第21話 苦労は今始まったわけじゃあない
ひゃっほーぅ。終わった、長かった試練の日々はようやく終わり、空が澄み切ったように心地よく感じられます。
あれですね、待てばカイロはエジプトの首都ってやつですね。
え?
違う?
まあ、良いじゃないですか。
ああ、それと、今回の話でハモニカは1つ気が付いたことがあります。
それはですね、我らが主人公はですね……
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総
受け
DAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!
以上ww
では、どうぞ。
なんで、総受けになんか……
「…………ん」
目を覚ましてみれば、いつもの朝だった。
カーテンの隙間から眩しい朝日が差し込み、いつもと変わらない、穏やかな目覚めだ。
「……夢、じゃないですよね……痛っ」
昨晩の出来事があまりに現実離れしていて、一瞬そんな事を考えてしまったが、身体を起こそうとして自分の身体が鉛のように重くなっている事に気が付いて苦笑いしてしまう。身体を起こそうとするだけでも目がくらくらしてしまうところを考えるに、極度の貧血でノックアウトしてしまっている事は明らかだった。
折れた腕の骨は一晩、といっても数時間だろうが、寝ている間に治癒はしたようで痛みは引いている。だが当分は無理な負荷をかけるわけにはいかないだろう。
視線だけ動かして時計を見ると、既に時刻は8時を回っている。とうの昔にレティアは登校してしまっているだろう。
だが、今のフランは身体を起こす事すらできず、頭を少し枕から浮かして、沈めて、の繰り返しをする事しか出来ない。
「さて、どうしたものか……」
結局身体を起こすことを諦めて天井を仰ぎ見ながら、これからどうするべきなのか考え込む。首を回して部屋を見渡したところテトの姿はない。いったいどこへ行ったのだろうと心配になるが、今の身体では探す事すらままならない。
ベッドの脇に見える床を見ると、大きな赤い染みが出来ている。その全てが自分が流した血だと思うと、何故自分が生きているのだろうと不思議に思えてしまう。壁にはテトがつけたと思われる傷痕が残っており、昨夜何があったのかを痛いほど思い出させてくる。
その時、部屋の扉が開き、テトが姿を現す。
昨晩と違いちゃんとした服を着ており、手には水の入った桶を抱えている。
「なんじゃ、目が覚めていたのか。それならそうと言ってくれれば良かったものを」
「いや、言うも何も誰もいなかったですし……、というより、大丈夫なんですか?」
テトはベッドの横に桶を置くとタオルを水に浸して軽く絞り、フランの横に座るとその顔を優しく拭こうとする。
「我は問題ない。お主のおかげでメイド長とやらのお許しも出たしの。さすがにお主を寝具に寝かせる時は背中に剣を突きつけられそうになったが……」
苦笑いしながらテトがフランの額を拭く。ひんやりとしたタオルに一瞬顔を歪ませるが、すぐに慣れてしまい、テトのなされるがままに顔を拭かれる。
「これから、どうするんですか?」
「うん? それをお主が問うか?」
一通り拭き終えるとタオルを水に再び浸けて絞る。
そしてタオルを桶の縁に引っかけると顔をあげてフランの目を見つめる。その表情は穏やかで、うっすらと笑みも浮かべている。
「我をあの死の連鎖から引っ張り上げてくれたのは他でもないお主じゃ。我はずっとお主と共におるぞ。それが我の望みじゃ。それでもいいかの?」
最後は若干不安げに訊ねてくるが、フランにとってそれを断る理由はない。むしろ、家族が増える事はこれ以上にない幸福な事だ。
「もちろんですよ、テト」
「そう、か……。本当にお主に出会えて我は幸福じゃ。久々に表の世界を堪能できたと思ったら、こんなにも素晴らしい出会いがあるとはのぅ。よもや帰る家を失い、新たな我が家を得るとは」
「え、それはどういう……?」
「あの広場は我の家じゃった。あそこは我しか出入りできぬはずじゃし、そもそも我は外に出る気などなかった、これ以上誰も死なせたくなかったからの。だがそんな所に土足で大音量を響き渡らせながらお主が入ってきたのだ、眠気が吹っ飛んだぞ?」
「う、すいません……」
ばつが悪そうに謝るフランの頭を、テトはニコッと笑いながら撫でてくる。
「何を謝っておる? お主のおかげで全て変わった。不幸を呼ぶ猫としてではなく、1匹の、1人の、ただの個として存在することが出来るようになったのじゃ。これ以上の幸せはない」
「そう言っていただけると、あたしも救いがいがあったというものです。ところで、その『お主』っていう呼び方、どうにかなりませんか? なんか歯がゆいです」
身体を枕の方へ引きずり、壁を使って上半身を起こす。力を入れようとするたびに込めた力がストンと落ちるような感覚に襲われるが、何とか起き上がる。
「そうか? では、なんと呼べば良いかのう……、一応お主は我の飼い主であるし、マスター、マイロード……」
「いやいやいや、そういう意味ではなくてですね、普通にフランと呼んでください。そんな誤解しか招かないような呼び名じゃなくて結構です」
「ううむ、そっちの方が呼びやすいのじゃが、お主の頼みとあれば致し方あるまい、ではフラン……、これからよろしく頼むぞ?」
「こちらこそよろし……きゃわっ!?」
返事をしようとしていきなりテトがフランの上に馬乗りになった。その顔は何やら不敵な笑みを浮かべている。昨日のような不気味さこそないが、何をしようとしているのか何故か手に取る様に分かってしまう。
「一応、聞きます。何をするつもりですか?」
「ふむ、我がフランを気に入ったのは分かっておるな? お主に仕える、というのも良いのだが、我はそれ以上を望もうではないか」
「意味が分からないのですが?」
「つまりは、こういう事じゃ」
「なにを――――――っ!?」
不敵な笑みを崩さず顔を近づけてきたテトの唇がフランの唇と重なる。
一瞬何が起こったのか理解できなかったフランは目を見開き、すぐさまテトを引きはがそうとするが力の入らない身体では自分よりは大きいテトの身体を動かす事すら出来ない。
「んんーーー!!」
「ぷはっ、これ、暴れるでない。堪能できんではないか」
「ななななな、なにをするんですか、あなたは!」
「うん? 接吻は初めてかの? まあ我は気にせんが」
「あ、あなたが気にしなくてもあたしが気にします!!」
顔を真っ赤にしてテトを払いのけようとするが、テトはまるで面白い物を見るかのように笑みを張り付けたままフランを見下ろしている。
「第一、堪能ってなんですか、堪能って!」
「ああ、うっかり本音が漏れてしもうたか。それも一応あるのじゃが、本来の目的はフランの治療じゃ」
「あ、あれが治療ですか!? ていうか本音ダダ漏れですね!?」
「昨日フランから我は大量の血液と共に魔力をも吸い取っておる。魔力は血液と共に人が生きる上で必要不可欠なものじゃ、それが一時的とはいえ枯渇寸前まで行けば身体が悲鳴を上げて当然、そこで我は吸い取っていた魔力をフランの体内に戻そうとしておる。方法としては我の血液をフランに物理的に提供する事しかないのじゃが、ただ輸血するだけでは我が面白くないので、こういう形を取る事にする」
長々と説明しているが、フランの問いは完全にスルーされている。
テトは軽く唇を噛み、わざと出血させるとそのまま再びフランに顔を寄せる。
「ま、待ってください……、ぜひとも輸血にしてほしい所なのですが」
「嫌じゃ♪」
文句と抵抗のために口を開こうとするが、その口をテトが強引に塞ぐ。血をフランに渡すためにフランの口内に舌を滑り込ませ、艶めかしく動かし、フランの口内を蹂躙する。どう考えてもこっちが本来の目的のようにしか思えない。抵抗するだけの体力がない自分の身体を恨みながら、涙目でその行動に耐え忍ぼうとする。
「んちゅ……ちゅ、……ちゅる、くはぁ」
耳を塞ぎたくなる。というよりは、全ての感覚器官を麻痺させたい衝動に駆られる。耐え難い恥ずかしさから自分が耳まで真っ赤になっているのが分かってしまい、それと同時に目の前にあるテトの顔が涙で歪んで見える。
テトの息が顔にかかる度に背筋に電流のようなものが駆け巡り、思考がまとまらなくなる。
「んんっ、ふに……ふあっ?」
不意に、自分の身体にわずかではあるが力が戻ってくるのが感じられた。
それに気が付いたのかテトが小さく頷くが、その間も唇は奪われ続けているのでまともな声を上げる事も出来ない。テトの口から温かい液体が少しずつフランの方へと流れてきて、それをフランが飲みこむと胸の奥の方に何かが少しずつ吸い上げられているような感覚がする。おそらく、枯渇寸前の魔力タンクのようなものに少しばかり魔力が補充されたのだろう。
力が少し戻ったのでテトを払いのける事も出来るようになったのだろうが、何故かフランはそれをする気になれなかった。妙に意識が混濁し、抵抗しようという意識が徐々に薄れていってしまう。
(そういえば、テトがなんか言っていましたっけ……)
昨夜、確かテトは血を吸われると痛みが眠気や快楽に変換されると言っていた。血を受け取る時にも、似たような事が起きてしまうのだろうか。
フランは自分でも気が付かない間にトロンとした表情になり始め、いつの間にか自ら血を求めるかのようにテトの舌に自分の舌を絡ませていた。自分がやっている事は理解していない、ただ、身体の持つ本能的な回復願望からそうしているのだ。
だが、傍から見ればどう見ても女性が2人、ベッドの上で愛し合っているようにしか見えないわけで、先ほどフランがテトに向かって誤解を招くような呼び方をするなと言っていた以上に誤解どころかもっと生々しい事態を招きかねない事をしている。
そして、運悪く、というよりはもはやお約束なのかもしれないが、それは起きてしまった。
「なんだかさっきから騒がしいけれど、フラン起きた……の……?」
「ふあっ!?」
「なんじゃ、良い所だったのに……」
状況を説明しよう。
ノックの直後返事を待たずして扉が開き、何故か学園に登校していないレティアが入ってきて、ベッドの上で絡み合っているようにしか見えないフランとテトを見て硬直、フランはそれを見て茫然としてしまい、テトはどこか残念そうにフランの唇から口を離すと口元を拭いながらレティアの方に視線を向けている。
「な、ななな……」
「言いたい事があるのならはっきり言わんか」
「なにをやってるのあなたたちはあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
怒鳴り声などというレベルではない、気のせいではなく窓が振動で揺れていた。顔を真っ赤にしたレティアが勢いよくベッドに近づくと、ベッドの手前でジャンプしてテト目掛けて手加減なしの蹴りを入れようとする。
だがテトは素早くフランの上から退くとその蹴りを避け、ベッドから降りる。
レティアは追撃せずに鮮やかなフットワークで反転するとフランに飛びつき呆けているフランの肩を揺さぶり始める。
「フラン! しっかりしなさい! あの女に何をされたの!?」
「お、おじょうさま? ろ、ろうしてここに……?」
上手く呂律が回らず自分でも情けない声が出てしまうが、肩を思い切り揺さぶられて首が視界が上下に激しく揺れる。
「これ、病人相手に何をしておる」
「あ、あんたが原因でしょうが!! フランをこんな骨抜きにしちゃって、ていうかなんでキスしてんのよ!!」
「はぁ、先ほどフランが起きたら軽く治療すると言っておいたであろう? それをしていたのになぜ怒られねばならんのだ」
心底理解出来ないという表情をしてため息をつくが、その態度がさらにレティアの怒りを逆なでしたのか、レティアはプルプルと震えながら何とか怒りを抑えこもうとしているが、それも限界が近いように見える。
当のフランと言えば、取り戻しかけていた力をレティアに吹き飛ばされたようになってしまい、再びベッドに倒れ込んでいる。自分の顔が赤い事も、何をされたのかも頭の中でグルグル回転しており、完全にグロッキー状態、もしくは放心状態になってしまっている。
「フ、フランの唇を奪っておいて、治療なんて言い訳が通るわけないでしょう!」
「ふぅむ? なんじゃお主、フランの唇を奪われたことに怒っておるのか? まさかお主……」
「にゃあ!? ち、違うわよ!! そういう事を言っているんじゃなくて、って聞いてるのはあたしの方よ!? なんであたしが問いただされなければならないのよ!」
だが、時すでに遅し。
全てを理解したのかテトがニンマリと笑みを浮かべ、目を細めてレティアを見つめる。
「なるほどなるほど、な・る・ほ・ど♪ お主、まさかレ――――――」
「わああああっ!! 言うな、口を開くな、ここから出ていけええええっ!!!!」
手の平に火の玉を作り出すと部屋の中であるにも関わらずそれを思い切りテトに投げつける。
「むっ」
それを見た瞬間、テトの顔が真剣そのものになり、手の平をその火の玉に向ける。
そして火の玉が手の平に接するかどうかという所で火の玉がまるで存在しなかったかのように霧散する。それを見てレティアが茫然とするが、テトは真剣な表情を崩さず手を下ろすとレティアの顔に視線を向ける。
「お主、フランがいるにも関わらずなんという事をするのじゃ。爆発すれば我やお主は逃げられるかもしれんが、フランは今動く事もままならん。病人をさらに怪我人にするつもりか?」
「うぐ……」
「それに――――――」
フワリと、その表現が一番似合うゆったりとした動きでテトがレティアがいる側とは逆側からベッドに近づくと、ベッドに腰を下ろしてフランを抱き起すとそれをレティアに見せつけるかのように視線を向ける。
「見ろ、このフランの顔を。こんなに幸せそうじゃし、こんなことをされても嫌とも言わん」
「それはあなたが骨抜きにしたからでしょうが!!」
「はわ、お嬢様もテトも落ち着いて……」
一番の犠牲者であるフランはなす術もなくテトの腕の中に抱かれているのだが、その様子にレティアはついに我慢の限界に達したようで、フランがいる事などもはや気にせず火の玉を作り出す。
「フランもフランよ、そんなににやけちゃって、ちゃんと引き締まりなさい!」
「あ、あたしのせいですかぁ!?」
「さて、結局、どういう事なのか、説明してもらおうか」
この騒動は騒ぎを聞きつけたグラントとメリスによって完全に理性を喪失したレティアと挑発しまくっていたテトが鎮圧されることによって収束した。
そして現在、ちゃんとした輸血を受けて立ち上がれるようになったフランの視線の先には正座をさせられているレティアとテトの姿があり、その前には無表情のグラントが立っている。
輸血を継続的に行っているため、メリスはフランの傍を離れられないため説教には加わっていないが、その表情はかなり呆れている。
因みにクレアは輸血を受けるフランの様子をジッと見ている。
「お嬢様、いくら怒り心頭とはいえ、フランまで巻き込んでは元も子もないでしょう。常に冷静さを失わない事が立派な大人になるためには必要不可欠ですよ?」
「う~、分かったわよぅ……」
実は、既に正座を初めて時計の長針が一回転半しようとしている。足が相当痺れているようで後ろから見ているとレティアが足をもぞもぞさせているのが分かるし、前から見ればそのせいで表情を歪めているのが一目で分かる。
「テト、お前は昨晩メリスにこの屋敷に住まう許可を得たばかりだろう。なぜ早々に誤解を招くような事をするんだ」
「ふむ、その台詞には間違いがあるぞ? 我は純粋にフランを想っているからこそ、あのような行為を躊躇なく出来たのじゃ。誤解ではなく、それは真実と言えよう」
「開き直ってどうする。なんならフランがなんと言おうと今すぐ屋敷から追い出すことも出来るんだが?」
「う、それは困るのぅ。……分かった、これからはほどほどにしよう」
対して残念そうにそう言うテトは正座に対する苦痛はそれほど無いようで、神妙な表情をしながらグラントの言った事に頷いている。
「そういえば、結局テトの事はメイド長から?」
その様子を見つめながら輸血作業をしているメリスに訊ねると、視線を向けずにメリスは小さく頷いた。
「ええ、あの騒動で皆起きてしまったから、明日、つまりは今日だけど今日まで待って、と言う訳にもいかなかったの。だからあなたには悪かったけれどあなたが眠っている間に説明は済ませたわ」
「そうですか……、あとなんでお嬢様が今この時間に屋敷にいるんですか?」
あの時、部屋にレティアが入ってきた時からずっと疑問に思っていた事をメリスに聞くと、メリスはそこでようやく視線をフランに移し、苦笑しながら口を開く。
「あなたが心配だったからに決まってるでしょう。テトに敵意がない事が分かった後もテトがあなたの様子を見に来る時はずっと一緒だったし、さっきもテトが1人で行ったから慌てて様子を見に行ったのだと思うわよ。なんたってあなたはお嬢様の大切な家族の1人なんだから」
「はは、タイミングは最悪でしたけどね……」
あの時、鬼の形相をして火の玉を投げつけようとしていたレティアが脳裏に蘇る。あそこまで激昂するとはフランは夢にも思っていなかった。むしろ小説にありそうな「お邪魔しました」とでも言って出ていくかと思っていた。レティアもそれなりの歳だから、そういう知識に耐性があるのだろうか、などと変に勘ぐってしまう。
「ちょっとフラン、何か変な事考えてないかしら?」
「いいえ、お嬢様」
「お嬢様、まだ話は終わってません」
何かを感じ取ったのかレティアがグリンと首を回してフランを睨み付けるが、その顔をグラントが両手で強引に前に戻す。
「フラン、これから大変ね」
「いや、もう大変ですよ……」
アッチョンブリケーッ!!
はい、どうも、どこぞの崖の上の無免許医の助手みたいな挨拶ですいません。
いや~、奪われましたねww
書いててどうしてこうなってしまったのかよく分かりませんww
ですが、テトはこの路線決定? ですかね。
ああ、それと、2人目の応募キャラが今書いている話にようやく登場させる事が出来ました。数話は引っ張ろうと思ってるんでお楽しみに。
因みに登場は……5話くらい先かな?
では、また。
誤字脱字報告、ご感想お待ちしております。