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第38話 学園祭、開幕


やっと学園祭始まりますよー。


そして新キャラが1人+声だけの出演


です


では、どうぞ。



『ただいまから、第78回、グローリア魔法学園、学園祭を開始します!』


拡声器を通じて町の全体に響き渡るのは1人の女子生徒の声、学園祭の司会進行など様々な分野で活躍する新聞部の部長の声だと、フランは先ほど複雑な表情のレティアに説明を受けた。


学園祭は4日間に及ぶ大規模なものだ。


初日の今日、日曜日から水曜日まで行われる。


しかし学園祭に並行して行われる商店街の催しは1週間を通じて行われるため、この1週間ヘラの町はにぎわい続ける事になる。この大きな祭りを目当てに他の町からやって来る人も少なくないという。


「毎年毎年、よくこの規模を維持できてるわね」


「まあ、私たちがこうして顔を出すのは初めてではあるがな」


メリスとグラントが感心した表情で今まさに開門された学園になだれ込んでいく人の波を眺めている。


開門前の段階ですでに数百人が校門前に長蛇の列を作っており、一番前にいた男性などは家族のために昨夜から場所取りをしていたそうだ。そこまでして学園祭にトップで入りたいのか、と訊ねると「学園祭限定で発売される激レア商品がある」と息巻いていた。それを息子にプレゼントしてやりたいと自慢げに語っていた。


もちろん、フランたちはそんな馬鹿な事をしなくても「学園関係者」というもはや顔パスのようなものを使って長蛇の列の横をすり抜けて開門前の校門脇をすり抜けて学園内に入っている。よもやこんな所でフランが毎日学園に顔を出している事が報われるとは思わなかったと、メリスたちも若干喜んでいた。


クレアは学園内に入った瞬間、香ばしい匂いに誘われてどこかへ消えてしまった。まさか迷子になる事もないだろうと思って放っておいたのには、目を離せない連れがもう1人いるからだ。


「ねえ、あなた、さすがに私も一緒じゃ迷惑じゃなかったかしら?」


お淑やかな、聞いているだけでもどこか安心感を他者に与える柔らかい声が聞こえたのでそちらに視線を向けると、グラントの隣で長髪の女性が少し気まずそうな表情をしていた。


「何を言っている。来年からここの世話にもなるんだ。下見をしておいて損はあるまい?」


「そうじゃなくて、今の私はあまり長時間動けないし……」


そう言いながらお腹を撫でるそぶりをする女性、そのお腹にはもう1つの命が宿っている。


「何かあったら私が担いでやるさ。なんなら結婚式以来のお姫様抱っこをしてやるが?」


「馬鹿、人前で恥ずかしいじゃない……」


彼女の名前はエルザ・ベッサム、グラントの妻だ。


彼女は元々ファルケン家に仕えるメイドの1人であったが、グラントとの結婚を機に家事に専念すると宣言して退職した。フランがこうして顔を合わせるのは初めてだ。


「まあ、あなたの可愛い後輩にも会う事が出来たし、相変わらず旦那様、じゃなかったクラウスさんのお屋敷は人材に恵まれているわね。でしょう、メリス?」


「ええ、あなたのおかげとしか言いようがありませんけれどね」


エルザとメリスはメイドの先輩後輩の関係にあるらしい。


普段はあまり聞かないメリスの若干緊張した声が妙に新鮮だ。


「まさかあのドジっ娘のあなたがメイド長だなんて、もうあの頃の可愛いメリスはいないのかしら」


「エルザ、止めてください。フランに示しがつきません」


困った表情をしているメリスをエルザは口元を隠して笑っている。


メリスがドジっ娘だなんて今の彼女からは想像すら出来ないが、どうも彼女たちの間には先輩後輩の関係以外にも弄りっ子と弄られっ子の関係があるような気がする。


「ふふ、冗談よ。あなたも後輩を持って苦労する上司の気持ちが少しは分かったんじゃない?」


「フランはそこまで仕事が出来ないわけじゃありませんから。第一、あなたが仕事をしないから私が仕事をしなければならないようになったんじゃありませんか」


「あらあら、責任の擦り付けなんてメイドとしてあるまじき行為よ?」


どうにも、メリスの劣勢は決定的な様だ。


どう切り返してもそれをさらに弾き返すだけの実力をエルザは持っている。先代のメイド長は名ばかりではない。


「はあ……、ああ、フラン、彼女の言った事は気にしなくていいわ。いつも人をからかう人だったから」


「人を貶めるような事を言うものじゃないわよ~」


「事実を述べているだけです」


「エルザ、後輩弄りのためにわざわざ外に出てきたわけじゃあるまい? それにお前が一番会いたがっていた人物を置き去りにしているぞ」


いい加減言い合いに耐えられなくなってきたのか傍観していたグラントが呆れながらエルザの肩を叩く。


するとエルザはそこでようやくフランの存在を思い出したかのように一度「あらやだ」と呟くと再び笑みを浮かべてフランの隣に来る。


因みに今いる場所は学園の受付前、先に入っていたは良いものの、受付で貰うパンフレットがまだ運ばれてきていなかったので仕方なくそこで待機していたわけだ。印刷が開門ギリギリまでずれ込んだためだそうで受付を担当していた学園祭実行委員の女子生徒が頭を下げていた。


先ほど開門の宣言が出る直前にパンフレットを抱えた男子生徒が数人走り寄ってきて、刷られて間もないパンフレットを人数分手渡してくれた。


天気も良いので春の温かい日差しを浴びながら今日どこを回るか話し合っていたところ、あのような言い合いに発展してしまったのだ。


「フランちゃん、私はグラントからしか話を聞いていなかったけれど、あなたがどういう経緯でファルケン家に来たのかは一応知っているわ。まあ、そんな事今さら引退した私は気にもしないんだけれど、メリスの下で働くのは大変でしょう? あのドジっ娘が完璧主義者顔負けの仕事をしてるんだから」


「え、ええと、その……」


本人の手前、返答に困ってしまう。


案の定、エルザを背後から物凄い形相でメリスが見つめている。なんというか、既に殺気すら感じられてしまう。


「エ~ル~ザ~」


「ふふ、返答しなくても良いわ。後が怖いでしょう?」


苦笑いしか出来ない。


「と、そういえばエルザ、子供を連れてくると聞いていたけれど?」


エルザを睨み付けていたメリスがふと思い出したように表情を戻すとそうエルザに訊ねる。


するとエルザは残念そうな表情を浮かべつつメリスに視線を向ける。


「あの子、ちょっと風邪を引いちゃってね。今日は家で寝ているわ。まあ、ロロがいるから寂しくはないと思うわ」


ロロと言うのは以前テトの騒動の時に話題に上がったグラントが自宅で飼っている山猫の事だ。体長2メートルを超す大型種だそうだが、グラント以下家族にはよく懐いているとのことだ。


「ロロ、ねえ。その山猫、一度見てみたいものじゃ」


「テト!?」


いきなり、この場にいないはずの声が聞こえて飛び上がりそうになりながら背後に振り返るといつ買ったのかも分からない私服を身に纏ったテトが立っていた。


「フラン~、我を置いて楽しもうなど、ずるいではないか」


「いや、あなたが来ると絶対何か面倒事が起こりそうな気がしたので……」


「あら、あなたは?」


だが追い返す間も与えられず、エルザがテトに声をかけてしまう。


内心、これなら最初から猫形態で連れてきた方が良かったかと朝の騒動が徒労に終わった事にため息をついてしまう。


学園祭、と聞いて興味津々になっていた上、武闘祭に参加させてもらえなかったテトは最初から学園祭についてきたがっていた。


しかし、今日はエルザもいる事だから我慢してくれ、と頼み込むと駄々っ子のようにフランにまとわりついてくるので朝っぱらから大人しくするために庭で戦う羽目になったのだ。


「おお、お主がグラント殿の。我はテトと言う。ファルケン家に世話になっているものじゃ」


エルザを見るや否や、朝の騒動など記憶から消し去っていたかのような礼儀正しい態度でテトが挨拶をする。その様子にフランは若干驚きを隠せない。


「あら、これはご丁寧にどうも。グラントの妻のエルザと申します。ファルケン家に世話になっているというと、あなたもメイドを?」


「いや、我の場合もう少し事情が複雑なのじゃが、まあその認識でよいと思うのじゃ。因みにフランは我のものじゃからな?」


「なにさらっととんでもない事を言ってるんですか」


脛にお上品な・・・・蹴りを入れるとテトが悶絶しながら片足でピョンピョンと跳ねまわる。


その姿が妙に滑稽だったので内心笑いながらも表面上は冷めた目で睨み付けていると、押し殺したような笑い声がエルザの口元から漏れる。


「ふふ、仲が良いのね」


「もはや寄生されてるようなものです」


「それはあんまりじゃ!」


もちろん、抗議の声には耳を貸さない。


「さて、それじゃそろそろ行きましょうか。あんまりのんびりしていると混み始めるでしょうから」


そしてテトの抗議は誰の耳にも届かないまま、メリスの号令のもと、校舎の中へと一同は歩き始めた。一番後ろをふて腐れたテトが歩いていたが、それもすぐに満面の笑みに変わる事になるとは、まだ彼女は知らない。
















「お、おお? おおおおおおお!!!!」


「テト、少しは静かにしてください」


まるで子供のように校庭の周辺にある屋台を少し大きくした程度の飲食店の列を見ているテトに、フランは苦笑しつつ自制を呼びかける。


「フラン、あれはなんじゃ!?」


「あ~、あれはですね……、『吾輩の店である、名前はまだない』という店です。いや、どうしてこうなってるんです……」


学園側が用意した大きなテントの下に調理器具を並べ、テントの一辺を会計などを行うカウンターにしているという、聞いただけでは安っぽさが拭いきれない店だが、見てみるとこれがすごい。


調理器具などを学生自身が用意しなくて済む分、装飾などに労力を向けているようでテントには大きな看板がぶら下がっており、周囲では宣伝をしている学生がプラカードを掲げて歩いている。見ればどこの店も同じような事をやっているようで、まだ春先だというのに学園内はかなりの熱気に包まれている。


「美味そうじゃ、フラン、我はもう辛抱たまらんぞ」


「2時間前に朝食を食べたばかりでしょう。食べすぎるとお昼ご飯が入りませんよ?」


自分が母親のような事を言っている気がして内心恥ずかしくなってしまう。


傍から見れば大の大人がその娘に諌められているようにも見えなくはないだろう。周りの人々が内心笑っているような気がしてならない。


因みに昼食はレティアのクラスで済ませる事に決まっている。事前にレティアが自分たちのクラスは昼食を欲する客をターゲットとして本格的な料理をすると言っていたので、それを期待してだ。


そのため、今は各々自由に行動している。


グラントとエルザは来年から長男がお世話になるという事もあってか、出し物よりも情報を集めるために職員室などを見て回っていり、メリスはとりあえずどこかへ行ってしまったクレアを探している。


そしてフランとテトはこうしてほのぼのと出店を回っているというわけだ。


と言っても、半分テトに振り回されているような状況だ。テトもこういう催し物は初めてなのか、いつも以上に興奮している。今は隠しているが、耳と尻尾がいちいち反応しているのは間違いないだろう。


「むぅ、この辺は飲食店ばかりじゃのう。もっとアトラクション要素の強いものはないかの?」


「それなら校舎内を回りましょう。教室を使ってそういうものをやっていると思いますよ」


今日、これと言って行かなければならない、という場所はない。自由に動いても問題はないだろう。


あえて言えば、武闘祭の対戦表だろうか。


確か今日発表されるとレティアが言っていた。


(どこで発表なのか確認しておく必要がありますね)


ふと空を見上げると、何かが白い雲を引きながら学園の上空を勢いよく通過していく。それが人だと分かるのにはしばらく時間を要した。


「ほう、あれほど接近した状態でお互いに影響を出さずに飛ぶとは、風の精霊も鼻が高いじゃろうな」


5人の男子学生が見事なV字の編隊を組み、背中に背負った筒のようなものから白い煙を吐き出しながら飛んでいくさまはとても美しい。


「飛行部、という奴ですね」


お互いの距離は数メートルと離れていないだろう。


しかし、彼らは相互の位置関係をしっかりと把握し、わずかな合図だけで大きく急上昇、急降下、急旋回をして宙に綺麗な図形を描いていく。


1つ図形が出来上がる毎に地上からは惜しみのない拍手が投げかけられ、上空でフワッと停止した彼らは地上の観客に対して仰々しくお辞儀をすると校舎の屋上へと戻っていく。その直後にアナウンスが流れ、次の展示飛行の時刻とメンバー構成などが知らされる。


「さて、では中に入ろうではないか」


飛行部の飛行に気分がさらによくなったテトに連れられてフランは校舎へ向かう事にする。


テトが窓から入ろうとしたので慌ててその後頭部にツッコミを入れたのは数分と、経たない頃の事だった。














映画研究部というものは自分たちでオリジナルの映画を作る部活だ。


そこの上映会に足を運んだフランとテトであったが、上映されたのは到底生徒だけで作ったとは思えないクオリティの高さの映画だった。


複数の短編をまとめた上映会であったがホラー物、恋愛物、アクション物と、ジャンルは多岐に及び、またそれぞれ見ごたえがあるものに仕上がっていた。特にホラー映画に関しては見ていた子供が泣きだしたり、女子生徒が小さく悲鳴を上げていたのが耳に入って来ていた。恋愛物の最後には感動で泣いていた生徒が少なくとも5人はいたように思える。


「面白いものでしたね」


「うう、あのホラー映画、質を追求しすぎじゃ……」


作り直されて間もない体育館での上映会を終え、外に出てきたフランとテトがそれぞれの感想を口にする。テトは入場する前よりも若干やつれているようにも見える。


「ホラー物の恐怖を残り2つで忘れられなかったんですか?」


「あんな生ぬるいアクションであの恐ろしい光景は拭えんよ。フランはよく平気じゃたの?」


「まあ、見てませんでしたし」


「卑怯者! うわあああん!!」


「ちょ、泣かないでくださいよ」


いきなり泣き声を上げたのでフランが驚いてテトの顔を覗き込む。


どうやら本気で怖がっていたようだ。


「フラン~、我は怖くて怖くて眠れないかもしれないのじゃー、1人じゃ眠れないのじゃー」


「わ、わかりましたから落ち着いて……、今なんて言いました?」


泣きだした子供をあやすように対応していたフランであったが、テトの台詞の最後の部分に眉を吊り上げ、顔を上げてみると、そこには先ほどまでのマジ泣きしていたテトはいなかった。


「フラン~♪」


「それが目的ですか!」


危うく引っかかるところだった。


心配して損をした、と思いながら巻き付けられた腕を払いのけ、さっさと次の教室へ歩を進める事にする。


「フラン~、1人で寝るのは怖いのじゃ~」


「まったく、結局最終的にテトの目的はそこに落ち着くんですか。今度からベッドのもぐり込んで着たら否応なしに蹴りだしてあげます」


「布団から足を出す事があるじゃろう? するとベッドの下から『ガシッ』と……」


「布団から足を出すほど寝相は悪くありません!」


「天井を見ると、天井に張り付いたヤモリのような女が……」


「どこでそういう情報を仕入れてるんですか!」


立ち止まって振り返り、一喝してやるが、1度目の作戦が失敗したテトはフランの方から「1人で寝れない」と言わせたいのか執拗に気味の悪い事を耳元で囁き続けてくる。


「そうじゃこんなのはどうじゃ、ある夜、ムグッ!?」


いい加減、我慢も限界に達したフランは開きかけたテトの口を手で多い、無表情でテトの顔を見つめる。


「テト、三味線の材料になりたいですか?」


無表情で、なるべく相手に恐怖を与えるような口調でそう言ってやると、テトは口元をフランの手で押さえられつつも必死に顔を横に振る。


「それならよろしい」


パッと手を離すと、テトが大きく息を吐いて深呼吸をし始める。


「フ、フラン、よもや本気じゃなかろうな? な?」


「それは今後のテトの態度によります」


「二度と軽はずみな行動はしないのじゃ」


テトが見事に腰を直角に折って頭を下げてきた。


これだけ言っておけばさすがに当分は、それでも「当分」になってしまうのが悲しいが、当分は大人しくなるだろう。


フランは満足げに一度頷くと、パンフレットを取り出して次はどこに行こうか考え始める。それを見てテトも顔を上げ、パンフレットを覗き込んでくる。


「次はどこへ行くのじゃ?」


「そうですね、『子供でも出来る、三味線の作り方講習』なんてのは?」


「後生じゃ!!」


どうも、最近テトの扱う方法が分かってきたような気がするフランであった。















因みに、その数分後、校内アナウンスでこんなものが流れてきた。











『迷子のお知らせです。クレアちゃんがお待ちです。保護者の方は至急学園祭本部までお越しください』


メリスに叱責されるクレアが容易に想像できてしまった。


初日午前の部、終了ー、ですかね。


はい、グラントの妻、エルザ登場です。


とりあえずこの人はメリスで遊べるくらいの猛者ですwwww


あと声だけ出演だった新聞部の部長さん、そのうち出てきます。


ではでは、また次回。


誤字脱字報告、ご感想などお待ちしております。

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