エピローグ:お礼
こちらでラストになります。
ペットボトルのお茶の蓋、それを特に意味もなく解放と締結を繰り返す田中少年は今、修学旅行のバスの中で一人窓からの色彩豊かな景色を眺めていた。
いや、正確には景色を見ている体で、そこに映る女子生徒を見ていたのだ。同じクラスになってから、まったくもって頭から離れない木村さんである。
田中少年が密かに想いを寄せる娘である。名字までかわいいと思ってしまう熱の入れようである。それまで記号でしかなかった女子生徒という概念が、彼女を初めて見た瞬間に、色彩を持って世界から立ち上がったのだ。
形の良い唇に、涼しげな目元と柔らかい輪郭。パーフェクト!田中少年のやけに上からの評価は100点満点であった。
しかし、開け閉めを繰り返した指先は熱く、ギザギザの刻印が指紋に上書きされている。どこかの誰かから木村さんは告白されていたのだ。
田中少年が木村さんに抱く恋心は、どこかの誰かによって離れて行ってしまう。進展どころか、そもそも存在しなかったことにされてしまう。
告白する度胸も、相手が誰かを探る勇気もないけど、そんなのは嫌なのだ。
悶々とモヤモヤを上昇させ、ピークに達した時、田中少年の目は最大限に見開かれた。
「龍」が現れたのだ。
窓の外、山と山の間を縫うように空中に這う巨大な龍。
それは、波形鋼板を用いた新しい高速道路。建設中の「新名神高速道路」である。鉄とコンクリートの巨大な龍はどこまでも、どこまでも伸びている。
昨年まで修学旅行はUSJだった。だが、今年に限っては「大阪万博」へと変わってしまった。開催される年に中学3年を迎えた不運。
大荒れするクラスへ教師がボソリと建設中の高速道路を見れる貴重な旅になることを告げたが、聞いていた生徒は田中少年以外いなかった。
なんとなく、祖父が「自分の名前を付けた高速道路」の自慢話をしていたので、印象に残った。ただ、それだけ。
たが、目の前に現れた、波形鋼板が織りなす巨大な空中立体建造物は、龍の鱗にも腹にも見える。
時折り輝く溶接の青い光は何かの燐光のようだ。
いつしか意識はバスを離れ、上空へ。
鉄とコンクリートの龍がうねりながら日本中を駆け巡る。それは日本列島を繋ぎ合わせ、まさに龍脈。日本は龍脈が張り巡らされている。
ふと、気づくと窓の反射の木村さんがこちらを見ていた。無骨な龍は木村さんという奇跡を引き立てる重厚な額縁のようであった。思わず口元が緩んで見惚れてしまう。音が少しだけ遅れるような至福の時間。
不意に木村さんは、柔らかな輪郭のまま田中少年に手を振る。え!?と、振り返り、実物の木村さんと目が合う。
木村さんは田中少年に向かってからかうようにニッコリと微笑んだ。
「龍が立った」のである。
完
これにて完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
皆様に感謝です。




