第16話 メイドは用心棒、ボディーガードまたはSP
あー、タグの変え時でしょうか。
ま、まあまだ大丈夫ですよね。
まだ軽傷のはずです、あの人は。重症になったらタグを書き換えようかな。
では、どうぞ。
「フラン! どうしてこうなったの!?」
「あたしに言わないでくださいよ……」
それは、そろそろ春が近づき通りの木々も少しずつ花をつけ始めた時期の事だった。
いつものようにレティアの帰りを待っていたフランの元に、物凄い表情をしたレティアが走って帰ってきたのだ。「お帰りなさ」までは言う事が出来たが、その次の瞬間には腕を掴まれ、大広間まで連れていかれていた。
そしてレティアは椅子に座らされ、レティアは鞄の中から冊子のような物を取り出すと勢いよくフランの目の前に叩き付けた。
「これよ!」
「ええと、『グローリア・レポート』……。ああ、学園の新聞部が作ってる学校新聞という奴ですね。これがどうしたんですか? 見た感じお嬢様の逆鱗に触れるような物は見当たりませんが……」
目の前に置かれたのはモノクロ印刷された新聞だ。とはいっても学校新聞、来年度へ向けての話題や、今後の予定などが書かれた物で、ざっと見た感じでは特に問題があるようには見えない。
「えっ? あれ、そっちじゃなかったか。ええと……」
レティアが意外そうな顔をして新聞を取り上げると「ああ、こっちじゃないわ」と言ってその新聞を折り畳んで横に置くと鞄の中から似たような新聞を取り出し、それをフランの前に置いた。
「同じものじゃないですか…………んなっ!?」
タイトルは先ほどの物と同じ『グローリア・レポート』であったが、その一面の記事を見てフランはつい驚愕の声をあげてしまう。
一面見出しには「魔法技術担当S教員、5年学生と恋愛関係!?」と大きく書かれており、その内容は憶測と推測が行き交うとんでもない代物に仕上がっている。しかもご丁寧に目を隠す線が入った写真まで掲載されており、これではどこぞのゴシップ誌ではないかと思わせるほどの出来栄えだ。
しかも先ほど見せられた、おそらくはあちらが正規の物なのだろうが、そちらよりも手が込んでいるように感じられる。
こんなものをよく一介の新聞部が作れるな、と少し感心しつつも第一面の記事に目を通してみると、少なくとも正規の新聞より人の興味は引き付けるだろうという印象を受ける。新聞部がこちらの方により重きを置いている事は明らかだ。
「で、これがどうしたんですか?」
「はぁ……、第3面を見てみなさい……」
レティアが力なくそう言うが、フランにはその意味が分からないのでとりあえず新聞を捲って言われた所を開いてみる。
「えぇと………………はい?」
「まあ、そういう反応は予想出来ていたわ」
「いや、あの、これ、なんですか?」
複雑な表情で新聞から視線をレティアに移すと、レティアは「そんなのあたしが聞きたいわ」という顔をしている。
小見出しはこうだ。
『4年の女学生、百合が発覚!!』
写真こそ掲載されていないが、どうもこの記事にある『Lさん』をレティアは自分の事だと思っているようだ。しかも、この女学生を百合、つまりはレズビアンだとする根拠はほとんどフランには心当たりのないもので、レティアだと特定できるようなエピソードも見当たらない。
「考えすぎじゃないですか? 第一、この記事にはお相手の人の事がほとんど書かれてません。編集者が面白半分で書いたものでしょう」
「そう、あたしも最初はそう思ったわ。だけどね、最後を良く読んでみて」
まだ最後まで読んだわけではなかったが、こんな根も葉もない記事を気にするのはいかがなものか、と思いつつも最後の方に目を向け、読んでいくとフランの目がある一点で止まる。
「…………」
「『お相手は女学生の屋敷に奉公するメイド』……、そりゃああの学園にはメイドが屋敷にいる人はそこそこいるでしょうけれど、これはどうにも……」
最後に付け加えられたように書かれた文には、そのメイドが四六時中ご主人であるその女学生と行動を共にし、なんと夜は一緒に眠っているなどと書かれている。
もちろん、フランはレティアと寝具を共有する事など一切ない。一度寝ぼけていたレティアを起こそうとした時に腕を掴まれベッドに引っ張り倒されそうになった事だけはあるが、まさかそれを指しての事ではないだろう。
「……まあ、仮にこれがお嬢様だとしても、どうしてお相手があたしという事に……?」
「んな事知らないわよ。レイナに聞いてもニヤニヤされるだけだったし、一番怪しかったテルに聞いても何も言わないし」
そもそも、フランとレティアが一緒にいる所を見ている人間はそれほど多くもないはずだ。確かに学園には良く顔を出しているし、街中で注目を集めるような事をしてしまったのも記憶にまだ新しい。
いくらフランがその姿から注目を集めていたとしても、それだけで記事にするのは少々無理があるように思える。
「この新聞、新聞部の部室で配布してるから冊数は少ないでしょうけどレイナも知っていたし明日から学校行くのが辛いわ……」
ため息をついてそう言うレティアをふと見て、フランはその言葉と裏腹にレティアの表情が「辛い」というよりは「照れる」に近いように感じられた。
「あの、お嬢様? なんか嬉しそうじゃありません?」
「なっ!? んなわけないでしょうが! いい迷惑なのよ、まったくもう!!」
フランが聞くと瞬時に顔が真っ赤になり、フランの手元の新聞を自分の鞄の中に押し込んでしまう。
「……別にフランとなら、いいけど」
「はい? 何か言いました?」
ボソッと何かを呟いたのが聞こえて聞き返すが、レティアは慌ただしく鞄を担ぐと足早に大広間から出ていこうとする。
「夕飯になったら呼んで!」
「は、はあ」
レティアは最後にそう言い残すと大広間から出ていってしまった。
「……結局何が言いたかったんでしょう」
そんな事があった数日後、フランの記憶からはレティアとのやり取りもだいぶ抜けてきていた頃、フランは所要でグローリア魔法学園に来ていた。
具体的に言えば、レティアのお迎え兼昼食だ。
年度末になり、まとまった授業が減ってきたためか、最近は午前で授業を切り上げているようで、レティアの帰宅が早くなっている。
しかし、早く帰って来ても屋敷の掃除などに追われている事があるとレティアの相手が出来ない事がある。そのため今日はフランがレティアと共に外で昼食を済ましてくるようメリスに頼まれている。登校前にレティアとどこで合流するか約束しておき、約束した時間の10分前に学園に行くと、待ち合わせ場所にしておいた校門前でレティアが出てくるのを待つことにした。
「そろそろ、ですかね」
懐中時計を見てそんな事を呟いていると、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
このチャイムは学園周辺に住む人たちにとっては自分たちの始業就業ベルにもなっているそうで、6時頃になる最終下校のベルを合図に店じまいをする人もいるほどだ。時計を見なくとも今の時間が分かる事で逆に規則正しい生活になっている、という事なのだろう。
終業ベルが鳴ってしばらくすると学園の中から続々と学生たちが足早に家に帰っていき始める。フランはその様子を見送りながら自分の主であるレティアを学生の流れの中から探す。
こうしてレティアを探そうとすると、やはり基準となるのは赤髪という事になる。とりあえず赤い髪の学生が通りかかったら顔を確認し、違ったら次、を繰り返す。
(こうして見ると、魔法の属性って案外少ないんですね……)
あまり考えない事ではあるが、数多くの学生を眺めているとそんな事を考えてしまう。
世の中には様々な魔法属性があるが、炎、水、雷、土、風の5つに大別することが出来る。これとは別に銀の髪を持つ者もいるそうだが、少なくとも今現在確認されている銀、鉄の精霊と契約しているとされるのはこの国の王だけであるという。
5つの魔法属性の中でも炎と水はその数が多く、風の精霊と契約している者は比較的少ない。風の魔法は使用用途がかなり限られているそうで、炎や水の魔法と比べるとそう言う意味でもメジャーではない。俗に風遣いと呼ばれる者たちは自らの風を使って空を飛ぶ事も出来るそうだが、フランはまだ風を操る者と出会った事はない。レティアの話ではグローリア魔法学園の校長はこの風遣いであるそうで、また学園にも数人の風遣い見習いの学生がいるそうだ。
風遣いはその人数が少ないためクラス合同のカリキュラムとは別に授業が作られており、専任の教師が付き添って技術の習得と向上に努めている。何しろ空を飛ぶのだ、1つ判断を間違えれば命に係わる。
またそれによって他の人を巻き込まない、という意味でも飛行訓練は別の場所で行われているそうだ。
グローリア魔法学園にレティアが通っている以上、ある程度の情報はフランも仕入れている。メリスやグラントから聞いたものも多いし、レティアから教えられた事もある。
「ふむ、なかなか見つからないですね……」
頭の中では他の事を考えつつも、目はレティアを探し出そうと動き回っている。
「あれ、フランさんじゃないですか」
その時、フランはレティアではないが見覚えのある顔を視界に捉えた。
「えぇと、レイナさん、で合ってますか?」
レティアと同じ赤い髪、レイナが笑顔で一緒に出てきた知り合いに先に行くよう言うとフランに駆け寄ってくる。
「レティのお迎えですか?」
「はい、お嬢様がどこにいらっしゃるか分かりますか?」
「教室ですよ。一緒に帰ろうって言ったらテルと話す事があるからって。多分新聞のことかなぁ」
「新聞……?」
先日の記憶がうっすらと蘇る。
するとレイナがしまった、という表情をしてそれを隠す様に慌ただしく「失礼します!」と言って先ほどの友人たちを追って学生の波の中に戻っていく。
「教室、ですか」
フランは学生の流れに逆らって校門をくぐり、学生たちの中にレティアを探しつつもレティアの教室4年C組を目指すことにした。
「あのねぇ、あなたしか考えられないのよ、あんな記事提供するのは」
「そう言われても、あたしじゃないし」
4年C組ではレティアがテルの机に手をついて座っているテルを見下ろしていた。
もちろん、話題は先日の新聞記事だ。新聞部と関係があって尚且つゴシップ好き、レティアとフランを知っている人間となるとレティアはテルしか思いつかなかった。
「第一、あたしは友達は売ってもその関係者は売らないよ。さすがにフランさんにまで迷惑かけたくはない」
「でも現にこうなってるのよ」
机に広げられた新聞をバンバンと叩きながらレティアは抗議を続ける。
「あたし以外にも情報提供者はたくさんいるよ?」
テルは他の場所で昼食を済ませるつもりだったようだが、レティアの話が長くなると感じ取ったのか鞄の中から弁当箱を取り出すと蓋を開けて小さく「いただきます」と呟くと食事を始める。
「フランさんとはまだ1回しか会ってないし、さすがに記事にするのは無理じゃないかな」
「じゃ、じゃあ、誰がこんな記事に……」
テルのあまりに冷静な反応に、自分の考えが外れたことを徐々に感じ始めたレティアはテルの前の椅子に腰かけると悔しがるように項垂れてしまう。
テルはため息をつきながらサラダを口の放り込み、弁当箱の下敷きになっている新聞に視線を移す。
「考えすぎは駄目だよ、レティ。そんな風に反応したら、ゴシップ大好き新聞部部長の思い通りだよ?」
「それはそうだけど、うぅ、平穏なあたしの学園生活がゴシップに塗りつぶされていく……」
「大げさな……」
レティアは相当参っているのか、半泣き状態になっている。
弁当箱に入っていた魚の目玉をフォークで突きながらテルはレティアをどう慰めれば良いのか考えを巡らせる。思い余って目玉を突き刺してしまうと、そのまま目玉をほじくり始める。
「……あんた、その癖止めたら?」
「レティもやってみる? 心が落ち着くよ」
「遠慮しとく」
「面白いのに……。それはそうと、この話に戻るけど、レティはフランさんの事どう思ってるの?」
「にゃ、なに!?」
ガタンと机が揺れる。
弁当箱を退避させフォークを口に咥えたまま、レティアのあまりの反応の大きさにテルは驚いてしまう。
「な、なにもそこまで驚かなくても」
「テ、テル、あなたまさかこの記事信じたの!?」
「そうじゃなくてさ~」
どう説明したものか、とテルは少し考え込むそぶりを見せ、弁当を机に戻して目玉をいじくる動作を再開する。テルにとってこの行動は本当に心を落ち着かせているのだろうか。
「この記事がガセでレティがフランさんとそういう関係にないのなら、別に気にする要素はないし、逆に記事が本当でレティがあたしから見れば立ち入りがたいアブノーマルな性癖に目覚めていたとしても、『それがどうした』ぐらいの気概を持てば良いんじゃないかしら?」
「なんか、グサグサ来るんだけど……」
「あくまであたしの意見だから」
ようやく目玉をいじるのを止めるとテルはその魚の塩焼きを食べる。美味しそうに笑みを零しながらそう言われるとレティアは反論すら出来ない。
「つまり、気にするな、と言いたいわけ?」
「簡潔に言えばね。正規版でもないゴシップ誌をレティが読んでいたのは意外だけど、気にしないのが吉だと思うな」
「レイナがニヤニヤしながら見せてきたのよ」
「彼女はどこかにレティアに勝てる要素が転がってないかといつも探してるからねぇ」
他人事のように言うテルは2匹目の魚の塩焼きの目をいじり始める。
そんな事をしていると突然廊下の方から騒ぎ声が聞こえて来て、レティアとテルのいる4年C組の教室の前に来ると扉が開き、数名の女子が大声で笑いながら入ってきた。
その女子たちは誰もいないと思っていたのかレティアたちを見ると動きを止め、途端に不愉快そうな表情をする。
「ちょっと、あたしたちがここ使うんだから他所に行ってよ」
校章の色は5年を示しており、あからさまに見下したような視線を向けてくる。
「ここは4年生の教室です。自分たちの教室を使ったらどうですか」
あまりに喧嘩腰な言葉だったため、ついレティアも語尾を強めて言い返してしまう。そうするとその5年生女子たちはレティアとテルのいる机に近づき、レティアを思い切り睨み付けてくる。
「なに、先輩に逆らうの? 黙って出ていけばいいのよ」
身長が若干高いためか見下ろしてくるが、レティアはそれに負けじと目つきを鋭くして見上げてやる。
髪の毛の色は赤、青、金、喧嘩になれば分は向こうにある。さすがに校内で喧嘩をすれば教師が黙ってはいないだろうが、そんな愚行をするほどこの不良女子たちも頭は悪くないだろう。校外の人気につかない場所に連れていって、とでも考えているかもしれない。
「この学園、もう少し不良対策するべきじゃないかしら……」
「レティ、口に出てる」
このひと月で二度も不良に絡まれるとなると、レティもこの学園の管理体制に疑問を抱いてしまう。テルに言われるまでもなく自分が傍目から見れば命知らずとも取れる台詞を吐いてることは分かっている。いざとなればテルを逃がして自分だけで相手をするというのも考えていたが、視界に入ったもう1人の影を見てそんな事をする必要性も失せた。
「今度は手加減してよね?」
「時と場合によりますが、善処しましょう」
「だ、誰!?」
絡んでいた女子たちが振り返ると、その目の前には隻眼のメイドが立っていた。
一瞬、眼帯に怯んだようだったが、それでも臆することなく威圧的な態度を変えようとはしない。
「なに、ご主人様の危機に駆け付けたってわけ? 健気ねぇ」
「……お嬢様、ここでよろしいですか?」
「あんまり音出さないでね。先生に見つかると後々面倒だから」
「では、穏便に片をつけさせていただきます」
「はぁ、なにを――――――」
これから倒す相手の話を聞いてやるほどフランはお人よしではない。
まずは1人目、机の多い教室では派手な動きはでいないので即座に接近して懐に飛び込むとその鳩尾に掌底を打ちこむ。その女子が一瞬宙に浮き、レティアの真横を通り過ぎて壁にぶつかる。壁に当たった時に豪快な音が響き渡るが、それは気にせず2人目に視線を移す。
「こ、このっ!」
このままでは一方的にやられると判断したのか、学園内である事はこの際蚊帳の外に置いてその女子は手の平に水を作り出そうとする。
「そんな隙は与えません」
魔法を使わせるつもりなど毛頭ない。
手首を叩き魔法を霧散させると作り出されていた水が教室に飛び散る。テルが弁当箱に水が入らないよう蓋をしているのが視界の端に捉えながらフランはその手を掴んで捻り上げる。関節が真逆に曲がるギリギリまで捻られ、女子が悲鳴を上げて痛がるが、それを気にせず背後に回り込むと机に置かれたままになっていたリボンを手に取り女子を縛り上げる。そしてそのまま背中を思い切り蹴ってやると、その女子は壁に寄りかかって昏倒している女子に突っ込み、頭をお互いにぶつけて完全に意識を失ってしまう。
「な、な……」
残った最後の1人は自分の目が信じられないのか茫然と瞬時に無力化された仲間を見つめている。
「あとはあなただけですね」
「あれ、この光景デジャヴ」
「レティ、完全に観戦モードね」
いつの間にやら取り出していた紙パックのジュースにストローを突き刺し、それを飲んでいるレティアにテルが呆れたような声をかけている。
「くっ、眼帯女が生意気な事をやってくれるじゃない……!」
「おっと!」
椅子を踏み台に飛び掛かり、フランから見て左側から蹴りを打ちこんでくる。フランがそれを避けるのを見て椅子の背もたれを掴むと手加減なしに振り回し始める。
「っ!」
椅子の足は鉄だ。もろに食らえば怪我をしかねない。
一瞬アフェシアスを使うか、とも考えたが、レティアにかかる迷惑を考えると得策とは思えない。だが目の前で遮二無二に椅子を振り回す女子を見る限り、あの相手に接近戦を挑むのは些か面倒だ。時間をかけるとレティアやテルに危害を加えるかもしれない事を考えるとすぐにでも大人しくさせる必要がある。
(仕方ないですね)
距離を取りつつ機会を窺っていたフランはその足を止め、逆に前に踏み出す。
そして振り下ろされた椅子を腕で防ぐ。
ミシリという音を立てたのが自分の腕か椅子かは分からないが、一瞬両者の動きが止まり、フランは腰に拳を構えると相手の顎先に強烈なアッパーを食らわせる。顎の骨が砕けるとか、そういう被害はないだろうが、身体が反り返るほどのアッパーは脳を遠慮なしに揺さぶり、軽い脳震盪を引き起こす。
倒れはしなかったが不良女子は平衡感覚を失いかけているようで簡単に椅子を手から落とすとフラフラとその場を行ったり来たりし始める。
「さっさと2人を連れてお帰り下さい。あたしたちはここで起きた事は誰にも公言いたしません。あなたたちが言わなければ」
そう言い放つと、恐れをなしたのか壁の前でぐったりとのびている2人の腕をフラフラと掴むと逃げ出す様に教室を後にしていった。
「まったく、よく絡まれますね、お嬢様」
「運が悪かったのねぇ。いつもならこの時間ここにはいないし」
「テル、さんも怪我はないですか?」
「問題ないよ。お見事だね」
目の前で喧嘩があったにも関わらずテルは閉じていた蓋を取って食事を続ける。これにはさすがのフランも驚きを隠せない。
「冷静ですね……」
「仕事柄、見慣れてるから」
「仕事柄、ですか」
「テルは新聞部に写真を提供しているの。喧嘩から実技での勝負とか、いろいろ撮ってるのよ」
「目を背けてたら良い絵は撮れないからね」
自慢げにテルが言うと、そうだとしても目の前の事象に臆しないテルにはフランも感嘆してしまう。
食事はほとんど終わっていたようで残っていた魚の頭を食べると「ごちそう様」と言って弁当箱を片付け始める。
「お嬢様、テルさんに何かお話があったと聞きましたが、終わったのですか?」
「へ? あ、ああ、もう済んだわ。それじゃあたしたちは帰るから、じゃ!」
何か忘れていた事を思い出したかのようにレティアが若干赤面しながらそう言うとフランの手を掴んで教室を去っていく。テルがそれを手を振って見送るのが見え、フランはレティアに引っ張られながら教室から引っ張り出された。
1人になったテルは穏やかな笑みを浮かべつつ机の横に引っかけていた鞄を開け、中からカメラを取り出した。
カメラからは細いコードのようなものが伸びており、それは足元を伝ってテルの手の平の中にあるスイッチのようなものに繋がっている。
「ふふ、あれは記事が正解だね。まあ今の写真を出すかはもう少し待ってからでもいいか」
テルはそう呟き人知れず押し殺した笑い声をあげていた。
はい、レティア二度目の不良による絡み、でした。
しかも今度は女子、うむ、自分で書いていても学園の治安の悪さに疑問符がついてしまいましたww
いや、大きな学園ですからね! そういうのも少なからずいるんです!
ていうかこの話をしておかないと実は話が続かないという裏話がww
2人目の応募キャラを出すためにはこの話が必要不可欠なのです。
まあ、お楽しみに、という事になってしまいますがね。今はまだ出てきませんから。あともう少ししたら顔を出すと思います。
それでは。
誤字脱字、ご感想お待ちしております。