第42話 武闘祭、スタート!
はい、何とか週末に、いや正確には週初めなんですが、日曜日に投稿することが出来ました。ふう、間に合ってよかった。
と、いうわけで武闘祭スタートです。
が、バトル回は次回からです。
では、どうぞ。
「ほほう、なかなかに立派な会場ですね」
翌日、学園祭の3日目、学園に行くと一昨日とはまた違った雰囲気に包まれていた。
飲食店以外の出し物は鳴りを潜め、代わりに武闘祭関連の店が増えている。武闘祭のチケットを販売している学園祭本部の他に、出場選手のカタログのようなものを売っている店、応援グッズを売っている店などが軒を連ねている。
武闘祭は校庭で行われる。
校庭の中央には大きなステージが設営され、その周りには雛段状に観客席が作られている。結界の最終点検をしているのか、ステージの周囲には数人の教師の姿が見受けられる。
ステージ、といってもその大きさは50メートル四方はあるかという大きさだ。観客席は軽く数百人を収容できるほどの大きさで、その最上段からはステージ全体を見下ろすことが出来る。ステージと観客席の間には柵が設けられており、その柵に沿って結界が淡い光を放っている。
この結界は観客の視界を妨げないよう工夫がされており、その内側、つまり出場者などからは観客席が見えにくいが、観客席側から見るとクリアな視界が確保されている。
今現在、フランは丁度その境目にいるため、少し動けばその両方からの視点に立つことが出来る。
「フラン、開場まであと1時間を切ったわ。そろそろ中に入りましょう?」
会場を眺めていたフランのもとにレティアが歩いてくるとそう声をかけてくる。
レティアもいつもの制服姿ではなく、この日のために用意した自称「戦闘服」に身を包んでいる。フランのメイド服のような本格的な物ではないにしろ、それなりの防御力を備えているとのメリスのお墨付きを貰った一着なのだが、その外見からはそんな雰囲気が一切感じられない。
なぜなら上はワイシャツに装飾が増えた程度、下に至っては短パンという格好だ。唯一普通の服ではないと感じさせる事が出来る部位は、手甲と足甲だけだろう。軽い金属を張り合わせたそれらだけが、平時に着る服ではないと主張している。
「お嬢様、本当にその恰好で出るんですか?」
「当たり前よ。後衛だからって動きにくい恰好してるわけにもいかないでしょう? それに、携行性は悪くないんだから」
腰にはポーチのついたベルトを巻いており、いろいろと道具を入れている。フランが確認した限りでは、魔法攻撃の威力をかさ上げする魔法薬が幾つか入っていた。飲むわけではなく、周辺に散布することで特定の魔法を発現段階で増幅させるものだ。
この魔法薬は学園で作られた物に限り使用が許可されている。外部の物は性能に差があり、下手をすると惨事になりかねないからだ。
レティアの場合、火炎系の魔法を使うため、それに合った魔法薬を用意している。フランが内心、油でも良かったのでは、と思ったのは内緒だ。会場ごと焼き払うならそれでもいいだろうが。
ただ、この魔法薬には欠点がある。
それは増幅させる対象を選べないこと、つまり相手も炎魔法を使う場合、相手の魔法も強化されてしまうのだ。相手によって使うか使わないかを判断する必要がある。
その点、そんなものに頼る必要のない、言いかえれば頼れないフランの持ち物は普段とあまり変わらない。
腰のガンベルトにアフェシアスを収めている他は傍目に変化は見られない。
ただ、いつもと違うのは二の腕に巻かれた赤い布だ。
これは出場者が巻かなければならないもので、広いステージで武闘祭の本部が位置を確認するためにあるそうだ。ステージの正面には大きなモニターのようなものが据え付けられており、そこには出場する人物の名前や写真、トーナメント表の他、バトル中はステージを上から見たような絵に赤青二種類の光点が現れるようになっている。
観客がステージを直接見なくても誰がどこで戦っているかなどを把握できるようにするためであるが、やろうと思えば出場者がそれを使って敵の位置を知る事も出来る。
当然ながら布を欺瞞体に巻き付けるなどの行為は反則だ。常に身に着けておくよう言われている。
「確か、個人戦もタッグ戦もここを使うんですよね?」
「ええ、午前がタッグ戦、午後が個人戦だったかしら。今日で2回戦まで終わらせて、明日準決勝と決勝戦よ」
「ということは、午後のウルの出番は見なきゃいけないようですね……」
偶然にもお互い最初の試合は1回戦の第3試合、午前にフランたちの出番が終わってしまう以上、見に行かないわけにはいかない。
「絶対見に来いって言ってたもんねぇ」
「まあ、別に用があるわけではありませんから良いですけど」
「そういえば、ジョブ先生も出るみたいよ? 個人戦のシード」
今現在、丁度巨大モニターにトーナメント表が映し出されているのを見上げているとレティアが思い出したように人差し指をモニターに向けた。
見るとシードの1つにジョブの名前がある。
「下馬評じゃ優勝するのはジョブかウル、その2人に絞られているわ」
「すごいですね、ちなみにタッグ戦の方はどうなんですか?」
「タッグ戦は割れてるわ。一番有力視されているのはアンドリア・ローとハンス・ルーデルのコンビかしら。噂だけど動く砲台と空飛ぶ戦艦と呼ばれている2人よ」
「聞くからに相当火力任せなお2人なんでしょうね」
空飛ぶ、というからには風使いという事だろう。そこにどう火力が絡んでくるのか、むしろフランとしては興味のあるところだ。
「とりあえず、控室に行きましょう、フラン。もうすぐ始まるんだから」
「分かりました、行きましょうか」
レティアに促されフランは会場を後にする事にする。
『さぁてお集まりの皆さんっ、グローリア学園祭、楽しんでますかぁーっ!?』
ステージの上でマイクを持った女子生徒の言葉に、歓声が答える。
拡声器で大きくなった彼女の声は会場全体に反響して、より大きく感じられる。
返ってきた歓声に満足げに頷くとマイクを持ち直す。
『いいですねぇ、あ、自己紹介が遅れました。あたしはカミラ・リントナー、新聞部部長で今年の学園祭広報・司会を務めさせてもらっています。よろしくね!』
「キラッ☆」という効果音が似合いそうなウィンクをするとその場でふわりと宙に浮かび上がる。
カミラの髪の毛は緑色、風の精霊と契約している彼女はステージ上空を螺旋状に上昇していく。観客席の傍を通る度に歓声が沸き起こる。
そして巨大モニターのある高さまで上がると観客席を見下ろし一息つける。
するとステージ脇からもう1人空中に踊りだしてきて、カミラの周囲に滞空する。飛んできた男子生徒の手にはカメラが握られている。
カメラのスイッチが入ったのか、巨大モニターにカミラの姿が大きく映し出され、カミラはカメラに向かって話を続ける。
『今年の学園祭実行委員会主催の出し物は武闘祭、出場者は華麗に戦って、舞って、観客を魅了してくれることでしょう! 午前の部はタッグ戦、2人一組の計20組が日々培ってきた技術と力を競い合います。なお、具体的なルールにつきましては入場時に貰ったパンフを参照ください』
巨大モニターの画面が切り替わり、タッグ戦のトーナメント表が映し出される。
『さて、長ったらしく説明するより、きっとご来場の皆様は早く始めて欲しくてたまらないでしょう。では早速1回戦第1試合の方を始めさせてまいります!』
トーナメント表の一番上の組み合わせが拡大され、4人の名前がカミラによって読み上げられる。
するとその声に合わせたように正面向かって左右から出場選手が姿を現す。
その瞬間、観客席から先ほどのカミラへの歓声とは比較にならないほど大きな歓声が上がる。選手たちもその声に手を大きく広げて応じる。
『赤コーナー、今年入学したばかりの新入生コンビ、マクシミリアン・ショーとロイ・ドナ! 1年生ながらアーチェリー部の主力として活躍が期待されるマクシミリアンの遠距離攻撃は要注意です!』
赤い布を腕に巻いた2人がステージ上で何かを話している間も、カミラは口を動かし続ける。
『対する青コーナー、5年生コンビのニア・ローラン、ヒビキ・トージョ! 両者共に水の使い手、どのような連携プレーが見られるのか楽しみです!』
髪の長い女子生徒と眼鏡の紳士的な男子生徒がお互いの拳をぶつけ合っている。
『なお、タッグ戦では片方の組の2人が行動不能になる以外にも、配られている風船を割られた時点でも試合終了となります。赤コーナーはロイが、青コーナーはニアが風船を装着します』
手に持っていたベルト付きの風船を2人が頭にかぶる。
『用意は良いですか? それでは双方向かい合って……』
カミラの右手が天高く振り上げられ、観客席が静まり返る。
ステージ上でも戦闘態勢をとった4人が少し腰を低くしてお互いを見つめ合う。
そして次の瞬間、勢いよくカミラの手が振り下ろされる。
『試合、開始!!』
「お~、始まった始まった」
控室、なんて名前がついてはいるが、実際のところ観客席の下にある空間に外から見えないよう垂れ幕を付けただけの簡素なものだ。さすがにここまでは手が回らなかったようで、出場者からは少なからず不満の声が出ている。
特に文句があるのは女性陣だ。
控室は出場者が巻いている布の色で2つに分けられているのだが、当然性別で区別されているわけではない。控室には男子生徒も女子生徒も両方いる。
問題なのは男女の更衣室が近いというところだ。具体的に言うと、中央に控室、その両サイドが更衣室という具合だ。女性陣からすれば、不届き者が現れないか気が気でないところなのだ。
更衣室はカーテンで仕切られてはいるが、目を凝らせば影が見えるだろうし、上と下はがら空き。この設計でよく許可が下りたものだ、と内心フランは呆れていた。
そのため、女性陣が着替える時は着替えない女子生徒が外で男子生徒を監視している。男性陣は女子更衣室の真逆、つまりは男子更衣室の方か、会場を映し出しているモニターを見ていなければならない。もちろん、うっかり視線を向けてしまったが最後、血を見るのは明らかだ。
「1年生と5年生の戦いですか」
「そうね、やっぱり上級生が有利かしら」
経験というものが違うだろう。
5年生という事は高度な魔法も習っているが、1年生はそれがない。アドバンテージは上級生にあるのは明白だ。
試合を控える出場者たちは第1試合を食い入るように見つめている。
「ふむ……、そうでもなさそうですよ、お嬢様」
「え?」
試合を見ていたフランがうっすらと笑みを浮かべながらレティアにそう言う。
レティアが不思議そうな表情をするのでモニターをよく見るよう言いながら説明を始める。
「確かに、魔法の威力、精度で下級生が上級生に勝つのは難しいでしょう。ですが逆に言えば、上級生は高度な魔法を使うがゆえに、それに頼る傾向があります。使える魔法が少ない下級生はその差を体力で補えます。接近戦になれば、むしろ有利なのは下級生かもしれませんよ」
「なるほど、1年生だからって油断は禁物か……」
そう言っている間にも試合は進んでいく。
手の平で水球を操る上級生コンビに対して、1年生コンビは魔法を補助に回して物理的攻撃を中心にした堅実な戦いを見せている。
試合前の説明にもあった、アーチェリー部のマクシミリアンが後衛から牽制しつつ、その間に風船を付けたロイが接近戦を敢行する。
「凄い、あんなに接近してるのに風船に攻撃が1つも当たってない……」
「魔法が発動するまでにはワンテンポありますからね。そのワンテンポを見逃さず追撃すれば相手は魔法を使う事すらできません。あの弓使い、周りが良く見えていますね、掩護の仕方が的確です」
2人一組である以上、1人で突っ込めば挟み撃ちになりかねない。それをマクシミリアンが上手く後方から掩護している。放たれる矢は魔力で強化されているようで、ステージの床に突き刺さるとその周辺が丸ごと粉々になる。
ステージ裏に大量の木材が積まれていたのは、試合の度に修理するためのようだ。
「でも、範囲攻撃に巻き込まれたら勝ち目はないわよね」
「当然、それも彼らの頭にはあるでしょう。それをされないために断続的な攻撃を行い、相手に反撃の隙を与えない事が重要です。短期決戦に持ち込まなければ、あの2人に勝機はないでしょうね」
「ふぅん、なんかフラン、解説者みたいね?」
「伊達にメイド長とグラントさんの指導は受けてませんよ」
感心したような表情を見せるレティアに、フランは少し照れてしまう。
ふと周りを見渡せば、他の出場者もフランの言葉を聞いていたようで頷いたり、唸ったり、考え込んだりしている。
因みにレイナとミコトは1回戦は青コーナーのためこちらの控室にはいない。同じ控室だったら場外乱闘に発展しないとも言いきれないのが怖いところだ。それほどまでに、朝見かけたレイナは殺気立っていた。隣を歩くミコトの心労が痛いほど伝わってきた。
「そういえば、学園内で賭けが行われてるそうよ」
「賭け、ですか?」
聞いていてあまり良い響きのしない単語に顔をしかめてしまうが、それを見て慌ててレティアが言葉を補う。
「学園祭実行委員会が観客もより楽しめるようにって言ってやってるのよ。もちろん、学生が買える金額はそれほど大きくないわ。けれど的中すればかなりの賞金が出るのよ」
「そんな事をしてよく風紀が乱れませんね」
「まあ、こういう時でもないとやらないから、かしら。大抵の人は倍率は低いけど勝率の高い教師に入れるんだけれど、一攫千金を狙うなら学生に賭けるそうよ。因みに賭けの収益は来年の生徒会予算になるから生徒会もかなり真面目にやってるわ。生徒会ってお金がかかるらしいし」
こちらは巻き込まれる形になっているとはいえ全力を尽くして戦うというのに、外野はそれにお金を賭けて楽しむ、というのは複雑な気持ちにならざるを得ない。
もちろん、それ自体が悪いという訳ではないが、純粋に応援されている訳ではないのかもしれないと思うと若干気落ちしてしまう。
「まったく、ここが学園だという事を忘れそうになってしまいますね、そんな事を聞いてしまうと」
「まあ、普段やらない事をやるから盛り上がるのかもしれないけどね」
「なるほど……っと、決まりましたか」
控室にも観客からの一際大きい歓声が聞こえてくる。
モニターに視線を戻せば、全身に水を被った1年生コンビが仰向けに倒れ込んでいた。
『おおー! 終始押され気味だったニア・ヒビキのコンビが僅かな隙を見逃さず反撃、見事風船を水流で叩き割りました! 試合終了です! 1回戦第1試合の勝者は、ニア・ヒビキコンビです!!』
肩で息をしながら2人がモニターの中で手を振っている。
「僅かな隙を見逃さない、こればっかりは経験がものを言いますね」
「次の次だよ、フラン。軽く準備運動しておく?」
「そうですね、そうしますか」
次は第2試合、フランとレティアは第3試合、いよいよ出番が近づいてくる。
フランとレティアは控室から出て、身体をほぐすために組手を始めることにするのであった。
「ふふーん、どうやら間に合ったようじゃな」
観客席へ続く階段を登りきるとそこから見える眺めに笑みを零しながらテトはそう呟いた。
丁度、第1試合が終わったようで観客席からは惜しみない拍手が湧きあがっている。
「確かフランとレティアは第3試合と言っていたな。どこか座れる場所を探しておかなければ……」
そう言いながらキョロキョロと座れる場所を探すが、観客席は満員、空いている席はあまり見られない。
あったとしても通路側から遠く、とてもじゃないが入れない。
「ふむ、どうしたものか……」
「あれ、あんた姉御のところの……」
考え込んでいると後ろからどこかで聞いたことのある声が聞こえてくる。
振り返るとそこには艶やかな金髪を長く伸ばした女性が紙コップを片手に持って立っていた。
「おや、お主は確かウルティじゃったかの?」
「ああ、そうだよ。あんたも姉御の応援かい?」
「もちろんじゃ。フランの活躍、我が見ないわけにもいくまい」
「そうかい、じゃあ一緒に見ようじゃないか。一番前の席をクラスの奴と取ってあるんだ」
そう言って観客席の緩やかな勾配を下っていくウルの後に続いてテトも降りていく。
一番前の席に行くと茶髪の女子生徒が自分の隣の席にパンフレットを置いているのが視界に入り、ウルはその少女のもとに歩いていく。
「悪いね、留守番させちまったね」
「……まったく、なんであなたと一緒に観なきゃならないのよ……」
「いいじゃないか、同じクラスのよしみって奴さ。それにほら、知り合いも連れてきた」
「はあ? どういう……あれ?」
不機嫌そうにテトの方を見たのはクラスメイトから「ロリ巨乳」と呼ばれているテルだった。
ウルにどこかで捕まったのか知らないが、どうやら1人で観ようと思っていたところにウルがくっ付いて来てしまったようだ。
そのテルは、テトを見ると一瞬目を見開き、ジーッとテトを見つめてくる。
「あなた、前にどこかであった事、あります?」
「ほほ、いきなり女性にナンパされるとは思わなんだ」
実際のところ、会った事はある。
ただ、その時のテトは猫の姿をしていたため、人の姿では初対面という事になる。どうやらテルの第六感は相当鋭いようだ。
「まあまあ、3人で一緒に姉御を応援しようじゃないか」
「だから、1人でゆっくり見たかったのに……」
「そう言わずに、楽しもうではないか、テル殿」
「……あなたとは初対面のはずだけど、どうして名前を?」
「おっと」
うっかり口を滑らしてしまったテトはわざとらしく口元を押さえる。
その動作がさらにテルの疑わしそうな視線を強くさせる。
(ふむ、どうしたものか……)
「ああ、こいつはファルケン家にいるからな、お前さんの名前もレティア経由で知ってるんじゃないかい?」
思わぬウルの助け舟。
その言葉にテルの疑念の眼差しは霧散し、すぐに穏やかなものになる。
「レティの知り合いなら、この人よりかはましね」
「酷い言われだねぇ」
「まあ、共通の友人を応援しようではないか。次の次じゃろう?」
「はあ……、フランさんならウルティを退かしてくれるかしら……」
小さくテルのため息が漏れるが、それもまた歓声に飲みこまれてしまう。
はい、憎き新聞部部長が登場しましたよーww
まあ、新聞部部長なんて大抵、こういう扱い食らいますよねww
さてさて、そんなわけで次回からバトル回です。予定では1回戦で2話くらい使います。
というか、応募キャラのオンパレードになりかねませんよ。そもそもカミラだってそうですしww
いや、新聞部部長というキャラは最初からいたんです。ただ名前が決まっていなかったので頂きました。
テヘッ☆
えー、と。
来週も不安です。忙しいですが何とか止めずに頑張ります。
ではでは、また次回。
誤字脱字報告、ご感想などお待ちしております。