきた時の為に温かい飲み物でも入れておくわ」


案の定、雲行きの怪しかった天候は午後にはにわか雨を降らし始め、レティアの授業が終わる時間帯には本降りになっていた。


冬を過ぎたとはいえまだ春には少し早い季節、やはり肌寒さが残っているため、フランは黒い手袋をしている。


玄関にある傘を2本手に取り、玄関の扉を開けるとそのうちの1本を開き、頭の上に持ち上げる。


雨の日、というのはフランにとって苦痛しか与えてくれない。そのせいか天を見上げるフランの表情はどこか暗い。


顔の右半分を覆う傷は悪天候に見舞われると決まって鈍痛を呼び起こすのだ。


まるで自分たちの存在を忘れさせないためかのように自己主張してくる。低気圧が来ると関節痛に襲われるというのはよく聞くが、顔面の半分が鈍痛に見舞われると動く気力すら奪われてしまう。


「これは、当分止みそうにはありませんね……」


傘を傾けて見上げる空には分厚い暗雲が立ち込めている。午前中よりも幾分どす黒さが増したようにも思える。


通りに出ると当然ながら傘を持った人々が早歩きで動いている。傘を持っていない男性がバックを頭の上に置いて走って通りを駆けていくのを眺めながら、フランは傘で溢れた通りを学園の方へと歩いていく。


(雨、ですか……)


思い起こされるのは初めてレティアに出会った日の事。


衰弱しきっていた自分を助け出し、「今」を与えられた日。


「おっと」


馬車が通りを横切り、水溜りの上を車輪が通過すると水が思い切り跳ね上げられる。フランは開いていなかったもう1本の傘を身体の前で開き、飛び散る水を防ぐ。フランと同じ方向に歩いていた女性が全身に水を浴び、馬車に向かって悪態をついているのを尻目に傘を閉じ、その横を通り過ぎていく。


(あの日も、こんな天気でしたか……)


立つこともままならず、食事すら自らの力で出来ず、言葉すら発せなかったあの頃、いや、正確には発するべき言葉すら知らなかったのがあの時のフランの状態だった。


今でも不思議に思う事がある。


普通の人から見れば、あれほど異常な・・・状況はなかっただろう。


なぜレティアと父親のクラウスは自分を普通の病院へ連れていかなかったのか。あのような状況ではまず最初に公共の病院へフランを運ぼうとするのが普通だ。


だが2人はそうせず、自分たちの屋敷にフランを担ぎ込み治療した。


「……これのせいですかね」


腰にぶら下がるアフェシアスに手を当て、ポツリと呟く。


きっと、傷だけならただの不幸な少女・・・・・で話は済んだだろう。しかしアフェシアスの存在がフランを不幸な少女から表に出すことが出来ない少女へと変えてしまったということか。


ファルケン家の者はそういう事にまで配慮が出来るような存在という事になる。おそらくは政治家であるクラウスの考えなのだろう。


感傷に浸っているつもりはなかったが、何も考える事がないと自然と過去の事に考えが向いてしまう。


フランがファルケン家に保護された時、アフェシアスはクラウスによって取り上げられていた。当然フランの安全を考えての事だろう。


銃が危険な物なのはフランだって分かっている。自分の意図に背いてその力を行使する事もあるし、自らの思惑通り動かない時もある。


だが、それは魔法であっても同じことだ。


フランには関係のない事なのだろうが、魔力を暴走させて自爆するような事だって全く起こっていないわけではない。生活の中にあまりに溶け込んでいる魔法技術はその危険性が認識されにくいという事だろう。


魔法を行使した結果・・が何を引き起こすのかも分からず魔法を使い、多大な被害を出す事だってあるのだ。魔力量によって個人差が出るからこそ、人はより高い魔法技術を求め、生きている。


まさしくそれは失敗の歴史とも言える。


過去には「大魔法技術革命」などと呼ばれる時期もあり、現代にも活かされている技術が一度に大量に生まれた。


だが、その過程では数百人という犠牲者が出て、技術を巡っての政争が巻き起こる始末、決してクリーンな歴史ではないのだ。


これはメリスに渡された簡単な歴史年表に書かれていたものだ。


有史以来の大きな出来事を概略と共にまとめられており、この王国の成り立ちからファルケン家の歴史もその中には含まれている。


銃に使われる火薬技術は有史の少し手前と言った時期に製造されていたもので、その製造方法も何もかもが推測の域を出ていなかった。


さらに、全ての人が分け隔てなく、平等にを行使できる兵器は権力者にとってもあまり出回って欲しくない代物らしく、情報自体も著しく少なかった。


もしフランがファルケン家に拾われていなかったらアフェシアスはとうの昔に錆だらけになっていたに違いない。


「偶然の重なりとは不思議なものですね……、おや?」


ふと、視界に見慣れた人影を見つけた。


「デックスさん」


八百屋の店長と話し込んでいるデックスを見つけ、一度時計を確認してからデックスに歩み寄る。


「お? メイドの嬢ちゃん、デックスと知り合い……、ああ! お前が働いている屋敷は嬢ちゃんの屋敷なのか?」


学園までのルートは必ずこの八百屋の前を通るため、フランと八百屋の店長は自然と挨拶を交わす様になっていた。


「デックスさんが野菜を調達しているのってここだったんですか」


フランの問いにデックスが小さく頷く。


「こいつは素材にうるさいからな。満足いかないなら俺が卸してるってわけよ」


雨の日でも店先に野菜を並べている店長は曇天を吹き飛ばすかのような豪快な笑みを浮かべている。そしてデックスの肩をすごく良い音をさせながら叩いている。


「嬢ちゃん、こいつの料理美味いだろう?」


店長はにこやかにデックスを指差す。どうやら、この2人は旧知の仲なのだろうか、ただの売買の関係ではないように見える。


「はい、デックスさんの料理はなんでも美味しいです」


「そうだろう? やっぱり素材と料理人の腕が良いと……いでっ!?」


調子に乗って自慢げに自分の野菜を持ち上げる店長にデックスが軽い拳骨を食らわせる。


デックスは自分の時計を指差して何度かそれを小突くのを見て、フランは懐中時計を取り出して時間を確認する。


「そうですね、また晴れた日にでもゆっくり。それじゃデックスさん、また後で」


傘を差しているのでお辞儀は小さくしてフランはその場を後にすることにする。


後ろで店長が「また来いよー」と声を張り上げているのが聞こえ、その直後にデックスがまた小突いたらしく小さな悲鳴が響いた。



















「良い子じゃないか」


店長は人ごみの中に消えていったフランから視線をデックスに移し、笑みを崩さずそう呟いた。


「それにしても、あの・・デックスが今じゃ一流の料理人か……。世の中何がどうなるか分かったものじゃないな」


店長は隣で並べられているジャガイモを吟味しているデックスに視線を向ける事もなく、通りを見渡している。


「…………」


「相変わらずの無口だな。ま、俺はそんなあんたが嫌いじゃないがな」


デックスが身体を起こしてジャガイモとその隣に置いてあった幾つかの野菜を指差して個数を示す。


店長は「あいよ」と言いながら袋を取り出して示された個数だけ野菜を詰め込んでいく。


「フランちゃん、と言ったか。お前が気にかけそうな雰囲気の子だな。だがあまり過去を引きずるのも問題だぞ? あれは不幸な事故だったんだから」


「…………あれは事故じゃない」


初めてデックスが口を開き、重い、重厚感のある声でそう呟いた。


「だがなぁ……。ほどほどにしておいた方がいいぞ?」


「何のことか分からんな、……お釣り」


代金を支払い、お釣りを受け取るとデックスは店を後にする。


「毎度あり」


店長の声にデックスがヒラヒラと手を振り、傘を差すと屋敷へと戻る道へと出ていった。


「……また来いよ、デックス・”ローグ・・・”・ナトリ」


その背中を店長は苦笑しながら見送った。

え~、はい、どうも、ハモニカです。


少しばかり以上の回想と、歴史的背景的なものの説明が多くなってしまいましたね。「大魔法技術革命」なんてまんまイギリスの産業革命みたいなノリで書いてます。


あまりにもそれが長続きしそうだったので最後に追加でちょっとしたフラグを投下したわけですが……


どこで回収できるのかさっぱりですww


ああ、それとキャラ急募の件ですが、さっそく六人分のキャラ設定および四人分の名前のご提案がありました。本当にありがとうございます。


リアルに、ガチで、サブキャラ不足にあえいでいますので、名前だけの応募でも採用される可能性はかなり高いです。


既に三人分の設定が採用されています。正直面白いモノは片端から設定作っておいてタイミングよく投下していく感じですので、応募の期間はとりあえず未定にしておきたいと思います。


それと、クラスメイトという制限だったんですが、正直その枠から外れて先輩だろうと後輩だろうと問題ない気がしてきましたw多分、よほどふざけたものじゃない限り、ハモニカはその応募されたキャラを出せるか真剣に考えます。


登場させる際には後書きとかで一報入れさせてもらおうと思っております。


因みに応募されたキャラの中の1人はかなり物語に深く関わってくる予定になりました。それほどまでにキャラ不足だったというわけなんですがww


あ、あとここだけの話、女キャラの方が採用率高いですw


同世代の男は競争率かなり高いですw


なにしろ動かすハモニカが男をあまり使いませんからw


本編がいつもより約500字ほど少なかったので、後書きを少し長くとらせてもらいました。


では、ご感想などお待ちしております。

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