第26話 キレてもいいですよね?
どうもどうも、結構日が開いてしまいましたね。
ですがもう少し不安定な状況が続きそうです。実際これも書き溜めていたものなので今現在執筆活動をしていられるほどの余裕はありません。
まあ、そんなことを言っていても仕方ないので、さっさと本編に行きましょう。
では、どうぞ。
「……何か、用?」
行く手を遮る様に立った男子生徒にレティアは臆することもなく低い声で言い放つ。普通の学生なら目の前にいる男子生徒の今にも殴りかかりそうな表情に後ずさりするだろうが、彼らの顔だけは知っているレティアはむしろその腕などを見て内心呆れていた。
「また、吹っ飛ばされに来たわけかしら?」
以前、レティアをナンパしてフランにフルボッコされた男子生徒にそう言うと、明らかに怯えたような表情を浮かべた。いったい、何をしに来たのか本当に疑問だ。
「この間はよくもやってくれたな。だが、今回は俺たちがお前に用があるわけじゃねえ。俺たちのボスがあんたに用があるんだよ」
「ボス? まさか、『はいそうですか』と言ってついて行くとでも思ってるのかしら」
もしそう考えているのなら、目の前にいる不良を馬鹿に格下げする必要がある。
しかも、この不良たちが「ボス」と呼ぶとなると、学園では1人しか思いつかない。
学園の不良共を束ねている番長、ウルティ・ヴェレイン、おそらく彼女が今目の前にいる不良たちのボスなのだろう。彼女に目を付けられた以上、事を平和裏に終わらせることはまず不可能と言っていい。過去には教師が強硬手段に出たにも関わらず返り討ちにあったとかいう噂すらある。
基本的に学園に来ることは滅多にないため、その姿を目撃する事すら皆無なのもあり、名前と悪行だけが独り歩きしている感は否めない。本人が否定するわけでもないのでその手の噂はあっという間に広まってしまう。
「お前の友達がどうなっても良いなら、拒否してもらっても構わない」
「……なんですって?」
あくまで主導権は自分にあると思っている男子生徒はレティアに睨み付けられ若干尻込みしているが平静を装って言葉を続ける。
「レイナって言ったか、そいつを預かってるから、酷い目に合わせたくなかったら大人しくついてくるんだな」
「あたしが? 用があるのはフランでしょう?」
フランに全て投げ渡すつもりではないが、彼らが目的とするのはレティアではなくフランだ。レイナを人質にレティアを連れていくのはどうも連れていかれる側からしても疑問が残る。
「お前が知るべきことじゃあない。それで、ついてくるのか、来ないのか、はっきりさせるんだ。……もっとも、出す答えは決まっているだろうがな」
「……外道」
確かに、出すべき答えは1つしかない。普段対立することもあるとはいえレイナは仲の良い友達だ。見捨てるほどレティアは薄情でも非情でもない。
「……わかったわよ」
レティアはこみ上げる怒りを押し殺しながら、小さくそう呟くしかなかった。
「理由は分からないのか?」
それが夢だと認識するのにそれほど時間はかからなかった。
聞こえてきたのは夢の中の登場人物のもの、誰だか知らないが聞いていて不快感しか感じる事の出来ない冷淡な声に意識だけのフランは内心ため息をつくしかなかった。
今日はまた違う夢を見ているようだ。
目の前には男性の姿があるが、何故かその顔は靄がかかっていてはっきりしない。ただ、こちらの顔を覗き込んでどこか考え込んでいるのは分かる。
視界に映る自分の腕は手首を拘束されている。椅子のようなものに座らされているようだが、身体の各所を厳重に固定されている。
「なぜ、他の傷は治ったのに、顔の傷が治らんのだ。私の技術は完璧だったはずだ」
その声はどこか苛立っているように感じられる。自分の思い通りに事が運ばなくて焦燥感にかられているのだろうか。
「そもそも、成功したのがいまだに二桁に達していません。手段がそもそも間違っているんですよ、所長」
「馬鹿な、成功例が目の前にいるではないか。これは間違ってなどいない。それどころか、人類の未来を拓く事になるんだ、止めるわけになどいかない」
男が立ち上がり、視界から消えていく。重々しい金属製の扉が開く音が聞こえ、わずかだが頬を風が撫でたのが感じられる。
代わりに視界に現れたのは女性だ。こちらも顔がぼやけて全くというほど個人を特定できる情報がないが、男と違って自分は拒絶反応を起こしていない。
「36時間だ。今回の実験で得られたデータをまとめておけ。それと、いい加減研究所内を走りまわせるのもやめろ」
「あの子たちもまだ子供です。あなたの言葉で言えば、『大切な被験者』を『つまらない事』で潰したいんですか? この子だって、人間なんですよ?」
返事はない。ただ、黙って女性を睨み付けているのだろう。
無言の時間が続き、しばらくして言葉もなく扉が閉められる音が響き渡る。扉が閉まると同時に女性の口からため息が漏れる。
研究所、男は確かにそう言った。そんな所に何故、自分が閉じ込められているのか、何故、こんなひどい目に合わせられているのか、そして何より、目の前の女性はいったい何者なのか、フランの分からない事だらけだ。
だが、それと同時に1つ分かった事もある。
この施設にはフランと同じように被験者とされている子供がいるという事、そして少なくとも目の前の女性だけは子供たちの味方であるという事だ。このような施設にいるにも関わらず、何故子供を守る側にいるのかは分からないが、フランにはそれだけで安心できる。
実際、女性の声を聞いているだけでも不思議と心が安らぐ。
「……どうすれば、終わらせる事が出来るのかしらね」
女性がポツリと呟く。
手足を拘束された少女が返事をすることを期待してのものではなく、独白のようなものだ。
「約束したのに、全然進まないのよ。皆を助け出す方法も、この悪夢を全て終わらせる方法も、思いつく案はことごとく失敗する可能性が高い、いかにあなたたちの身体がすでに超人的なものだったとしても、子供を10人近く連れて逃げるのは並大抵の難易度じゃない……」
どうやら、女性は子供たちを助ける計画を立てているようだ。それが、彼女の言う「終わらせる」という事なのだろう。
「世間に公表する情報も全部手に入れた。なのに、ここから出る方法が見つからない……」
女性自身、この研究所を自由に出入りできるわけではないのだろう。子供たちと共に逃げ出すつもりのようだ。
「ごめんなさいね、言い訳にしかならないわよね、あなたにこんな事を言っても。でも、約束は絶対に守るからね? 絶対に、絶対に助け出してみせるから……」
その時、あの重々しい扉がゆっくりと開いた音が響き、女性がそちらに顔を向ける。扉はわずかにフランの視界の外にあるが、開いた扉が動いているのだけは視界に入る。
「母さん、ここ?」
幼い、男の子の声が耳に入る。
「あら、ここまで来るとはあなたも随分と動けるようになったのね」
軽やかな足音を立てながら小さな子供が視界の中を女性に向かって歩み寄ってくる。そして女性の腕に抱き付くとフランの方に視線を向ける。
「……この子は?」
「そうね……、あなたの妹、のような存在よ。エナスがあなたたちのお姉さんであるように、ね」
「でも、皆と違って髪の毛が黒いよ? どうして?」
そこでようやく、フランは目の前の少年の髪の毛が雪のように真っ白である事に気が付いた。文献で読んだ、魔法を使えない者たちを象徴する、あらゆるものに染まっていない白、つまりこの少年もまたフランと同じ境遇の者、という事になる。
「それは私にも分からないわ。でも、私たちにとって、大切な存在であることに変わりはないわ。ほら、挨拶してあげなさい」
「眠っているよ?」
「それでも、聞こえるわ」
「ほんと? 僕はデュオ、ここの皆にそう呼ばれてる」
デュオ、と名乗った少年が屈託のない笑みを浮かべて可愛らしく頭をぺこりと下げた。出来る事なら、それに応えたいところなのだが、あいにくフランの意志でこの身体は動かない。何しろこれは夢の中の出来事なのだから。
「この子はエネア、あなたと同じように、本名ではないけれどね」
「へぇ、よろしくね、エネア」
そこで、視界がブラックアウトした。
「……ん」
ゆっくり身体を起こして周囲を見渡し、現実世界に引っ張り戻されたことを認識する。
以前夢を見た時は酷い冷や汗をかいていたが、今日は汗もかいていない。ただ、妙な気怠さが身体に残っているが、それは寝起きであるせいだろう。
仕事を一段落させたフランはテトの相手を小一時間させられ、心身ともに疲れ切ってしまったのでレティアが帰宅するまで仮眠を取る事にしたのだ。仮眠と言っても自室のベッドで寝たのでかなり本格的な睡眠をしてしまった。珍しく、といってもその方がありがたいことこの上ないのだが、寝ているフランの隣にもぐり込んでいないので睡眠を害される事もなく寝る事ができたようで、意識はかなりはっきりしてきた。
といっても、例の夢を見てしまったおかげで快眠とはいかなかったが。
時計を見上げ、丁度3時を少し過ぎた頃であることを確認してベッドから抜け出すと、一度大きく伸びをする。関節が小さくポキポキという音を上げたような気がしたが、年寄りのような事を考えるのも嫌だったので聞かなかったことにしてしまう。
「つつつ……、また違う夢、でしたね」
「夢、とな?」
「うひゃあっ!!?」
不意に真後ろから声をかけられフランは飛び上がってしまう。
ベッドから抜け出した直後、その背後という事はつまりベッドの上から声を投げかけられたという事になる。振り返るとベッドの上に物凄く薄着のテトが座っており、まだ眠たいのか瞼を擦っている。
「い、いつの間に……」
「うん? 最初からおったぞ? ただ、今の今まで猫の姿をしていたゆえ、こんな格好なんじゃが」
「猫の姿で布団にもぐりこんでいたわけですか」
「たこにも、じゃなかった、いかにもそうじゃ」
「……服を着てください」
椅子に引っかけられていたテトのメイド服を顔面に投げつけてやるが、上手い具合にキャッチされてしまう。
「夢、のう……。フラン、夢とは何か知っておるか?」
「なんですか、藪から棒に」
メイド服を受け取ったテトは慣れた手つきでメイド服を着ると再びベッドに腰を下ろす。フランもまたメイド服に着替え、支度をしながらテトの言葉に耳を傾ける。
「夢とは不思議なものでな。人の記憶、願望、時には未来すら映し出す鏡のようなものになるのじゃ。お主の場合、過去の記憶のようじゃがのう」
「っ! 何を知ってるんですか?」
一瞬、記憶を覗かれたような気がしてあからさまに表情を歪ませてしまった。それを見てテトが慌てて首を振り始める。
「夢を覗くなんて器用な真似はできんぞ? 顔がそう言っておるだけじゃ。猫はそういう事に敏感じゃからのう」
少し自慢げに耳をピクピクとさせる。
「……詮索屋は嫌われますよ?」
「時と場合によるものじゃ。1人で全部抱え込もうとする愚か者を助けるのも、詮索屋の役目よ」
「そう言って、あたしの全てを知りたいわけですか」
最初にテトが言った言葉は忘れたくても忘れない。
フランの全てが知りたい、それがテトの今現在、目下の目的である。どう考えてもおかしいその方法及び多分な私情が入り込んでいるわけだが、根本は変わっていない。それは日々のテトの言動、行動からも見て取れる。
「ふふ、忘れてないようで何よりじゃ。それで、その夢とはいかなるものじゃ?」
「……はあ」
テトはフランの記憶にかけられている仕掛けの一部を見破っている上、既にこの屋敷の家族である。隠し立てすることにあまり利益はないだろう。
何より、目の前のテトは知りたくて知りたくてうずうずしているというのが表情にありありと浮かんでいる。まるで玩具を目の前にした子供のように目を輝かせている。
フランは諦めてテトに今日見た夢の一部始終を説明し始める。意外な事に、人に説明する、という動作の過程で自分も忘れかけていた夢の中の内容を思い出すことが出来た。その点ではテトに感謝しつつ、全ての説明を終わらせるとテトが顎を撫でながら考え込んでしまった。
「あの、テト?」
「……世の中には、悪い人間がおるものよのう」
それは、おそらく夢の中に出てきたあの所長とか言う男の事を言っているのだろう。実際その部分を説明している時、テトは隠す事もせず不快感と怒りを露わにしていた。
「お主が求めていそうな情報を我は持ってはおらんが、デュオ、ねえ。……『2』、この調子じゃ、『3』とか『4』とか出てきそうな勢いじゃのう」
説明する必要もなく、テトはその言葉が意味するところを把握していた。
「そしてお主が『9』、確かに筋は通っておる。じゃが人を物のように数えるとは悪趣味じゃのう。聞いてるこっちがはらわた煮えくり返りそうじゃったぞ」
やはり、テトの保有する知識とかそう言うものに関しては人間が太刀打ちできるものではなさそうだ。メリスですら失念していて本で見つけるまで思い出せなかったことをまるで当たり前のように口に出している。その記憶力が羨ましく感じられてしまう。
「じゃが、それは記憶の漏れのようじゃぞ?」
「漏れ、ですか」
「うむ。本来封印されたものが漏れ出す、というのはおかしな話なのじゃ。例えば封印した者が一定期間経つと勝手に封印が弱まっていくようにしておくか、封印そのものに欠陥でもない限りはそのような事はまず起こらん。視たところそういう兆しがあるようにも見えんから、原因は分からんな」
「そういうものなんですか……ん」
テトの言葉に考え込んでいたフランは、不意に妙な気配が屋敷の敷地内に入り込んだのを感じ取って顔を上げる。時間帯的に来てもおかしくはない気配なのだが、来るなら本来一緒にあるべき気配がなく、フランは疑念を抱く。
「ふむ、敏感じゃのう。良からぬ空気じゃ」
「行きましょう、仕事のようです」
アフェシアスを手に取り、フランとテトは部屋を後にした。
その直後、屋敷の扉を激しく叩く音が響き渡った。
「開けてください! 誰かいませんか!?」
扉を激しく叩く音と共に、よく聞き馴染んだ声が聞こえる。だがいつものような楽しげな声ではなく、焦燥感に支配されたものだ。
「レイナさん、一体どうしたんですか?」
扉を開けると同時に今にも泣き出しそうなレイナが飛び込んでくる。騒ぎを聞きつけたメリスやクレアも屋敷の奥から姿を現す。
「レティが、レティが!」
「っ! お嬢様がどうしたんですか?」
その場ではもはやそれ以上説明できる状況ではなく、レイナを宥めつつ屋敷の広間に連れていき、落ち着くまで待つ事にする。レイナの口から飛び出したレティアの存在に内心心穏やかではいられなかったが、レイナから情報を得るまではどうしようもなく、ただただレイナが少しでも早く落ち着くのを待つしかなかった。
時間にして10分経つか経たないかくらいだろう、温かいココアを飲んでようやく落ち着いてきたレイナはそれと同時に事の重大さを思い出したのか勢いよく顔をあげると目の前にいたフランの両腕を掴む。
「レティが不良の女番長に捕まって、返してほしければフランさんを連れてこいって! あたしはレティを捕まえる餌にされて、フランさんを呼びに行く条件で解放されたんだけど、ああもう、とにかく今すぐに学園の体育館まで来いって言われて……、あたしがフランさんたちの事聞かれて言わなければ良かったのに……、本当にすいません!」
落ち着いたのもつかの間、すぐに泣きじゃくってしまったレイナの背中に手を回し、優しく撫でてやる。
言っている事はかなり漠然としたものであったが、必要な情報は全て得られた。どこの誰だか知らないが、レティアに手を出すとは命知らずな者が世の中にはまだまだ多いようだ。フランのみならず、それはメリスやグラントすら敵に回すという事になると言うのに。
「フラン、私が行くわ。そんな事されて黙っているようではメイド長の名が廃るわ」
「ファルケン家を舐めているな。私も行こうじゃないか」
メリスとグラントが溢れる怒りを隠そうともせずそう言う。確かに、フランとてレイナの手前冷静を装っているが既に怒りの沸点はとうの昔に超えている。
だが、ここで冷静さを失えば危険にさらされるのは他でもないレティアだ。
「いえ、相手の要求はあたしです。それに不良の女番長、事の原因はきっとあたし自身にありますから。自分で責任取りますよ」
「……フラン、それとこれは問題が違うわよ」
「なら、あたしにお嬢様を助けに行かせてください。そうじゃなくては旦那様に合わせる顔がなくなります」
「フランさん……レティから伝言、です」
涙を流しているレイナが顔をあげ、目を真っ赤にさせながらもフランの目をまっすぐに見つめている。
「あたしの事は大丈夫だから、精々暴れてやりなさい、です。レティ、あんな怖い人たちに囲まれても、そんな事を言う余裕すらあったんです」
「……さすがはお嬢様、肝が据わってらっしゃるようです。メイド長、お願いします、あたしに行かせてください」
ここまでレティアにも言われていては、自分が行かないわけにはいくまい。
「……はあ、分かったわ。だけど、私たちも学園まではついていくわ。女番長だか誰だか知らないけど、喧嘩して負けるだけで終わらせるつもりはないわ。グラント、今すぐ準備しなさい」
と、いうわけで、VS.不良ラストスパート、みたいな感じになってまいりました。
まあ、まだまだハモニカの中では序盤の域を出ないので内心「終わりが見えない……」なんて考えちゃったりしているわけですww
実を言うと設定作りが前作同様半ばで頓挫しているのですww
いや、まあ、本編書いているので設定作りがおろそかになっているわけなんですが、これはまずい、と思って思いついた設定は紙に書いて忘れないようにしているわけです。書いたこと自体、忘れることがあるんですがねww
次回は二月末にできたら、ですかね。とりあえずPCがインターネットにつなげられないので。今は親のPC使ってますし。
では。
誤字脱字報告、ご感想お待ちしております。
なお、ご感想などへの返事が遅れるかもしれませんが、ご了承くださいませ。