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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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暴君

 西園寺涼花の姉――西園寺優里を助けた、その日のことだ。

 なぜか俺は、優里先輩に懐かれてしまったらしい。


 西園寺三姉妹。

 それはこの街では知らない者がいないくらい有名な名前だ。


 学年一の美少女三姉妹。

 名門・雄幸高校に通う才色兼備の姉妹。

 そして何より、この街の大富豪――西園寺家の令嬢たち。


 要するに、俺みたいな人間とは住む世界が最初から違う。

 関わるべき相手じゃないし、関わってもろくなことにならない。少なくとも、俺の経験上はそういう結論になっている。


「あの、俺これから用事あるんで。先に行きます」


 倒れた男たちから視線を外し、俺はその場を去ろうとした。

 というか、去る以外の選択肢がない。これ以上西園寺家と縁ができるのは、正直まったく歓迎できなかった。


「えっ!? あ、あの、せめてお礼を……!」


 背後から慌てた声が飛んでくる。


 けれど、俺は振り返らなかった。

 ここで立ち止まったら、面倒事が増える。そんな予感しかしなかったからだ。


 ※ ※ ※


 俺の家は、漫画やアニメに出てくるような古びたアパートだ。

 外壁はところどころ色が剥げ、共用廊下は歩くたびにぎし、と小さく鳴る。築何年かなんて考えたくもない。


 鞄から、持ち手のところが少し錆びた鍵を取り出し、部屋の扉を開ける。


 両親は共働きで、家にいることがほとんどない。

 だから俺は、ほぼ一人暮らしみたいな生活をしていた。自炊も洗濯も一通りやるし、家の中のことはだいたい自分で回している。

 金銭面は親が入れてくれているから、生活には困らない。本を買ったり、たまに少し贅沢したりするくらいの余裕もある。


 ――ただ、最近ひとつだけ困ったことがある。


「おー、おかえり。待ってたぞ」


「……おい。なんでまた勝手に俺の部屋に上がり込んでるんだよ」


 部屋の奥から聞こえてきたのは、聞き慣れた女の声だった。


 そこにいたのは、制服姿の美少女。

 ……いや、見た目だけなら間違いなく美少女だ。けど中身は、どうしようもなく面倒くさい。


「うるせぇな。どこにいるか決めるのは私の勝手だ。外野にとやかく言われる筋合いはない」


 西園寺龍華さいおんじ・りゅうか

 西園寺三姉妹の長女であり、そして最近、とある事情をきっかけに俺の部屋へ頻繁に入り浸るようになった張本人だ。


 涼花の明るさとも、優里先輩の上品さとも違う。

 龍華は一言でいえば、猛獣っぽい。


 切れ長の目つきは鋭く、肩まで流れる銀髪は妙に様になっていて、立っているだけならモデルみたいに絵になる。だが、その実態はソファもない六畳一間で我が物顔をしているだけの迷惑な居候未満だった。


「なあ、そろそろこの漫画の新刊、買ってくれない?」


 俺のベッドに寝転がりながら、龍華は俺の漫画を勝手に読みつつそんなことを言う。


「なんで入り浸ってるだけの奴に、俺が新刊買わなきゃいけないんだよ。っていうか、その新刊まだ発売してない」


「ふーん。そ」


 興味があるんだかないんだか分からない返事をして、龍華はぺらりとページをめくった。


「それより、今日は少し遅かったな。何かあったのか?」


 さて、ここで西園寺優里を助けた話をするべきだろうか。

 もし話したら、この西園寺長女は面倒くさそうに帰ってくれるだろうか。


 ……いや、ないな。

 こいつはそういう性格じゃない。


「ちょっと変なのに絡まれてた」


「ふーん。災難だったな」


 予想通り、龍華は心底どうでもよさそうに答えた。

 おい、もう少し食いつけよ。こっちは話題を投げたんだぞ。


 しかもそのまま、俺のベッドにごろんと寝転がる。


 全く、こいつは……。


「それより、いつ帰るんだよ。もうすぐ夜だぞ」


「今日は泊まっていく」


「はいはい、泊まって……って、は!? 何言ってんだよ!」


 俺が素で叫ぶと、龍華はポケットから飴玉を取り出し、包み紙を剥がして口に放り込んだ。

 そして、舐めながらこちらを向く。


「いいだろ。一人増えるくらい」


「よくねぇよ! なんでそんな当然みたいに言ってんだ!」


「別に減るもんでもないだろ」


「俺の平穏が減るわ!」


 ぴしゃりと言い返すと、龍華はじっと俺を見た。

 その視線が妙にニヤついていて嫌な予感がする。


「……あー、もしかしてお前」


「なんだよ」


「私と同じ部屋で寝るの意識してんのか?」


「してねぇよ!」


「ほんとかぁ?」


「ほんとだよ!」


「でも今、ちょっと声裏返ったぞ」


「気のせいだ!」


 即答すると、龍華はくつくつと喉の奥で笑った。

 スタイルだけは妙に良いくせに、どうしてこうもオラオラしているのか。この女、絶対性格で損してるだろ。


「とにかく、今日は帰れ。今すぐ帰れ。速やかに帰れ」


「三段活用みたいに言うなよ」


「うるさい。帰れ」


 俺が本気で追い出しにかかると、龍華はわざとらしくため息をついて身を起こした。

 それから不服そうに眉を寄せ、いかにもヤンキーじみた目つきでこちらを睨む。


「はー。しゃあねぇな。今日は大人しく帰ってやるよ」


「最初からそうしろ」


 そう言い残して、龍華はのそのそと部屋を出ていった。


 ……やっと静かになる。


 俺は小さく息をつき、夕飯の支度に取りかかった。

 冷蔵庫から人参、じゃがいも、玉ねぎ、肉を取り出し、カレールーも棚から引っ張り出す。献立を考えるのが面倒な日は、だいたいカレーだ。失敗しないし、明日の分まで残せる。


 包丁の音だけが部屋に響く。

 ようやくいつもの日常に戻った気がして、少しだけ気が緩んだ。


 十五分ほどして、ひとまずカレーが形になった、その時だった。


 ドンドン、と扉が叩かれる。


 火を止め、俺は訝しみながら玄関へ向かった。

 扉を開けると、そこに立っていたのは隣の部屋のおばさんだった。


「どうしました?」


「どうしたもこうしたもないよ、悠真!」


 開口一番、ものすごい勢いで詰め寄られる。


「こんな可愛い彼女を外に放置するなんて、あんたどういう魂胆だい!?」


「……は?」


 可愛い彼女?


 嫌な予感しかしないまま、おばさんの指差す方へ視線を向ける。


 すると、共用廊下の端で、見覚えのある銀髪が俺の漫画を勝手に読んでいた。

 しかも、座り方が無防備すぎて、こっちが視線の置き場に困るレベルだ。


 ――帰ってなかったのかよ!


「いや、違います。あれ俺とは赤の他人です」


「嘘つくんじゃないよ! この子があんたの部屋から出ていくところ、私はちゃんと見てたんだからね!」


「……」


 痛いところを突かれて、言葉に詰まる。

 最悪だ。


 廊下に放置して近所迷惑を続けさせるわけにもいかず、俺は結局、龍華を再び部屋に上げる羽目になった。


「あのな、いい加減に家へ帰れ。お前の――」


「お前じゃねぇ。龍華だ」


「……龍華」


「さんをつけろ」


「龍華さん」


「よし。続けろ」


 なんなんだこいつ。

 めちゃくちゃ腹立つな……!


「龍華さんの家庭の事情を、俺に持ち込むなって言ってるんだよ。俺と龍華さんはただの同級生で、それ以上でもそれ以下でもないだろ」


 わざと全部言い直してやると、龍華はなぜか満足そうに口角を上げた。

 そして次の瞬間、制服のポケットから一枚の紙を取り出して、俺の前に差し出す。


「じゃあ、これやる」


「……は?」


 受け取る前に見えた額面に、思わず眉が跳ねる。


 一万円札だった。


「宿代だ。これで文句ないだろ」


「お前な……」


「金を払えば問題ない。それが私が生きてきて学んだことだ」


 さらっと言ってのけるその声音に、妙な重さが滲んでいた。


 冗談半分で言っているのとは違う。

 たぶん、こいつの中では本当にそうなのだ。金を出せば相手は黙る。金を払えば居場所は確保できる。そういう世界で生きてきたんだろう。


 だから余計に、受け取る気にはなれなかった。


「しまえよ、そんなもん」


「……嫌なのか?」


「嫌とかじゃない」


 俺はため息混じりに額を押さえる。


「こんなことで金もらっても、全然嬉しくねぇんだよ。泊まるなら泊まるでいいから、そういうのはやめろ」


「……そうか」


 龍華は少しだけ目を丸くして、それから素直に一万円札を引っ込めた。


 なんだその反応。

 そこで食い下がらないのかよ。


「ただし、条件がある」


「なんだ」


「勝手に漫画読むな。勝手にベッド使うな。勝手に冷蔵庫開けるな。あと、風呂上がりに俺のTシャツ着るな」


「最後だけ妙に具体的だな」


「実害があったからな!」


「細かい男は嫌われるぞ」


「知るか!」


 叫ぶと、龍華はまた面白そうに笑った。


 ……本当に調子が狂う。

 こいつがいると、俺のペースがことごとく乱される。


「それで、夕飯は?」


「図々しさに限度ってもんがあるだろ」


「カレーの匂いがする」


「犬かお前は」


「一口くらいならいいだろ」


「一口で済む顔してない」


「偏見だな」


 そう言いながら、龍華はもう食卓の方へ視線を向けていた。

 断ってもどうせ居座るだろう。そう思った時点で、半分負けみたいなものだった。


 俺は鍋を見て、もう一度ため息をつく。


 ……まあ、量は多めに作ってある。

 一人分が二人分になるくらい、そこまで大差はない。


「食ったら静かにしろよ」


「お、優しいじゃん」


「勘違いするな。余ってるだけだ」


「ふふ」


「そこで嬉しそうに笑うな」


 龍華は返事の代わりに、鼻歌交じりで椅子に腰かけた。


 こうして、その日は仕方なく龍華を泊めることになった。


 放課後には西園寺優里を助け、

 家に帰れば西園寺龍華が居座っている。


 平凡とは程遠い。

 けれど、不思議と完全に嫌なわけでもない自分がいて、それが少しだけ癪だった。


 また俺の青春が、静かに揺れた気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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