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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹は、俺が本気で動くと急に静かになる

 読書週間の展示が始まって三日目の放課後、俺はまた図書室に呼ばれていた。


 理由は単純で、展示が予想以上に好評だったからだ。貸し出し冊数が増えた本には「いま人気です」と書いた札を追加したいだの、空いたスペースにもう数冊ぶんポップを足したいだの、図書委員は完全に味をしめていた。最初の一回だけのつもりで手伝ったはずなのに、気づけば便利屋みたいな扱いになっている。


 もっとも、俺一人なら断っていたかもしれない。

 だが、今日は最初から龍華と優里がいて、少し遅れて涼花も合流した。姉二人は同じ二年で、図書室の長机に並んで座っているだけでも妙に絵になる。そこへ同じ一年の涼花が加わると、空気が急に明るくなる。その三人が当たり前みたいな顔でペンを持っているせいで、俺も自然と席につくしかなかった。


 作業そのものは一時間ほどで終わった。

 前回より手際がいい。俺が短い文を考え、優里が紙面のバランスを整え、龍華が配色で締める。涼花は完成した札を並べて、「これ目立つ!」「こっちの方がかわいい!」と騒ぎながらも、最後にはちゃんと役に立つ。


 閉館時間ぎりぎりで図書室を出ると、外はまだ明るかったが、六月の湿気がまとわりつくように重かった。校門を抜け、駅前の方へ向かう間も、四人の話題は自然と展示のことに寄っていく。どの本が一番手に取られていたか、どの一文が効いていたか、図書委員が明らかに追加戦力として俺を見始めている件をどう誤魔化すか。そんなことをだらだら喋りながら歩いていた時だった。


 商店街へ入る手前で、空気が少しだけざらついた。


 何があったのか、最初は分からなかった。

 ただ、人の流れが妙に歪んでいた。道の端に避けるように歩く人、視線だけ向けて素通りする人、立ち止まるほどではないが明らかに面倒事を察している顔。そういうものが重なると、大抵ろくでもないことが起きている。


 視線を向けると、制服姿の中学生らしい男子二人が、商店街の外れにある自販機の横で三人組に囲まれていた。

 相手は高校生か、下手をするともう少し上かもしれない。髪色も服装も目立つし、態度も露骨に荒れている。金を出せだの、ジュースくらい奢れだの、その程度の言い回しだったが、立ち方で分かる。あれは口だけで脅している連中じゃない。押せば引く相手を見つけて、調子に乗るタイプだ。


 涼花も異変に気づいたらしく、足を止めた。

 優里の表情は一気に引き締まり、龍華は何も言わずに状況だけを見ていた。


 こういう時、俺はいつも最初の一歩が嫌いだ。

 見て見ぬふりをした方が楽なのは分かっている。けれど、目の前で困っているやつがいると、結局体が先に動く。


「龍華」


 小さく呼ぶと、龍華はすぐに俺を見た。


「なに」


「店の人か警察、呼べそうなら頼む」


 それだけで、龍華は察したらしい。

 軽く顎を引いて、無駄なことは聞かなかった。


「分かった」


「涼花と優里は、あんまり近づくな」


「神谷くん」


 優里が何か言いかけたが、今はそっちに答えている余裕がない。

 俺はそのまま三人組の方へ歩いた。


 近づいた瞬間、男の一人があからさまに眉をひそめた。

 面倒そうな顔。だが、その目の奥には、自分たちより弱そうな相手へ向ける軽い侮りがある。そういうのは分かりやすくて助かる。


「そのへんでやめといた方がいい」


 俺が言うと、三人のうち一番背の高い男が鼻で笑った。


「は? なんだお前」


「見りゃ分かるだろ。嫌がってる」


「関係ねぇだろ」


「あるよ。今できた」


 なるべく淡々と返した。

 相手を煽るつもりはない。だが、こういう連中は引く理由がないと止まらない。


 案の定、背の高い男が一歩前へ出た。

 肩でぶつかるみたいな距離まで来る。近い。酒臭くはないが、妙に息が荒い。まだ若いのに、喧嘩だけは何度かやっているタイプだ。


「お前、何カッコつけてんの」


「別に」


「なら失せろよ」


 言うなり、胸元を掴みにきた。


 その動きが見えた時点で、もう終わっていた。

 俺は半歩だけ体をずらして手首を外し、その勢いのまま相手の腕を下へ流す。崩れた体勢の足首を払うと、男は自分でも何が起きたか分からないまま地面へ尻もちをついた。


「は……?」


 残り二人の空気が変わる。


 こうなると早い。

 一人が反射で殴りかかってくる。大振り。真正面。避けてほしいと言っているような軌道だった。俺は頭をずらして拳を外し、みぞおちに短く入れる。息が詰まった男が前へ折れたところで肩を押し返すと、そのまま後ろへよろけた。


 最後の一人は、そこでようやく本気でまずいと気づいたらしい。

 それでも止まれず、怒鳴りながら突っ込んできた。

 俺はその手を取って体を入れ替え、壁際へ押さえつける。強くやりすぎないようにだけ気をつけた。動けなくすればそれでいい。壊す必要はない。


「……まだやるか?」


 耳元じゃなく、少し離れた位置で言う。

 そうすると、相手は余計に温度差を感じるのか、急に勢いを失うことが多い。


 実際、その男は歯を食いしばったまま何も返せなかった。


 数秒遅れて、龍華が商店街の店員らしい男性を連れて戻ってきた。

 さらにその後ろから、巡回中の警備員らしい人影も見える。これなら大丈夫だと思って、俺はようやく手を離した。


 三人組は、露骨に俺を睨みつけはしたが、さっきまでの威勢はなかった。店員と警備員に囲まれ、中学生たちからも離される。あとは大人に任せた方がいい。


 そう判断して振り返ると、少し離れた場所で三姉妹が並んで立っていた。


 涼花は分かりやすく目を見開き、優里は少し青ざめたまま俺の全身を見ている。龍華だけは、最初に状況を受け入れたみたいな顔で、でも目だけはいつもより静かだった。


「怪我は」


 最初に口を開いたのは優里だった。


「ない、と思います」


「思います、じゃなくてちゃんと見てください」


 珍しく語気が強い。

 たぶん、それだけ焦っているのだろう。


 涼花は今さら息を吐いたみたいに肩の力を抜いた。


「……すご」


「おい」


「いや、だって、ほんとに一瞬だったし……」


 涼花の声には、驚きと安堵が混ざっていた。

 前に優里を助けた時の話は聞いていたんだろうし、龍華も俺が喧嘩に強いことは知っている。けれど、実際に目の前で見るのはまた別なんだと思う。


 龍華が俺の右手をちらっと見た。


「指、少し赤いな」


 言われてみれば、最後に押さえた時に少し擦ったらしい。

 痛いほどではないが、たしかに赤くなっている。


「これくらい平気だ」


「平気でも冷やせ」


 龍華はそれだけ言って、さっさと歩き出した。

 行き先を聞く必要はなかった。俺の部屋だ。たぶん、今この場にいる全員がそう思っている。


 結局、そのまま四人でアパートへ戻ることになった。

 道中は珍しく静かだった。涼花でさえ余計なことを喋らず、優里は何度か俺の手元を見て、何か言いたそうにしては飲み込んでいた。龍華だけはいつも通りに見えたが、歩幅がほんの少しだけ俺に合わせられていることに気づいてしまうと、そこまで平然ともしていられない。


 部屋へ入るなり、優里が洗面所でタオルを濡らし、龍華が保冷剤を冷凍庫から引っ張り出した。

 お前ら、動きが自然すぎるだろ。


 ラグの上へ座らされ、右手に冷たいタオルを当てられる。

 大した怪我でもないのに、この扱いは少し落ち着かない。


「ほんとに大丈夫だって」


「大丈夫でもです」


 優里は譲らなかった。

 やわらかい口調なのに、こういう時は引かない。


 涼花は正面に座ったまま、まだ少しだけ興奮が抜けていない顔をしていた。

 けれど、その目はさっきまでみたいな無邪気さだけじゃない。ちゃんと心配していたことが分かる。


「神谷くん」


「なんだ」


「前から思ってたけど、ほんとに強いんだね」


「そういうこと、あんまり大きい声で言うな」


「今は大きくないよ」


「そういう問題でもない」


 龍華が保冷剤をタオル越しに押しつけながら、ぼそっと言った。


「でもまあ、助かったのは事実だ」


「大人呼んだのはお前だろ」


「それでも、最初に止めたのはお前だ」


 真っ直ぐそう言われると、少し返しに困る。


 優里は俺の手元を見たまま、小さく息をついた。


「無茶はしないでください」


「無茶ってほどでも」


「私には十分そう見えました」


 それは、たぶん本心だった。

 優里は強い言葉を使わない分、こういう時の重みがある。


 涼花も、その横で珍しくすぐには茶化さなかった。


「かっこよかったのは、ほんと。でも、ちょっと怖かった」


「……悪い」


「ううん。神谷くんが悪いっていうか、あの人たちが悪いんだけど」


 そこで涼花は一度言葉を切って、少しだけ視線を落とした。


「でも、怪我したら嫌だなって思った」


 その一言で、部屋の空気が静かになる。


 龍華は何も言わなかったが、否定もしなかった。

 優里もまた、同じことを思っていた顔をしている。


 俺はこういう時、なんて返せばいいのか分からない。

 喧嘩が強いのは事実だ。負ける気もしない。けれど、それを心配する側がどう見ているのかまでは、正直あまり考えてこなかった。


「……なるべく、気をつける」


 結局、そうとしか言えなかった。


 それでも、三人には十分だったらしい。

 優里は少しだけ表情をやわらげ、涼花は安心したように息を吐き、龍華は「ならいい」と短く言った。


 そのあと、ようやく部屋にいつもの空気が戻ってきた。

 涼花は「でも最後の払い方すごかった」と結局また目を輝かせ始め、優里は「そこを褒める場面ではありません」と言いながらも、完全には止めきれていない。龍華は「動きが無駄なくて腹立つ」と妙な感想をよこしてきた。


 いつものように騒がしくて、少しだけ安心する。


 ただ一つ分かったのは、こいつらは俺が強いことを面白がるだけじゃなくて、ちゃんと怖がって、ちゃんと心配もするということだった。


 それを知ってしまうと、次から同じように動けるかどうかは、少しだけ自信がなくなる。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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