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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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6/7

学年一可愛い令嬢三姉妹は、平穏という概念を知らない

 西園寺三姉妹が帰った後の俺の部屋は、妙に静かだった。


 さっきまであれだけ騒がしかったせいで、余計にそう感じるのかもしれない。

 六畳一間。古い机。本棚。安物のカーテン。見慣れたはずの部屋なのに、どこかだけ空気が変わってしまった気がする。


「……疲れた」


 俺はベッドに倒れ込んだ。

 正確には、万年床に近いそれへうつ伏せに沈み込む。


 学年一可愛いS級の美少女令嬢三姉妹が、なぜか俺の部屋にやって来た。

 文字にするとまだ夢みたいだが、現実だ。しかも問題なのは、一回きりの偶然じゃ終わらなさそうなところだった。


「また来てもいい?」


 帰り際の涼花の笑顔が脳裏に浮かぶ。


 あの場で、はっきり断れなかった俺が悪い。

 悪いんだけど、あれをきっぱり拒否できる人間がどれだけいるんだよ。無理だろ、普通。


 しかも。


「ふふ、ありがとうございます」

「よし、次は泊まりだな」


 優里は嬉しそうだったし、龍華に至っては最悪の未来予告までしていった。

 あいつ本気で言ってそうだから困る。


 深くため息をつきながら、俺は起き上がって机の前に座った。

 本棚の奥へ押し込んだネタ帳をそっと取り出す。


 見られた。

 完全に見られたわけじゃないが、創作していること自体はほぼバレた。


「……最悪だ」


 俺は、自分が小説を書いていることを誰にも話したことがない。

 学校では静かにしていたいし、変に目立ちたくもない。ましてや、誰かに自分の書いたものを読まれるなんて、恥ずかしいを通り越して公開処刑だ。


 けれど、優里はあっさり見抜いた。

 本棚の並びや付箋の跡だけでそこまで察するの、どういう観察眼してるんだ。


 涼花も完全に興味津々だったし、龍華は龍華で、からかい半分なのか本気なのか分からない顔をしていた。


「……次からは隠す場所変えるか」


 そう呟いた時だった。


 スマホが震えた。


 画面を見る。

 表示された名前に、思わず眉をひそめた。


 西園寺涼花


「なんで連絡先知ってるんだよ……」


 そういえば、さっき帰り際に優里が「連絡用に」と言って半ば強引に交換させてきた気がする。

 あの流れ、今思い返すと完全に計画的だ。


 嫌な予感しかしないまま、メッセージを開く。


『今日はありがとー!!』

『神谷くんの部屋、めっちゃ楽しかった!』

『あと、神谷くんが書いてるお話、ちょっと読んでみたい!』


「読ませるか!」


 思わず声が出た。

 慌てて打ち込む。


『読ませない』


 送信。

 すると、ものの数秒で返信が返ってきた。


『はやっ』

『即拒否じゃん!?』

『でも逆に気になる……!』


 知ってる。

 そういうタイプだって知ってるから余計に教えたくないんだよ。


『気にするな』

『それよりもう寝ろ』


 高校生男子にしては妙に保護者っぽい文面になったが、まあいい。

 すると今度は別の通知が来た。


 西園寺優里


『今日は本当にありがとうございました』

『お部屋、とても落ち着く雰囲気で素敵でした』


 落ち着く……?

 あの部屋が?

 西園寺家の屋敷と比べたら、洞窟みたいなものじゃないのか。


 少し迷ってから返す。


『ただ狭いだけですよ』


 送ると、すぐに返ってくる。


『狭いとか広いとかじゃなくて』

『神谷くんの好きなものがちゃんと詰まってる感じがして、私は好きでした』


「……」


 不意打ちだった。


 なんだその言い方。

 褒められてるのか、くすぐられてるのか分からなくなる。


 返信に困っていると、さらにもう一件通知が来る。


 西園寺龍華


『おい』

『お前のカレー普通にうまかった』


「感想それかよ……」


 しかも、お礼でもなく雑な一言だけ。

 なのに、あいつがああいうのを送ってくるのは珍しいせいで、変な感じがする。


『そりゃどうも』


 短く返した瞬間、また返信。


『今度はハンバーグ作れ』

『優里と涼花も呼ぶ』


『断る』


『即答で草』


 誰のせいだと思ってる。


 俺はスマホを机に置き、ぐったりと椅子にもたれた。

 なんなんだ、こいつら。

 三人とも方向性は違うのに、揃いも揃って距離の詰め方が雑すぎる。


 涼花は無邪気に真っ直ぐ。

 優里は穏やかに自然体で。

 龍華は強引に土足で。


 結果として、どのルートでも俺の平穏は削られる。


 ※ ※ ※


 翌朝。


 教室に入った瞬間、空気がおかしいことに気づいた。


 なんというか、視線が多い。

 普段なら俺なんて背景の一部扱いのはずなのに、今日はやたらと人の目が刺さる。


「……なんだ?」


 嫌な予感を覚えつつ自分の席に向かうと、聞き覚えのある声が飛んできた。


「神谷くん! おはよー!」


 涼花だ。

 しかもいつも以上に元気がいい。


 手を振りながら一直線にこっちへ来るものだから、クラス中の視線まで一緒についてくる。


「……おはよう」


「ふふ、眠そう! 昨日ちゃんと寝た?」


「お前のせいでちょっと遅くなった」


「えっ、わたしのせい!?」


「連絡がしつこかった」


「あーっ、言ったな!?」


 朝から騒がしい。

 そして周囲の視線がさらに濃くなる。


 おい、やめろ。

 そんな目で見るな。

 俺はただ静かに一日を始めたいだけなんだ。


 そこへ、教室の後ろから別の声が届く。


「神谷くん、おはようございます」


 優里だ。


 終わった。


 朝から一年の教室に二日連続で来るな。

 しかも今日は昨日以上に自然な顔して入ってきてるじゃないか。


「お、おはようございます……」


「その言い方だと他人行儀だな」


 さらに追い打ちをかけるように、廊下側にもたれていた龍華が口を挟んだ。


「昨日うちまで来た仲だろ」


「その言い方やめろ!」


 クラス中がざわついた。


 はい、終了。

 俺の高校生活の静かな背景キャラ路線が完全に音を立てて崩れた。


「え、神谷って西園寺家行ったの?」

「なんで?」

「ていうか三姉妹と仲良いの?」


 男子たちのざわめきが聞こえる。

 女子まで興味津々でこっちを見ている。


 やめてくれ。

 俺はこういう注目に耐性がない。


「神谷くん、今日のお昼、一緒に食べない?」


 涼花が爆弾を投下した。


「は?」


「昨日楽しかったし! もっと話したいなって!」


「いや、待て待て待て」


「私もご一緒したいです」


「乗らないでください!」


「私は別にどっちでもいいけど、お前が慌てるなら行く」


「龍華、お前は絶対楽しんでるだろ!」


 俺が全力で突っ込むと、三人がそれぞれ違う反応をする。


 涼花は「ばれた?」みたいな顔で笑い、

 優里は口元を押さえてくすくす笑い、

 龍華は堂々と腕を組んでいた。


 だめだ。

 勝てる気がしない。


「神谷」


 ふいに、クラスの男子が話しかけてきた。

 入学以来ほとんど接点のなかった、同じクラスの佐伯だった。


「……なんだ」


「お前、実はすごいやつ?」


「その質問が一番困る」


「いやだって、西園寺三姉妹とこんなに話してるし……」


「俺だって困ってるんだよ」


 本音だった。

 だが佐伯はなぜか感心したように頷く。


「今度秘訣教えてくれ」


「知らん」


 なんの秘訣だ。

 こっちこそ知りたい。


 ※ ※ ※


 結局、昼休み。


 俺は校舎裏でも図書室でもなく、中庭のベンチにいた。

 左右と正面を、西園寺三姉妹に囲まれて。


「なんでこうなった……」


「私たちが誘ったからです」


 優里が涼しい顔で答える。


「答えになってるようでなってない」


「でも、来てくれましたよね」


「半分囲まれたからな」


「逃げる気満々だったもんねー」


 涼花が楽しそうに笑う。

 その横で龍華がサンドイッチをかじりながら言った。


「まあ逃がす気なかったし」


「こわ」


 この長女、さらっと物騒なことを言う。


 俺の手元には購買で買ったパンがあるが、緊張で味がよく分からない。

 周囲からの視線がもう痛いを通り越して熱い。絶対、午後には変な噂が広まる。


「神谷くん」


 優里がふと、俺を見た。


「昨日の続きなんですけど」


「嫌な予感しかしない」


「書いているお話、やっぱり少し気になります」


「その話まだ続いてたんですか」


「もちろんです」


 もちろん、じゃないんだよなあ。


「ねえねえ、恋愛ものなの?」


 涼花が身を乗り出す。


「ラブコメ?」

「青春?」

「学園もの?」


「食いつきが強い」


 やめろ。

 三方向から好奇心をぶつけるな。

 そんなキラキラした目で見られると、変な汗が出る。


「……まだ、ただのメモだ」


「でも書いてるんでしょ?」


「まあ……」


「すごいじゃん!」


 涼花が本気で感心したように言う。

 茶化すでもなく、素直に。

 そのせいで余計に調子が狂った。


「私、何かを作れる人ってかっこいいと思う」


「……」


「神谷くん、そういうの隠してるのもったいないですよ」


 優里まで追撃してくる。


「お前、意外と面倒くさい秘密持ってるよな」


 龍華は呆れたように、でも少し楽しそうに言った。


 なんなんだ。

 なんでそんなふうに肯定されるんだよ。


 俺は昔から、好きなものを人に見せるのが苦手だった。

 笑われたくないし、否定されたくない。だから隠す。それが一番楽だった。


 なのに、こいつらは隠している方が不思議だと言わんばかりに覗き込んでくる。


「……別に、大したものじゃない」


「大したものかどうかは、読んでから決めます」


「だから読ませないって」


「頑固ですね」


「そこは褒めてくれ」


 優里がふふっと笑う。

 涼花も「ますます気になるー」と唸っている。

 龍華は「そのうち勝手に見つけるか」と物騒なことを口にした。


「やめろ犯罪者」


「お前の部屋、もう何回も入ってるから今さらだろ」


「急に過去の実績を積み上げるな」


 そんな会話をしているうちに、ふと気づく。


 周りの視線は相変わらずだし、状況は全然落ち着かない。

 それでも、昨日までよりほんの少しだけ、この空気に慣れている自分がいた。


 慣れてきてる。

 それはつまり、俺の日常の中に、西園寺三姉妹が入り込み始めているってことだ。


 まずい。

 かなりまずい。


「ところで神谷」


 龍華がふいに言った。


「今度の日曜、空いてるか?」


「急に予定を聞くな」


「答えろ」


「嫌な予感しかしないから余計に答えたくない」


「なら決まりだな」


「なにが!?」


 涼花がぱっと顔を輝かせる。


「え、日曜どっか行くの!?」

「いいですね」

「は?」


 三人の中だけで話が進み始める。

 嫌な予感が現実へ変わる速度が早すぎる。


「ちょっと待て、俺はまだ何も」

「神谷くんも来るよね?」

「来ますよね?」

「来い」


 三者三様の圧がすごい。


 涼花は期待に満ちた笑顔で、

 優里は穏やかなのに逃がさない目で、

 龍華はいつもの強引さで。


 こんなの、断れるわけがないだろ。


「……内容次第だ」


 ようやく絞り出したその一言に、三人は顔を見合わせた。


 そして。


「よし」

「やりました」

「やったー!」


 なぜか了承扱いになった。


「待て、なんでそうなる!」


「神谷くん、最近押しに弱いよね」


 涼花が楽しそうに言う。


「最初から弱いです」


 優里がさらっと乗っかる。


「諦めろ。もう手遅れだ」


 龍華がとどめを刺す。


 ……本当にそうかもしれない。


 学年一可愛いS級の美少女令嬢三姉妹が、なぜかやたらと俺の部屋に入り浸ってくる。

 しかも最近は、部屋だけじゃなくて学校でも、放課後でも、休日にまで侵食してきている。


 平穏はもう遠い。

 けれど、その騒がしさをほんの少しだけ心地よく感じ始めている自分がいて、それが一番厄介だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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