第09話 メイドの土産は いりますか?
かけてますw
二つの意味をw
チマチマ書いていたらいつの間にか9000字を超えていました。いつもより少し長めの回です。
では、どうぞ。
「だぁ~、なんなのよ、どうして雨が降るのよ……」
レティアは学園の入り口付近で数多くの学生と共に空を憎たらしそうに見上げていた。
何しろ、朝はあれほど清々しく晴れ渡っていたのだ。誰が雨が降ると想像しただろうか。
容易のいい学生はどこか得意げに傘を差して下校していくが、あいにくレティアは傘を持ってきていない。明日も普通に授業があるため、教科書を濡らしたくない学生たちは屋根のある場所から一歩の出られない。
「まいったなぁ、当分止みそうにないし……」
「レティ、また明日ね~」
ため息をついていたレティアの隣を颯爽とレイナが通り過ぎていく。その手にはしっかりと傘が握られている。靴に履き替え傘を差すと数少ない勝ち組となってレイナは帰宅の途についた。
「くっ、用意周到ね……。あたしも置き傘するべきだったかしら」
朝会った時は持っていなかったから、おそらくは部室等に置いておいたのだろう。レイナは陸上部の部員で、よく放課後校庭で走っている姿を見かけるが、この天気ではさすがに部活動は断念したようだ。
そう言うレティアは部活には入っていない。
何か問題があるわけではなく、単にレティアが好みそうな部活が無かっただけの話だ。一度それを家で話すとクレアが「なら自分で部活作っちゃえば?」と物凄く軽い口調で提案してメリスの拳骨を貰っていたが頭の中に蘇る。
ヘラの町にあるこのグローリア魔法学園は、国内有数の有名学園だ。
多くの著名人を輩出し、政治家、軍人、芸術家、その他諸々の界隈で名を挙げている人々が多く在籍していたため、離れた土地から1人で来ている学生も少なくない。そう言った学生には学園所有の学生寮が宛がわれており、時折学生がパーティを開いたりしている。
そもそも学園長が世界で指折りの大魔法使いとなれば、そのネームバリューも計り知れないものがあるのだろう。レティアはこの学園ですでに4年間過ごしているが、未だに学年の始まりと終わりの行事くらいでしかお目にかかった事がない。
「雨が止むまでどこかで時間潰すしかないかなぁ」
他の傘を持たない学生たちが1人、また1人と校舎の中に引き返していく。教室や部室で時間を潰して雨が止むのを待つのだろう。
「ううむ、宿題が珍しくないからゆっくりゴロゴロしようと思ったんだけど、これじゃあねぇ」
レティアは残念そうな顔をして校舎の方に身体を向けて教室に戻ろうとする。
「っと、あら?」
靴を脱いで下駄箱に入れようとした時、レティアは外で傘を差す人々の中に1人だけ学園の方に身体も向けている人影を見つけてレティアはそちらに視線を向ける。
「え~と、あ、お嬢様、丁度良かった」
「フラン~、ナイスなタイミングよ」
フランが傘を片手に歩いてくるのを見てレティアは下駄箱に入れかけていた靴を下に置いて素早く足を入れると屋根があるギリギリの所まで行ってフランを出迎える。
「教室に戻られる前で良かったです。そうなるとまた迷子になるところでした」
「はは、……迷子?」
「あ、いえ、なんでもありません!」
レティアが傘を受け取りながら聞き流していたフランの台詞に何やら可笑しなものが混じっていたのに気が付き顔を上げると、慌ててごまかそうとするフランの顔が目に入る。
「フラン、あなたこの学園に来るの何度目だったかしら?」
ジト目のレティアの表情にフランは目を泳がせながら脳内でこれまでにこの学園に来た回数を数えていく。
「ええと、3回、ですか?」
「そうよ、よくできたわね、フラン」
「お嬢様、馬鹿にしてますか?」
フランの答えに仰々しく手を振ってみせ、フランを褒めたレティアに対してそう言うと、レティアは素早く傘を鞄に挟んでフランの背後に回り込むとそのこめかみに拳骨を押し付け、グリグリと左右からフランの頭を圧迫し始めた。
「いっ!? ちょ、お嬢様っ、痛いです! ピンポイントでそこはああああっ!?」
「出来の悪いメイドにはお仕置きが必要なようねぇっ!」
事情を知らず、話だけ耳にすれば誤解を招きかねない事をレティアは言い放ちながらフランの頭を挟む両手に力をさらに入れる。
「お嬢様っ、本当に止めてください! 頭が潰れてしまい、痛たたたたたっ!」
「3回同じ道歩いて迷子になるなんてどういう頭の作りをしてるのよ!? ていうか地図あるのにどうして迷うの!?」
「そ、そんな事、あたしに言われてもおおおっ!!」
「あんたに言わなきゃ誰に言うのよ!」
「ぴぎぃっ!」
最後に思い切り力を入れられ、頭蓋骨がミシリと悲鳴を上げたような気がしたが、頭痛以上に今背後にいるレティアが怖いので頭を抑えながら涙目で背後を振り返る。
「す、すみません……」
「はあ、分かればよろしい」
レティアが拳にしていた両手を開き、地面にへたり込んでいるフランに手を差し伸べる。
顔にはまだ呆れた表情が残っているが、とりあえず怒りは収まったらしく、フランは怯えつつもレティアの手を取り立ち上がる。
事が収まってようやく周囲を見渡すと、学園の生徒たちが茫然とした表情でフランとレティアを見つめていることに気が付いた。どうやらフランの悲鳴は随分と響いていたらしく、教員の姿も見受けられる。その中にはレティアのクラス担任であるジョブの姿もある。
「何をやっとるんだ、レティア」
「うぇっ!? せ、先生!?」
「何が、『うぇっ』、だ……」
呆れた表情を全開にしたジョブは軽くレティアの後頭部を出席簿で叩き、レティアが「しまった」という表情でジョブを見上げる。
「そういう事は家に帰ってからやってくれ。これじゃ俺の教育が悪いみたいになるじゃないか」
「いや、先生から教育された事、一度もっ!?」
再びレティアの頭に出席簿が振り下ろされる。今度は少し強めに落ちたようで、若干レティアが痛そうな表情を浮かべている。
「なんなら、教育してやろうか?」
そしてジョブを見上げたレティアの目に飛び込んできたのは、物凄く良い笑顔でレティアを見つめるジョブの姿であった。普段の眠たそうな雰囲気もどこへやら、背後におどろおどろしい効果音が似合いそうな雰囲気を漂わせている。
「け、結構です! さ、さあフラン、早く帰りましょう!!」
「え、ちょ、お嬢様っ!?」
ジョブに素早く一礼し、レティアはフランの手首を掴んで猛スピードで校舎を後にしていき、フランはなす術もなくレティアに引きずられるように連れ去られる羽目になった。
「まったく、なぜ傘も差さなかったんですか……」
「悪かったわね、でも気にしてないから良いわよ」
ある程度、といっても屋敷までの全行程の半分ほどまで走り、ようやくペースを落としたレティアの隣を歩きながら、フランは走ったおかげでずぶ濡れになったレティアを見てため息をついてしまった。
「いや、これじゃあたしが傘を届けた意味がないじゃないですか。気にしますよ。メイド長にも怒られますよ?」
「その時は2人同罪ね♪」
「100%お嬢様のせいかと……」
「何か言ったかしら?」
ジョブに凄まれてから落ち着かないのか、レティアの声がいつにも増して強く感じられる。
「いえ……、とそういえば、ジョブさんは教員だけ、という方ではないんですね」
「え? どういう意味?」
とりあえず話題を変えようと思い、フランは先ほど感じたジョブの並々ならぬ気配について話を持ち出してみた。
「ジョブ先生って確か夜勤もやってるけど、そういう意味かしら?」
「まあ、半分正解ですけど……、おそらくジョブさんは何か戦闘を伴うようなお仕事をされてますね」
「夜勤だから、そりゃあ怪しい奴をとっ捕まえるとかはあると思うわね」
「そうではないんです」
もう一度レティアに「半分は正解なんですけどね」と断りを入れておいてからフランは先ほどのジョブの姿を思い出す事にする。
ジョブはレティアに物凄く良い笑顔で威圧してみせた。
あれは確かに「本気だぞ」というのを相手に伝えるには効果的な威圧の仕方だろう。笑みと威圧は究極的には真逆の意味を持っているのだ、その違和感との相乗効果で生まれる威圧感は半端なものではない。自分が威圧されたわけではなくとも、見るべき人間が見ればそれが戦う人間が使うものだと分かるだろう。
そんなたいそうなものをジョブがレティアに使った理由は定かではないが、ジョブがグラントのように軍隊経験がある人間と考えるのが妥当だろう。仮にそうでなかったとしても、警察関連の仕事を受け持っているのは確かだ。
「随分と自信ありげだけど、そこまで言い切る理由は?」
自分の担任という事もあってかレティアは興味津々にフランの話に耳を傾けてくる。
「ジョブさんの手の平、触った事あります? 初めて会った時に握手をしたんですが、あの人の手の平の皮膚、物凄く固いんです。肉刺が潰れて皮膚が分厚くなったんでしょうね、しかも手の平全体が、です。相当修練を重ねているに違いありません」
自分の手の平を見つめながらフランは自分が言っている事を自分自身で確かめつつ口にする。
フランの手の平は傷一つなく、真っ白である。アフェシアスを引き続ければ当然ながら肉刺の1つや2つ出来て当然だが、フランの治癒能力はそんな小さなものにまで影響しているようで表面化する事すら稀である。
だが、常人ならば度重なる特訓をすれば肉刺は出来るだろう。そして完全に治る前に修練を再開すれば遅かれ早かれ肉刺は破れる。そんな事を繰り返しているうちに、その部分の皮膚は分厚く、硬くなっていく。
「それで、ジョブさんはそういう修練が必要に迫られるようなお仕事をしているのでは、と思ったんですが、今日の一件で確信が持てました。その夜勤のお仕事とやらは、相当に大変なんでしょうね」
「だからいっつも昼間は眠たそうにしてるのかな。でも、大きな事件があるわけでもないし、何が大変なのかしら?」
レティアが傘を倒して雨の降り具合を確認する。先ほどから小雨になってきており、傘が必要かどうか確かめているようだ。
「この町に限った事ではないのかもしれませんよ? 隣町に出張している、という可能性もあります。なんでも連続殺人犯が隣町で暴れているようですし」
「連続殺人犯? 世の中も物騒ねぇ、まあ我が家に押し入ってきたら返り討ちでしょうけど」
「当然です。しっかり返り討ちにしますからお嬢様はベッドの下に隠れていてくださいね?」
道行く人の噂というのは存外正確な時がある。特にこの町のようにベッドタウンでもあり旅の中継地のような性格も持ち合わせている町は人の往来が激しい分情報も多く仕入れる事が出来る。
先ほどの話は迷子になっていた際に、道すがらの行商人たちが話し込んでいるのを小耳に挟んだものだ。
「あのね、あたしもそれほど子供じゃないわよ?」
レティアがフランの提案に不満げに頬を膨らませる。
「お嬢様、あたしはお嬢様の安全を第一に考え、そう言ったのであり、別にお嬢様を子ども扱いしているわけじゃありませんよ?」
「そういう至極冷静な回答はテストでお願いするわ」
真剣な目で言い返されたレティアが疲れたような表情をして大きく息を吐く。
フランはレティアが何故そのような反応をするのか理解できず首を傾げ、レティアの顔を覗き込む。
「それにしてもフラン、あなた観察力あるのね」
気を取り直したのか少し笑みを浮かべながらレティアがフランにそう言うと、フランは少し照れつつも笑みを零す。
「観察力、というよりは感覚なんですけどね。普通の人とは違う雰囲気があればその違和感の正体を調べようとしているだけですし」
「それが出来るんだから大したものよ」
レティアは「とてもじゃないけどあたしには無理よ」とお手上げの仕草をする。
「そういうものなんですかね――――――っ」
不意にフランが言葉を切って足を止める。
急にフランが止まったのでレティアがフランを追い越し驚いたようにフランに振り返る。
「どうしたの、フラン?」
「嫌な気配がします……」
怪訝な顔をしているレティアを尻目に、フランは自分が感じ取った嫌な気配の正体を探ろうと周囲を見渡す。
すると。
「お、そこのかーのーじょ♪」
「へ?」
フランの顔を見ていたレティアが背後から軽い声と共に肩を叩かれ、想定外の事態に間抜けな声を上げる。振り返ってみるとそこにはどこからどう見ても「不良」の二文字が似合う青年が3人立っており、ニヤニヤと笑みを浮かべながらレティアを見下ろしていた。
「君可愛いねぇ、どう、この後俺らと遊ばねぇ?」
「んお? お連れのメイドさんも一緒にどう? 皆で楽しい事しようぜ」
青年の1人がフランに気が付いてレティアの横をすり抜けてフランの前に立つ。
言葉はお誘い、の域を出ていないが、青年たちが発する空気は常人ならば逆らえぬものだろう。身長が高い事もあって傍に立っているだけでも威圧感が漂ってくる。
(……あ~、ナンパって奴ですか。よりにもよってお嬢様を引っかけようとは良い度胸ですね)
しばし脳内で事態を把握すべく思考を回転させ、青年たちの目的に見当をつける。
青年たちはフランとレティアが合流しないようにするために間に割って入り、各個「撃破」するつもりらしい。気が強そうな目をしているレティアには2人がかり、世間一般には従順なメイドは1人が相手をする、という作戦なのだろう。
「雨も降ってるしさ、どこかでお茶でも飲まない?」
雨が降っていることを口実に青年たちはフランとレティアを通りの脇へと誘導していき、喫茶店を指差す。といってもどこか錆びれた、あまり人の入りが多いようには見えない店を指差しているので、フランは青年たちにばれないようにため息をつく。
(目的はともかくとして、もう少しましな店は選べないでしょうか……)
「ああもう、鬱陶しいわね! あたしたちは家に帰るんだから放しなさいよ!」
「おお、怖いねぇ、でも大切なメイドさんがどうなってもいいのかい?」
その瞬間、フランの隣にいた青年が小さなナイフを取り出して、フランとレティアにのみ見えるように振ってみせる。どうやらフランに怪我をさせたくなければ言う事を聞け、と言いたいらしい。そこまでしてナンパする意味が分からないが、もしかしたら金銭を要求するなど別の目的があるのかもしれない。
レティアは一瞬ナイフを見て驚いた表情をするが、すぐに呆れた表情になってため息をついた。
「あなたたち、自分が何をやっているのか分かってるのかしら……? 悪い事は言わないからその物騒な物をポケットにしまって大人しくお家に帰るべきよ」
「ああん? 何を言ってるのか分からないねぇ。て言うかこの状況分からないの?」
ナイフを見せつけ自分たちの圧倒的有利を見せつけようとする青年。笑顔を崩さないため傍目からは普通の会話をしているようにしか見えないだろう。ナイフは丁度青年の身体の陰に隠れて見えない位置にある。
「お? メイドさん、眼帯してるの? どうしたのそれ? 怪我でもしたの?」
心配しているような言葉を発するが、ニュアンスには馬鹿にしたような感情が籠っている。
(どちらにせよ、このままな訳にも行きませんし……)
一瞬レティアと視線を合わせる。
レティアは小さく頷き、わずかな口の動きだけで「ほどほどにね」とフランに伝えてくる。
(ま、お嬢様に手を出すような輩に手加減なんかしませんけど)
「お~い、聞いてるか?」
反応がなくなった2人に青年が声をかけるが、返ってきたのは返事ではなかった。
フランは隣にいた青年のつま先を思い切り踏みつけると、痛みに飛び上がろうとする青年のナイフを持つ手を掴んで加減せず握ってやる。手首を急激に圧迫されて握力を失い、青年の手からナイフが零れ落ちる。
そしてそのナイフが地面に落ちるよりも早く青年の懐に入るとその胸元をも掴んで豪快に背負い投げを決める。地面に突き刺さったナイフの柄が青年の背中に当たり、青年が聞くに堪えない悲鳴を上げる。
「なっ! てめぇ、何しやがる!」
「見て分からないなら相当に理解力が欠けてらっしゃるようですね」
悶絶する青年を閉じた傘で小突きながらフランは口を開く。
青年2人の頭からは仲間の事など吹き飛び、3人組を率いていた青年がフランに殴りかかる。
「……遅すぎ」
殴りかかるスピードもキレもグラントの足元どころか半径50メートルにも及ばないくらいのスローモーションに感じられた。しかも振りかぶり方が大げさすぎ、叫びながら飛び掛かってくるおかげで目の前の青年が何をしようとしているのか簡単に分かってしまう。テレホンパンチにすら及ばぬ低俗な攻撃方法だ。
「ふぅ」
フランはため息をつきながら自分の目の前に傘をかざすと青年が殴りかかるタイミングに合わせて傘を開く。
「うおっ!?」
至近で傘を開かれ青年は完全に視界を奪われる。すぐさま傘を振り払うが、その時にはすでに目の前からフランの姿は消えていた。
「くっ、どこへっ!?」
「……ちょっと寝ててください」
振り返れば青年の目の前にフランの微笑みがあった。そしてフランは青年の首筋に手刀を食らわせ、意識を刈り取る。
「さて、後はあなたお1人ですね」
2人目が地面に倒れ込み、フランがゆっくりと最後の1人に視線を向ける。青年は完全に恐怖に支配されているらしく震えながらレティアの手首をつかみ、自分とフランの間にレティアを突き出した。
「お、お前のご主人様がどうなってもいいのか!?」
「あ~、そういう事、しますか」
「フラン、ぼさっとしてないで助けなさいよ」
人質のような立ち位置にあるはずのレティアがため息交じりにフランに催促する。
周囲には雨で人通りが少ないとはいえ騒動を聞きつけて野次馬が集まりつつある。どう考えても分が悪い青年は何とかしてこの場から逃げ出そうと必死に策を巡らせているように見える。
「お嬢様が警告しましたし、改めては、しませんよ?」
「は? なにを――――――っ!?」
青年が言い終わるより早くフランは青年に接近し、ホルスターからアフェシアスを取り出すとその眉間に銃口を押し付ける。ホルスターに入っているアフェシアスに触れた瞬間システムとしての『アフェシアス』を起動、青白い帯はフランが銃口を青年に押し付けるまでにフランと繋がっている。
バガンッ!!
そして躊躇なくその引き金を引き、弾は青年の眉間に命中、しなかった。
「フラン! やり過ぎよ!!」
「お嬢様」
見ればレティアが空いている手でフランの右腕を掴み、狙いを外していた。銃口は地面に向けられ、弾は青年のつま先数センチの地面を穿ち、弾痕からはうっすらと白い煙が上がっている。
青年はそれで完全に腰が抜けたのか、レティアを掴む手を離して地面にへたり込んでいく。どうやら恐怖のあまり失禁してしまったのか、地面に雨によるものではない水溜りが出来ている。
「あなた、それを人に向ける気はない、って言ってなかったかしら?」
レティアが問いただすような口調でフランに迫る。
「それは罪もない人に対して、です。お嬢様や旦那様、あたしの周りの人に害をなす者は須らくあたしの敵です」
「こんな奴の為にあなたを汚すわけにはいかないのよ。分かった? こんな奴ら、素手で十分よ」
「……分かりました」
しばらくして、ボコボコにされた青年は一部始終を見ていた周囲の好意的な人達によって警察に突き出され、厳しい補導を受ける事になった。
「フラン、約束して」
「なんでしょう?」
青年に振り払われたおかげで一部が損壊した傘を手に持ち、レティアが持っている傘で雨をやり過ごしていたフランは不意にそうレティアに言われる。
「……あなたの手は、綺麗なの。手だけじゃなく、あなた全部が。だから、あたしはフランが汚れるところを見たくないのよ」
「お嬢様……」
「だから、無茶しないで」
レティアからしてみれば、先ほどのフランは自分の事を考えず、戦っているように見えたのだろう。フランとしても、今考えてみれば、この銃という存在に親しみの薄い魔法社会で銃で人を撃てばどういう反応をされるか分かったものではない。下手をすれば警察の厄介になっていたのはフランの方かもしれない。
幸いにして弾は命中しなかったし、圧倒的にあの3人の方が悪いため事なきを得たが、最も最速で相手を無力化できる手段が後々面倒を引き起こすことになる事を失念していたフランは自らの軽挙妄動を悔いた。
「すみません、お嬢様。これからは気をつけます」
「分かればよろしい。けど、少し嬉しかったのも事実よ」
「嬉しかった……?」
「あたしの為に、あそこまでやるとは思わなかったもの。なんだか、嬉しい」
レティアは表情を崩して温かい笑みを浮かべる。
「さ、早く帰りましょう」
「……はい、お嬢様」
傘をレティアから受け取り、フランが傘を差す。
「はぁ~、やっと帰れるのね」
「そうですね……おや?」
傘を下ろし、空を見上げる。
「晴れました、ね」
雲の隙間から、太陽が姿を覗かせていた。
「弁明は聞かないわ」
「ちょ、メイド長!?」
「あなたがびしょ濡れなのも、その手で人を殴ったのもお嬢様のためなら仕方のない事よ。でもね」
メリスが虚空から自らの剣を取り出す。
「なぜ、お嬢様がびしょ濡れなのかしらね、フラン?」
「あああああの、そ、それにはですね、深い訳が……」
「問答無用、といったはずよ。フラン、庭に出なさい」
フランの腕を掴むメリスの手は、尋常でなく力が入っている。
これから何が始まるのか本能的に察知したフランは必死の脱出を試みるが、メリスの手はビクともしない。
「お、お嬢様、助けて下さいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「うん、無理♪」
ファルケン家の夕飯まで、メリスの時間無制限模擬戦が庭で繰り広げられることになった。
暴れました!
街中で!
公衆の面前で不良をフルボッコにしました!
てなわけで、フランやや暴走気味な回でした。
サブタイトルの二つの意味は、もちのろんではありますが「メイド」と「冥土」です。死んでませんけどね。
書いてて自分でも思ったんですけど、そこまでしてナンパするか!? ってねw
まあ、書いてしまいましたし、その方が話繋げやすかったので良いんですけど。ナンパな人には鉄拳制裁、そういう奴には加減なんかしないのが、我らが主人公です。
そしてフランの運命はいかに!?
毎度ながら我らがメイド長が叱咤激励しております!(主に肉体言語で)
では誤字脱字報告、ご感想お待ちしております。
キャラ募集も継続してやらせてもらっております。現在9人の設定と8人分の名前が集まっております。いや、嬉しいです、本当に、こんな作者に反応して頂いている方々は神様仏様です。
設定を加筆しつつ出番を模索中です。
設定自体は9人分と順調に集まってますので、そうですね、期限じゃなくて上限にしましょうかね。とりあえず上限を決めておいて、それに届いたら〆切という事で。
それまではどんどん提案してくれて結構です♪