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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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3/7

西園寺の長女は距離感がおかしい

 翌朝。

 俺は、いつもより三十分早く目を覚ました。


 理由は簡単だ。

 家に、同級生の女子が泊まっているからである。


 しかも相手は、西園寺三姉妹の長女――西園寺龍華。

 学校では「近寄りがたい美人」として有名で、街では「西園寺家の長女」として知られている人間だ。


 そんなのが、なぜか俺のボロアパートに泊まっている。


 意味が分からない。

 意味は分からないが、現実だった。


 布団から起き上がり、まず部屋の奥を見る。

 昨日は俺が床、龍華がベッドという理不尽極まりない配置で寝ることになったのだが――。


「……いない?」


 ベッドの上はもぬけの殻だった。

 シーツは多少乱れているが、そこに龍華の姿はない。


 帰ったのか?


 いや、あいつがそんな殊勝な真似をするとは思えない。

 嫌な予感を覚えながら、俺はそっと台所の方へ向かった。


 すると。


「お、起きたか」


 フライパンを片手に立っていたのは、寝癖ひとつない龍華だった。


「……何してんだ、お前」


「見れば分かるだろ。朝飯作ってる」


「なんで?」


「泊めてもらったから、その礼だ」


 さらっと言いながら、龍華は器用にベーコンエッグを皿へ移した。

 しかも、その横には焼き加減のいいトーストと、インスタントとはいえ湯気の立つスープまで並んでいる。


 思わず数秒、黙る。


「……お前、料理できたのか」


「意外そうな顔すんな。失礼だろ」


「いや、お前が台所に立つ絵面が想像できなかっただけだ」


「私をなんだと思ってるんだ」


「勝手に冷蔵庫を漁って漫画を読んでる生き物」


「半分合ってるな」


 半分は認めるのかよ。


 龍華はエプロンもつけず、制服のシャツの袖を少しだけまくった格好で、妙に手慣れた動作をしていた。

 昨日のオラついた態度との落差がすごい。

 そのせいで、無駄にドキッとしてしまう自分が腹立たしい。


「ほら、食え」


 テーブルに皿が置かれる。

 俺は警戒しながら席についた。


「……毒入ってないよな」


「入れるならもっと確実に仕留める」


「物騒だな」


 一口食べる。


「……うまい」


「だろ」


 龍華は当然みたいな顔で、自分も向かいの席に座った。

 くそう、認めたくないが普通にうまい。トーストは焦げてないし、卵の半熟具合も絶妙だ。なんなら俺が適当に作る朝飯よりちゃんとしている。


「お前、本当に何者なんだよ……」


「西園寺龍華だが?」


「そういう意味じゃねぇよ」


「じゃあどういう意味だ」


「見た目は不良っぽいのに朝から料理はできるし、態度はでかいし、勝手に泊まるし」


「最後はただの悪口だろ」


「事実だ」


 言い返すと、龍華はふっと笑った。

 機嫌がいいのか、朝だから気分がましなのか。昨日より棘が少ない気がする。


「で、今日も学校だろ。さっさと食って準備しろ」


「……お前は?」


「私も学校に決まってるだろ」


「いや、その前にお前の家」


「帰らない」


「即答すんな」


 俺が額を押さえると、龍華はスープをひと口飲んでから、あっさりと言った。


「朝帰りの方が面倒くさいことになる。だったらここから登校した方が楽だ」


「いやいやいや、全然よくないからな? 同級生の女子が俺の部屋から登校とか、人生終了イベントだぞ」


「大げさだな」


「大げさじゃねぇよ!」


 学校で噂になったらどうする。

 いや、龍華ほどの有名人と俺が一緒にいた時点で、もう手遅れかもしれないけど。


「安心しろ。登校時間はずらす」


 龍華はそう言って立ち上がると、俺の漫画本の山から一冊抜き取った。


「お前が先に行け。私は少ししてから出る」


「……最初からそうしてくれ」


「その代わり、今日の放課後」


「嫌な予感しかしない」


「私に付き合え」


「断る」


「まだ何も言ってないだろ」


「お前がそう言う時、ろくな用事じゃないんだよ」


 びしっと言い切ると、龍華はわずかに目を細めた。

 だが、次の瞬間には口元を吊り上げる。


「妹に会いたくないのか?」


「……は?」


「優里」


 その名前が出た瞬間、昨日の出来事が脳裏によみがえった。

 路地裏。男たち。月みたいに静かに笑う彼女の顔。


「な、なんでここでその名前が出てくるんだよ」


「昨日、優里から連絡が来た」


 龍華はスマホをひらひら振る。


「『昨日助けてもらった神谷くんに、改めてお礼がしたいです』だとさ」


「……マジか」


「マジだ」


 思わず言葉が詰まる。

 昨日は勢いでその場を離れたが、確かに礼を言いたそうにはしていた。していたけど、本当に連絡が龍華に行くのか。


「で、私は思ったわけだ」


「何を」


「面白くなってきたなって」


「帰れ今すぐ」


「もう朝だぞ」


 そういうことじゃない。


 ※ ※ ※


 結局、俺は一人で先に家を出た。


 龍華とは時間差登校。

 それだけでもだいぶましだが、安心はできない。あいつは平気で常識の斜め上を行くからだ。


 教室に入ると、いつものざわめきが耳に入ってくる。

 俺はいつも通り、自分の席へ向かおうとして――。


「神谷くん! おはよっ!」


 朝から全力の太陽がいた。


 西園寺涼花。

 三姉妹の三女にして、陽キャの権化みたいな存在だ。


 彼女はぱたぱたと駆け寄ってきて、いつものように俺の背中を軽く叩いた。


「今日ちょっと眠そうじゃない?」


「……まあ、少し」


「えー、なになに? 夜更かし? ゲーム? それとも動画一気見とか?」


「そんな感じだ」


 本当はお前の姉が俺の部屋に泊まってたからだよ、とは口が裂けても言えない。


 涼花は俺の顔を覗き込むようにして、にしし、と笑った。


「じゃあ、ちゃんと授業中寝ないようにねー?」


「善処する」


「善処じゃなくて頑張ってよー」


 そう言って、また明るく笑う。

 朝から距離が近い。近いんだよな、本当に。


 こっちは慣れてないから、いちいち心拍数が乱れる。

 ただでさえ昨日から西園寺家に振り回されっぱなしだっていうのに。


 ようやく涼花が友達の輪へ戻っていき、俺は心の中で安堵した。

 すると、その直後。


「神谷くん」


 教室の後ろの扉から、静かな声がした。


 空気が変わる。

 いや、正確には、男子どもの視線が一斉にそっちへ向いた。


 そこに立っていたのは、西園寺優里だった。


 長い黒髪。整った目鼻立ち。柔らかい微笑み。

 同じ西園寺でも、涼花の華やかさとはまた違う。優里は、近づくだけで空気が澄むような雰囲気を持っていた。


 ……で、なんでそんな人が、朝から一年の教室に来てるんですか。


「え、あ、はい」


 俺がぎこちなく返事をすると、優里はほっとしたように笑った。


「よかった。ちゃんと会えました」


 その一言で、教室の空気がざわつく。


 やめろ。

 やめてくれ。

 俺を巻き込むな。


「昨日はきちんとお礼も言えませんでしたので」


 優里はそう言って、両手で小さな紙袋を差し出した。


「これ、よければ受け取ってください。お礼です」


「いや、そんなの受け取れません」


「では、私の気が済みません」


「俺の気が済まないんですけど」


「そこをなんとか」


 にこやかに押してくる。

 この人、見た目に反して意外と引かないタイプだ。


 というか、周囲の視線が痛い。痛すぎる。

 特に男子。何人か、明らかに『なんでお前なんだ』って目をしている。

 俺が知りたいよ。


「……じゃあ、受け取るだけ受け取ります」


「はい、ありがとうございます」


 優里はぱっと表情を明るくした。

 その笑顔だけで教室の男子数名が沈んだ気がする。気持ちは分かる。


「それと、放課後、お時間いただけますか?」


「……はい?」


「昨日のお礼、改めてきちんとしたいんです」


「いや、だから今もう――」


「駄目ですか?」


 少しだけ首を傾げられる。


 反則だろ、それは。


「……少しだけなら」


「ありがとうございます」


 優里は満足そうに微笑んで、去っていった。


 教室に沈黙が落ちる。

 いや、一秒後にはひそひそ声の嵐だった。


「神谷、今の何?」

「西園寺さんと知り合い?」

「え、お前いつの間に?」


 やばい。

 普段話しかけてこないクラスメイトまでこっち見てる。


 どう答えるべきか悩んでいると、横からひょいと涼花が顔を出した。


「神谷くん、もしかしてお姉ちゃんと仲いいの?」


「違う」


「即答だね!?」


「違うもんは違う」


「でも、お礼って言ってたよ?」


「たまたまだ」


「何がどうたまたまなのか全然分かんないんだけど!」


 それは俺もだ。


 涼花はじーっと俺を見つめてきた。

 その視線には好奇心がこれでもかと詰まっている。

 誤魔化せる気がしない。


 だが、ここで正直に話したらもっと面倒なことになる。

 龍華のことまで芋づる式に出てきたら、本気で俺の平穏が死ぬ。


「……そのうち話す」


「えー、気になるー!」


「そのうちな」


「約束だよ!?」


 ぐいっと小指を差し出される。

 なぜここで指切りを要求されるのか。

 でも断ると面倒そうだったので、俺は仕方なく軽く小指を引っかけた。


「はいはい」


「ふふっ、約束ね!」


 ……なんだこれ。

 朝からイベントが渋滞しすぎだろ。


 ※ ※ ※


 放課後。


 俺は逃げるか迷った末、結局、校門近くの中庭に来ていた。

 優里に呼び出されたからだ。


 逃げてもよかった。

 でも昨日助けた手前、あまり感じの悪いことはしたくなかったし、龍華が余計なことをしそうなのも怖かった。


「お待たせしました」


 振り返ると、優里がいた。

 今日は昨日よりも少し砕けた雰囲気で、柔らかく笑っている。


「いえ、俺も今来たところです」


 テンプレみたいな返答をしてしまう。

 内心は全然落ち着いていない。


「それで、お礼なんですけど」


 優里がそう言いかけた、次の瞬間。


「おー、いたいた」


 聞き覚えのありすぎる声がした。


 こめかみが痛くなる。

 嫌な予感が、最悪の形で当たった。


 やって来たのは、もちろん西園寺龍華だった。


「……お前、来るなって言ってないよな?」


「言ってないけど、空気読め」


「読まない主義だ」


 胸を張るな。


 龍華は俺たちの間に当然みたいな顔で入り込み、そのまま優里の肩に腕を回した。


「よ、優里。こいつが神谷悠真。静かで根暗で妙に喧嘩強い」


「紹介の仕方が最悪なんだよ」


「でも間違ってないだろ」


「喧嘩強い以外訂正したい」


 すると、優里はくすっと笑った。


「お二人、やっぱり仲がいいんですね」


「どこがですか!?」


「どこがだ」


 俺と龍華の声が綺麗に重なる。

 そのこと自体がもう、優里には面白かったらしい。彼女は口元を押さえて上品に笑っていた。


「それでですね、神谷くん。昨日のお礼なんですが……」


「うん。で、私は考えた」


 龍華が勝手に話を被せる。


「神谷に何か礼をするなら、今日うちに来させればいい」


「は?」


「は?」


 俺と優里の声がまた重なった。


「ちょうどいいだろ。優里も直接礼できるし、涼花も気になるだろうし」


「なんで涼花まで出てくるんだよ」


「家族会議だ」


「俺を議題に載せるな」


 思わず全力で突っ込む。

 だが龍華はどこ吹く風だ。


「というわけで、今日うち来い」


「行かねぇよ」


「即答か」


「当たり前だろ。なんで俺が大富豪の家に行かなきゃならないんだ」


「昨日うちの妹助けただろ」


「それとこれとは別だ」


「じゃあ、助けた相手が礼もできないままでいいのか?」


「それは……」


 一瞬、言葉に詰まる。

 そこを優里が、申し訳なさそうに引き継いだ。


「あの……ご迷惑でなければ、本当に少しだけでいいんです。お礼をしたいというのは、本心ですから」


 真っ直ぐに見つめられる。

 断りにくい。

 ものすごく断りにくい。


 しかも龍華は横で『ほらな』みたいな顔をしている。腹立つ。


「……本当に少しだけですよ」


 観念してそう言うと、優里はぱっと表情を明るくした。


「ありがとうございます」


「よし決まりだな」


「お前が一番嬉しそうなのなんなんだよ」


「暇つぶしになる」


「正直すぎるだろ」


 こうして、俺は放課後に西園寺家へ連行されることが決まった。


 平凡な高校生活。

 静かな青春。

 そんなものは、どうやら昨日の路地裏に置いてきたらしい。


 西園寺三姉妹。

 長女は距離感がおかしく、

 次女は上品なのに意外と押しが強く、

 三女は太陽みたいに無邪気すぎる。


 そんな連中に囲まれて、俺の平穏が持つ気がしない。


 ――それでも。


「神谷くん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


「顔に出てました?」


「少しだけ」


「神谷、顔固いぞ」


「誰のせいだと思ってる」


 二人に挟まれて歩き出しながら、俺は深くため息をついた。


 また俺の青春が、大きく揺れようとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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