第28話 ウルティの実力
ひゃはー、やりたい放題書いてますww
特にウルティの技とか実力に関してはチートじみてますww
では、どうぞ。
「そらっ!!」
距離を詰めてくると素早く振り上げた釘バットで一閃、フランがそれを飛び退いて避けると釘バットが体育館の床に深々と突き刺さる。飛び出している釘が引き抜く時の障害になるかと思い、その隙を狙おうとも考えていたのだが、ウルティの腕力はその程度の障害をものともしないらしい。壁から引き抜いた時と同じように軽々と引き抜くと砕けた床の破片がボロボロと床に散乱する。
「避けてばっかりじゃ、いつまで経っても終わらないよ」
ウルティは回避に徹しているフランにどこか興醒めしているようだ。
とはいえ、掠った程度でも相当なダメージを受ける武器を相手にして無闇に突っ込む事は出来ない。回避に徹し、距離を置いたところで数発発砲する程度に抑えて相手の隙を窺うのが今できることだ。
アフェシアスは当然のことではあるが金属製だ。あの釘バットと接触すれば確実にフランに電撃が流れてくるだろう。攻撃を受けるとなると、魔力刃でする必要がありそうだ。
「面白くないなぁ、もっと、もっと楽しまないかぃ?」
「戦いなんて、そんなもので良いんですよ……」
釘バットにまとわりつく電流を指で操りながらそんな事を言うウルティにフランは無表情で答える。
フランは戦いを楽しむような趣味もなければ、人を殴って快楽を得るような狂人でもない。
「なんだい、つれないねぇ。なら、勝手に楽しませてもらうとするよ」
釘バットをフランに向けると、釘バットが纏っていた電流がより一層激しくなる。離れていても電気の弾けるバチバチという音が聞こえてくる。それと同時に、空いたもう片方の手をポケットに突っ込み、中から小さな瓶を取り出す。
警戒しつつその瓶に視線を向けると、ウルティは瓶を顔の高さまで持ち上げて顔の横で軽く振ってみせる。中には透明の液体が入っているが、これと言って不審な点は見当たらない。もちろん、無色透明を無害と結びつけるのは早計だろうが。
「さあ、踊れよ、メイドさん」
ウルティは蓋を開け、中に入っていた液体を宙に飛散させる。その一部はフランにも降りかかり、とっさに腕で顔を隠すと袖に液体が降ってきて肌に冷たい感触を感じる。
そしてその腕を下ろした時には、目の前に釘バットが迫っていた。
「っ!」
それをしゃがんで避けると、手をついた床に先ほどばら撒かれた液体が落ちているのに気が付く。手の平にその液体がくっつくが、どうやら本当に害があるものではないようだ。
(水……っ! まさか!?)
だが、気が付いた時には遅かった。
最初は肌を刺すようなわずかな痛みだったが、それはすぐに全身を駆け巡り、視界をスパークさせる。身体が強引に痙攣させられているような状態に襲われ、指一本思う様に動かせなくなってしまう。わずかに視線をウルティに向ければ、ウルティが微笑を湛えながらこちらを見下ろしている。その手の釘バットは先端を床に向けており、細い電流の帯が床に向かって伸びている。
(わずかな水分で床を雷の池にするなんてっ……)
何が起こったかは分かる。
先ほど四散させられた水分と木製の床が持つわずかな水分、それを繋ぎ合わせて電流を床一面に広げているのだ。本来ならば、「水がある所で」この現象は起こるが、ウルティはまさしく真逆の事をやってみせたと言ったところだろうか。水分が無ければ、自分で用意すればいい、と。
「どうだい? 痛いだろう、辛いだろう? それが嫌なら戦いな」
フランが攻撃せず、ウルティにこのまま好き勝手させれば、今以上の苦痛を与える、とウルティの顔が言っている。そして、それに躊躇するほど生易しい性格でないのも容易に分かってしまう。
「……っ」
全身を電流が駆け巡ったために、身体の節々からフッと力が抜けてしまう一瞬がある。特に膝はかなり深刻なダメージを受けているのか、傍目には分からないだろうが未だ小刻みに震えている。
(致し方ありません、ね……)
出来得ることなら話し合いで、それが無理なら実力行使、最初から決めていた事だ。
フランはおもむろにシリンダーに弾を込め、魔力を注ぎ込み始める。
よくよく考えてみれば、これはアフェシアスを使用する初めての実戦だ。今までもメリスやグラント、最近ではテトと模擬戦という名のリアル鬼ごっこをやってはいるがあくまで双方相手をどうにかなるまで叩きのめすほどのモノではない。
だが、今目の前にいるウルティは違う。
全力をもって、自分の出し得る最大級の力で、フランを叩きのめそうとしている。殺す気がなくともその身体からあふれ出す殺気でそれが嫌というほど伝わってくる。
(気が付くのが、少し遅かったですかね)
これは模擬戦ではないのだ。時間稼ぎをしていれば対応策が自然と見えてくるわけでもない。自分で考え、行動しなければならない。それに気が付くのが些か遅かったようだ。
(……今度涼風に行ったら、追加注文をすることにしましょう)
銃口をウルティの眉間に合わせる。
その動作と並行して、フランは頭の中で絶縁性のある靴を所望していた。
引き金を引く。
躊躇いがない、と言ったら嘘になるだろう。相手の眉間目掛けて、当てるために銃を撃つなど滅多にない。的相手ならともかくとして、人を相手取ってそんな事をやる事など、それこそ両手の指で事足りるほどの回数だ。
正確に言うと、「撃たなければ一晩激痛にうなされる」くらい本気モードのメリスを相手にする時や、ここ数日では夜這いをしようとしたテト相手だろうか。前者はともかくとして後者は反省の色がない分対応に苦慮する。
「ほっ、やっと戦る気になってくれたかいっ!!」
目の前のウルティが心底嬉しそうな顔をする。
横に飛び退く様にステップするとそのまま一気に走り出す。フランはそれを追うことなく、逆に相手の未来位置に見当をつけて弾を送り出す。元来、追い撃ちなど当たるようなものではない。
「おおっ?」
そして考えなしかそうでないかは分からないが、その未来位置に扇状に放たれた5発の弾の射線上にウルティは自ら飛び込んでしまう。釘バットで命中コースにある弾を撃ち落としながらも、その視線はフランから外れない。
「やっぱりねぇ、こうでなくちゃ面白くない!」
「遊びなら他所でやって下さい……」
再装填するわずかな時間はウルティにとって絶好の反撃チャンスだ。それを与えないためにもフラン自身が直立不動で砲台のようになるのではなく、ウルティの背後を取るために走り出す。まるで闘犬がお互いに背後から噛みつこうとしているかのように2人は体育館の中央でグルグルと円を描く。
当然ながら、床に接している以上、ウルティの文字通り地雷のような雷攻撃を防ぐ手立てはない。一歩をより大きく、滞空時間を少しでも伸ばす事で軽減は出来るが、この世に重力の法則がある以上逃れる事は不可能に近い。一撃必殺の威力はないものの、フランの動きを鈍らせるには十分な威力を持ち合わせている以上、不意を打っての攻撃には注意が必要だ。
「ほらほら、そんな攻撃じゃいつまで経っても私に当てる事なんて出来ないよ!」
「そうですか、では当たりに来てくださいっ!」
そう言うとフランは空いていた左手をアフェシアスに添える。両手で身体の正面にアフェシアスを固定し、その銃口を動き回るウルティではなく、その足元の床に向ける。
「さっきのお言葉、そっくりお返ししますよ」
ニヤリと笑みを浮かべる。
まったく、勝負事の真っ最中に自分が油断しているような気がしてならない。頬が緩むなどその象徴ではないか。
今まで以上の魔力を腕からアフェシアスへと流れ込ませると、青かった光の帯が徐々に黄色を帯びてくる。言ってみれば、「当たればかなり危ない」レベルの威力というわけだ。青は「当たったらそれなりに痛い」レベルと言えるだろうか。
威力が増す分、その反動はかなり大きくなる。もちろん、片手でも撃てない事はないのだが、実戦で撃つのが初めてである以上、念のため両手で構える事にする。
もちろん、「当たったらかなり危ない」レベルである事は、フランは百も承知だ。だから当てるつもりはない。ただ、相手の動きをわずかに遅らせる事だけを目的にする。とはいえ、その攻撃が生み出す余波については全く計算に入れていないのだが。
「踊りなさいなっ!」
両手で構え、引き金を引く。それまでとは比較にならないほど大きな発砲音、発砲炎、反動が生まれる。肩にかけて強い衝撃が走るが、フランはその両目をウルティから外さず、その未来位置の床に一気に弾を送り込む。
「むっ」
一瞬、ウルティの顔から笑みが消える。
そしてその直後、ウルティの足元の床が砕け散り、木片がウルティ目掛けて飛び散る。さらに足元の床を破壊された事でバランスを崩し、動きが著しく遅くなる。
(今だ!)
動き回っている相手に手加減は出来ない。むしろ手加減したつもりでいても致命的な部位に当たらないとも限らない。
しかし、相手が著しく遅いのであれば、それこそ移動する的、まで相手をランクダウンさせる事が出来るのならば話は別だ。
フランは落ち着いて銃口をウルティの足に向け、威力を通常レベルまで引き下げて引き金を引く。
細かい木片と共に舞い散る土煙の中で、鉄製の弾が何かにめり込む嫌な音が僅かに耳に届く。それが足である事を切に望みながらも、フランは銃を降ろさず土煙の向こうにいるであろうウルティを探し求める。
(これで勝負が決まるようなら、それでいいんですが……)
土煙が晴れる。どうやら相当床下の地面を抉っていたのか、随分と多く砂埃が舞い上がっている。
そしてその土煙の向こうにうっすらとウルティの姿が見えた時、フランは苦笑するしかなくなってしまった。
「……やるじゃないか、メイドさん」
釘バットを足に沿わせるように構え、姿勢を低くしたウルティがそこにはいた。そして釘バットには小さな穴が1つ開いている。
(あの体勢から反応しましたか……)
フランが撃った時、ウルティにフランが撃つ姿は見えていなかった。その確証があったからこそ引き金を引いた。つまり、発砲音が聞こえてからウルティは、フランが撃った事を知り、そして自分の足に弾が迫っている事を認識し、それに対応して防いだのだ。メリスやグラントのように人間離れした実力の持ち主を何度も相手にしてはいるが、どうやらこのウルティという女性もまた、その仲間入りをしていそうだ。
「だけど、私相手に手加減なんて、している余裕はないと思うだがね。……ほら、返すよ」
釘バットにめり込んだ弾を器用に取り出すと、それを円柱である釘バットの上に乗せるとその周囲の雷がより一層輝きを増した。
「なっ!?」
次の瞬間には、弾はフランの顔を掠めて背後の壁にめり込んでいた。
撃たれた、分かったのはそれだけだ。
だが、どうやってなのかは分からない。雷でパチンコなどできるとは思えない。
「はは、撃つ事はあっても撃たれた経験はないのかい? そいつは良かった、貴重な体験が出来たねぇ」
うっすらと浮かべた笑みは、意図してそれをやった事を物語っている。正確な速さまでは分からないが、十分殺傷能力を持っている威力だ。
「分からないだろうね。こいつぁ私が考えたもんだからね。理論なんかは科学の教科書にも載ってるんだが、実際にやる人間はそうはいない」
ウルティが釘バットを撫でるように触れる。
(……撫でる?)
そう、撫でたのだ。あれほど凹凸が激しい釘バットを滑らかに撫でたのだ。よく見れば先ほどまで凶悪なまでに自己主張していた無数の釘がバットの表面に折れ曲がってしまっている。そしてその釘は2本の直線になっており、まるでレールのようにバットの付け根から先端まで伸びている。
「不思議だろう? 炸薬なんかなくたって、こうすりゃ弾は飛ぶ。ま、私は細かい物を持ち歩く習慣はないんで、その場にある適当な物を弾代わりにしているけどね」
それはつまり、主要な攻撃手段ではない、という事なのだろうか。それとも相手を油断させるための嘘なのか、不敵な笑みを浮かべるウルティの表情からそれを読み解く事は出来ない。
「なるほど、磁場を使って……」
「ほ、あんたには分かるのかい。やっぱり人間、力だけじゃないねぇ」
細かい構造までは分からないが、少なくとも電流を使って弾を押し出したのであろう事は見当がつく。電磁投射砲とでも言うべきものだろうか。多種多様にわたるメリスの科学の勉強がこんな所で役に立つとは思いもよらなかった。
(だとすると、一定以上の威力は出ないはず……)
この手のものは加えられた電流の強さではなく、加速に要した距離で威力が決まる。今の段階で釘バットの持ち手を除くほぼ全長を使用している以上、あれ以上の威力は出せないはずだ。さらに言えば、固定するものがないので連射はほぼ不可能、示威行為にはもってこいだろうが、実際の戦闘では使い勝手の良い攻撃方法とは言えないだろう。
ウルティもそれは分かっているようで、釘バットを下ろすと釘を位置に戻し始める。当初の凶悪な姿に戻ると再びその周囲に雷を帯びさせていく。
「さて、第二ラウンドと行こうじゃないか」
ウルティがそう呟くと一気に距離を詰め、フランの目の前で釘バットを振り下ろす。回避する暇もなく、フランは反射的に空砲を一発撃ち、魔力刃を作り出すと釘バットを正面から受け止める。火花とも見れる青白い光が散り、金属が擦れるような甲高い音を立てる。
「へぇ、綺麗だね」
「それはどうもっ!」
真正面から受け止めていた釘バットを押し返す様に力を込めるとウルティも負けじと力を入れてくる。そしてそれを出来るだけ大きくしたところでフランは右手はそのまま身体を右に逸らし、その瞬間魔力刃を霧散させる。
「おっ?」
それまで入れていた力が行き場を無くしてウルティの身体が大きく前に飛び出す。その隙を見逃さずもう一度引き金を引き刃を再構成するとその首筋に死なない程度の力で振り下ろす。
「ちいっ!」
ウルティが初めてだろうか、悪態をついて釘バットで床を突く。その瞬間、フランの身体を電流が走って振り下ろしていたアフェシアスを持つ手がぶれる。少しでもぶれれば、相手を捉えるには至らない。ウルティは即座にその場から飛び退いてフランの一撃を回避してしまう。
「……まさか、消えたりするとは思わなかったわ」
「そうですか」
適当な返事をしつつも、身体の状況を確認する。
対した影響はなさそうだが、それ以上に心配になってきたのはアフェシアスだ。そもそも金属製で細かい部品は非常にデリケートな作りになっているアフェシアスが度重なる電撃に耐えられるか、アフェシアスを失えば攻撃手段が自分の身体のみになってしまう以上、壊れるようなことだけは避けなければならない。
(はあ、こんなに戦いにくいのは久しぶりです……)
「なんか、体育館が騒がしくないか?」
校庭で活動していた学生たちが手を止めて体育館の方を見やる。
「あれ、そういえば魔法障壁が張られてるな」
また別の学生がそれに気が付いて目を凝らしている。
そこに顧問の教師がやって来るとため息をつきながら口を開く。
「なんでも、教員同士の実習か何かをやってるそうだ。急に決まった事だそうで体育館組の部の顧問たちが嘆いていたよ」
「教員同士で、ですか? いったい何のためにですか?」
「さあな。今後のカリキュラムに関わる事だったら、もう少し早く言ってくれればいいんだがなあ」
腕を組み、体育館を眺める教師もまた、急に決まった事で混乱しているのかもしれない、と周囲の学生たちは考えを巡らせる。
「まあ、とにかく、変な事が行われているわけではないから、部活に集中してくれ……うわっ!?」
不意に体育館から大きな爆発音が聞こえてくる。音までしっかり防いでいる訳ではないから音が漏れる分には問題ないのだが、それにしてもただならぬ爆発音に教師も学生も目をぱちくりとさせている。
「あの、私闘とか、死闘とかじゃ、ないですよね、先生?」
「た、多分……」
そういう教師も、自らあの中を確認する勇気はないようだ。
「おい、ありゃあ、何事だ?」
そこに通りかかった教師が1人、駆け寄ってくると、その場にいた全員がその教師の方に視線を向ける。
「ジョブ先生、体育館で何かドンパチをしているようでして」
やって来たのは相変わらず眠たそうな表情をしているジョブだった。だが、朝や昼間に比べると、幾分意識ははっきりしているようで、完全に夜型人間となってしまっているようだ。
「ドンパチ、許可は」
「下りてるそうなんだが、ありゃあ、ちょっとまずいんじゃないか?」
「ふむ……、幸い仕事は終わっているから、職員室に戻って確認してみよう。勝手にどこかの馬鹿共が馬鹿騒ぎをして馬鹿な結果を引き起こしたら目も当てられないからな」
「そこまでバカバカ言わなくとも……」
「それじゃ、何か分かったらまた顔を出す」
そう言うとジョブは足早に校舎の中へと姿を消していった。
範囲攻撃優秀すぎるので多用しないようにしますwww
自分で考えておいてなんですけど、あれは強すぎるwww空でも飛ばないと回避できないというね……。
さてさて、頑張ってもらいましょー
ではまた次回。
誤字脱字報告、ご感想などお待ちしております。