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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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5/9

学年一可愛い令嬢三姉妹は、庶民の部屋にも興味津々らしい

 西園寺家での夕食は、正直、人生で一番緊張した食事だった。


 テーブルが長い。

 料理が多い。

 皿もフォークも、下手に触ったら俺の一年分の小遣いが吹き飛びそうな雰囲気を漂わせている。


 なのに。


「神谷くん、それ美味しいよ!」

「食べてみてください。口に合うと思います」

「おい、肉ばっか狙うなよ。こっちの魚も食え」


 両側と正面から西園寺三姉妹に話しかけられるせいで、味わうどころじゃなかった。


 涼花は明るく世話を焼いてくるし、優里は柔らかく勧めてくるし、龍華は龍華で妙に距離が近い。

 たまに母親まで「遠慮しなくていいのよ」と微笑んでくるものだから、俺の精神はずっと綱渡りだった。


 それでも、食事そのものは驚くほど穏やかに終わった。

 ――いや、穏やかというには、俺の心拍数がだいぶ荒れていたから語弊があるかもしれないが。


 問題は、その後だった。


「じゃあ、今度は神谷くんの部屋に行ってみたいですね」


 食後のお茶を飲みながら、優里が何気ない調子でそう言ったのだ。


 俺は危うく紅茶を吹きそうになった。


「……は?」


「いや、だって気になりませんか? 普段神谷くんがどんな部屋で過ごしているのか」


「気になりませんよね普通!?」


「私は気になるぞ」


「お前はもう知ってるだろうが!」


 龍華が当然みたいに会話に混ざってくる。

 お前は知ってるどころか入り浸ってる側だろ。


「えっ、なになに!? 神谷くんの部屋!?」


 案の定、涼花も食いついた。


「わたしも行きたい!」


「やめろ」


「即答!?」


「当たり前だろ」


 三姉妹が俺の部屋に来る。

 その絵面を想像しただけで頭が痛くなる。


 築古アパート。六畳一間。生活感まみれの本棚。積まれたラノベと漫画。干しっぱなしのタオル。端に寄せてある布団。

 そこへ、この街で有名な大富豪令嬢三姉妹が揃って現れるとか、情報量だけで部屋が崩壊する。


「でも、ちょっと見てみたいです」


 優里が小さく首を傾げる。


「神谷くんがいつも読んでいる本とか、好きなものが置いてあるんですよね?」


「そりゃありますけど」


「ほら、興味出てきた」


「お前が誘導するな」


「面白そうじゃん」


「その理由だけで俺の生活圏に踏み込んでくるな」


 俺が本気で嫌そうな顔をすると、涼花がぱっと手を挙げた。


「じゃあさ! 明日とかどう!?」


「話進めるの早いな!?」


「善は急げって言うし!」


「その使い方絶対違う」


「大丈夫! わたしたち、ちゃんとお菓子持ってくから!」


「そういう問題じゃないんだよ!」


 もはや聞く耳を持っていない。

 龍華はニヤニヤしてるし、優里は優里で静かに乗り気だし、涼花は完全に遠足前のテンションだ。


 最悪だ。

 この流れ、俺一人の拒否権で止められる気がしない。


「神谷くんが嫌なら、無理にはしませんけど……」


 優里が少しだけ視線を落として言う。


 その言い方はずるい。

 ずるいし、なんか俺がものすごく心の狭い男みたいになる。


「……いや、その」


「ほら、神谷。観念しろ」


「お前は黙れ」


「大丈夫だよ! 変なとこは見ないようにするから!」


「それは逆に変なとこがある前提だろ」


 涼花は悪びれもなく笑う。

 こっちは笑い事じゃない。


「……せめて、一人にしてください」


「三人とも行く」


 龍華が即答した。


「なんでお前が決定権持ってるんだよ」


「私が一番行き慣れてるからな」


「そこを誇るな」


 俺がこめかみを押さえていると、優里がくすりと笑った。


「じゃあ、明日の放課後に」


「待って、まだ俺が了承したことになってないんだけど」


「涼花、お菓子の準備お願いね」


「まっかせて!」


「人の話を聞け!」


 むなしく響く俺のツッコミ。

 そして、三姉妹は完全に明日の予定を共有し始めていた。


 ――終わった。

 俺の部屋が終わる。


 ※ ※ ※


 翌日。


 朝から嫌な予感しかしなかった俺は、教室でもずっと落ち着かなかった。


「神谷くん、今日なんかそわそわしてない?」


 涼花がいつものように俺の机の横にやって来る。


「してない」


「してるよー。貧乏ゆすりしてるし」


「……見ないでくれ」


「なんで?」


「なんでもだ」


 本当は理由がある。

 放課後、この陽キャの化身みたいな三女が、姉二人を引き連れて俺の部屋に来る予定だからだ。


 どう考えてもおかしい。

 どこのラブコメだよ、と自分で突っ込みたくなるが、当事者になると全然笑えない。


「神谷くん」


 今度は教室の後ろから、落ち着いた声がした。

 振り向くと、優里が廊下側の扉のところに立っている。


 朝から来るな。

 男子の視線が痛いだろ。


「今日、よろしくお願いしますね」


「……本当に来るんですか」


「はい」


 にっこり。

 柔らかいのに、断れない笑顔だ。


「お菓子、ちゃんと選びましたから」


 涼花が隣で胸を張る。


「いや、そこは頑張らなくてよかったんだけど」


「それと私も行くからな」


 いつの間にか龍華まで後ろにいた。


「お前は知ってるだろ、来なくていいだろ」


「知ってるからこそ行くんだよ」


「理屈が分からん」


 教室のあちこちからざわつきが広がる。

 そりゃそうだ。西園寺三姉妹が、なぜか一人の陰キャ男子を囲んでいるんだから。


 俺はもう何も考えないことにした。

 考えたら負けだ。


 ※ ※ ※


 放課後。

 俺は三姉妹を連れて、アパートまで帰ってきていた。


「うわぁ……!」


 最初に声を上げたのは涼花だった。


「これが神谷くんのアパート……!」


「なんだその反応。珍獣でも見る目するな」


「だって、こういうとこ入るの初めてなんだもん!」


 悪気ゼロの目で見上げられる。

 悪気がないぶん刺さる。


「階段ちょっと急ですね」


 優里は外階段を見上げて、少し心配そうに言った。


「気をつけてください。滑ると危ないので」


「優里お姉ちゃん、そっち!?」


「いや、正しいけど!」


 龍華は慣れた足取りで先に上がっていく。


「おー、相変わらず年季入ってんな」


「なんでお前が実家みたいな感想なんだよ」


「何回か来てるしな」


「それを大声で言うな!」


 三姉妹を連れて帰宅。

 文字にすると破壊力がやばい。

 もしこれをクラスメイトの誰かに見られたら、俺は明日から学校に行けなくなる自信がある。


 部屋の前に着き、俺は鍵を取り出した。


「……言っとくけど、狭いからな」


「楽しみ!」


「涼花、お前はそういうテーマパークじゃないからな」


「神谷くん、失礼だよ!?」


 いや、お前の目が完全に初アトラクション前なんだよ。


 扉を開ける。


「どうぞ」


 三人が順番に中へ入った。

 その瞬間、六畳一間の俺の部屋に、異様なくらい華やかな空気が流れ込む。


「えっ、ちょっと待って、本いっぱい!」


 涼花が最初に食いついたのは本棚だった。

 ラノベと漫画がぎっしり詰まった棚の前で、目を輝かせている。


「神谷くんって、こんなに読むの!?」


「まあ、暇だからな」


「暇だからでこの量にはならないですよ」


 優里が本棚に近づいて、背表紙を眺める。


「恋愛もの、多いんですね」


「うっ」


「へぇ、意外」


 龍華まで覗き込んでくる。


「もっとこう、バトル一辺倒かと思ってた」


「なんでだよ」


「喧嘩強いから」


「読書傾向と関係ないだろ」


 優里は一冊、タイトルを読むように指先でなぞった。


「こういうの、好きなんですね」


「……悪いですか」


「いえ。むしろ、ちょっと安心しました」


「何に」


「ちゃんと高校生の男の子なんだなって」


「その感想はどうなんだ」


 涼花がしゃがみ込んで、今度はベッド――というか、ほぼ万年床みたいなスペースを見た。


「ここで寝てるの?」


「そうだけど」


「わ、なんか新鮮」


「新鮮って言われると微妙に傷つくな」


「え、なんで!?」


 本気で分かってない顔をするな。

 この純度百パーセントの無邪気さ、たまにすごい威力で俺を殴ってくる。


「神谷くん、台所もちゃんとしてますね」


 優里が流し台の方へ視線を向ける。

 洗った食器は片付けてあるし、朝のうちに軽く掃除もしておいた。それでも、富豪令嬢に評価されるほどのものじゃない。


「普段から自炊してるので」


「すごいです。えらいですね」


「いや、褒めるほどじゃ……」


「褒めるだろ」


 龍華が当然みたいに言った。


「お前、一人でちゃんと生活回してるじゃん」


「……お前に真顔で言われると調子狂うな」


「なんだ、照れてんのか」


「照れてねぇよ」


 即答したのに、涼花と優里が揃って少し笑った。

 なんなんだ、この空気。


 その時だった。


「あっ」


 涼花が、本棚の横に積んであったノートの山を見つけた。


「これ、なに?」


「っ、おい、それは――」


 慌てて止めようとしたが遅かった。

 涼花は一番上のノートを手に取ってしまう。


 しまった。

 よりにもよって、それは俺がこっそり書いている小説ネタ帳だった。


「神谷くん、字きれいだね……って、え? これって」


「見るな!」


 俺は反射的に取り返した。


「あ」


「……」


「……」


 しまった。

 勢いが強すぎた。


 涼花はぽかんとした顔で俺を見ている。

 優里も少し驚いたように目を見開いていた。龍華だけは、面白そうに目を細めている。


「……悪い。今のは、その」


「だ、大丈夫だよ! ごめんね、勝手に見ちゃって!」


 涼花が慌てて両手を振る。

 その反応に、こっちの罪悪感が増す。


「見られたくないものもありますよね」


 優里がそっとフォローしてくれる。


「私も勝手に人の日記を見たりはしませんし」


「いや、日記じゃないですけど」


「じゃあ、もっと見られたくないものですか?」


「……まあ」


 そう答えると、優里は少しだけ興味深そうな顔をした。


「もしかして、創作関係ですか?」


「え」


 図星だった。

 俺の顔に出たのか、優里が小さく微笑む。


「本棚の並び方とか、付箋の貼り方とか。読むだけじゃなくて、たぶん書く側の人なのかなって思ってました」


「……観察眼どうなってるんですか」


「たまに言われます」


 涼花がぱっと目を輝かせた。


「えっ、神谷くん小説書いてるの!?」


「書いてるっていうか……考えてるだけだ」


「すごーい! ねぇねぇ、どんな話!?」


「言わない」


「えー! なんでー!」


「死ぬほど恥ずかしいからだよ!」


 叫ぶと、龍華が声を立てて笑った。


「ははっ、珍しいな。神谷がこんなに慌ててんの」


「元凶の一人が楽しそうにするな」


「いいじゃん。ちょっと親近感湧いた」


「なんでだよ」


「お前、そういうの一人で抱え込んでそうだし」


 龍華の言葉に、一瞬だけ返しに詰まる。

 それを誤魔化すように、俺はノートを棚の奥へ押し込んだ。


「とにかく、これはなしだ。忘れろ」


「うーん、気になる」


「涼花、お前の好奇心は今ここで閉じろ」


「無理!」


「即答するな」


 優里はそんなやり取りを見て、くすっと笑った。


「でも、なんだか安心しました」


「またそれ言いますね」


「神谷くんにも、ちゃんと好きなものとか、夢中になってるものがあるんだなって思って」


「……そりゃありますよ」


「はい。よかったです」


 その言い方が妙に優しくて、少しだけ言葉に困る。


 すると、涼花が何かに気づいたようにぱちんと手を叩いた。


「そうだ! じゃあ今度、神谷くんのおすすめの本、貸してよ!」


「は?」


「わたしも読んでみたい!」


「私も興味あります」


「私にも選べよ」


「なんでお前まで乗ってくるんだよ」


 三人とも、やる気だ。

 本気で俺の生活圏に根を下ろす気かもしれない。


「いいじゃないですか」


 優里が穏やかに言う。


「神谷くんの好きなもの、私たちも知りたいですし」


「そ、そうそう! もっと仲良くなりたいっていうか!」


「私はもう十分仲いいと思ってるけどな」


「お前は距離感が壊れてるだけだろ」


「失礼なやつだな」


 失礼なのはどっちだ。


 それでも。

 六畳一間の狭い部屋で、三姉妹がそれぞれ勝手に本棚を見たり、俺の机を覗いたり、感想を言い合ったりしている光景は、なんだか妙に現実感がなかった。


 学年一可愛いS級の美少女令嬢三姉妹が、なぜか俺の部屋にいる。

 しかも、一度きりの珍事では終わらなさそうな空気まである。


「神谷くん、この漫画借りていい?」

「駄目だ」

「神谷、その新刊もう読んだ?」

「読む前だ」

「じゃあ一緒に読みましょうか」

「なんでだよ」

「お腹すいたー!」

「来て早々お菓子食っただろ!」


 騒がしい。

 落ち着かない。

 でも、追い出したいかと言われると、少しだけ返事に困る自分がいる。


 そんな自分に気づいて、俺は小さくため息をついた。


 ――まずいな。

 このままだと本当に、入り浸られる。


 そう思った時にはもう遅かったのかもしれない。


「神谷くん!」


 涼花が満面の笑みで振り返る。


「また来てもいい?」


「……」


 即答できなかった。

 その沈黙だけで、三姉妹には十分だったらしい。


「やった!」

「ふふ、ありがとうございます」

「よし、次は泊まりだな」

「それは却下だ!」


 俺の部屋に、三人分の笑い声が広がる。


 平凡だったはずの六畳一間は、今日からどうやら、学年一可愛い令嬢三姉妹のたまり場になりそうだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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