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第47話 水中戦

どうもどうも、お久しぶりです?


なんだかんだで結構間が開いてしまいましたね。


まあ、先々週あたりにいろいろ問題があったのと、別の趣味の方に力を注ぎつつテスト勉強していたせいでもあるんですが。


そんなわけで、なにやらおかしなサブタイトルですね。


閣下がいるんだから、それはもちろん地対空戦になるんじゃないかと思うでしょう?


ところがどっこい、なぜかこうなってしまったのです!www


今日は普段より少し多めの約一万字でお届けいたします!


では、どうぞ。

「試合中だというのに、面白いモノを見てしまいましたね」


「圧倒的有利をかなぐり捨てて向こうの世界に入ってたように見えたんだが……。ありゃなんだ?」


顔を真っ赤にしたレティアとフランを、何かを察してニヤニヤしているアンドリアと、何がなんだかさっぱり分からない様子のハンスが、ジロジロと2人を見つめている。


さすがに状況が分からなくても、妙な注目を集めている事は鈍いフランでも分かる。


変な気まずさを感じてそそくさとレティアを床に下ろすと、一息ついて相変わらず別の意味で盛り上がっている観客席に視線を移す。テトが10人がかりで取り押さえられているのが視界に入るが、あえて無視する事にする。


(とはいえ、言われてみれば外野が騒ぐのも無理はない、ですか……)


以前、クレアが持っていた漫画か何かで「お姫様抱っこ」という行為についての描写を見たことがある。


クレアが「女性のあこがれなんだよー♪」と身体をクネクネさせながら説明していた。その後その漫画はメリスによって焼却処分されたし、フラン自身それほど記憶にも留めていなかったが、かすかに残る記憶では確か白馬に乗った王子様がお姫様を抱えて恋の逃避行をしていたような気がする。


もちろん、フランにそんな事をするつもりはないし、レティアが自力で回避できるか不安だったため、こうなったら自分が守ればいいと思ってやったことだ。


地面に降りて今はフランの隣にいるレティアに視線を向けると、まだ顔が赤いが冷静さは取り戻しつつあるようだ。


「あ~、お嬢様、もう大丈夫ですか?」


「え、ええ。問題ないわ……でもちょっともったいなかったかな……」


「え? 何か仰いました?」


「な、なんでもないわ!!」


せっかく普通に戻りかけていた顔が再び真っ赤になり、そっぽを向いてしまう。


これ以上、この話はしない方が良いかもしれない。いい加減、試合の方に戻らなければ終わるものも終わらなくなりそうだ。


アンドリアとハンスに視線を向けると、こちらから目を外すことはなく、何かを話しあっている。向こうもこの試合を長引かせる気はないようだ。


因みに午前にタッグ戦、午後に個人戦となっている関係で、各試合には一応制限時間が設けられている。タッグ戦は最長でも20分という制限があるのだが、今のところ制限時間一杯で審査判定となる試合は出ていない。審査判定となると「より優勢に試合を進めていたのはどちらか」などの基準で審判が勝敗を決めることになる。


ただ、審査判定が出ていないため、未だに審査員を務めているのが誰なのか分からない。審査員席と思しきスペースはあるのだが、誰も座っていない。


「アンドリア、お前の真価をみせてやれ」


「良いですよ。ならハンスも見せつけてやってください」


「言われるまでもない」


そう言うと思い切りハンスが息を吐き始める。


そして限界まで息を吐き切ると今度は逆に大きく息を吸い込んでいく。


「なにを……」


「あなたたちも、覚悟しておいた方がいいですよ?」


その場にしゃがみ込むと、アンドリアがステージに手をつく。















ズズッ















次の瞬間、地鳴りのような音が足元からこみ上げてくる。


ステージ全体が軋み、至る所で木材が悲鳴を上げている。まるでステージの真下で地震が起きているかのような感覚に襲われ、それはステージ上にいるフランたちだけでなく、観客席にも動揺を巻き起こす。


「ちょ、何をしようっていうのよ」


「お嬢様、息、吸っておいた方がいいですよ」


何となく、アンドリアがやろうとしている事に見当が付いたフランは苦笑いしながらレティアにそう促す。


フラン自身、自分の見当が大外れである事を願ってしまうほどの事に、フランもうっすらと冷や汗をかいているのが自分でも分かる。


「それと、多分、お嬢様の仕事がなくなるかもしれません」


「え?」


「……その予想は大当たりですよ、メイドさん」


足元の地鳴りに混じって、水の匂いが漂い始める。


そしてそれはすぐに匂いだけではなくなり、先ほどの水の勢いとは比較にならない勢いで水がステージ上へ汲み上げられ、あっという間にその水位を上昇させていく。


『おお!? こ、これはステージどころか、結界内を水で満たしてしまおうというのでしょうか!? こ、ここも危険なのでもう少し上昇します!!』


カミラが声を上ずらせながらステージのさらに高い場所へ避退していく。


だが、空を飛べるハンスやカミラはともかくとして、空など飛べないフランとレティアはどうする事も出来ない。腰まで水に浸かった状態で歯ぎしりをしながらどうするべきかフランとレティアは考え続ける。


「お嬢様、水はアンドリアさんの手であり、武器です。このままじゃ……」


「そんな事は分かってるわよ。どうすれば……」


離している間にも水は増え続けている。


既にアンドリアの姿は水面にない。おそらく自らの周辺だけ水を避けさせ、水中に沈んでしまっているのだろう。ハンスはまだ水面に姿が見えるが、息を吸い込むと水の中に潜ってしまう。


「潜った……? まさか!?」


まさかと思い水面に目を凝らすと、水中は高速で何かが接近してくるのが僅かに見えた。


水の抵抗で身体が重くなってしまい、回避もままならないためアフェシアスを水面に向けて引き金を引くと、わずかに離れた場所で大きな水柱が2つ上がる。


「水中で爆弾を飛ばして……」


「このままじゃ狙い撃ちよ!?」


「くっ、どうしたら……」


逃げ場はない。


その上、こちらからは見えない水中から攻撃されては、空からの攻撃よりも厄介だ。まだ空からの攻撃は爆弾の姿だけは見つけられる。


だが、水中からの攻撃となると話は別だ。


そもそも、アンドリアの操る水に満たされている空間にいるというだけでも、こちらには大きな不利となる。おまけに水の対となる炎を操るレティアにとって、水に満たされるという事は攻撃手段を失うという事を意味する。


最初の火種こそ魔力で生まれるが、それ以降はやはり空間にある空気が重要になってくる。水中では炎を作り出したところで瞬時に消火されてしまう。


「…………ん?」


万事休すかと思われた時、フランの上を影が横切る。


見ると、まるで水害から逃げるように上空へと避退していたカミラが、高度を下げてきていた。どうやら、こちらが手詰まりなのを見て試合が終盤に差し掛かっていると思い、より事細やかに実況するつもりのようだ。


しかし、フランには実況云々の事などこれっぽっちも頭にはなく、カミラを見て微笑を零すとレティアに向き直ってその腰に手を回す。


「え――――――?」


レティアがいきなり腰に手を回されて呆けた声を上げる。


「お嬢様、もう一丁、行きますよ」


「ちょ、どういう意味――――――っ!?」


レティアが最後まで言い切るのを待ってはいられず、先ほどと同じように結界を使って二段飛びをすると高度を下げてきていたカミラが目の前に迫る。


『ちょ!?』


マイク片手に目を見開いているが、もう遅い。


「お嬢様、絶対に落ちないでくださいよ!」


「へ? あ、そういう事ね!」


フランの腕の中でもがいていたレティアが目の前に浮かんでいるカミラを見てフランの言葉の意味を理解し、腕を前に開く。


「ちょっとそこでお待ちくださいね!」


「上空からの支援は任せなさい!」


フランが上半身を軽く回して勢いをつけ、思い切りレティアをカミラ目掛けて投げつける。


避けようとするカミラであったが、手をワキワキと怪しく動かしながら突っ込んでくるレティアを回避することは叶わず、その腰に抱き付かれ、足を巻き付けられる。


『わわわっ!? は、離れてください! お、墜ちますって!!』


「そうは問屋が卸さないわ! 『実況はフィールドの一部、備品なのでお気になさらず、むしろ利用しちゃってください』って言ったのを忘れたのかしら!?」


『い、言ってませ~~ん!!』


抱き付いてきたレティアを引き離そうと空中で大暴れするカミラから離れまいとレティアも腕と足に力を入れて密着する。


あまりに激しく暴れるため、仕方ないな、と言う風にため息をつくとレティアはカミラの耳元に口を近づけ、ボソッと小言を呟く。


「……カミラ、あなたがあたしとフランをネタに記事を書いた事、今ここで復讐してもいいかしら? いい焼き鳥になれるわよ?」


その瞬間、カミラはピタリと暴れるのを止めた。
















「ふう、お嬢様は無事カミラさんに取り付けたようですね」


上を見上げながら、ホッと一息つく、事も出来ず水中を進んでくる爆弾をアフェシアスで迎撃し、再装填する。


既に結界内の水位は胸元まで来ている。メイド服が水を吸って予想以上に重くなり、まともに動くこともままならない。


おまけに、相手のアンドリアとハンスは完全に水中に潜ってしまい、どこにいるのかも分からない。


「これはもう、潜った方が早いですかね……」


手に持つアフェシアスの弾倉を元の位置に戻しつつ、フランはそんな事を呟く。


少なくとも、アフェシアスを使用した水中戦は問題ないはずだ。アフェシアスは普通の銃ではないため、火薬というものが存在しない。火薬が濡れて撃てなくなるような事はない。後の手入れを念入りにして、錆止めもしっかりしなければならないだろうが、それはどうでも良い事だ。


今のフランにとって最重要課題は「レティアを勝利に導く」事だ。


そのためには全力を尽くす。レティアの役に立つことが、フランの存在意義のようなもの、それなら力加減とかそう言う意味ではない手加減は一切しない。


(兎にも角にも、服が邪魔です)


水中を漂うメイド服のおかげで動きは大きく制約付きのものになっている。


そんな状況で戦えるわけもなく、フランはため息をつきながらメイド服を脱いでいく。水を吸ってその動作自体が重かったが、着慣れたメイド服は水を吸っていても脱ぐのに数秒とかからなかった。


メイド服を脱ぐと、下には身体にぴったりと張り付く様に着た黒いアンダーアーマーが姿を見せる。必要最低限の場所しか守っていないため、腕や足は素肌が露わになる。


しかし、フランにとって腕や足への攻撃は致命傷どころか足止めの手段にもなりえない。急所を守り抜けば戦闘を続けることは出来る。そういうコンセプトで作られているのがこの黒いアンダーアーマーだ。


波に揺られて流されているメイド服を尻目にフランは大きく息を吸い込むと水中に顔を突っ込む。


眼帯に水が染み込んで何とも言えない不快な感覚になるが、一切気にせず水中でアンドリアたちの姿を探す。ふと、身体が僅かに浮かび上がるのを感じ、下を見ると足がステージから離れていた。ここに来て水位が一気に上昇し、あっという間にステージから数メートルの高さまでフランの身体が浮かび上がってしまう。


(これは、さすがにまずいんじゃ……)


結界を挟んだ観客席が光の屈折で歪んで見える。


結界が水の圧力に負けて、文字通り決壊しないか不安になってしまう。


と、視界の端で泡が浮かび上がったのを捉え、そちらに顔を向けると丸い物が猛スピードで迫って来ていた。即座にアフェシアスを向け、引き金を引くと、地上とは違ってほとんど魔力の光が発生することなく、弾丸が発射される。


しかし、その弾丸は迫りくる物体に命中することなく、その横を通過してしまう。


「んんっ!?」


一瞬何が起こったのか分からず、目を見開いている隙に物体がフランの胴を捉え、爆発する。


身体全体を大きな鈍器か何かで殴られたような爆発で、鼓膜が破れるかと思うほどの衝撃を受けてフランが水面まで押し上げられてしまう。


「――――――っ、プハッ!」


水中では下手に口も開けられないため、衝撃に歯ぎしりしながら水面に顔を出すと、そこで大きく息を吐く。


しかし、休む暇もなく今度は足を引っ張られるような感覚に襲われ、水中に引きずり込まれてしまう。まともに息継ぎもしていない状況で水中に引き戻されると、そこには目の前でこちらを睨み付けているハンスの姿があった。


(水に足を掴まれ、アンドリアさんか!)


手に爆弾を持ったハンスはそれをフラン目掛けて押し出し、手を離れると同時にその勢いに水流が足されて魚雷のようにフランの顔面に迫る。


フランは身体を反転させ、水中で上と下を逆転させる事でそれを回避し、さらに下方から見上げるようにアフェシアスを構えると間髪入れずに引き金を引く。


弾丸が銃身内の水を熱で蒸発させながら飛び出し、ハンスの肩口を捉える。水中でハンスが吹き飛んでいくのを尻目にフランは息継ぎのため水面に飛び出す。


ハンスは自分と水の間にわずかな隙間があった。おそらく、アンドリアが呼吸を可能にするために自らとハンスの周りを空気の膜で覆っているのだろう。結界のような効果もあったのか、先ほどの銃撃もハンスを捉えていたが手ごたえが薄い。


しかも、水中という事もあって強く押されれば踏ん張る事も出来ずに後ろに吹き飛んでしまう。追撃しようにもハンスはすでに遠くに行ってしまっていた。


「プハッ、お嬢様は、まだご無事ですね!?」


早口で空に目掛けてそう叫ぶと、空中で棒立ちしているカミラにしがみ付いているレティアが手を振ってくる。


「大丈夫よ! それより、あたしに何か出来る事は!?」


「この水、全部蒸発させられます!?」


「それは無理! ピンポイントで水底までなら出来るかも知れないけど!!」


それを聞いた瞬間、フランの動きがピタリと止まる。


そして何かを思いついたかのように笑みを浮かべると、上空のレティア目掛けて声を張り上げる。


「お嬢様、あたしが合図をしますので、そこ目掛けて全力でお願いします!」


返事を待たず、フランは息を吸って水中へ舞い戻る。


水深は既に10メートルに届こうとしている。そろそろステージが水の暗闇に呑まれてしまいそうになる。土の中からくみ上げたとは思えないほど綺麗な水ではあるが、それでも視界が良いとは決して言えない。


(アンドリアさんはこれだけの水を操っている。きっとどこかで術に集中しているはず……)


泳いだことなどほとんどないにも関わらず、軽快に泳げる自分に感心しつつ、水中を隈なく走査していく。


すると下の方から泡が浮かんでくるのを見つけ、その下の方へと視線を向けると、小さな空気のドームのようなものがあるのを発見する。それに近づこうとした瞬間、目の前を右から左に爆弾が通過していく。振り向くと肩を抑えたハンスが表情を歪めながら水中に浮かんでいた。素早く水中を移動してアンドリアのいるであろうドームとフランの間に割って入る。


アンドリアが倒されればこの圧倒的有利な状況もなくなってしまう。そもそも、風船はアンドリアが付けているため、彼を狙うフランの前に立ちふさがるのは至極当然と言える。


(ですが、そこ・・は射線上なんですよ)


内心でそう呟きながらフランはアフェシアスを振り上げる。


その銃口はハンスに向かう事なく、水面を漂う太陽に向けられる。


先ほど水面に顔を出した時、カミラに張り付いたレティアの位置は確認してある。丁度試合直後のハンスのように太陽を背に・・・・・浮かんでいた。


そして、フランもまた太陽を背にしている。


太陽とフランを結ぶ線の延長線上にはハンスがいて、さらに行けばアンドリアがいる。


(貰いますよ!)


引き金を引く。
















「……ちょっとカミラ、動かないで」


「はい……」


憔悴しきり、汗だくになっているカミラを叱咤しながら水面に目を光らせるレティアはフランの合図・・を逸る気持ちを抑えながら待っていた。


もとより、どのような合図なのかも分からないが、フランならレティアに分かるような合図を送るだろう。そう信じて、渾身の一撃を用意している。


「あの……」


「何?」


聞きづらそうに聞いてくるカミラにぶっきらぼうに答えると、カミラが自分とレティアの背後にあるモノを指差して汗だくだくになりながら聞いてくる。


「これ、熱いんですけど」


「我慢しなさい。あなたの大切な部員の代わりに、あなたが丸焼きになってもいいのなら、話は別だけど」


「…………」


黙りきってしまうカミラをよそに、せっかくの「渾身の一撃」が霧散してしまわないように魔力を注ぎ続ける。


その姿に、観客席からもどよめきの声が上がっている。


なぜなら、レティアの背後には、まるで第二の太陽かのように巨大な火球が浮かんでいるからだ。強烈な熱波をばら撒き、カミラだけではなく、もちろんレティアも汗だくになっている。使わずにいた魔法薬を全て使い切り、通常の倍以上の大きさの火球を作り出し、それを必死に操作しているのだ。


(だけど、フランはもっと大変なんだから、せめてフランに頼まれた事くらい、やり遂げる!)


ゆっくりと、決して操作を誤らないように背後の火球を自分自身を軸に正面に移動させる。燃え盛る火球の眩しさにレティアは目を細めるが、決して水面から視線を外すことはない。


「熱っ、熱いですって!!」


「黙らっしゃい」


決して、カミラを蔑ろにしての言葉ではない。


出来る事なら「少し黙ってて」と言いたいところなのだ。


だが、巨大な火球を操作しているレティアにそこまで丁寧な受け答えをする余裕はなかった。


(ああもう、フラン早くしなさいよ! 早くしないと、適当に撃ちこむわよ!?)


そしてそのレティアの心の叫びに応えたかのように、水中から何かが飛び出し、水を大きく弾き飛ばした。


それが何かなのかは分からなかったが、それが「合図」である事は頭が理解するよりも早く身体が理解していた。目は水が飛び散った水面に向けられ、腕を火球に向けるとその場所目掛けて火球を撃ちこむ。


「とっとと終わらせて、やるわよ!」















火球が水面に激突した瞬間、その衝撃は水中にいたフランやハンスにも届いた。


火球の表面が水と接して即座に水蒸気と化していく。


だが、火球はその姿を消して霧散させる事なく、真っ直ぐ水底目掛けて水没を始める。蒸発と消火を繰り返しながら、火球はかなりの速度でフランに迫っていた。泳いで避けるのは無理だと判断したフランは即座に横に向かって最大威力でアフェシアスを放ち、その反動で大きく水中を移動する。空砲を撃つ暇がなかったため弾丸入りで撃ってしまったが、火球あれの直撃を喰らうより1発無駄にした方がよっぽどマシだ。


水があるにも関わらずその熱はフランにまで伝わってくる。むしろ周辺の水を一気に沸騰させているかのような感じだ。


その火球の表面で、炎とは別の爆発が起きる。


爆発した瞬間、火球全体が波打つかのように変形するが、止まる事はない。火球の真正面からアンドリアへの直撃を防ぐため、ハンスが持てる全ての爆弾を火球に向けて投げつける。アンドリアもまた、それが分かっているのか、火球を下から押し返すような水流の流れを作り出している。


火球の進行速度は逆流によって大きく減速してしまうが、その動きは決して止まらない。まるでレティアの執念が乗り移っているかのようだ。する事もなく待たされた女性の鬱憤を形にしたら、こうなるのだろうか、などと関係のない事を考えてしまうが、その鬱憤を喰らう方はたまったものではない。


善戦空しくハンスの爆弾の爆発は火球に全て飲みこまれ、逃げようとするハンスの尻を掠めながら火球が水底目掛けて突き進む。表面を消火されてその大きさは半減してしまっているが、それでも空気のドームを覆い尽くすには十分な大きさだ。アンドリアも必死に抵抗していたが、火球を止める事が出来ないと判断すると即座にドームを水底から切り離して水面へと避難しようとする。


(させませんよ!)


レティアの渾身の一撃、避けさせるわけにはいかない。


泳いでアンドリアに接近すると、空気のドーム目掛けて発砲する。アンドリア本人に命中しなくても、動きを止められれば十分だ。火球の射線から逃がさないように常にアンドリアの上方に居続け、動きを止める。


そしてそこに、火球が直撃した。


瞬時にドーム内の酸素が燃焼に使われ、ドームが急速に縮んでいく。そして限界に達したのかドームが弾けるとアンドリアが姿を現す。必死に火球から逃れようとするが、真上をフランに抑えられていて動きが取れない。そのまま火球に呑まれ、その瞬間、火球を押し返そうとしていた強い水の流れがなくなる。


その頃になると、火球も徐々に周囲の水に負け始め、あっという間に小さくなっていき、そしてついに消えてしまう。火球の中からアンドリアが姿を現すが、その服は燃え尽きる直前と言った感じだ。


水の操作に力を使い果たしてしまったのか、泳ごうとするそぶりも見せないアンドリアの様子に気が付いたフランは慌ててアンドリアの腕を掴み、水面まで浮上しようとする。


すると不意に身体が下から押し上げられる感覚を感じ、下を見るとアンドリアを押す様にハンスが泳いでいた。その表情は仲間を助けるために真剣そのものなのだが、先ほど尻を焼かれたためか、その姿はどう見てもお馬鹿の姿となってしまっていた。
















浮上。


青い水中から青い空に視界が切り替わる。眩しい太陽の光に目を細めながら、フランは大きく深呼吸をして空気の肺の中に補給する。


「フラン!」


「お嬢さ――――――もがっ!?」


レティアの声が聞こえて顔を上げようとしたら、突然何かが頭の上に落ちてきて水中に押し戻される。


泡に塞がれた視界のまま再び水面に顔を出そうともがき、顔を出すとレティアが同じように水面から顔を出して浮いていた。


「大丈夫!? 勝負は!?」


「だ、大丈夫ですから、落ち着いてください。耳に響きます……」


ハンスの爆弾のおかげで鼓膜が痛いため、大きな声にフランが表情をわずかに曇らせるとレティアが即座に口を閉じる。


「勝負はあなたたちの勝ちですよ」


フランの代わりにレティアの問いに答えたのはハンスに支えられるように浮いているアンドリアだった。


アンドリアは自分の頭の上の割れた風船を指差しながらそう言うと、力なく笑みを浮かべる。


「最後の一撃は、効きましたよ」


『お、終わったああああっ! 水中であるために実況が後半出来なくなってしまいましたが、観客席の皆様は横からその様子を見る事が出来たでしょう! この勝負、終始有利かと思われたアンドリア・ハンスのコンビを破り、レティア・フランの2人が勝利しました!!』


ようやく自分の出番が回ってきたといわんばかりに声を張り上げるカミラ。


その声に呼応して観客席からも歓声が沸き起こる。


そんな中、妙な音が聞こえてレティアが首を傾げる。


「フラン、何か聞こえなかった?」


「何か、と言いますと?」


全快ではないが耳を澄ますが、水の音と歓声以外は何も聞こえない。


「なんていうか、何かが割れるような、音よ」


「割れる……? 一体何が――――――」


後を続けようとして、歓声の中に悲鳴のようなものが混じったのが今度はフランにも聞こえた。


しかし、フランたちはステージの上方にいて、観客席は下にある。水に邪魔されて下で何が起きているのか分からない。


『ちょ、何事で……、なっ、教員によって厳重に作られた結界から水漏れです! 観客席に一筋の滝が出来ています!!』


どうも、フランの弾丸が結界を決壊させようとしているようだった。


「ま、まあ、あたしたちにはどうしようもありませんが……」


原因に心当たりがあるフランは苦笑いでカミラの言葉にそう呟く。


「そうね。まあ、うちの先生方もこれしきも防げない無能じゃないし、大丈夫でしょう。それよりもフラン、その服、ちょっと透けてるわよ?」


「はうっ!?」


水を飛び散らせながらフランが真っ赤になる。


その様子にレティアが噴き出してしまい、盛大に笑い始める。


「ふふ、さっきのお返し。透けてなんかいないわよ♪」


「お、お嬢様ぁ……」


ジト目でレティアを見つめるが、仕返しも済んだレティアはスッキリとした表情をしていた。
















「見えるか……?」


「うむ、あれはフランじゃの……」


「なかなかきわどいな……」


「まったくじゃ。だが……」















「「それが良い……」」


「……馬鹿が2人いる」


観客席ではテトとウルが親父のような会話をしていた。

はい、そんなわけで、とんでもない戦いに仕上がってくれちゃいました。どうも、ハモニカです。


えーと……、はい、なんかすいません……。


どうにもこうにも自分でも何やってんだろうなぁと思いつつも決して書き直す気はなく投稿する事になりました。


そういうわけで、無事フランとレティアは二回戦も突破、さあ、次はいよいよ準決勝、という所です。


準決勝の相手はあの2人組です。はい、以前感想で合法ショタなんぞと呼ばれていた彼のご登場です。いや、まあ、そうなのかもしれませんがww


しかし、その前にその感想よりもさらに昔に頂いたリクエストに応えようと思っています。次回は息抜きと行きましょうかね。


では、また次回。


誤字脱字報告、ご感想など、お待ちしております。

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