第14話 メイドと隠し部屋
そう、こう考える事にしました。
タイトルはそれとなーく本編に関係がありそうな事を書こうと。
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・・
・・・
・・・・そのまんまだろうが!!
うわーん、なんかハ〇ポタの第二作目みたいになってしまいましたぁーww
では、どうぞ。
「たっだいま~♪」
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
いつもと同じ夕方、帰ってきたレティアをクレアと共に出迎えたフランは、レティアの機嫌がいつにも増して良い事に気が付く。
「お嬢様、何か良い事がありましたか?」
「ふふ、さっき屋敷に入る前にポストの中見てきたんだけど、こんなものが入ってたのよ!」
そう言ってレティアは右手を高々と振りかざす。その手にはすでに封の切られた手紙が握られている。門の脇に設置されたポストから玄関までは約15メートル、その間に内容を確認したという事か。
「お父様が帰ってくるって! 荷物取りに来るだけだけど、夕飯前に!」
「旦那様が? 拝見します」
上機嫌のレティアから鞄と共に手紙を受け取り、裏を見ると差出人の所にクラウス・ファルケンと書かれている。そして表には「愛する家族へ」と書かれており、それがレティアだけでなく、屋敷にいる者全員を指示している事は容易に想像できた。
中の手紙を取り出して広げて読むと、確かにクラウスが夕飯前に帰ってきて必要な荷物を持ってまた戻る旨書いてあった。そのために用意しておいて欲しい物が一覧になって別の紙にまとめられており、中には一度読んだだけでは何のことかさっぱり分からないような物まである。
「これは、メイド長に渡した方が良いですね、クレア、荷物を頼みます」
「任されたー」
レティアの鞄をクレアに渡し、フランは手紙を手にメリスの下へと向かう。
この屋敷の本来の主であるクラウスはその役職のせいもあって多忙な毎日を送っている。数週間屋敷に帰らない事などもはや日常茶飯事である。その影響もあってかレティアの自立性が高いともいえるが、母親が既に他界しているレティアにとってクラウスは唯一血の繋がった家族だ。レティアがあれほどに喜ぶのも無理はない。
レティアの母親はレティアが生まれて間もない頃に亡くなってしまったそうだ。フランがこの屋敷に厄介になるようになったのが1年前のことのため、詳しい内容までは分からないが、病弱の身体でレティアを生んだために身体が持たなかったという。
その後はクラウスが男手一つで、と言いたいところなのだが、当時から政治に関わっていたクラウスは子育ての大部分を当時からいたメリスやグラントにまかせっきりになっていた。最近はフランの記憶が持つ程度の周期で屋敷に戻る事でレティアと共にいられる時間を少しでも作ろうとしているようだが、彼の仕事がそれを許そうとしないのも事実だ。
大臣。
それは国王の耳となり、目となり、時には手足にもならなくてはならない重要な役職だ。国王の言葉を国民に伝え、国民の声を国王に届けて政治に活かす。
3人の大臣を取り仕切る、大臣の大臣とでも言える役職にある彼はわずかな情勢の変化にも素早く対応できるように国王の居城にある執務室にいる必要がある。いざという時、「家で寝てました」と言って謝れば済むような立場にいないのだ。
3人の大臣はそれぞれ対等の立場にはあるが、仕事の内容は分けられている。国防、経済、その他諸々で多種多様な課題に向き合うため、協力し合い、時には対立してより良い手段を模索することもある。
何故、そんな細かい事をフランでも知っているかというと、メリスが時折、「知っておいて損はない」と言って説明してくるのだ。
メリスはこの屋敷に奉公するようになって優に二桁の年が経っている。クラウスの秘書として仕事に同行することもかつてはあったのだという。まだクラウスが大臣などという雲の上の地位ではなく、地元の声を地方の政治に反映する町長であった頃から彼のサポートを行っていた。今はほぼ屋敷の管理に専念しているが、必要とあればきっと飛んでいくだろう。
(……あ、忘れるところでした)
クラウスが帰ってくるという事で忘れかけていた事を思い出したフランはポケットに手を突っ込みメモ帳を取り出す。
そしてパラパラとページを捲っていき、自分で書いた文字を目で追っていく。
「エネア」という言葉と「9」という数字、これが同一の物である事は間違いない。2つの単語しか書き込まれていないページを見つめながら、クラウスが帰ってきた時に聞くべき事をまとめておく。
(あの施設、言葉が通じるのだから国内で間違いない。なら大臣である旦那様なら何か知ってるでしょうか……)
確証はないが、あんな非人道的な事を行い何の騒ぎも起こらない、という事はありえないだろう。どこかで不審な出来事が起き、運が良ければクラウスの耳にも届いているかもしれない。そうでなくとも、調べてくれるよう頼めば結果としては万々歳だ。
「メイド長、フランです」
「……開いてるわよ」
返事までにわずかな間があったが、部屋の中からメリスの声が聞こえ、「失礼します」と言ってからドアノブを回して室内に入る。
「メイド長、旦那様からのお手紙が届きました……メイド長?」
部屋を見渡してメリスを探すが、おかしな事にメリスの姿が見えない。返事もあったしいない事はないはずなのだが、どこにもいない。
「ああ、こっちよ」
声はすれど姿なし、とはまさにこの事だ。声が聞こえた方に歩いていくと、本棚と壁の隙間に小さな扉がある事に気が付いた。中で何かが動く物音がしており、1メートルもないその小さな扉から中を覗くと、大量の書類の中で悪戦苦闘しているメリスの姿があった。
「悪いわね、ちょっと待っててくれる?」
どうやら何かの書類を探しているようだ。
膨大な書類の山によじ登り、山を切り崩して下の方に埋もれた書類を探している姿はまるで何かを発掘しているかのような感じだが、お目当ての物が見つからないのかメリスは珍しく表情を歪ませている。
とはいえ、この状況でフランに出来る事はないので、大人しくメリスの部屋に戻り、メリスが出てくるのを待つ事にする。
「手紙って、旦那様が帰ってくることでしょう?」
扉の向こう側からメリスがやや大きめの声で言ってくる。自分が作業している音で聞き取れないような事がないようにしている。
「ええ、そうですが、ご存じだったのですか?」
「あれだけお嬢様が騒いでいたら、いくら玄関から距離があるとはいえ聞こえるわ。手紙に書いてある必要な書類の項、読み上げてくれる?」
「は、はあ……」
まったくもって、メリスの前では全てお見通しという事なのだろうか。
メリスの底なしの能力に唖然を通り越して感嘆してしまう。
フランは先ほど丁寧に折りたたんで封筒に戻していた手紙を取り出し、着替えや生活に使う備品とは分けて書かれている一覧に目を落とす。
玄関で目を通した時と同じく、それがいったいどのような物なのかさっぱりではあったが、淡々とそれを読み上げていくと、それに合わせたようにメリスが動く音が聞こえてくる。
どうやら、あらかじめクラウスが一覧に載せそうな書類を探していたのだろう。そうしておけば後々、というよりはもはや今現在なのだが、探すのが多少楽にはなる。
しばらくしてメリスは扉の向こうから書類を抱えて姿を現した。両手で抱えている書類は優に30センチ以上積み上げられているが、メリスは軽々と机まで運ぶと静かにそれを机の上に乗せる。
「これで全部ね、フラン、念のためもう一度確認するわ」
メリスが手招きしてフランを机の前に呼び寄せると、書類の題を1つひとつ読み上げていく。
フランがそれを聞きながら一覧で呼ばれたものにはチェックを付けていく。最後の1つをメリスが言うと同時に最後の項目にチェックがつき、フランは全て揃っていることを確認する。
「大丈夫です、全部あります」
「分かったわ、ああ、フラン、あそこの事、あまり他言しないでね。一応守秘義務の塊だから」
「分かってます」
メリスが小さい方の扉を指差す。
確かに、読み上げた物の中には軍事的な内容を含んでいるのだろうと推測できるものもある。外部に漏れれば大問題になるであろう事は容易に想像がつく。
「あたしは、『言う』ことは忘れても『言われた』ことは忘れませんよ」
言わなくても良い事は覚えていて、言わなければならない事を忘れるなどは愚の骨頂だ。フランにしてみればメモ帳に書き込んでおかなければ何かを知ったのは事実だが、それがなんなのか思い出すことはかなり困難だ。その時、とても重要だから覚えていられるだろうと思っていても、数日も経てばそう思っていたこと自体を忘れるのだから、これほど大変な事はない。
フランもまだここで働き始めて間もない頃は自分の頭に頼りすぎて何も覚えられないという憂き目に何度もあったのは覚えている。さすがにその内容までは覚えていないが。
逆に、言われた事はメモ帳に書いてあれば確実に覚えていられる。
たとえ忘れたとしても、メモ帳に書いてあれば思い出すことは可能だ。メモ帳を持ち歩く習慣を身に着けてからは、記憶力こそそのままだが忘れる事はかなり減った。正確には忘れた事をメモ帳を見て思い出す、という事なのだが、それでも完全におしゃかになるのとは雲泥の差がある。
「……フラン、あまり自分を過小評価しちゃだめよ?」
「事実ですから、致し方ありません。記憶力が著しく悪いのも、もう慣れましたから」
一度、クラウスの伝手でフランの事を他言無用出来る医者に診察してもらった事がある。
1年前のあの日よりも過去の事を覚えていない事、記憶力が常人よりはるかに弱い事、それとは逆に常人を遥かに上回る自己再生能力を持っている事など、到底公に出来ない事ばかりだ。
自己再生能力に関しては、魔力の膨大さと関係しているのではないか、という診断結果が出たが、残り2つに関しては医者もお手上げ状態だった。
記憶喪失等を専門としている医者ではあったが、フランの症状は今まで診断してきたあらゆる患者とも違い、どうしようもなかった。
記憶力の弱さを、その医者は脳をバケツに見立てて説明してくれたのはまだかすかに覚えている。
脳は底に穴が開いたバケツであり、古い事はその穴から徐々に零れ落ちていってしまう。しかし、フランの場合、常人のそれよりはるかに穴が大きいのではないか、という仮説も立てた。
結局はその原因を特定することは出来なかったが、フランとしては何かのきっかけに記憶が戻れば、とは思っている。
(ですが……)
だが、つい最近の出来事のせいで記憶を取り戻すべきか悩んでいるのも事実だ。
最近になってよく見るようになった不可解な夢、あれがもしフランの過去であるのなら、あれはもしかしたらフランの記憶が戻る兆しなのかもしれない。
「あんな過去、思い出したくないなぁ……」
メリスに気が付かれないように、フランは小さくため息をついた。
「それじゃ、その手紙に書いてある残りの物を皆とまとめておいてくれるかしら? 私はこれを封筒に詰めておくから」
「分かりました、それでは失礼します」
メリスはフランが小さくため息をついていたのを見逃してはいなかった。
だが、あえてそれを尋ねるような事はせず、フランに仕事を与えて自分は机の上に詰まれた書類に視線を移す。
最初、フランが入っていた時はさすがのメリスも動揺してしまった。ああいう手紙は大抵グラントか自分が受け取っていたからだ。グラントはメリスの部屋にあるあの隠し扉の事も知っているし、あそこに何があるのかも知っている。
フランは疑問に思ってはいなかったようだが、そもそも自宅に重要な書類があんなに大量にあるというのはいくらクラウスが大臣であるとはいえ少し頭が良い人間なら不審に思うだろう。
むしろ自宅に置かれていた方が万が一、火災があったり、強盗が入ったりした時に重要な情報が焼失したり、盗まれる可能性は高い。城の厳重な警備がされた執務室に保管した方がよっぽど防犯上では適しているだろう。
では、何故クラウスは自宅に書類を保管しているのか。
「……何か、進展があったのかしら」
一番上に置かれた書類の題を見つめながら、メリスは1人しかいない部屋で呟く。
数十枚の書類が紐で束ねられているそれを持ち上げ、表紙を捲るとそこには無数の数字とグラフ、さらには地図のようなものまで書き込まれている。余白には斜めに走り書きされた文字が連なっていて、グラフの補足事項が書かれていたりする。
この書類の表紙に書かれているタイトルを見る限り、この書類の内容は公共事業のもののように思われる。
「さすがにフランも題名と内容が違うとは思わないでしょうね……」
しかし、ページを捲っていく毎にその内容が公共事業などとはまったく関係のないものである事が分かっていく。
クリップで書類に差し込まれていた写真がそれを物語っている。どこか薄暗い所で撮影されたのであろうその写真には胴体から下を無残にも抉られた男性の死体が写されている。どす黒い血の海に浮かぶ死体に眉一つ動かさずメリスは次の書類に目を移す。
「前の調査では……、やはり存在自体が隠蔽されていたのか……。前任者がこれでは、旦那様も苦労されるでしょうに……」
書類を閉じ、机の上に戻すとメリスは一拍置いて引き出しから机の上に置かれた書類を入れるのに十分な大きさの封筒を取り出すとその中に次々と書類を滑り込ませていく。
そして紐で縛って開かないようにすると、重くなった封筒を抱えて扉へ向かう。
「だけど、フランはもっと苦労してたのよね……。私たちに出来るのは、これくらいか……」
封筒を別空間に収納し、手ぶらになってからメリスは部屋を出てクラウスの帰宅に備えるために皆と合流するために廊下を進んでいった。
夕方、レティアがいても立ってもいられず大広間でグルグルと円を描いてクラウスの帰宅を待ちわびていると、扉が開く音がして、次いでメリスたちがお出迎えしている声が聞こえてきた。
「帰ってきたわ、行くわよ、フラン」
「分かりましたから、手を放してください」
引っ張られるような形で大広間からレティアと共に飛び出し、玄関へ向かうとその途中でメリスたちと鉢合わせする。
メリスとグラントに挟まれるような形でレティアと同じ赤い髪で、威厳に満ちた男性が歩いており、レティアとフランを視界に捉えると柔和な笑みを浮かべてみせた。
「ただいま、レティ、フラン」
「お帰りなさい、旦那さ、まぁっ!?」
「お帰り、お父様!!」
引っ張られていた手をいきなり放され、床に倒れそうになるフランをよそに、レティアは父親の胸に飛び込む。
「はっはっはっ、相変わらずレティは元気なようだな。だが周りにも目を向けた方が良いぞ?」
「へっ? ……あ、フラン、大丈夫だった?」
「大丈夫ですけど、それ無意識ですか? あたしの襟首掴んで走るの」
「はは、無意識よ」
「はあ……」
抱き付いた状態では話しづらいと思ったのか、レティアを降ろすとこの屋敷の主であるクラウスは無遠慮にレティアの頭を撫でまわす。
「ちょ、お父様っ!?」
「まったく、いつまで経っても世話の焼ける娘だな」
その表情は言葉とは裏腹に笑みに満ちている。クラウスもまた、娘との久々の再開を喜んでいるのだろう。
しばらく親子二人の空間に入り込んでいたが、先にクラウスが元の世界に戻ってきて、フランに視線を動かす。
「久しぶりだな、フラン。だいぶ仕事には慣れてきたようだね」
「はい、おかげさまで良い上司と良い友人に恵まれましたので」
「ちょっと、なんでそこに『良いご主人様』が入らないのよ」
「お嬢様は、お嬢様ですよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
明らかに自分を指差してそう言うので、フランはわざとらしく笑みを顔に貼り付けてレティアに言い返す。その一幕見ても、クラウスには新鮮だったのか押し殺したような笑い声が漏れているのが聞こえてくる。
「相変わらず仲が良いな。レティが笑顔なら、この屋敷も当分は安泰だな」
「ですね、クラウス様」
グラントが我が子を見る目でフランを見つめている。
「とりあえず、立ち話もなんですから、大広間へ行きましょう。デックスに紅茶を用意させていますから」
メリスがそう言い、クラウスが頷くと、再び移動を開始した。
レティアはまだどこか不満そうな表情ではあるが、これ以上父親を困らせるのも嫌だったのか、大人しくクラウスの隣を歩いている。
(いや、なんでそんな目で見られなきゃならないんでしょうか……)
怒りを込めたような視線ではないのだが、そう、言葉にするなら「フランのお馬鹿っ!」が最も似合いそうな視線を向けているのだから、フランは訳が分からない。
フランは最後尾を歩きながら何故こうなったのかゆっくり考えながら、皆の後について行くことにした。
旦那様登っ場! そしてシリアスっぽい感じ?になりました。
相変わらず同世代の野郎がほとんど出てこない!
新キャラなんぞほとんど女性キャラ!
野郎(若年層)には随分と適当な扱いをするハモニカですが、まあ、変えるつもりもないですけどww
そして、現在執筆中の回においてようやく本来の目的を書き始める事ができました。未だに「」の外れていないタグをようやく回収できる……。
どうなるかは未知数ですがね!ww
では。
誤字脱字、ご感想お待ちしております。