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とあるファーストフード店にて

作者: 圭史

安上がりなはずなのだが、よく考えず食欲に任せて注文すれば、あっという間に2千円は超えてしまう某ファーストフードチェーンの店内。



同じ制服を着た眞鍋、斎藤、小林、堀川たちも、ここではありふれた男子高校生グループの一つである。



「今日さ、クラスの女子と話してたんだけど、アイツら面白いこと言うの」



頭も下半身もゆるゆるな斎藤が、割りと整っているはずの顔までもニヤニヤと緩ませながら言う。



「んあ、何だよいきなり」



そう応えた眞鍋は、ちょいお高めなハンバーガーにかぶりつきながらも、男らしい端正な顔つきは損なわないという奇跡を起こしている。



可笑しくて堪らないといった様子の斎藤に、ポテトを摘まみながら、ちょっと首を傾げたのは小柄な堀川。



「アイツらが言うには『眞鍋と堀川のカップルはマジでアツい』らしいぜ」



「ぶっ、な、何だそれ!?」



口に含んだコーラを吹き出しかけながら小林は目を白黒させている。恐ろしく明るい色味に脱色した髪と腕っぷしの強さから不良にしか見られないが、基本的にお人好しな良い奴である。



「あ、それってBLってヤツかな?」



「そそ、それそれ!」



ポン、と手を叩く堀川に、斎藤がビシっと指をさす。



「BLねぇ…んっと、くだんねぇこと考えてんだな」



さくっと食べ終えた眞鍋が紙ナプキンで口を拭いつつ呆れた声を出す。



「しかも俺と堀川とかキモいんだが。男同士有り得ねぇだろ」



「な!女子の間じゃ流行ってるらしいけど、マジ訳わかんねーよなー」



「女の子って変なものが好きだよねぇ」



しかめっ面でぼやく眞鍋、他人事なので実に楽しそうな斎藤、苦笑する堀川。



ここで、ずっと黙っていた小林がおずおずと小さく手を挙げる。



「…なぁ、びーえる、って何だ…?」



えっ、と見事にユニゾンした3人が小林を凝視する。



「何、お前知らないの?聞いた事ぐらいあるだろ?」



冗談だろ、と言わんばかりに問う斎藤に、小林はふるふると首を横に振る。



「うっそ。マジで?小林クン、BL知らないんだー。おっくれってるぅー」



「ーーっ、うるせぇっ!!別に知らなくても変じゃねぇだろーがっ!!」



これは良いオモチャを見つけたとわざとらしく、うぷぷ、と声に出しながら笑う斎藤に我慢出来なかったのか、小林が大きな声を張り上げる。拳をぎゅっと握りしめプルプルと震わせ始めたので、それを憐れんだ眞鍋が間に入る。



「小林、落ち着け。んで、お前はやり過ぎだ」



「…すまん」



「へいへーい」



全く悪びれていない斎藤に再びイラっときて立ち上がりかけた小林を抑えながら、堀川が説明する。



「BLっていうのは、ボーイズラブの略なんだよ」



「ぼ、ぼーいずらぶ…?」



眉をひそめる小林だが、元々あまりよろしくない目付きが更に悪くなっていることには気付いていない。



「そ。簡単にいえばホモだな。んでこの場合、俺と堀川がデキてるって話」



自分と堀川を交互を指差しながら、眞鍋が分かりやすいように噛み砕いて補足する。ポカン、と口を開けていた小林のピアスだらけの耳がみるみる真っ赤に染まる。



「さすがの小林クンも、これで分かりまちたかー?」



斉藤はふざけた声音で煽ろうとするも、初めて知った言葉にいっぱいいっぱいになった小林には聞こえていないようだった。



自然、無視されて相手にして貰えなかった斎藤は好奇心旺盛だが飽きるのも早い。氷ばかりになったドリンクのストローをがしがし噛みながら言う。



「GLが、ガールズラブいこーるレズ。んでTLってのもあったなー」



「あぁ、ティーンズラブだね」と堀川。



「てか、それってフツーの男女のことだろ?」



眞鍋の質問にたぶん、と言いながら堀川が返す。堀川には、堀川をそっくりそのまま女にしたような美人な姉がいるので、その影響を受けて多少の知識はあるようだ。



「何かさ、MLってのもあるらしくてさー」



「…ML?」



店の天井を見上げて、指を折って女子とのやり取りを思い出しながら斎藤が言う。聞き慣れない単語に眞鍋が首を捻りながら堀川を見ると、同じく初耳だったらしく首を横に振る。



「Lはラブとして、Mは何なんだ?」



「たしか、メンズ。ボーイじゃないからメンズだってさ」



「うーん…少年じゃない、から大人の男性ってことなのかなぁ…?」



「たぶんそーだったはずー」



「…んっとに、くだんねーな」



容赦なくバッサリと切り捨てた眞鍋は冷めて萎びてきたポテトを口に放り込む。



「大人の男があるなら女もありそうだよなー。……ハッ!?年上のおねーさま同士とかちょー燃えるんですけどっ!!」



自身の妄想に興奮したのか、くねくねと身悶えし始める斎藤。ある意味、健全な男子高校生そのものの姿とも言える。



「じゃあ、レディースだからLL?」



「…なんだそりゃ」



何処までもマイペースな堀川に、割と真面目に相槌を打っている眞鍋。ふと、斎藤が思い出したように小林に声をかける。



「なーなー、小林はどう思う?」



「…え?」



先ほどから自分の世界に入り込んでいた小林がちょっと驚いたように顔を上げる。



「だから、LL。どうよ?」



「…あー、大きくて良いんじゃないか?」



ポテト・コーラのLLセットとかマジ神だよな、ちょい高いけど食い応えあるし、と一人うんうんと頷き始める。



…しばらくの沈黙の後、三者三様に『小林はそのまま大きくなれ』と言いながら小林の肩を叩き、知らぬ間に納得されてしまった小林は訳がわからないものの追加で何か注文しようかと考えるのだった。


fin.

どこかで見た『ML』の文字から思いついて勢いのまま書きました。男の子はポテトを3〜4本まとめて口に入れるんだそうな。知らんけど。

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