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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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7/10

学年一可愛い令嬢三姉妹は、休日まで俺の部屋を拠点にしたがる

 日曜。

 俺は朝から、ひどく気が重かった。


 理由は明白だ。

 昨日の昼休み、中庭で西園寺三姉妹に囲まれたまま、半ば強引に休日の予定へ組み込まれたからである。


 しかも、詳細がよく分かっていない。


「内容次第だ」


 たしか俺はそう言ったはずだ。

 だが三姉妹の中では、なぜかそれが「参加決定」に変換されていた。理不尽にもほどがある。


 スマホの画面を見る。

 待ち合わせ時刻の三十分前。


 西園寺涼花

『おはよー!』

『寝坊してない!?』

『わたしはもう起きてるよ!』


 西園寺優里

『おはようございます』

『今日はよろしくお願いします』


 西園寺龍華

『遅れるなよ』

『遅れたら迎えに行く』


「脅し文句なんだよ、それ」


 迎えに来られてたまるか。

 日曜の朝からボロアパートの前に西園寺三姉妹集合、なんて事態になったら、近所のおばさん連中の噂話だけで一週間は持つ。


 俺はさっさと身支度を済ませて部屋を出た。


 ※ ※ ※


 待ち合わせ場所は駅前だった。


 人通りの多い場所なのに、その一角だけ妙に視線を集めている集団がある。

 見なくても分かった。

 あれだ。


「神谷くーん!」


 一番に俺へ気づいたのは涼花だった。

 休日私服の破壊力が高い。白いトップスに薄手のカーディガン、動きやすそうなスカートというシンプルな格好なのに、なんであそこまで眩しく見えるのか分からない。


 優里は淡い色のワンピースに薄いジャケットを羽織っていて、学校で見るよりさらに大人びて見えた。

 龍華は黒系の細身のパンツにラフなシャツ姿で、相変わらずやたら絵になる。


 全員、目立ちすぎる。


「……お前ら、もう少し人目を気にするとかないのか」


「え、なんで?」


 涼花がきょとんとする。


「なんでって、お前ら三人並んでるだけで周り見てみろよ」


「見られてますね」


 優里がさらっと言う。


「見られてるな」


 龍華も平然としていた。


「いや、なんでそんな落ち着いてるんだよ」


「慣れてるから?」


 涼花が首を傾げる。

 そうか。慣れてるのか。そりゃそうだよな、普段から注目される側なんだから。


 問題は、その視線の一部が俺にも飛んできていることだ。


「それで、今日は結局なんなんだ」


 俺が本題へ戻すと、龍華がにやりと笑った。


「買い物だ」


「ざっくりしすぎだろ」


「お前の部屋に足りないものを買う」


「は?」


 今度は本気で意味が分からなかった。


「どういうことだよ」


「そのままの意味です」


 優里が微笑みながら口を開く。


「この前、お部屋に行かせてもらった時に思ったんです。神谷くんのお部屋、ちゃんと整っているんですけど……少しだけ、生活が実用寄りすぎるなって」


「実用寄りで悪かったな」


「悪いとは言ってません。ただ、もう少し過ごしやすくできるかなって」


「私も思った!」


 涼花がぴんと手を挙げる。


「クッションとか欲しくない? あとラグ! なんかこう、くつろげるやつ!」


「いや待て。なんでお前らが俺の部屋の改造計画立ててるんだよ」


「だって、また行くし」


 涼花が当然みたいに言う。


「行く前提なんだな……」


「前提だな」


 龍華まで頷く。


「お前の部屋、なんだかんだ落ち着くし」


「だったら勝手に改善しようとするな」


「でも、ちょっと手を入れたらもっと快適になるぞ」


「それはお前らが入り浸るための快適さだろ」


 図星だったらしく、三姉妹がほんの一瞬だけ黙った。

 その反応で答え合わせが完了する。


「……やっぱりそうじゃねぇか」


「いいじゃないですか」


 優里が柔らかく言う。


「神谷くんにも、きっと悪い話じゃないと思いますよ」


「その言い方ずるいな」


「そうですか?」


「そうです」


 優里は少しだけ楽しそうに目を細めた。

 この人、穏やかな顔して押す時はちゃんと押してくるから困る。


「ほら、さっさと行くぞ」


 龍華が先に歩き出す。

 涼花も「しゅっぱーつ!」と無駄に元気よく続き、俺は結局、二人と一緒に歩き出した優里の隣へ並ぶしかなかった。


 ……なんで俺の休日が、三姉妹と部屋の買い出しになってるんだ。


 ※ ※ ※


 連れてこられたのは、大型のショッピングモールだった。


「家具屋まで入ってるのか……」


「こういう時はここが便利なんですよ」


 優里がそう教えてくれる。

 休日のモールは家族連れやカップルで賑わっていて、そんな中を俺たち四人で歩くのは、なんというか妙に居心地が悪い。


 特に、周りから見た時の構図がよくない。

 どう見ても俺だけ釣り合っていないからだ。


「神谷くん、こっちこっち!」


 涼花が腕をぶんぶん振って俺を呼ぶ。

 走るな。目立つだろ。


 最初に入ったのはインテリア雑貨の店だった。


「うわ……」


 店内にはクッションやラグ、収納ケース、小さな観葉植物まで並んでいる。

 俺一人じゃまず足を踏み入れないタイプの空間だ。


「神谷、お前の部屋に足りないのは色味だな」


「いきなりダメ出しから入るな」


「事実だろ。黒、茶、灰色。あと本の背表紙」


「機能性重視なんだよ」


「言い換えれば味気ない」


「容赦ないな」


 龍華は勝手知ったる感じで棚を見て回る。

 なんでそんな慣れてるんだ、お前。


「このクッションかわいくない!?」


 涼花が抱え上げたのは、やたら丸くてふわふわしたやつだった。

 白くて大きい。なんかうさぎっぽい。


「俺の部屋にそれ置くのか?」


「だめ?」


「俺がどんな顔でその部屋に帰ればいいんだよ」


「えー、似合うと思うけどなあ」


「絶対似合わない」


 優里はその横で、比較的落ち着いた色合いのクッションを手に取っていた。


「これはどうですか? 濃い青なら、お部屋の雰囲気とも合わせやすそうです」


「……まあ、それならまだ」


「よし、候補ですね」


「いや、まだ買うって言ってないんですけど」


「でも悪くないと思ったんですよね?」


「思ったけど」


「じゃあ候補です」


 にっこり。

 逃げ道がない。


 その後も三姉妹の勢いは止まらなかった。

 収納ボックス、折りたたみの小さなテーブル、ラグ、卓上ライト、マグカップまで見始めている。


「待て待て待て。なんでそんな広範囲に話が広がってるんだ」


「お前の部屋、机周りがちょっと暗いだろ」


 龍華がライトを掲げる。


「夜、本読むならこっちの方が目に優しい」


「……それは、まあ」


「それからこの収納。ノート隠すならいるだろ」


「そこだけ妙に実用的な指摘すんな」


 涼花は涼花で、カラフルなマグカップを両手に持っていた。


「神谷くん、どっちが好き? 青? 白?」


「なんで俺に新しいマグカップ買わせようとしてるんだよ」


「今の、ちょっと欠けてたよね?」


「見てたのか」


「見てた!」


 元気よく言うことじゃない。


 優里は買い物かごの中身を見て、小さく笑った。


「思ったより、ちゃんと神谷くん向きのものを選べてますね」


「そうか?」


 龍華が棚を眺めながら聞き返す。


「ええ。ちゃんと落ち着いた色が多いですし、使いやすそうです」


「私はちょっとかわいいのも混ぜたい!」


「そこは部屋の主の意見を聞け」


「じゃあ神谷くん、かわいいの嫌い?」


「嫌いじゃないけど、自分の部屋に導入するのは話が別だ」


「ふーん」


 涼花がじっと俺を見る。

 嫌な予感がした。


「じゃあ、慣れればいいんだよ!」


「雑だな発想が!」


 ※ ※ ※


 昼を回る頃には、俺はだいぶ疲れていた。


「ちょっと休憩しませんか?」


 優里の提案で、モール内のカフェに入ることになった。

 四人席に座ると、さっきまで歩き回っていた疲れが一気に押し寄せてくる。


「神谷くん、へばってる?」


 涼花がストローを咥えながら覗き込んでくる。


「そりゃ疲れるだろ。休日に女子三人の買い物へ付き合う男子の気持ち考えたことあるか?」


「ない!」


「清々しいな」


「でも神谷くん、ちゃんと付き合ってくれてるじゃん」


「途中で逃げたらお前ら絶対捕まえるだろ」


「うん!」


「だからその元気な肯定やめろ」


 龍華がアイスコーヒーを飲みながら笑う。


「まあでも、思ったより文句少ないよな」


「言ってるだろ十分」


「本気で嫌なら、もっと顔に出るタイプだろお前」


「……」


 それは否定しづらかった。


 たしかに疲れてはいる。

 振り回されてもいる。

 でも、完全に嫌かと言われると……そうでもない。


 俺の部屋のことを、三人がああでもないこうでもないと言いながら考えている。

 それが少しだけ、変な気分だった。


「神谷くん」


 優里がカップを置いて、俺を見た。


「こういうの、迷惑でしたか?」


 その問いは不意打ちだった。


 涼花も龍華も、言葉を止める。

 三人の視線が集まる。


「……迷惑じゃない、とは言わないです」


 正直にそう言うと、涼花がしゅんとした。

 龍華も「ほら見ろ」みたいな顔で優里を見る。


「でも」


 俺は続けた。


「嫌なら来てないです」


「……」


「その、なんだ。自分の部屋のこと、他人にあれこれ言われるのは変な感じですけど……悪くはない、です」


 言い終えてから、自分で少し気恥ずかしくなる。

 なに真面目に答えてるんだ、俺は。


 でも、その一言で三姉妹の表情がぱっと明るくなった。


「ほんと!?」


 涼花が身を乗り出す。


「ほんとですか?」


 優里も珍しく少し強めに聞き返してくる。


「じゃあ、このまま続行でいいな」


「お前は確認の仕方が雑なんだよ」


 けれど、三人が嬉しそうなのは分かった。


「……まあ、ほどほどにな」


「やったー!」


 涼花が素直に喜ぶ。

 優里もほっとしたように微笑んでいた。


「神谷くん、ありがとうございます」


「礼を言われるほどのことじゃ」


「ありますよ」


 優里はそう言って、ほんの少しだけ声を柔らかくした。


「だって、私たちがあなたの場所に入ることを許してくれたんですから」


「……」


 またそういう言い方をする。

 真正面から来るから、こっちは弱いんだよ。


 龍華がストローをくわえたまま、ちらりと俺を見た。


「で、神谷」


「なんだよ」


「お前、今さらだけど金あるのか?」


「急に現実的だな」


「いや、買うのはお前の部屋のもんだからな」


「……全部は無理に決まってるだろ」


 高校生の財布をなんだと思っているのか。

 すると龍華は「だよな」と頷き、優里も少し考えるように目を伏せた。


「では、今日は最低限にしましょうか」


「最低限?」


「本当に必要そうなものだけです」


「それなら、まあ……」


「あと、お礼ってことで私たちも少し出します!」


「いや、それは」


「神谷くん」


 優里が静かに俺を見る。


「これは私たちが勝手にやりたいことでもあるので、付き合ってもらうお詫びも込みです。駄目ですか?」


 またそれだ。

 駄目ですか、と言われると弱い。


「……少しだけなら」


「決まりだな」


 龍華が即座に締めた。


 こうして、俺の部屋の改造計画は本格的に進むことになった。


 ※ ※ ※


 買い物を終えてアパートへ戻る頃には、もう夕方だった。


 結局、選ばれたのは落ち着いた色のラグ、小さめのクッション二つ、収納ボックス、卓上ライト、新しいマグカップ。

 思ったよりまともなラインナップで安心した……のも束の間。


「よし、設置するぞ!」


 部屋に入るなり、涼花がやる気満々で宣言する。


「ちょっと待て。なんで全員当然のように上がってるんだ」


「買ったもの置くんだから当たり前だろ」


 龍華がラグを抱えたまま言う。


「神谷くん、こっち少し片付けてもいいですか?」


 優里は収納ボックスを手に、机の近くを見ていた。


「……もう好きにしてください」


 ここまで来ると、抵抗する気力も薄い。


 三姉妹はそれぞれ勝手に動き始めた。


 涼花はラグを広げて位置を確認し、

 龍華はライトの置き場所を机周りで試し、

 優里は散らかりがちな小物を自然にまとめていく。


「おい、なんか本当に部屋っぽくなってきたぞ」


「今までは部屋じゃなかったのか?」


「そういう意味じゃない」


「でも、前よりだいぶいい感じ!」


 涼花が満足そうにくるりと振り返る。

 たしかに、少し変わった。

 大きく模様替えしたわけじゃないのに、前よりちゃんと“過ごす場所”みたいな空気になっている。


「……悪くないな」


 ぽつりと漏らすと、三人がこっちを見た。


「ほんと!?」


「はい。とても似合ってます」


「だろ」


「なんでお前が一番得意げなんだよ」


 龍華は鼻で笑っただけだった。


 その時、涼花がクッションを抱えたままにやっと笑う。


「これで、もっと入り浸りやすくなったね!」


「そこを堂々と宣言するな!」


「えへへ」


「笑って誤魔化すな」


 優里も小さく笑っているし、龍華は「事実だしな」と悪びれない。


 だめだ。

 完全にこいつらの中で、俺の部屋が第二拠点みたいになりつつある。


 けれど。


 前より少し柔らかくなった部屋の空気。

 そこにいる三人の笑い声。

 狭いはずの六畳一間が、ほんの少しだけ広く感じる。


 そんなふうに思ってしまった時点で、俺もだいぶ毒されているのかもしれない。


「神谷くん」


 優里が新しいマグカップを俺へ差し出した。


「はい。これ、神谷くん用です」


「……どうも」


「似合うと思って選びました」


「マグカップに似合うもあるのか」


「ありますよ」


「あるんです!」


「あるんだな……」


 三方向から断言されると、そういうものかという気にもなる。


 俺は受け取ったマグカップを見下ろした。

 落ち着いた紺色で、変に気取っていないデザインだった。

 たぶん、これも優里が選んだんだろう。


「神谷」


「なんだ」


「その顔、気に入ってるな」


「……うるさい」


「ふふっ」


 笑われた。

 でも、否定はできなかった。


 学年一可愛いS級の美少女令嬢三姉妹が、なぜかやたらと俺の部屋に入り浸ってくる。

 その理由は、まだよく分からない。


 けれど、こいつらは本気でこの部屋を気に入っているらしい。

 そして俺もまた、三人がいるこの騒がしさを、少しずつ受け入れ始めている。


「じゃあ次は、映画見る環境も整えたいな!」

「お前、次を当然みたいに言うな」

「棚ももう少し増やした方がいいかもな」

「勝手に拡張計画立てるな」

「本、まだ増えそうですしね」

「優里まで乗らないでください!」


 狭い部屋に、また笑い声が広がる。


 平穏はたしかに遠ざかっていく。

 でもその代わりに、俺の日常は少しずつ、賑やかで温かいものへ変わり始めていた。


 また俺の青春が、六畳一間の中で大きく揺れていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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