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第45話 空気を読めなかったメイド


バトル回に挟まったちょこっとコメディ、です。


案の定日曜日に投稿できませんでしたが、今日書き上げた話は10000字を超えたのでそれをお楽しみにしていてくださいww


では、どうぞ。



「1回戦突破おめでとうなのじゃー♪」


「さすがだね、姉御」


「お疲れ、2人とも」


三者三様の出迎えを受ける。


控室に戻り、次の試合までまだまだ時間がある事を確認し、息抜きがてら外に出るとそれを待ち構えていたかのようにテト、ウル、テルと出会った。


「ここ、確か関係者以外立ち入り禁止だった気がするんですけど」


控室の欠陥更衣室の件もあって観客席裏周辺は関係者以外の立ち入りが厳しく制限されている。


それこそ、見つかれば小一時間指導室に缶詰を喰らうような厳戒態勢だ。


「なに、我にかかれば誰にも気づかれず潜入など、容易い事じゃ」


「すごいんだ、誰にも会わず、影すら見ることなくここまで来れたんだ」


ウルが上機嫌にテトと肩を組む。


「にゃはは。そういうわけで、ここまで来たわけじゃ」


「あの、フランさん、怪我とか大丈夫なんですか?」


上機嫌の2人と違い、テルは不安そうにフランの身体を上から下まで視線を移動させる。


今のフランは持ってきていた予備のメイド服に身を包んでいる。汚れ1つない綺麗な服を着ているわけだがさすがにウィッグまで予備は持っていないので髪だけが酷いありさまになっている。フラン自身、よもやあのような目に合うとは思っていなかったのだ。


さすがにウィッグがボロボロになって地毛が見えてしまっては後々面倒な事になる事は目に見えているため、その点には細心の注意を払うつもりであったが、初戦から随分と肝を冷やす羽目になった。


特にヴェストにホームランよろしく吹き飛ばされ結界にぶつかり、床に叩き付けられた時は外れてしまっていたのだ。土煙などで隠れていて幸いだった。


「大丈夫ですよ、こう見えてあたしは身体が頑丈なんです」


ポンッと胸を叩くとテルも安心したのか胸をなで下ろす。


「本当? あなた随分派手に吹き飛んだわよね?」


「お嬢様、無事じゃなければこんな風に歩けませんって」


フランが苦笑するとレティアは完全には納得が言っていないようだが口を閉じる。


実際のところ、人に心配されるような怪我はほとんどない。正確に言えば、治っている。自分でも一番まずいと思ったのは吹き飛ばされた際に肋骨が何本か折れた事だろう。下手な折れ方をしていれば内臓に突き刺さっていたかもしれない。


痛みが引くのに数十秒かかってしまったのは不覚だった。間に合わなければレティアに顔向けが出来ないところである。


「にゃはー、勝ったフランには我からご褒美をくれてやろう♪」


「はい? 何を、うわっぷ」


不意に能天気で無邪気な声が聞こえたと思ったら、いきなり何か柔らかいものに視界を塞がれる。


そして背中に手を回され、頭にも何かが押し付けられるような感覚が生まれる。同時に聞こえてくるのはテトの悦に浸っているかのような声。


「ふにゅ~、いい子いい子じゃ~」


「な、な、なななななっ!!」


回りから何やら妙な声が聞こえてくるが、フランはそれに気を留めている余裕がなかった。


なぜなら視界を塞いだ何かに絶賛呼吸まで妨げられているからだ。


さすがのフランでも窒息したら一発昇天してしまう。慌てて何かに埋もれている自分の顔を引っぺがそうとするが、なかなか出来ない。背中に腕を回されているようで、かなりの圧迫感を感じる。


何が起こっているのかまだ把握できていないが、このままでは自分の窒息死が現実味を帯びてきてしまったので、フランは「引いて駄目なら押してみよう」という精神で押し付けられる何かを思い切り押してみる。


「お?」


テトの間抜けな声が聞こえたと思ったら、自分の身体が傾くのをフランも感じた。


そして次の瞬間にはドスンという音と共に自分が床に倒れたことを察することになる。どうやらテトをクッション代わりにしたようで背中に回されていた腕の力が抜け、ようやくフランは謎の拘束から解放される。


そして視界に入ってきたものは――――――。


「フラン、なかなか強引じゃのう……」


照れくさい笑みを浮かべながら床に仰向けに倒れているテトの女性なら誰でも嫉妬するであろう、胸。


「テト、何がしたいんですか?」


「いいのじゃよ、フラン。お主が求めるのなら、我はなんでも差し出そうぞ」


どうにもおかしな方向に話が進んでいる。


いや、そもそも会話が成立しているように思えない。言葉のキャッチボールという言葉があるが、投げた球を変化球で返すのは止してもらいたい。せめてキャッチできるボールを投げろ、と内心思ってしまう。


とりあえずさっさと起き上がろうとテトの腰の横辺りの床に手を付いて力を込めようとするが、それをすかさずテトが邪魔してくる。フランの腰に手を回して自分に押し付けようとする。


どうやら、先ほどの謎の柔らかい触感の正体はテトの胸だったようだ。身長的にそうなる。


「フラン~、押し倒しておいて放置はなかろう? なんならここで愛を育んでも……」


「ウル、あなたの釘バット貸しなさい」


「姉御、あれはあんたが折ったじゃないか」


どうにも、テトには一度頭の中身を掃除する必要がありそうだ。


ここまで欲望に忠実な存在も珍しいように思えるが、巻き込まれる周りの人間の身にもなってもらいたい。何度言っても言う事を聞かない以上、実力行使もやむを得ない気がしてくる。


「ふむ……どうしましょっ!?」


腰に回されたテトの腕を引きはがそうとしながらその後にテトにするお仕置き・・・・の内容を考えていると不意に後頭部を勢いよく叩かれる。


後頭部を抑えながら顔を上げると、どこから出したのかも分からないハリセンを手にしたレティアが鬼の形相で仁王立ちしていた。


「えと、お嬢様?」


「……今理解したわ。これはテトでも、ウルティのせいでもないわ……」


フランの呼びかけに反応せず、レティアはブツブツと独り言を呟いている。


「……周りに流され過ぎるフランのせいなのよ。そう、あたしには主人としてフランを真人間に戻す義務がある。そう、時には物理的に……」


「お、お嬢様ぁ!?」


いつの間にか、テルとウルが少し離れた所に避難している。


ウルは涼しい表情をしているが、テルは今起こっている状況が飲みこめていないのか固唾をのんでフランとレティアを見比べている。


「な、なんじゃ? 恐ろしく黒いオーラを感じるぞよ?」


「なら離してください」


仰向けになっているテトが若干驚きながらレティアを見上げる。


「……とりあえず、フランを取ろうとする泥棒猫には……」


ユラッと動くレティアは音もなく右足を上げ、膝が胸に付くかというほどまで持っていく。


「にょっ!?」


テトが殺気か何かを感じ取ったのか表情を強張らせ、即座にフランの腰に巻きついている腕に力を入れてフランの真下に身体を隠す。





ドゴンッ





その直後、さっきまでテトの頭があった、フランの至近の床に鉄の棒でも叩き付けられたかのような音と共にレティアの足が落ちてきた・・・・・。床板が大きくへこみ、ミシリと音を立てる。


「フラン、後は任せたのじゃ」


「は?」


そのままフランの下を潜り抜けると脱兎の如くテトが走り去っていく。


そしてその後を追うかのようにテルとウルも相次いで逃げていく。


その場にはフランとハイライトの消えた目をしたレティアだけが残される。


「…………」


「…………」


無言。


フランとしては、何がなんなのか未だに分かっていないため、状況把握のために頭をフル回転させる。


(思い出せ、何が起こって、お嬢様が怒っている?)


とりあえず、今までの経過を頭の中で整理する。


フランとレティアが控室を出る。


テトたちと会う。


突然フランの視界をテトの胸で塞がれる。


脱出の際にテトを押し倒す。


そして、レティアに後頭部を強打される。


(……、どこ!?)


心の中で一体何が引き金になったのか分からずそんな事を叫んでしまう。


どうにも、訳が分からない。


ふとそこで以前にも似たような事があった事を思い出す。こういう時に限って妙に記憶が蘇りやすい気がするが今は置いておく事にする。


以前、フランがテトに文字通り襲われて、フランとしては口にも出せないような事をされた際もレティアは怒髪天を突かんという勢いで怒っていた。今回もそれと似たような原因があるのかもしれない。


(……む、もしや)


そこで原因になりそうなものの1つに見当がつく。


非常に女性らしい、言ってみれば仕方のないことなのかもしれない原因だ。


「お嬢様……」


「……何かしら?」


相変わらずトーンの低い声に恐る恐るフランは口を開く。















「胸の大きさなんて、人それぞれですよ」















刹那、空気が絶対零度を通り越す勢いで凍り付いたのは言うまでもない。


もはや、その場の空気は修復不可能なまでになっている。


だが、フランはまだそれに気が付いていない。さらに言えば、その言葉を言った瞬間、空気が「ピシリ」と音を立てた事にも気が付いていない。


「確かにテトは大きいですし、あたしも女性として羨望がないと言えば嘘になります。ですが、だからといっていちいち感情的になったところでお嬢様の胸は大きくなりませんよ? もっと理性的になって下さい」


フランは自分が言っている事があまりに見当違いで、レティアの顔から感情が消え、ハリセンを持つ手が震えている事に気が付かない。


「……フラン」


「分かってくれました?」


「ちょっと、つら貸しなさい」


ガシッと今までにない力で腕を掴まれる。そして控室の陰に連れていかれてしまう。















「フラン」


「は、はい」


「少し、あなたには教えなければならない事があるわ」


「な、なんでしょう?」


「女性に対して、小さいなんて言うなあああああああああああああああああああっ!!!」


















『さあて! 次の試合に参りましょう。タッグ戦第2回戦第2試合、対戦するのはこの2組です!』


熱気は未だに冷める気配を見せず、むしろさらにヒートアップしている。


武闘祭が始まってからほぼ休みなしのカミラの額には汗が滲んでいる。


だが、決してその声に歪みは出ない。それどころか観客を盛り立てるために更なる力を込める。その理由はただ単に武闘祭を盛り上げるだけでなく、今回に限って言えば彼女の個人的な理由も入っている。


『まずは青コーナー、我らが新聞部の優秀な肉体労働者、ハンス・ルーデルと5年1組のクラス長として生徒会の重鎮、ブレインであるアンドリア・ロー! この2人によって武闘祭の戦いが三次元化したのはもはや常識です! 新入生の皆さんも、名前くらい憶えてあげてください!』


ステージの上に2人の男子生徒が姿を表す。


1人は緑の髪を短く切り、腰に何やら円柱状の物を複数縛り付けている青年、もう1人は青い髪を襟首辺りまで伸ばした眼鏡のクールな青年だ。


『対しまして赤コーナー、1回戦ではド派手な戦いを見せてくれたレティア・ファルケンとフラン・ショーンのコンビです……おや?』


そして赤コーナーを紹介しようとしたカミラが怪訝な表情になる。


「ほら、フラン、しっかり歩きなさい」


「……はい、お嬢様」


そこには妙にスッキリした表情のレティアと、げっそりと憔悴しきったフランの姿があった。


『おやぁ? 赤コーナーはどうも万全の状態にないようです。これが試合にどう影響を与えるのか、心配ですね。大丈夫ですかぁ?』


カミラの問いにレティアが手を振って応える。


その隣ではフランが力なく手を振っている。


「ああ、この距離でもあの声が痛いです……」


耳を軽く押さえながらフランは涙目でそう呟く。


何故そうなったのか、それはもちろん、耳元で鼓膜が破れるかと思うほどの大声で叫ばれたせいだ。そして叫んだのは他でもないレティアである。


その後もこの試合で呼び出されるまで頭が痛くなるほどの説教を受ける羽目になり、もはや物理的に耳が痛くなってしまったのだ。


その説教の内容も、「女性のバストの話はタブー」とか、「そもそもフランは朴念仁すぎて」とかで、前者はまだしも、後者は意味が分からない。


朴念仁と言われるような事をした覚えも、言った覚えもないのだが、下手に口を開くと耳に追撃をされて深刻なダメージが残りかねない気がしたので大人しく右から説教を入れて左から出していた。


それでもこれだけ疲れてしまったのだから、レティアの説教は恐ろしいものだ。


フランも今後はレティアを怒らせるような事は極力控えねばならないと心に刻み込んだ。とはいえ、怒った原因に話を持っていくとレティアが顔を真っ赤にして、結局恐れていた追撃を受けてしまったわけだが。


それでレティアの気が済んだのは唯一の幸運だっただろう。


正直、あれをさらに続けられていたらこの試合の負けはほぼ確定していた。


「とはいえ、いつまでもこんな状態じゃ駄目ですよね……」


「そうそう、さあ、シャキッとしなさい」


背中を思い切り叩かれ、強引に背筋を伸ばされる。


「はあ……、そういえばお嬢様、レイナさんとミコト君も初戦突破していましたね」


ふと、1回戦後半に出場していたレイナとミコトの事を思い出したフランが忘れないうちにレティアに伝えておく。


丁度その時はレティアがいなかったため、後で教えようと思っていたのだが、説教のどさくさに紛れて失念していた。


フランの情報にレティアは「へぇ」と言うだけであったが、その口元が僅かに微笑んだのをフランは見逃さなかった。同じクラスメイトとして、そして何より良きライバルとして、レイナが勝ち進むのは喜ばしいことなのかもしれない。


「ふん、初戦くらい突破してくれないと、こっちも待つ甲斐がないわ」


「ふふ、ならばお嬢様。こちらも負けるわけにはいきませんね」


「あたり前田のクラッカー!」


「……なんですか、それ?」
















「よろしくお願いします。楽しい戦いが出来る事を願っています」


ステージの中央で向かい合うと、青髪の眼鏡の青年、アンドリアが会釈してくる。


その隣では今にも空に舞い上がってしまいそうなほどうずうずとしている青年、ハンスが立っている。


「こちらこそ、全力を出して戦いましょう、アンドリア」


「おや、お嬢様、こちらの方とは顔見知りなのですか?」


レティアがうっすらと笑みを浮かべてアンドリアに応えるのを見て、フランはキョトンとしながらそう訊ねる。


「まあね、アンドリアは学年じゃ成績上位者だし、よくテスト結果張り出されると名前載ってるのよね。クラス長だから行事で皆の前に出てくることも多いし」


「ご説明ありがとうございます」


レティアがかいつまんで紹介すると、アンドリアがフランにニコリと笑いかける。


第一印象は優男、と言っても過言ではないだろう。


だが、袖から見える腕の筋肉は引き締まっており、服に隠れて見えないが、身体の筋肉もかなりのものだろう。歩き方から大体の察しはつく。


「なあアンドリア。さっさと始めよう。早く飛びたくてうずうずしてるんだ」


対してハンスは見るからに体育会系の体格だ。


そもそも空を飛ぶときに邪魔になるのか上半身は身体に張り付くようなシャツ1枚に手甲という格好だ。身体に張り付いたシャツ越しにも割れた腹筋が確認できる。


「落ち着けハンス。敵は逃げないさ」


「まったく、そっちの相方は相変わらずの飛行狂ね」


レティアの言葉にアンドリアが苦笑する。


ハンスの姿を見てフランはふと彼に見覚えがある事に気が付く。それもつい数時間前ぐらいのことだ。


「あれ、ハンスさん確かさっきまでカメラ担いでませんでした?」


「ん? ああ、俺は新聞部所属だからな。あの部長の手伝いをしてるんだ」


ハンスはそう言いながら上空にいるカミラを見上げる。


するとカミラが拳を突き出してハンスに檄を飛ばす。身内ぶいんを応援するのは部長の性ということか。


お互い挨拶もそこそこに最後の打ち合わせを行う事にする。


もはや我慢の限界なのかハンスはふわりと浮かび上がるとアンドリアの周辺をグルグルと周回しながら話を聞いている。ただ、その恰好が寝転がっているようにしか見えなかったため、アンドリアの前に来た時に強引に叩き落とされる。


それを見て含み笑いをしつつ、フランもレティアと作戦会議を行う。


「いい? ハンスはとにかく空から攻撃してくるわ。それも、爆弾落としてくるの」


「爆弾とは穏やかではありませんね」


レティアは小さく頷きながら人差し指でハンスの腰に括り付けられている筒を指差す。


「魔力を限界まで込めて、ちょっとの衝撃で破裂する代物よ。しかも飛びながらの癖に風で誘導するから命中精度が高いわ。注意してね」


「分かりました。お嬢様も、相手は水の使い手です。相性は最悪ですから、決して離れないようにしてくださいね」


アンドリアは水の使い手だ。


それだけでも相手に大きなアドバンテージがあるのは間違いない。火と水ではどちらが優勢かは文字通り、火を見るより明らかだ。即座に消火されかねない。


さらに、今回は地上の敵だけではない。


フラン自身も初めて空を飛ぶ敵と戦う事になる。それがどのような影響を及ぼすのかは、フランもまだ分からない。少なくとも、こちらが有利と思う訳にはいかない。


「お嬢様は空を。あたしはアンドリアさんを抑えます」


風船を被るのはアンドリアだ。


当然、積極的に前に出てくることはないだろう。


その上、空からハンスが攻撃してくる。2人とも遠距離での戦いをメインにしてくると思われる。その状況でいかにして接近することが鍵となりそうだ。こちらも遠距離からの攻撃となれば、決着はなかなかつかないだろうことは容易に想像がつく。


「それじゃフラン、今度も勝つよ」


「もちろんです、お嬢様」


表情を引き締めながらも、お互い笑みを浮かべ、第2回戦に挑む。


閣下、閣下ではありませんか!!


と思われた読者様、本人じゃありませんよー(棒読み)www


はい、そういうわけで、ジュラルミンダンボール様から冗談で頂いた彼を出させていただきました。


閣下の事をもっと知りたいという方は、アンサイクロペディアで読むと良いでしょう。彼はアンサイクロペディアに嘘をつかせなかった男ですからww


この小説のハンス・ルーデルはもちろん、あそこまでヤヴァイ人じゃあありませんが、結構無茶苦茶やります。相方共々ねwww


では、また次回。


誤字脱字、ご感想などお待ちしております。

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