表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

学年一可愛い令嬢三姉妹は、噂が立つと当然みたいに俺の部屋で作戦会議を始める

 翌朝。

 教室に入った瞬間、俺は確信した。


 今日は、ろくな一日にならない。


 理由は単純だ。

 空気が、妙にざわついている。

 しかもそのざわつきが、明らかに俺の周辺へ向いていた。


「神谷」


 席に着く前に、佐伯がわざわざこっちへ寄ってきた。


「……なんだよ」


「昨日さ」


「嫌な入り方するな」


「西園寺と相合い傘してたってマジ?」


 即死級の一撃だった。


「誰が見たんだよ」


「駅前にいた二年の先輩が見たらしい」


「拡散速度どうなってんだこの学校」


 最悪だ。

 雨の日の相合い傘だけでも十分まずいのに、そこから涼花が俺の部屋へ来て、そのあと優里と龍華まで来た、なんて事実まで知られたらいよいよ終わる。


「いや、別に大したことじゃない」


「相合い傘は大したことあるだろ」


「雨がひどかったからだ」


「でも西園寺涼花だぞ?」


「そこに価値を乗せるな」


 すると、後ろの席の男子まで会話へ乗ってきた。


「神谷ってさ、もしかして西園寺の誰かと付き合ってんの?」


「付き合ってない」


「でも最近、三姉妹と一緒にいるのめっちゃ見るけど」


「俺も見てる」

「俺も」

「昨日の相合い傘、普通にやばくね?」


「お前ら、朝から元気だな……」


 やめてくれ。

 注目されると寿命が縮むタイプなんだ俺は。


「神谷くん、おはよー!」


 そして、よりにもよって当事者がやって来た。

 西園寺涼花。

 今日も今日とて朝から全力である。


「……おはよう」


「なにその顔。寝不足?」


「お前のせいでな」


「え、わたし!?」


「お前も含む」


 そう返すと、涼花はきょとんとしてから、周囲の空気に気づいたらしい。

 ぴたりと動きを止める。


「……あれ?」


 遅い。

 もう手遅れだ。


 ざわ、と教室の空気が揺れる。

 クラスメイトたちの耳が、分かりやすくこっちへ向いていた。


「涼花」


 俺が小さめの声で言う。


「昨日のこと、変に広まってる」


「……相合い傘のこと?」


「それ以外に何がある」


「えっ、そんなの別に――」


「お前にとっては別にでも、こっちにとっては別なんだよ」


 俺が額を押さえると、涼花は少しだけ申し訳なさそうな顔になった。


「ご、ごめん……」


「いや、お前が悪いわけじゃないけど」


 あの状況で放っておけなかったのは俺だ。

 だからそこを責める気はない。

 でも、学校で噂になるのは勘弁してほしい。切実に。


「じゃあ、ちゃんと説明する!」


「は?」


 涼花はくるっと振り返ると、ざわついていたクラスの連中へ向かって、ぱん、と手を打った。


「みんなー! ちょっと聞いて!」


「お、おい」


 止める間もなかった。


「昨日の相合い傘のやつ、変な意味じゃないからね! 雨がすごくて、神谷くんが駅まで入れてくれただけだから!」


 教室がしんと静まる。


 おい。

 お前、こういう時だけ躊躇なしかよ。


「で、そのあと神谷くんのお部屋で――」


「待て待て待て!」


 俺は反射的に立ち上がって、涼花の口を塞ぎかけた。

 危なかった。

 その先を言われたら終わりだ。


「んーっ!?」


「お前は説明が下手なんだよ!」


 クラスが爆発した。


「部屋!?」

「え、入ったの!?」

「神谷、お前……!」


「違う! 誤解を招く言い方をするな!」


 だが時すでに遅し。

 教室の空気は一気に熱を持ち、ひそひそ声どころじゃなくなっていた。


「神谷くん、ご、ごめん……」


 涼花がしゅんとする。

 その顔を見ると強くは言えない。言えないんだけど。


「……あとで話そう」


「う、うん」


 朝から致命傷だった。


 ※ ※ ※


 昼休み。

 当然のように、俺は屋上への階段踊り場に避難していた。


 教室にいると視線が痛すぎる。

 今の俺に必要なのは静寂だ。あと現実逃避。


「逃げたな」


 聞き慣れた声に顔を上げる。

 龍華だった。


「逃げた」


「潔いな」


「お前、なんでいるんだよ」


「優里に頼まれた」


 そう言って、龍華は俺の隣の段差へ腰を下ろした。


「朝の件、聞いた」


「だろうな」


「涼花がやらかしたらしいな」


「説明しようとして、余計に燃料を投下した」


「想像つく」


 即答だった。

 否定できないのがつらい。


 少し遅れて、優里も姿を見せた。


「神谷くん、ごめんなさい。涼花、かなり反省してます」


「いや、まあ……悪気ないのは分かってるんで」


「でも、神谷くんが困るようなことになったのは事実ですから」


 優里はそう言って、俺の前に紙パックのミルクティーを差し出してきた。


「差し入れです」


「なんでこういう時だけ気遣いが完璧なんですか」


「こういう時だからです」


 柔らかく言われて、受け取るしかなくなる。


「涼花は?」


「下でしょげてる」


 龍華が肩をすくめた。


「私がちょっと脅してきた」


「何してんだよ」


「自覚持てって言っただけだ」


「お前の“だけ”は信用ならないんだよ」


 龍華はふん、と鼻を鳴らした。


「それで」


 優里が俺を見る。


「今日の放課後、少しお時間もらえますか?」


「嫌な予感しかしない」


「噂の件、整理したくて」


「整理?」


「今のままだと、神谷くんだけが損をする形になりそうなので」


 たしかに、現状いちばん面倒なのは俺だ。

 三姉妹はもともと目立つ側だから多少の噂にも慣れているだろうが、俺は違う。


「どこで話すんだよ」


 そう聞いた瞬間、龍華と優里が一瞬だけ目を合わせた。

 嫌な予感がする。


「神谷くんのお部屋で」


「なんでだよ」


「落ち着いて話せるからです」


「その理由、最近万能すぎない?」


「実際そうだろ」


 龍華まで当然みたいに言う。


「しかも今日、涼花がかなり落ち込んでる」


「……」


「お前、あいつがしおらしいままでいいのか?」


「言い方が腹立つな」


「事実だ」


 たしかに、涼花が反省しているなら、ちゃんと聞いてやった方がいいとは思う。

 思うんだけど。


「どうして噂対策の会議場所が俺の部屋になるんだ……」


「もう半分ホームみたいなものですし」


「優里、その認識はやめてくれ」


 だが、結局断りきれなかった。


 ※ ※ ※


 放課後。

 俺が部屋の扉を開けた時には、すでに負けを悟っていた。


「お邪魔しまーす……」


 いつもなら無駄に元気な涼花が、今日はかなり小さな声で入ってきた。

 ほんとに落ち込んでるな。


「いや、まあ、上がれよ」


「……うん」


 ラグの上へ座る涼花は、見るからにしょんぼりしていた。

 優里はその横へ座り、龍華はいつものようにベッドへ腰掛ける。


 なんだこの配置。

 すっかり定着してるのが怖い。


「……ごめんなさい」


 最初に口を開いたのは涼花だった。


「朝のやつ」


「うん」


「わたし、ちゃんと説明しようと思ったんだけど……」


「それは分かる」


「でも、余計なことまで言いそうになって……」


「それも分かる」


「本当にごめん」


 そこまで素直に謝られると、怒る気もなくなる。


「悪気がないのは知ってる」


 俺はそう言って、テーブルに買ってきたペットボトルを置いた。


「ただ、お前は勢いで喋る癖を少しどうにかした方がいい」


「はい……」


「返事が素直すぎて逆に怖いな」


 俺が呟くと、龍華が鼻で笑う。


「今のこいつ、しょんぼりした大型犬みたいなもんだからな」


「誰が大型犬!」


「元気出たな」


「っ……」


 涼花がむっとしたあと、少しだけ口を尖らせる。

 よかった。そっちの方がいつも通りだ。


「それで、対策って何するんだよ」


 俺が本題へ戻すと、優里がきちんと姿勢を正した。


「まず、変に否定しすぎないことです」


「は?」


「噂って、慌てて否定すると逆に広がるんです」


「経験談か?」


「多少は」


 さらっと何を言うんだこの人は。


「なので、昨日のことは“雨だったから送ってもらっただけ”で統一しましょう」


「それは事実だな」


「はい。それ以上でもそれ以下でもなく」


 優里はそこで一度言葉を切って、少しだけ笑った。


「部屋に入ったことは……必要なら言ってもいいですが」


「必要ないだろ!」


「私もそう思います」


「なら最初から候補に出すな」


 龍華が横から口を挟む。


「で、三姉妹全員入り浸ってる件は?」


「入り浸ってるって自覚あったのか」


「あるに決まってるだろ」


 その自覚を行動に反映してくれ。


「それは……」


 優里が少し考えるように視線を落とす。


「隠しきれないと思います」


「だろうな」


「ですので、“本を借りたり、みんなで話したりしている”くらいの柔らかい表現がよさそうです」


「嘘ではないな」


「はい。嘘ではないです」


 優里は穏やかに頷く。

 なんだろう。

 噂対策なのに、俺の部屋が三姉妹の交流拠点みたいな扱いになっているのが引っかかる。


「神谷くん」


 涼花が、おそるおそるという感じでこっちを見た。


「……やっぱり、わたしたちが部屋に来るの、やめた方がいいかな」


 その一言に、部屋の空気が少しだけ静かになった。


 優里も龍華も、何も言わない。

 二人とも、俺の答えを待っていた。


「……それは」


 俺は少しだけ考えてから、ため息をつく。


「正直、噂は面倒だ」


「うん……」


「でも、だからって全部やめるのも、なんか違う」


「……!」


「お前らが来るようになって、生活のペースはだいぶ崩れたけど」


「悪かったな」


 龍華がぼそっと言う。


「いや、お前は崩し役筆頭だけど」


「否定はしない」


 する気ないのかよ。


「でも」


 俺は言葉を継ぐ。


「帰ってきて、部屋が静かすぎるって思う日は減った」


 涼花が目を丸くした。

 優里は少しだけ目を細め、龍華は黙って俺を見る。


「だから、噂が面倒だから来るな、とは言わない」


「神谷くん……」


「ただし、学校ではちょっと落ち着け」


「はいっ!」


 涼花が勢いよく返事をした。

 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったのかというくらい大きな声だ。


「復活早いな」


「だって、ちゃんと怒られたあとに許してもらえたし!」


「許してはない」


「でも来るなとは言ってない!」


「拡大解釈が早いんだよ」


 すると、優里がくすっと笑った。


「でも、ありがとうございます」


「何がですか」


「神谷くんが、ここを閉じないでいてくれたことです」


 またそういう言い方をする。

 こっちは弱いんだよ、そういうのに。


「私は最初からそうなると思ってたけどな」


 龍華が腕を組んだまま言う。


「お前、なんだかんだ甘いし」


「お前に言われたくない」


「私は事実しか言わない」


「言い方が気に食わない」


「でも、神谷くん優しいもん」


 涼花が元気を取り戻した顔で笑う。


「昨日もそうだし、今日もそうだし」


「優しいで片づけるな。単に流されてるだけかもしれないだろ」


「流されるだけの人は、困ってる人に傘貸したりしないです」


 優里のその言葉に、少しだけ言葉が詰まる。


「……お前ら、今日はやけに褒めてくるな」


「今日は反省会でもあるので」


「どういう理屈だよ」


「神谷くんにちゃんと感謝を伝える会?」


 涼花が言う。


「そんな会、今ここで勝手に発足させるな」


「いいですね」


「優里まで乗るのか」


「私は感謝してますよ、いつも」


「……」


 駄目だ。

 正面から来られると反応に困る。


 龍華がそんな俺を見て、ふっと笑った。


「ほんと、分かりやすいな」


「何がだよ」


「褒められるの慣れてない顔してる」


「うるさい」


「でも」


 龍華はそこで少しだけ目を逸らして、続けた。


「……感謝してるのは、私も同じだ」


「お前までそういう流れに乗るのかよ」


「悪いか」


「悪くないけど調子狂う」


 龍華は鼻を鳴らしたが、どこか少しだけ照れくさそうだった。


 その空気をぶち壊すように、涼花がぱっと手を挙げる。


「じゃあさ! 今日は反省会ってことで、みんなで勉強しようよ!」


「なんでそうなる」


「だって、もうすぐ小テストあるじゃん!」


「ああ……」


 そういえばあった。

 完全に忘れていた。


「神谷くん、英語得意?」


 優里が聞いてくる。


「普通です」


「数学は?」


「それも普通」


「じゃあ、わたしに教えて!」


「結局それが目的か?」


「半分くらい!」


「正直だな」


 龍華が呆れたように笑う。


「私は別に勉強は困ってない」


「自慢か」


「事実だ」


「でも龍華お姉ちゃん、国語でたまに変な読み方するよね」


「しない」


「前に“凡庸”読めてなかったじゃん」


「それは……雰囲気で読んでただけだ」


「読めてないのと同義なんだよ」


 気づけば、さっきまでの反省会めいた空気はすっかり消えていた。

 いつものように騒がしくて、まとまりがなくて、でも妙に落ち着く空気だ。


 俺は小さく息をつきながら、机の上のノートを手に取った。


「一時間だけな」


「やったー!」


「ありがとうございます」

「まあ、ついでだな」


「お前ら、反省会の趣旨どこ行った」


 でも、まあいいかと思う。


 噂は面倒だ。

 学校で視線を浴びるのも、正直しんどい。

 それでも、この部屋で三姉妹が当たり前みたいに座って、話して、笑っている光景は、もう簡単には切り離せないものになっていた。


 そのせいで平穏は確実に削られている。

 けれど同時に、確かに俺の毎日を埋めてもいるのだ。


「神谷くん、ここ分かんない!」

「お前、なんでその式でそこへ飛ぶんだよ」

「私は英語見ますね」

「龍華、お前は?」

「漫画読む」

「勉強しろ!」


 部屋の中に、またいつもの騒がしさが戻ってくる。


 また俺の青春が、噂と雨上がりの匂いの残る放課後に、大きく揺れていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ