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第40話 一緒に祝って、仲良くなってくれませんか!?

 俺がアリアと勝利を喜び合う中、ゾールたちも歓声を上げていた。


 避難していた開拓民たちがゾールを囲む。幼子のチコが、勢いよくゾールに抱きつく。同じようにフラウも抱擁する。照れて体勢を崩すゾール。その肩をニルスが笑って支える。


 その輪の中心は、もうひとりの俺(ゾール)だ。《《俺》》じゃない。


 嬉しいはずなのに。これでいいはずなのに。


 あの輪の中に入れないことが、ひどく寂しい。


 やつらが生きている世界が作れただけで充分すぎるというのに……。


「カインくん、泣いてるの……?」


 ゾールたちのほうから、俺たちのところへ戻ってきたレナとグレン。


「あいつらとなにかあったのか?」


 それらの問いかけに、首を横に振る。


「なにもない……。なにも、あるはずがないんだ。俺はあいつらにとって赤の他人なんだ」


 ただ事実を口にしただけなのに、自分の胸を刺すようだった。目端に溜まった涙が、こぼれてしまう。


 するとアリアが、少しだけ強く抱きしめてくれる。


「……繋がってたとき、ちょっとだけ感じたよ。どうしてだかはわからないけど、カインはあの人たちのこと大切に思ってるんだよね。だからここに来て、守るために戦ったんだよね。でも、あの人たちは、カインのことがわからないんだね……」


「いいんだ。それで」


 アリアはそっと離れた。俺の両肩に手を置き、宝石のような紫の瞳でまっすぐに見つめてくる。


「よくないよ。カインが泣いたままなんて、わたしが許さないよっ。任せて!」


 言い切ると、アリアはゾールたちのほうへ駆けていく。


 アリアは俺が考えもしなかったことを口にした。


「あの! 実は今日、わたしの弟のカインの誕生日なんです! 一緒に祝って、仲良くなってくれませんか!?」


「おい、聞いたかみんな!? 俺たちの命の恩人の誕生日なんだってよ! 大歓迎してやろうぜ!」


「ありがとうございます! じゃあ連れてきますね!」


 ゾールの返事に笑顔で応えると、アリアは戻ってくる。すぐ俺の手を引いた。


「おい、待て。俺は」


「いいから行くの!」


 レナもグレンも俺の背中を押してくる。


 そしてゾールたちの前に放り出される。


 俺は彼らを見上げた。背丈以上に距離があるように感じる。


 けれど、ひとつの声がその距離感を破壊した。


「あのね、誕生日おめでとう! それにね、ゾールたちを助けてくれて、ありがとう!」


 チコだった。向けられる無邪気な視線が、懐かしい。


「でもみんな、ずいぶん汚れてしまっているわ。パーティの前に、体を洗ってお着替えしないといけないわね」


 続いてフラウ。身をかがめて、手を差し伸べてくれる。


「カインくんに、他のみんなも。お姉さんと一緒に行きましょう?」


 柔らかな笑みと優しい声。つい甘えたくなるが、俺はその手を取らない。


「いい。ひとりでできるから」


 このセリフも懐かしい。いつも、子供扱いされたくなかった……。


 俺たちの他、戦いで汚れた者たちは近くの川で服や体を洗うことになる。


 ニルスがゾールに声をかけているのが聞こえた。


「不思議だね、あの子。全然違うはずなのに、君と似てるように思えてくる」


「俺にはよくわかんねえな……。それより去年作った保存食、そろそろ使い切らねえといけねえ時期だろ? 今日、全部出しちまおうぜ!」


「いや、まだ全然早いけど……まあいいか」


 その後は、開拓民のささやかな蓄えを放出して、みんなに振る舞われた。


 グレンは得意だと言っていた肉料理の腕前を披露して、俺や開拓民の舌を唸らせる。アリアとレナは、ありあわせの材料でお菓子を作って見せて、これもみんなをずいぶんと喜ばせた。


 そして俺は、かつて失ったはずの仲間たちに囲まれて、感謝と笑顔の渦の中にいた。


 このとき俺は確かに、ふたつの家族の輪の重なる位置に存在していたのだ。


 やがて気を失っていた第6騎士団が目覚める。事の次第を説明すると、彼らは驚きつつも饒舌に称賛を口にした。


「我々やドミナの開拓民を救ったばかりか、あの不死身のヴァウルさえ葬り去るとは!」


「なんという武勲! なんという偉業か! しかもこのような年若い学生たちが成し遂げたなど信じられん!」


「これは是非とも国王陛下に報告せねば! 君たち、きっと王宮に招かれるぞ! 王から直々に勲章を与えられるはずだ。この上ない栄誉だぞ!」


 やたらと称賛されるのが居心地が悪くなって、俺は黙ってその場を離れた。


「……隣、いいか?」


 ひとりでアリア特製の焼き菓子を頬張っていると、ゾールが俺の隣に座った。


 ふたつ持っていたグラスの一方を渡される。酒じゃない。が、まあいいか。開拓村で作った発酵酒(エール)は、正直まずかった思い出しかない。


「なあカイン。フラウたちにとって、お前は今日知り合ったばかりの人間だ。でもお前にとっては、ずっと昔に失って、やっと取り戻せた家族なんだろう?」


「……ああ」


「ここで一緒にやっていかねえか? ここは、お前の家でもあるはずだ」

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