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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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10/14

学年一可愛い令嬢三姉妹は、雨の日まで当然みたいに俺の部屋へ避難してくる

 翌日。

 教室に入った瞬間、俺はもう嫌な予感しかしなかった。


「神谷」


 案の定、席に着く前に佐伯が話しかけてくる。


「……なんだよ」


「昨日、お前また西園寺たちといたってマジ?」


「誰情報だよ」


「見たやつがいる」


 最悪だ。

 休日のショッピングモールでの遭遇が、こんな最悪な形で反映されるとは。


「いや、別に……たまたまだ」


「たまたまで三姉妹と休日に並んで買い物行くか?」


「行かないな」


「ならもう答え出てるだろ」


「何も出てないんだよ」


 俺が真顔で返すと、佐伯はなぜか感心したような顔をした。


「神谷、お前さ」


「なんだ」


「もしかして、思ってるよりすごい奴?」


「その評価のされ方、全然嬉しくない」


 しかも、会話している間にもクラスのあちこちから視線が飛んでくる。

 最近ほんとに駄目だ。

 俺の静かな高校生活が、目に見えて崩れてきている。


「神谷くん、おはよー!」


 そして、追い打ちをかけるように朝の太陽が来た。

 西園寺涼花。

 今日も朝から元気いっぱいである。


「……おはよう」


「なんか朝から疲れてる?」


「誰のせいだと思ってる」


「えー、わたし?」


「お前ら全員だよ」


「全員ってひどくない!?」


 ひどくない。

 むしろ正確だ。


 涼花は俺の机の横へしゃがみ込むと、にしし、と楽しそうに笑った。


「でも、昨日の部屋いい感じだったよね!」


「だから朝の教室でその話をするな」


「なんで?」


「なんでじゃない」


 朝から自分の部屋の話題を振られる男子の気持ちを考えてほしい。

 しかも相手は西園寺三姉妹の三女である。

 誤解しか生まれない。


「神谷くん」


 今度は教室の後ろから優里の声がした。

 最近この流れ多くないか。


「昨日のライト、やっぱり使いやすかったですか?」


「……使いやすかったです」


「よかったです」


 優里が柔らかく微笑む。

 そのやり取りだけで、また周囲がざわつく。


 やめてくれ。

 照明器具の使用感を学校で報告し合う関係って何なんだよ。


「おい」


 さらに廊下から龍華の声。


「今日、雨降るらしいぞ」


「急に天気予報?」


「帰り、面倒かもな」


「別に俺は折りたたみあるから」


「ふーん」


 それだけ言って、龍華は去っていく。

 なんだったんだ今の。


「龍華お姉ちゃん、朝からなんか変じゃなかった?」


 涼花が首を傾げる。


「いつも変だろ」


「それはそうだけど!」


 いや認めるのかよ。


 その日の空は、昼前からどんどん暗くなっていった。

 窓の外は灰色で、湿った風が教室へ入り込んでくる。


 そして放課後。

 予報通り、いや予報以上に、雨は強かった。


 ざあざあと音を立てる本降り。

 校舎の屋根を叩く雨音が、やたらと大きく響いている。


「うわ、すご……」


 昇降口で外を見た涼花が、素直に声を漏らした。


「部活、今日は中止だって!」


「そりゃこの雨じゃな」


「神谷くん、傘ある?」


「ある」


「いいなあ……」


 涼花がしょんぼりと肩を落とす。


「忘れたのか」


「うん。朝、こんなに降ると思わなくて」


「まあ、昼までは降ってなかったしな」


 優里は使用人に迎えを頼んでいるらしく、龍華も同じようなものだろう。

 だからそこまで困ってはいなさそうだった。


 問題は、涼花だ。

 本人は明るくしているけど、どう見ても困ってる。


「迎え来るまで待てばいいだろ」


「それがね、ちょっと時間かかるみたいで」


「じゃあ待て」


「うー……」


 涼花は不満そうに窓の外を見る。

 その横顔が少しだけしょんぼりしていて、なんとなく気まずい。


「……じゃあ、駅前までなら傘入るか?」


 気づけば、そんなことを言っていた。


 言った瞬間、涼花の顔がぱっと明るくなる。


「いいの!?」


「駅前までな。そこから先は知らん」


「やったー!」


 飛び跳ねるな。

 そんな嬉しそうにされると、こっちが変な顔できなくなるだろ。


「神谷くん」


 優里がこちらを見る。


「すみません、ありがとうございます」


「別に。それくらいなら」


「涼花、あまり困らせちゃ駄目ですよ」


「分かってるって! ちゃんと大人しくしてる!」


「その宣言、あまり信用できないな」


 横から龍華がぼそっと言う。


「うっさい!」


 そんなわけで。

 俺は放課後の本降りの中、西園寺涼花と二人で相合い傘をすることになった。


 ※ ※ ※


「せまいね!」


「当たり前だろ、一人用なんだから」


 傘の下。

 涼花は妙に楽しそうだった。


 肩が近い。

 いや、近いどころじゃない。

 腕が当たるか当たらないかの距離で歩いているせいで、こっちはずっと落ち着かない。


 しかも涼花は、雨に濡れないようにとこっちへ寄ってくる。

 必要な行動なのは分かる。

 分かるんだけど、慣れてない俺には心臓に悪すぎる。


「神谷くん、優しいね」


「今それ言うか?」


「だってほんとだもん」


「見捨てるのも後味悪いだけだ」


「それでも、助けてくれたじゃん」


 雨音の中で、涼花の声だけが妙にはっきり聞こえる。


「わたし、こういう時に自然に動ける神谷くん、けっこう好きだよ」


「……」


「うわ、今、絶対意識した」


「してない」


「したね?」


「してないって」


「ふふっ」


 くそ。

 楽しそうに笑いやがって。


 駅前まで来たところで、ますます雨脚が強くなった。

 むしろ、最初より悪化している気すらする。


「……これ、止む気配ないな」


「ないね」


 涼花が空を見上げる。

 傘の縁から少しだけ頬が濡れていた。


「迎え、まだ時間かかりそう?」


「うん。道も混んでるみたい」


「そうか」


 駅前で立ち止まっていても仕方ない。

 けど、どこかで雨宿りさせるにしても、このあたりで長くいられる場所なんて限られている。


 そして俺の家は、ここから近い。


「……一回、うち来るか?」


「えっ」


「雨、ひどすぎるし。迎え来るまで待つだけなら、別に」


 言いながら、自分で何を言ってるんだ俺は、と思う。

 でも涼花はすぐに、嬉しそうに笑った。


「行く!」


「返事早いな」


「だって神谷くんの部屋、落ち着くし!」


「それ最近よく言われるけど、全然納得いってないからな俺は」


「えへへ」


 こうして。

 俺はまたしても西園寺三姉妹の一人を、自分の部屋へ連れて帰ることになった。


 しかも今回は、涼花と二人きりで。


 ……大丈夫か、俺。


 ※ ※ ※


「ただいまー!」


「お前の家じゃないんだよ」


 部屋へ入るなり、涼花はいつもの調子で明るく声を上げた。

 だが、玄関で靴を脱いだところで、ようやく自分の制服の裾がかなり濡れていることに気づいたらしい。


「うわ、けっこう濡れてる……」


「そりゃあの雨だからな」


 俺はタオルを二枚出して、一枚を涼花へ渡した。


「とりあえず拭け。風邪ひくぞ」


「ありがと!」


 髪をわしゃわしゃ拭く姿が、妙に子どもっぽい。

 いつも教室で見る時より、今の方がずっと素に近いのかもしれない。


「制服、どうする」


「んー……」


 涼花が困ったように自分のスカートを見る。

 たしかに、上はまだしも、裾のあたりは結構濡れている。


「ジャージならあるけど」


「え、借りていいの?」


「今のままよりましだろ」


「やった!」


 やった、じゃない。

 こっちは全然平常心じゃないんだが。


 俺は洗濯したまま畳んであったジャージと、適当なTシャツを取り出して渡した。


「奥使っていいから、着替えてこい」


「ありがとー!」


 涼花は素直にそれを受け取って、狭い部屋の奥でごそごそし始めた。

 見ないように、と自分へ言い聞かせて、俺は冷蔵庫から麦茶を取り出す。


 数分後。


「どう?」


「どうって……」


 振り返って、少しだけ固まった。


 でかい。

 当たり前だ。俺の服なんだから。

 でも、ぶかぶかのTシャツにジャージ姿の涼花は、想像以上に破壊力があった。


「似合わない?」


「いや……似合うとかそういう問題じゃなくて」


「変?」


「変じゃない」


「じゃあいいじゃん!」


 理屈としてはそうだが、そういうことじゃない。


 涼花はラグの上にちょこんと座ると、足を投げ出して大きく息をついた。


「はー……助かったあ」


「大げさだな」


「大げさじゃないよ。あのまま駅で待ってたら、たぶん凍えてた」


「六月だぞ」


「気分の話!」


 相変わらず雑だ。


 俺も向かいに座り、新しいマグカップへ麦茶を注いだ。

 それを見て、涼花が目を細める。


「そのコップ、優里お姉ちゃんたちと買ったやつだよね」


「マグカップな」


「ちゃんと使ってるんだ」


「使うだろ、普通に」


「ふふっ。なんかうれしい」


「なんでお前が嬉しいんだよ」


「だって、みんなで選んだやつだもん」


 そう言われると、否定しづらい。


 雨音が窓の外で続いている。

 狭い部屋に、雨の音と、俺たち二人の声だけがある。


 ……妙だ。

 涼花と二人きりって、こんな感じなのか。


 学校ではいつも賑やかで、誰とでも話して、教室の中心にいるようなやつ。

 けど今は、ラグの上で俺のジャージを履いて、落ち着いた顔で雨の音を聞いている。


「神谷くん」


「なんだ」


「わたしさ」


 涼花は膝を抱えたまま、こっちを見た。


「最近、ここに来るの、すごく楽しみなんだよね」


「……また急だな」


「だってほんとだもん」


 飾らない声だった。


「お姉ちゃんたちと来るのも楽しいし、みんなで騒ぐのも好き。でも、神谷くんの部屋って、なんか安心する」


「お前ら、ほんとによくそれ言うな」


「だってそうなんだもん」


 涼花は笑って、それから少しだけ真面目な顔になる。


「神谷くんって、学校だとちょっと遠い感じあるじゃん」


「遠い?」


「うん。話してくれるし、優しいけど、自分から中に入ってくる感じはあんまりないっていうか」


「……まあ、それは」


 否定はできない。

 実際、俺はそういう人間だ。


「でもここだと、ちょっと違う」


「そうか?」


「うん。ご飯作ってる時とか、本の話してる時とか、なんかちゃんと近い感じする」


 近い。

 その言葉が、なぜか少しだけ胸に残った。


「だから、もっと知りたいなって思う」


「……」


「神谷くんのこと」


 真っ直ぐだった。

 雨の音よりも、そっちの方がうるさいくらいに。


「お前、それ誰にでも言ってるわけじゃないよな」


「言わないよ?」


 涼花はきょとんとしてから、すぐに笑った。


「神谷くんだから言ってるの」


「そういうの、さらっと言うな」


「なんで?」


「困るからだ」


「えへへ、困ってる」


「楽しむな」


 くそ。

 これだから涼花は厄介だ。

 悪気なくまっすぐだから、こっちの防御が間に合わない。


 その時だった。


 ピンポーン。


「……」


「……」


 部屋の空気が止まる。


「誰だ」


「え、もしかして迎え?」


「いや、さすがにタイミングが良すぎるだろ」


 俺が立ち上がって玄関へ向かうと、扉の向こうから聞き慣れた声がした。


「神谷くん、いますか?」


 優里だ。


「……なんで?」


 扉を開けると、優里が傘を差したまま立っていた。

 その隣には、案の定、龍華もいる。


「やっぱり」


 龍華が俺の顔を見るなり言った。


「涼花、ここにいたか」


「なんで分かったんだよ」


「分かるだろ」


 分かるのかよ。


「涼花が迎えを待てずに動きそうだったので」


 優里が少し苦笑する。


「念のためと思って来てみたら、やっぱりでした」


「なんでそこで確信持てるんですか」


「なんとなくです」


 その“なんとなく”の精度が高すぎるんだよな。


「お姉ちゃーん!」


 奥から涼花の声。

 しかも俺のジャージ姿のままである。


「見て見て! 神谷くんの服借りた!」


「見れば分かる」


 龍華が即答する。

 優里は一瞬だけ目を丸くし、それからなぜか静かに微笑んだ。


「……ずいぶん先に進んでますね」


「語弊のある言い方やめてください!」


「ち、違うよ!? 濡れたから借りただけで!」


 涼花が慌てる。

 それでも耳が赤い。


「へえ」


 龍華がじっと涼花を見る。


「一人で抜け駆けか」


「抜け駆けじゃないもん! たまたま雨で!」


「結果として一人で神谷の部屋にいる時点で十分抜け駆けだろ」


「龍華お姉ちゃんは黙って!」


 玄関先で騒ぐな。

 近所に聞こえるだろ。


「……とりあえず、入ります?」


 俺が半ば諦めながらそう言うと、優里が小さく会釈した。


「では、お言葉に甘えて」


「私たち、雨の中ここまで来たしな」


「お前ら、そうやって既成事実みたいに上がるのやめろ」


 そして結局。

 またしても三姉妹全員が俺の部屋に揃うことになった。


 しかも今回は、雨宿りという名目つきで。


 ※ ※ ※


「……なんか、すごく負けた気分だ」


 俺がそう呟くと、涼花がラグの上で笑った。


「何に?」


「色々だよ」


 優里は濡れていないからそのまま座り、龍華は当たり前のようにベッドへ腰掛けている。

 この構図、もう自然になりすぎていて怖い。


「でも、神谷くん」


 優里が穏やかに言う。


「涼花を入れてくれて、ありがとうございました」


「まあ、あのまま駅前に放置するのもあれだったので」


「やっぱり優しいですね」


「そういうのはいいです」


 即答すると、優里は少しだけ楽しそうに笑った。


「神谷くんって、ほんと照れますよね」


「照れてないです」


「照れてるよ!」


 涼花が元気よく乗っかる。


「さっきもめっちゃ困ってたし!」


「お前が余計なこと言うからだろ」


「でも、神谷くんと二人で話せて、わたしは嬉しかったよ?」


「っ……」


「おい、やめろ。今この場でそれ言うのは反則だろ」


 龍華が若干不機嫌そうに口を挟んだ。


「なんで龍華が文句言うんだよ」


「聞いてて腹立つからだ」


「理不尽すぎる」


「でも、私もちょっと羨ましいです」


 優里がさらっと言う。


「雨のおかげとはいえ、涼花だけ先に神谷くんとゆっくり話せたわけですから」


「優里まで!?」


 なんだこの流れ。

 急に全員、距離を詰める方向へ素直になってないか。


「な、なんか……ごめん?」


 なぜか涼花が謝る。

 だがその顔は少しだけ嬉しそうだ。


「別に謝らなくていい」


 龍華が言う。


「次は私が一人で来る」


「宣言するな!」


「じゃあ私も」


「優里まで乗らないでください!」


「えー! じゃあわたしもまた一人で来る!」


「競うな!」


 三姉妹がそれぞれ好き勝手なことを言う。

 部屋の中は騒がしいのに、外では相変わらず雨が降り続いていた。


 けれど、その騒がしさが妙に心地いい。

 なんて思ってしまった瞬間、俺は内心で深くため息をつく。


 もう駄目だ。

 完全に慣らされている。


「神谷くん」


 涼花が、俺の借りたTシャツの袖をちょっとだけつまむ。


「また、雨の日じゃなくても二人で話そうよ」


「……二人って強調するな」


「だって大事だもん」


 その横で、優里が穏やかに微笑む。


「私も、そのうちゆっくりお話ししたいです」


「私はお前の本棚、まだ全部見てない」


「龍華、お前だけ会話の目的が違うな」


「実用的だろ」


「どこがだよ」


 三人三様に、こっちの平穏を削ってくる。

 でも、そのどれもが不思議と嫌じゃない。


 学年一可愛いS級の美少女令嬢三姉妹が、なぜかやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について。


 その“入り浸り”は、もう日常の延長になりつつある。

 晴れの日も、放課後も、休日も、そして雨の日まで。


 どう考えてもおかしい。

 でも、それをおかしいままで終わらせないくらいには、俺の毎日はこいつらに染まり始めていた。


「神谷くん、今なんか考えてた?」


 涼花が顔を覗き込んでくる。


「別に」


「嘘だー」


「嘘じゃない」


「じゃあ、顔赤いのは?」


「赤くない」


「ちょっと赤いですね」

「赤いな」


「お前ら、そういう時だけ息ぴったりなのやめろ!」


 部屋の中に、三人分の笑い声が広がる。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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