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ロンリー・マジック──召喚されたのは魔法少女じゃなくて、魔法の杖でした。求めてるのは、そっちじゃない。

作者: 夜缶

諸君は、アニメを見る時どういう気持ちで見るだろうか。


単純に主人公やそのキャラクターに感情移入して視聴するタイプ?


それとも第三者視点として、分析するように視聴するタイプ?


え?


俺?


どっちかっていうと前者かなぁ。


何だったら、そのキャラクターが可愛かったらなおよしと思えるタイプだよ。


……聞いてない?


しかもそれは選択肢にないって?


確かに。


でも共感してもらえたら嬉しいなぁ。


だってそれって、俺の感覚が少なくとも、諸君とそう変わらないということの証明になるわけだからさ。


そんで話を戻すと、アニメとか漫画とかのキャラクターを見てるとさ、何かこう色々考えない?


現実に存在したらいいなぁとかさ。


俺の目の前に現れてくんねぇかなぁとか、妄想しちゃうじゃん?


俺みたいな思春期ど真ん中な男子高校生だったらさ、それこそ美少女とか欲しちゃうじゃん?


男だしね?


……結局お前は何がいいたいのかだって?


まぁ、聞いてくれ。


俺、今四畳半の部屋にいるの。


そんでテレビの目の前にいんのよ。


そのテレビからさ、何か魔法陣みたいなのが現れてさ、ずっと光ってたのよ。


演出か何かだって?


とんでもない。


だってそっから飛び出してきたんだよ。


アニメで見てたキャラクターがさ。


……落ち着きすぎじゃないかって?


あれだよ。


人間、衝撃的すぎるものに出くわすと、案外落ち着いちゃうもんなんだよ。


多分。


……とにかく、だ。


ここまではいいんだよ。


問題はそのキャラクターなんだよ。


俺がさっきからグダグダ言ってるのはさ、出てきたキャラクターに納得いかないからなんだよ──。


「……さっきから君、何をボーッと我輩を見てるんだい?」


澄んだ女性の声が、テレビから現れた無機物から聞こえた。


その無機物は、俺が見てたアニメの主人公である鈴本凛音(すずもと りんね)が変身するために必要な物である。


いわゆる魔法少女物のアニメだ。


……いい加減、くどいだろうから結論を言おう──。


「(魔法のステッキかー。そっちが現れちゃうかー)」


変身するための魔法の杖が、テレビから現れたんだ。


いやね?


確かに変身ものとか憧れるよ?


自分が変身できたら嬉しいなぁとかさ。


戦えたら爽快だなぁとかさ。


昔の俺だったらね?


でも今は違うじゃん。


いっちゃえばラノベとか漫画とかで出てくる美少女と、イチャコラしたいんよ今の俺は。


あぁいいよ別に、欲望の塊じゃねぇかすっとこどっこいとか罵倒されてもよ。


しょうがねぇじゃん男子高校生なんだからさ。


夢ぐらい見させてよ。


いや現実になっちゃったけども。


でも今、俺が求めてるのは美少女なのよ。


こっちじゃねぇのよ。


凛音ちゃんよこしてよ。


「おい無視するなよ。我輩の声、きこえてるのだろう?」


凛とした女性の声が、問題の魔法の杖から発せられた。


……あーあ、これがいわゆる普通の美少女だったらすげぇ嬉しいんだけどな。


まぁ、このままでは話が進まないだろうから、とりあえずコミュニケーションを取ることにしよう。


「……すんません。放心してました」


「ようやく応答したか。我輩を無視するとはいい度胸してるな君?」


「はぁ」


「反応うすいな。何だい? 何がそんなに気に食わない?」


「え? いやいや? めっちゃ嬉しいっすよ? 別に女の子が来て欲しいなとかそんな大それたこと思ってないし」


「聞いてないが? しかしなるほど、大体君のキャラクターが掴めたぞ」


「いや早すぎじゃないっすかね。俺ら知り合って数秒っすよ?」


「分かりやすいんだよ君。欲望丸出しで何か語ってただろ」


「え、何で分かるのっ。怖っ」


「馬鹿だろ君」


生まれて始めて、棒っ切れに罵倒された。


歴史に名を残せるかもしれない。


いや、“無理”か。


「馬鹿とは酷いっすね。確かに自分で言ったこと数秒で忘れちゃうことありますけど、俺ら初対面っすよ?」


「まぁ確かにそ──えっ。本気で言ってるのかい君?」


「俺が嘘つけるタイプに見える?」


「初対面だから分からないのだよ」


「それもそっか」


「いや違う違う違う違う。我輩はそんな下らない話をしてる場合ではないのだよ」


「下らない話で片付けられた」


ちょっとショックだ。


当たりきついなー。


会話というのは、こういうものなのだろうか。


少ししょぼくれた俺のことは置いといて、棒っ切れさんがコホンと咳払いをした。


どういう構造してんのかな、この棒。


「それで、我輩を呼び出した理由は何だ」


「ないっす」


「馬鹿も休み休み言いたまえ」


「いやあの、マジで俺も分かんないんです」


「……」


「……」


「……マジなのかい?」


「マジなんです」


魔法の棒っ切れさんの表情は読み取れないけど、まぁ多分絶望的な表情してる。


「……なら、君自身が自覚してない可能性はないか?」


「え、ごめんなさい。難しい話分かんない」


「要するに、君が何か欲してるから我輩が呼び出された。そう考えれば、我輩がここに存在する理由にもなる」


「ははぁ……なるほど」


確かに、何かしら理由はあるはずだよなぁ。


アニメとか漫画でも、そういう感じの名作ってあるよな。


単なる偶然だと思ったら、実はこうだった的な伏線とかさ。


だとしたらやっぱ、めっちゃ可愛い子とラブコメ的なあれこれしたいとかだな。


うん……。


……。


え。


じゃあ理由ないなやっぱ。




「すんません棒さん」


「そんな適当な名前をつけるでない。我輩の名はフィアだ」


「了解です……あ、じゃあ俺も自己紹介。雪平翔吾(ゆきひら しょうご)です」


「うむ。では翔吾、なぜ謝る?」


「あのー。ぶっちゃけ俺の願いって俗物なんすよ」


「ぶっちゃけたな本当に。んで、どんなものだ」


「美少女といちゃつきたいです」


「欲望どストレートで、いっそ清々しいな君」


「ありがとうございます」


「褒めたつもりはない」


「最悪、男でもいいですよ」


「何が最悪だ」


「すいません訂正します。付いててお得な美少女っぽい男。男の娘も可です」


「訂正すべきはそこではなく、君の頭だな」


「そちらも火力、どストレートですね」


「やかましい」


「まぁとにかく魔法の杖ですから、そういう凄い魔法ないですかね」


「……人を作り出せる魔法なぞない」


「え」


まじかよ。


だとしたら、ほんとに理由が無くなるな。


「そもそも、何故そこまで欲する?」


「そりゃまぁ……恋しいんで」


「自ら動けばよいではないか」


「それができたら苦労はしないんすよ」


「言い訳するな」


「手厳しい……」


「とりあえず外に出てみたら良いではないか。まだ朝だろう。陽の光が差し込んでいる」


「……」


そう、現在は朝だ。


人というのは、基本的に朝起きて学校やら仕事に行くのだろう。


俺もいわゆる高校生というやつだし。


ふと、フィアが疑問を投げつけてきた。


「そういえば君、学校は? もう時間だろう?」


「いや、大丈夫っすよ」


「もう8時だぞ。間に合わないぞ──」


フィアがぐちぐちと言うもんだから、俺は行動で示してやることにした。














扉を開けて、外の景色を見せてみた。


住宅街が辺りに広がっている。


何の音もない。


俺にとって、いつも通りの光景だ。


フィアは、先ほどのように言葉を投げず、ただ黙り込んでしまった。


……きっとこれは、皆にとっての普通ではないんだろうな。


「……人の気配がない?」


「これが俺の日常。誰もいないんですよ」


「……一体いつから?」


「分かんないですよ。だからフィアさんが求めてる理由……多分戦うべき相手とかっすよね?」


「……端的にいえば、そうだな」


「そうです。俺の日常には守るべき人も、戦うべき相手もいないんですよ」


いつからか、元々なのか分からない。


でも俺自身がここに存在しているということを認識してからは、ずっとこんな状態である。


生活する分には何も困ったことはない。


食べるものも、適当にスーパーやらコンビニに行けば機械が対応してくれる。


ただ、俺は生身の人間に出会ったことがない。


アニメや漫画やドラマでしか、俺は見たことが一度もないのだ。


悲しいかな──。


「ま、待ってくれ。翔吾」


俺が悲しみに暮れていると、フィアが黙っていた口を開く。


「何です? 文句を言われても、元の世界に戻す方法とか俺には分からないですよ」


「違う。この際、それはもうどうでもいい」


「どうでもいいのか」


「君、こわくないのか?」


「こわい?」


「この状況が、だよ」


「あー……」


確かにこわいと問われたら、こわく感じる。


ただこれが当たり前だと俺の中で自己完結してるものだから、考えたこともない。


ただ、こわいというよりかは──。


「寂しい、の方が近いっすかねー」


「寂しい……」


「ほら、さっき美少女が欲しいとか言ってたでしょ俺。まぁ欲求はありますけど、それ以上に人となんか話したいんですよ」


フィア以外と話した経験はない。


俺が俺であると認識してからは、おそらく。


「ならば、探せばよいだけではないか」


「え?」


なんだか暗い雰囲気で話してしまった俺に対し、フィアは冷静に対応してきた。


「探す? どこへ?」


「どこでもだ。幸い、我輩を使えば空を飛ぶことも可能だ」


「……はぁ。便利だなー」


「というか君、それぐらいやってるもんだと思ったけど」


「歩くの、怠いし」


「でも寂しいんだろう?」


「まぁ、はい」


「なら答えは決まっている。探しに行けばよい。それに……」


「それに?」


「……話ぐらいなら、我輩とならできるだろう?」


思わずその言葉を聞いて、俺は感動した。


こういう言葉を俺自身に言ってくれる存在が、目の前にいるんだなって。


だからかな。


なんか、目頭が熱いのは。


「……ありがとう。フィアさん」


「礼には及ばん。それと、さん付けは良い」


「……うっす。フィア」


「なら、杖に乗る練習もこれからした方が良いな。それと魔法についても色々教えておこう。後は──」


フィアが、色々と計画を俺に話す。


人生初めての会話が、杖になるとは思わなかった。


こんな世界に誰かがいるのかは分からない。


でも、まぁ。


フィアがいれば、何とかなるだろう。


なんといっても魔法の杖だし。


きっと異世界召喚された理由も、俺に誰かに会わせるためのきっかけを作るためなのかもしれない。


きっと、そうだ。


俺がじーっとフィアを見つめていると、彼女が怪訝そうな声音で話しかける。


「黙っていないで、君も何か提案したまえ」


「え、あーうん……そうだなー。じゃあ、フィアさ。擬人化してよ。美少女に」


「無理だ。諦めろ」


「そこを何とか」


「やっぱ馬鹿だろ君」


「あ、俺知ってるよ。これあれでしょ。馬鹿という方が馬鹿とか、言い返す場面でしょ──」


「──自分自身を性転換させる魔法ならあるが?」


「お願いします。天才のフィアさん」


「……馬鹿だ」


まぁ、なんかグダグダやっちゃってるけど。


これも含めて、俺のところに彼女が召喚された理由なのだろう。


諸君も同じように考えるだろうか。


……まぁ、こんな独り言も誰にも届くはずないだろうけど。


でももし届いてたら、共感してくれたら、嬉しいなぁ。


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