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【完結】見返りは、当然求めますわ  作者: 楽歩


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22/45

22.今日のお出かけ

 朝の光が優しく窓辺を照らし、ダイニングルームには暖かな空気が漂っていた。テーブルには香ばしいパンと湯気の立つ紅茶が並び、心地よい朝の静けさが包み込む。



「今日はどこへ行こうか?」



 ヴィンセント様が微笑みながら口を開く。その穏やかな声に誘われるように、部屋の空気がさらに柔らかく感じられた。


 隣に座るシャルロットは紅茶を一口飲みながら、やや呆れた表情で答える。




「仕事は大丈夫なの?  お兄様」


「大丈夫さ。2日くらい抜けても問題ない。フリードも仕事を休んで来るらしいしな」



 その言葉にシャルロットは軽く目を瞬かせた。



 そうだわ。



「ヴィンセント様、実は私たち、今日はカフェへ行こうかと思っていましたの。名産のソルトを使ったスイーツがあると聞いたのです。いいお店を知りませんか?」




 その言葉を聞いた途端、ヴィンセント様の表情がぱっと明るくなった。




「ああ!  エルミーヌ、任せてくれ。甘さと塩味の絶妙なバランスを楽しめるクッキーやブラウニー、ほんのり塩気を感じるキャラメルや塩チョコレート……何がいい? 好きなものがある店にしよう」




 まあ、どれも素敵!  ヴィンセント様は甘党だったかしら?




「さすがお兄様。そういうお店に詳しいのね。……誰と行ったのやら」




 シャルロットの言葉に、ヴィンセント様は、一瞬言葉を詰まらせた。




「……シャルロット……。いや、違うんだ、エルミーヌ。……あっ、そうだ! 2人がこの国に来たら連れて行ってあげようと思っていた、とっておきの店があるんだ。そこにしよう。叶うのなら、いつか一緒に行こうと思っていたから、私も初めてなんだよ」




 まあ! 嬉しいわ。



 そのとき、ドアの向こうから声が聞こえた。






「フリード様が、お越しになりました」




 シャルロットは嬉しそうに席を立ち、姿勢を整える。




「早いわね。では、エルミーヌ、準備をしにいきましょう」





 *****





 今日のために用意した薄いラベンダー色のワンピースは、ふんわりとした袖が優美で、どこか可憐な印象を与える。控えめに輝く刺繍が裾に施され、私の動きに合わせて光を反射する。



「エルミーヌ様、よくお似合いですわ」



 侍女が微笑みながら言った。



「そうかしら?」



 鏡越しに自分を見つめる。こんな服を着るもの初めて。少し恥ずかしいわ。




「エルミーヌ準備ができた? あら、よく似合うわ!」


「ふふ、シャルロット。あなたもよく似合うわ。何を着ても気品に満ちていますわ」




 準備を整えて階下に降りると、すでに待っていたヴィンセント様とフリード様がこちらに視線を向けた。




「シャルロット……君はどんなものでも着こなしてしまうんだね」



 フリード様が、やや驚いた声で言った。

 ヴィンセント様も軽く咳払いをしながら頷く。




「そうだな。ワンピースを着ても優雅だ。エルミーヌもよく似合っている。薄いトーンの紫は柔らかく、華やかで知的な君にぴったりだ」




「褒めすぎですわ」



 シャルロットと2人で、照れくさそうに視線を外す。





「いや、そんなことはないよ!」



 フリード様が笑顔を浮かべた。



「ああ、2人とも、街に咲く可憐な花のようだ」






「も、もう! さあ、褒められすぎて遅くならないうちに出発しましょう」



 シャルロットの顔が赤い。私の顔もきっと……。




 心には、嬉しさと少しの恥ずかしさが混じった温かい感情が広がっていた。褒められ慣れていないから、私たち駄目ね。ふふ、感情が顔に出ないように、2人で特訓だわ。




 *****




 カフェに到着すると、甘い香りが店内いっぱいに漂っていた。ショーケースに並ぶ色とりどりのスイーツはどれも美しく、見ているだけで心が躍る。



「おすすめはどれかしら?」



 シャルロットが尋ねると、ヴィンセント様は迷わず答えた。




「焼き菓子は持ち帰れるから、この塩モンブランなんかどうだ?」



 全員、塩モンブランを頼み、来るのを待つ。ああ、楽しみだわ。




 運ばれてきたモンブランをひと口頬張ると、マロンペーストの濃厚な甘さと、塩のアクセントが絶妙なバランスで舌に広がった。



 一口ごとに味わいが変わり、飽きることなく楽しめるわ。






 カフェでの心地よい時間が過ぎ、塩モンブランの甘さと塩味の余韻を楽しみながら、軽やかに談笑が続いていた。そのとき、フリード様が少し照れくさそうに笑みを浮かべながら切り出された。



「この後ドレスを見に行かないか?  夜会用のドレスを私たちにプレゼントさせてほしい」




 私たち? まあ、私にも! ……でも……。


 シャルロットを見やると、彼女は微かに微笑みながら口を開いた。



「ああ、私たちには、ダリオのドレスがありますので、お気遣いなく」




 フリード様とヴィンセント様の表情が固まり、しばらく沈黙が訪れる。





『ダリオ』って誰だ?


 二人がほぼ同時に問いかけ、その動揺を隠せていない。これはいけないわ。





「実は、私たち布やデザインを選んで、自分たち好みのものを作っておりまして……ダリオとはそのデザイナーですの。申し訳ありません」




 静寂を破ったのは、フリード様だった。慌てた様子で手を振り、何とか気まずさを払拭しようとする。




「い、いや、気にしなくていいんだ。ドレスの件は諦めるよ。でも……次回こそ私たちに贈らせてくれないか?」





 ヴィンセント様もようやく落ち着きを取り戻し、軽く頷く。



「ああ、それで構わない。ところで、そのドレスの色は何色なんだ?」





「ネイビーよ」シャルロットがさらりと答えた。


「私はオフホワイトですわ」






『全然、私たちの色じゃない……』ヴィンセント様たちが、小声で何かを言い合い、やや複雑な表情を浮かべた。






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