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第67話 決意の名は「帰還」


なーんか久しぶりだと思ったら66話を投稿したのは4月でした^^;


目が覚めると、あまり見慣れていない天井がお出迎えしてくれた。


天井の木目には見覚えがあるが、自分の部屋ではない。確か襲撃の夜、自分の部屋の壁が木端微塵に吹き飛ばされて到底生活できる状況ではなくなってしまっていたと記憶している。


少しだけ体を起こそうとして、腹部に強烈な痛みを感じる。


被せられた布団を捲って自分の腹に目を向けると、力を入れた腹から血が滲み出していた。


(夢じゃあ、なかった……)


ゼーカに腹を刺され、眠っていた間に全てを思い出したようだ。


指1つ動かそうものなら体のどこかしらから血を吹き出してしまいそうな自分の体に舌打ちしつつ、その血を頭に回して意識を覚醒させる。


今こうしてファルケン家の屋敷で横になっているという事は、ゼーカを退ける事には成功したようだ。あの夜の最後の方になるともはや意識など無いも同然の状態だったため、こうして屋敷が無事な姿であることを確認することが出来て安堵のため息が漏れる。そのため息すら、体に痛みをもたらすものであったが。


そうなると気になるのはレティアたちの事だ。


(皆、無事ですよね……?)


こうなると自分の体が動かない事が無性にもどかしくなる。


今すぐにでも自分の目で全員の無事を確認したいわけだが、あいにくそれをすると全身から噴水の様に血を吹き出しそうだ。包帯の交換も兼ねて早く誰かの顔を見たい。


少し顔を動かしてみると、窓際に見慣れた机がある事に気がついた。メリスが普段仕事に使っているものだ。それを見てようやく自分がメリスの部屋に寝かされているということを認識する。


(なら、広間が近い)


耳を澄ませば、誰かの声が聞こえるかもしれない。


そう思って壁の向こうに意識を集中させる。防音がしっかりなされているとはいえ、わずかながら話声が聞こえる。広間で何かを話しあっているようだ。十中八九自分の事のような気がしてならない。


(あたしの事、か。……あたし、自分の事なんにも知らなかったのかなぁ)


思い出してみて、あまりにも多くの事を忘れていた事を再認識する。


思い出すべきだった事も、思い出したくなかった事も。


今ならスラスラと自分の過去を時系列に則って説明できそうだ。それをすることに意味があるかどうかは置いておくとして、だが。


(…………)


――――――分からないか? なら言ってやろう。姉さんがいる限り、守るべき人に危険が迫るってことだ、永遠にな――――――


(ッ!!)


頭に血を回すと余計なことまで考えてしまう。


ゼーカの言った言葉が頭の片隅でジワジワと痛みを滲み出している。あの時は別段気にする事もなく斬り伏せたが、この状態を客観的に見てみると、ゼーカの言っていた事もあながちデマではない。


ゼーカがこの屋敷を襲ったのは他でもないフランを狙ってのものだ。つまり、フランがここにいる限り再び襲撃してくる可能性は高い。トリアもいるが、ゼーカの口ぶりからはトリアに気が付いていないか、見向きもしていないと思われる。


ならば、自分がここにいなければ少なくとも当分この屋敷は安泰なのではないか。


そんな事を考える自分がいる。


自分を助けてくれたクラウスやレティアへの恩返しのつもりが、結果として恩を仇で返すような事になった事は事実だ。ならば、とっととここから出ていくことが一番レティアのためになるのだろうか。


(ここではない、どこか、遠くに、か)


「ううぬ……」


(この声はっ)


呻くような声がどこからともかく響き、反射的に目を瞑って寝ているふりをしてしまう。


「おっといかんいかん、寝ておったか……」


声の主はテトだ。


姿を確認できなかったことから、おそらく床に寝そべっていたのだろうとアタリをつける。生あくびをする声が聞こえ、もぞもぞと動く音がしてベッドに何かが乗るのを感じる。


頬を温かい手が撫でる。


「フラン、早く目を覚ましておくれ。我は寂しくて死にそうじゃ」


テトが死ぬなら世も末だと言いたいが、あいにく口を動かすこともままならない。


そもそも、何故寝たふりをする必要があったのか自分で自分が理解できない。


「抱き付きたくとも、それをするとお主が死にかねんのじゃ。腹に風穴開けられて生きていられるお主には感心するが、寝たきりなんぞ我は認めんぞ? 立ってまた我を抱きしめておくれ」


いつ、一体誰が、どのような状況で、テトを自発的に抱きしめたか記憶にない。


いろいろ思い出した影響でいくらか忘れたのだろうか。少なくともテトに襲われたあの夜くらいしか自分から抱きしめに行った記憶がない。


フランの意識がない時でもテトは平常運転だと言う事を再認識していると、不意に鼻をかむ音が聞こえてくる。


(テト……?)


「お主を殺して良いのは我だけ、と以前言ったな? こんなの、認めんからな? 勝手に死ぬなんて、我が、私が・・、絶対に認めんからな。黄泉の世界に行こうものなら強引にでも引き戻すからな?」


まったく、死ぬことにまで許可がいるとは。


突っ込みどころ満載なテトの独白なのだが、今ここで目を開けたらテトはどんな顔をするだろうか。自分の独白を聞かれて顔を真っ赤にするだろうか。フランが起きた事を素直に喜んでくれるだろうか。予想では前者の結果、頭を叩かれて出血多量になる。


なので、ここは黙ってテトの独白を右の耳から入れて頭で理解してから左の耳から出しておく事にする。


体に血を回さず頭に回していると、さすがに何も考えないようにすることは出来なかった。


「……ぬ?」


扉がガチャリと音を立てて開き、誰かが入ってくる。


いよいよ目を開けるのが辛い。


「フラン、まだ起きない?」


それはレティアの声だ。


「ああ、見ての通り、眠ったままじゃ。お主が来なければキスをしようと思っていたところじゃ」


「……なぜそうなるの」


この状況で冗談を言えるテトに感嘆しつつも、そのような事になったら自分の怪我など関係なく張り倒す決意を固める。


「なに、王子のキスで姫が目を覚ます、あるあるじゃろう?」


「物語のあるあるを適用しないでちょうだい。それよりも、あなた何も食べてないでしょう? ごはんにするから一緒に食べましょう。いくらフランの近くにいたいからって、それであなたが身を持ち崩したらフランが悲しむわ」


「ぬう、お主にそのような事を言われるとは……。明日は雨かのう」


「失礼な。いつフランが目を覚ましてもすぐに駆けつけられるよう、体調を整えておくのよ。フランなら、そう言うだろうしね」


「ふふふ、お主もいよいよ、フランにゾッコンよのう?」


「んなぁっ!?」


ベッドを挟んでもう何度目かといういがみ合いが始まった。


しかし、おかげでレティアが無事だと言う事も確認できた。それが嬉しく、つい目尻が熱くなる。


「お?」


「え?」


迂闊にも、涙が出てしまった。


涙が頬を伝って枕を濡らしていく。


それに気が付いたのか2人は言い争いを止める。


「フラン、起きておるのか?」


テトが声をかけるが、返事が出来ない。


今口を開けたら、子供の様に泣き出してしまいそうな自分が恥ずかしい。それを我慢して、寝ているふりを続ける。


「何か、感じる事があったのかもしれないわね」


「おお、我の愛が届いたのか♪ ならばいよいよ口づけを……」


「やめなさい。そんな羨ま……、寝込みを襲うような真似は」


「お主も正直よのう」


「くっ、ごはんよ。とっとと来ないとあたしが食べちゃうからね!」


そう言ってレティアが部屋を去っていく。


それを笑いを押し殺しながら見送ったテトも、その後を追う様に部屋から出ていく。


再び部屋に静寂が訪れ、ようやくフランは目を開けた。


「…………」


顔を少し横に向けて涙を枕で拭う。


これほどに素晴らしい人たちに出会えた事に感謝する。若干一名、いや一匹、人じゃないのが混じっているがこの際気にしてはいけない。


恩返しだ。


(そう、あたしが誰であれ、あたしの仕事はただ1つ)


体に鞭打って上半身を起こす。


血を吸いきれず、包帯の上に血が滲み出してくる。


(お嬢様を守る事が、あたしの仕事、あたしの存在意義)















食事をしながら、レティアたちは今後について話し合っていた。


一国の大臣の自宅が襲われたという事もあり、警察が周辺で聞き込みをしたり、屋敷の周りを警備したりしている。今まで警察や近衛兵が警備する必要がなかったのはメリスやデックス、グラントがいたからだったのだが、今回はその認識をものの見事に打ち砕かれる結果となった。


彼らも犯人を捜し出すためにいろいろと調査をしているようだが、メリスとデックスがその場で、さらにグラントが加わり3人でゼーカに繋がる何かが残っていないか探して何も見つからなかったものをゼーカの存在も何も知らない警察が見つけ出すことは出来ないだろう。


仮に警察がゼーカにたどり着いたとしても、逮捕する事は困難だ。あれほど強力な人間を捕まえようものなら、警察どころか軍が動く必要すらありそうな気すらしてくる。


そうなると、やはり自分たち独自で動く必要がある。


幸い、フランの過去を知るために行ってきた調査、そしてトリアの話から犯人がゼーカとエナスというフランの兄弟姉妹、そしてかつて行われていた非人道的な計画が関わっているという事は分かっている。


何が目的でフランを襲ったのかは未だ定かではないが、再び襲ってくる可能性はある。フランがあのような状態である以上、今度同じ事をされれば下手をするとフランが殺される恐れすらある。そうでなくても容易に連れ去られる事すら考えられる。


次の襲撃があると仮定して、それよりも早く彼らのアジト、背後にいるであろう首謀者を見つけなければならない。


「しかし、一体どうする? 肝心な情報はかなり欠如している」


グラントの言葉に、皆が唸り声を上げる。


やろうとしている事は明確だ。


しかし、そのための手段という過程が丸ごと見いだせない。


手がかりになりそうなものすら発見できていないというのが実情だ。


「……白髪、インペリティアならあのような魔法を使う事は出来ないはずじゃな?」


「そのはずだが、おそらくフランの持つ銃と同じような構造なのでは?」


「いや、そうじゃろうが、そもそも魔力を魔法に変換するという本来人体を介して行われる過程を機械的な物に任せるとなると、その辺に転がっているような剣や銃の素材で作れるものなのかのう?」


テトの言葉にメリスが手を止めて小さく頷く。


「確かに、その通りね。何か普通とは違う物が使われていても不思議ではないわ。もし希少な物なら産地、出荷元、購入者を見つけ出せるかもしれないわ」


少しだけ、光明が見えてきた。


以前、フランが屋敷にやって来た時、アフェシアスについては一通りメリスたちが調べ上げている。その時は銃の機能的な面しか調べなかったが、今回はその構造、素材にまで目を向けようというわけだ。


「それで、あたしはどうすればいいの?」


やるべき事が決まってきたところで、レティアがそう訊ねる。


フランのために自分が出来る事をやりたいという気持ちは、その眼差しから嫌というほど感じる事が出来る。


「お嬢様には普段通り学校に通ってもらいます」


「はぁ!? どうして!?」


思いもよらないメリスの言葉にレティアが身を乗り出す。


だが、激昂するレティアを余所にメリスは静か言葉で続ける。


「少なくとも今、お嬢様に出来る事はありません。我々の方がはるかに効率的に行動できますから」


「でも、ここまで来てまた仲間外れにされて、お留守番なんて認めないわよ?」


今にも掴みかからん剣幕のレティアにメリスは小さくため息をつく。


「ですから、『今は』と言ったでしょう。フランを助けるためにはお嬢様の力も不可欠です。ですが、それは今ではありません。その時が来るまで、お嬢様は学校に通っていただき、屋敷にいる時はフランの看病をお願いします」


「むむむ、そう言う事なら……」


まだ納得いかないのか、微妙な表情をしながらもレティアは大人しく席に戻る。


「屋敷の事は当分デックスとクレアが取り仕切ります。私とグラントは各所を回りますから、屋敷を空ける事も多くなるかと思います」


「屋敷の防備なら、我に任せよ。この屋敷を難攻不落、堅牢な要塞に仕立て上げてみせようぞ?」


「そこまでする必要はないけれど、任せるわよ、テト」


テトがその言葉にウィンクをして応えると、メリスはようやく一息ついたように背もたれに寄りかかる。


昨晩から一睡もしていないメリスの顔には珍しく疲れの色が見える。


「メリス、少し休んだ方がいいんじゃないか?」


「いいえ、休むのはフランの意識が戻ってから。あとでデックスに栄養剤でも貰う事にするわ」


昨晩から寝ていないのはこの場にいる全員に言える事でもある。


その中でもデックスとメリスはフランの治療などのために交互にではあったが付きっきりだった。メリスの部屋には常時3人ほどは詰めていたほどだから、全員疲労が溜まっているのは当然と言えば当然である。


「フランが受けた傷に比べれば、このくらいの疲れ、気にしてなんかいられないもんね」


「あらクレア、あなた包帯を運ぶくらいしかしてないでしょう?」


「フランを心配する気持ちは同じなの!」


ようやく、軽口を言える程度には屋敷の空気が和らいできたような気がする。


今までは喉元に剣を突きつけられたかのように張り詰め、殺気立った空気が屋敷を支配していた。そうでもしなければ、何もできずフランを傷つけられた自分への悔しさを抑えきれなかったのだろう。それはこの場にいる全員の気持ちだったのだから。


「クレア、あとでフランの包帯を交換しに行くわよ。用意をしておいて」


「分かった。あ、テト、包帯交換する時部屋にいるなら、耳と尻尾を隠しておいてね」


「うぬ? なぜじゃ?」


「毛が傷口につくと、良くないでしょう?」


「わ、我は常に清潔じゃぞ!?」


酷く心外なようでクレアに向かって抗議の声を上げるが、クレアはそれを無視して広間を後にしてしまう。


後に残されたテトが悔しそうに歯ぎしりするが、しばらくするとシュンと耳と尻尾を垂らしてトボトボと広間から出ていった。


「テトはテトで、辛いだろうからな」


「その場にいたにも関わらず、フランを守れなかった事、気に病んでるかしら」


フランの部屋でフランと一緒にいたにも関わらず、テトは襲撃を受けた際吹き飛んだ瓦礫を浴びてすぐに動ける状態になかった。


故にフランを追いかけようにも追いかけられず、結界を張られて閉じ込められる事になった。普段から「出来ぬことはない」と豪語するようなテトの性格から考えれば、この上ない失敗だっただろう。


(だから、泣いていたのかしら)


メリスの部屋で見たテトの様子を思い出し、レティアはそんな事を考える。


「……そういえば、さっきフランも泣いていたっけ……」


「え?」


ポツリと呟いたレティアの言葉にメリスが首を傾げる。


「テトを呼びに行った時、フランが涙を流していたのよ。起きてる様子なかったけど」


「そう……」


その時、広間の外で物凄い音がしたと思ったらテトの叫び声が聞こえてきた。


「ぬおおおおおおっ!! 大変じゃあああああっ!!!!」


そして勢いよく広間に入ってくる。


「テト、何事よ!?」


「フランが、フランが……ッ!!」


「フランがどうしたの!?」


その言葉にその場に緊張が走る。


「フランがいなくなってしもうたあああああああっ!!!!!」















時間は少し遡る。


レティアとテトが部屋を後にした後、しばらくしてフランは何とか起き上がると腕についていた点滴の針を抜き、ベッドの足に引っかかっていた服を羽織って荒い息を整えようとしていた。


ほんの少し動いただけでも傷は開き、口の中に血の味がこみ上げてきそうになる。いつもなら多少なりとも治っているはずの傷ですら、治りが遅い。いや、むしろ治る気配もないと言っても過言ではない。


慎重に床に足を付き、極力体に負担がかからないようゆっくりと立ち上がるとメリスのクローゼットまで歩き、中から旅用の大きなフードの付いたフートを取り出す。これだけ大きければ人に顔を見られる心配もあまりないだろう。


同様にブーツを取り出すが、紐を結ぼうと体を曲げると傷が開くため、適当に丸めて内側に足で押し込んでしまう。普段やれば確実にお叱りを受けるレベルだ。


アフェシアスを探して部屋を見渡すが、あいにく見当たらない。


そしてふと手を顔の左側に当て、眼帯がないことに気が付く。包帯を頻繁に交換していただろうから、当然邪魔な眼帯は外されていたようだ。こちらは幸いすぐに見つける事が出来た。ただ、それを結ぶだけの力すら貴重な今の状況で結ぶのは困難で、仕方なくコートのポケットに押し込んでおく。


ここが1階で本当に良かったと思う。


窓から外に出ようと思ってここが2階だったら、普段の自分ならともかく今の自分では血を吹き出して倒れかねない。窓を静かに開けながら、フランはレティアの事を想う。


(お嬢様、しばしの別れです)


屋敷を去る事を決心するのに時間はかからなかった。


今の・・フランの体では到底役に立つことは出来ないし、足手まといにしかならない。


ならばせめて、自分の体が治るまではこの屋敷とレティアたちに対する襲撃の可能性を少しでも下げるために、ここを離れるのが最善の策だと考えたのだ。


ゼーカの言葉に踊らされる気は毛頭ない。


メリスやグラントがいれば当座の危機は対応できる。その時、その場にいても何もできずに守られるだけなどというのは許せない。ゼーカが再び屋敷を襲撃し、レティアや屋敷の者に凶刃を向ける可能性は低くないが、あの性格からしてそんな回りくどい事をするとは思えない。裏で誰が手を引いているのか知らないが一国の大臣邸としればうかうか手を出すこともできまい。下手をすれば一国の軍隊を相手にしかねないのだから。


もちろん、理屈が通じる相手でないかもしれない。


しかし、どちらにせよレティアを守るという役目を自分なりに果たすためにはこれしかないのだ。


(あたしは、必ず帰ってきます)


傷を一刻も早く治す手立てを見つける必要がある。メリスやグラントの知識を以てしても治らないこの傷を治す方法が、だ。座して死を待つよりかは自ら動きたい。


屋敷を去る決意と、屋敷に戻ってくる決意をして、フランは窓から外に出て、そのまま裏口からヘラの町の中に消えていった。















「……予想外の事態だな」


男は舌打ちしながら虚空を見つめる。


「よもや赤男爵の邸宅にいたとは……。見つけた時に気が付くべきであった……」


「で、どうするんだ。命令とあれば今すぐにでももう一度襲撃するけど」


背後にいたゼーカは血を拭ってもいない自らの得物をしげしげと見つめている。


その刃にはまだフランの血肉がこびり付いている。変色して黒ずんでいるその表面をゼーカは愛おしそうに撫でる。


「駄目だ。今は近衛の兵まで警備している。今はまだ計画を表沙汰にする段階ではないからな。監視は続けるが、当面お前の出番はない。まあ、エネアが屋敷を飛び出すなら話は別だが……」


「屋敷を飛び出したら、襲っても良いって事か?」


「はあ……、我ながらお前から理性やらなんやら取り除いたのは失敗だよ。命令すらしっかり履行しないからな」


「お褒めの言葉、と頂いておこう」


ニヤリと笑みを浮かべたゼーカに男は小さくため息をついた。


「不確定要素が増えた事は問題だ。大臣が相手とあってはかつての計画にも捜査のメスが入るだろう。そこから私の存在に行きつくのも時間の問題かもしれん」


「へぇ、珍しく弱気じゃないか」


「もちろん、今から調べたところで計画は止まらんよ。エネアの監視も大事だが、デュオのこともある。万が一デュオまであちら側(・・・・)に行くと面倒だ。彼には一生をあの畑で終えてもらいたいからな」


男が見上げる先には激しく明滅と切り替えを繰り返す画面がある。映像は乱れ、まともに見れたものではないが、男はそれを薄ら笑いすら浮かべながら眺めている。


「ほう、エネアは屋敷を出るつもりか」


「お、じゃあ今から――――――」


「お前には別の仕事がある。監視は私に任せろ。いいな、勝手な行動は慎みたまえ、さもないと大切な彼女まで酷い目に遭うぞ?」


ドスの効いた低い声で紡がれた言葉にゼーカの体がピクリと震え、足を止めると男の方に猛獣のそれを思わせる鋭い目を向けた。


「……姉さんでこれ以上遊びたいなら、協力する理由もなくなるが?」


「言うじゃないか。彼女の命もお前の命も、ボタン一つでどうとでもなるということを忘れないで起きたまえ」


その言葉にゼーカはあからさまに機嫌を悪くし、持っていた剣で機材を派手に壊しながら闇へと消えていった。


それを見送った男は小さく苦笑した。


「……まったく、だから子守りは苦手なんだ」


彼は今は亡き相棒とも言える女性の事を思い出していた。


お久しぶり? ですね。


どうも、ハモニカです。


主人公の芯がクネクネ曲がりまくってしまって書いてるこっちが困り果てていますwww


ええい、屋敷に骨埋める決意をとっととしろいっ! と言いたいところです。とっくに決意は固まってるでしょうが。


さて、とりあえず、ここで1つの区切りとします。次話からは主人公以外の視点も増えます。何しろ主人公がいないところで話が動いていきますからね。


しかし、改めて見直すと、ご都合主義乙と言いたくなるw


今回の話の辺りはだいぶ前に書いたものを修正しているので今と前じゃ何を書くかがずれている事があります。なので書き足した部分に「おや?」と感じるかもしれませんね。それほど大きな書き足しはしていないつもりですけど。


早いものでもう6月、日差しが厳しい日とジメジメした梅雨らしい日が入り乱れている気がします。とりあえず、止まった足を少しずつ動かしていこうと思います。


今はかなり亀更新になっちゃいましたが、それでも続けます。てか、次回作書いてるんで下手をするとそっちを息抜きに書いてる可能性も大ですが。


ではでは、また次回。

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