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第11話 みんな一緒がいいと思うな!

 生贄にされた他のふたりの子供をそれぞれの家に送り届けたあと、俺たちを乗せた馬車は、フェルメルンの屋敷へ向かっていた。


 そして屋敷に近づくほどに、レナは落ち着きを失くしていく。 


「レナ、どうした」


「あの、ほ、本当に私が領主様の養子になるのかな……? わ、私、ちゃんとできるか不安で……」


「心配するな。俺たちが一緒だ」


 アリアもレナに笑いかける。


「そうそう、一緒! 一緒ならきっと楽しいだけだよ!」


「ほら、根拠もなく楽天的になれるやつもいるんだ。レナも考えすぎずに、少しバカになれ」


「ん? カイン、今、わたしのことバカにした?」


「いや褒めたぞ」


「ちゃんと目を見て言える?」


 俺がそっぽを向くと、アリアは「むぅ~」と唇を尖らせる。


 それでレナはやっと笑顔を見せた。


「ふふっ、ふたりと一緒なら本当に平気かも……」


 まあ、レナの心配もわかる。


 片や人間、片や魔族だ。フェルメルン卿は信用できるだろうが、その家族や使用人まで信用できるかはわからない。


 もしなにかあれば、この俺がひと暴れするだけだがな。


 だが、結論から言えば、この心配は杞憂に終わった。


 フェルメルン家一同はレナを温かく迎え入れてくれた。


 むしろ大変なのは、俺たちのほうだったかもしれない。


 フェルメルン邸で生活し始めて数週間……。


「カイン様、ダンスレッスンの時間ですぞ!」


「ちぃ、見つかったか!」


 この場所を見つけるとは、フェルメルン家の家庭教師もやるじゃないか!


「ダンスなんて俺には不要だと何度言ったらわかるんだ! 修行に集中させろ!」


「いけません! 学園行事にダンスは必須です。踊れなければ恥をかきます!」


「行事など出なきゃいいだろ!」


「あまり聞き分けがありませんと、カイン様のおやつは抜きにせよと厨房に伝えねばなりません」


「ふん、好きにしろ。その程度で俺が言うことを聞くと思うな!」


「言っておきますが、アリア様の厨房の使用はすでに禁止しております。アリア様に作っていただくこともできませんぞ?」


「なんだと!? 卑怯だぞ、貴様!」


「さあ、いかがなさいますか!? 覚悟の上ならば、それもよろしいでしょう!」


「ぐぬぬ……」


 しぶしぶレッスン室に顔を出すと、そこではすでにアリアが涙目になっていた。


「うぅ~っ」


「いけません。そのような声を上げるのは、はしたないことです。悪い癖ですよ」


 体を動かすのが得意なアリアならダンスも楽勝だと思っていたのだが、どうやら淑女らしい振る舞いに苦戦しているらしい。


 そのせいで固くなって、肝心のダンスも上手くできないようだ。


 ……という感じの日々を、俺とアリアは過ごしている。


 一方のレナは素直で大人しく、各種レッスンの覚えもいいということで、一番の優等生という評価だ。


 というか、俺たちを問題児扱いするなんて、見る目がないんじゃないか。


「ふたりとも自由だなぁ……」


 若干呆れた顔をするレナだったが、俺たちを見るときはいつも楽しそうだった。


 とはいえ、自由時間に修行する分には文句は言われない。


 村にいる頃に増して、アリアは俺との修行を強く望んだ。


「わたしもね、癒やしの力だけじゃ足りないって思ってるの。誰かが怪我してから治すんじゃなくて、誰も怪我しないように守ってあげられたらなって」


 その修業にはレナも加わった。


「私も、もっと強くなって……カインくんのお役に立てたらいいなって、思って……」


 生贄の洞窟での経験もあってか、ふたりの修行態度は真剣そのものだった。


 俺の指導も相まって、アリアは身体強化魔法、レナは火や爆発の魔法の実力をめきめきと上げていった。


 そんなある日。雷雨の夜のことだった。


「……ぅ、うぅ……」


 隣の部屋から泣き声が漏れ聞こえて、俺は思わず乗り込んでいた。


「レナ、なにがあった!?」


「……カインくん?」


「やっぱり誰かにいじめられたのか!? くそ、この俺が気づかなかったとは……!」


「えっ、あの、違うよ……」


「レナ、お前が望むなら一緒に出て行ってやるぞ。大丈夫だ。アテならある。同じ種族の魔族で、北にゾールというやつが――」


 前世の俺だ。今の時期、まだ魔王ではない。


 今頃、北の不毛の地を開拓しているはずだ。過酷な環境にいるが、やつなら必ず同胞を受け入れて――いや、ダメだ!


 今は時期が悪い。《《あの事件》》にレナを巻き込むわけにはいかない。


「だ、だから違うよっ。ちょっと、嫌だったことを夢に見ちゃっただけで……」


「あ、そ、そうだったのか……すまん」


「うぅん。来てくれて、ありがとう」


 レナはほんのりと頬を赤く染める。


「でも、ノックはしてくれないと、やだよ?」


「悪かった」


 そのとき、ピシャリと雷光が輝き、直後にドゴーンと大きな雷鳴が響いた。


 すると、バタバタと慌てたような足音が廊下を駆け抜けた。


 すぐレナの部屋のドアがノックもなく開け放たれる。


「か、か、雷が恐いから、わたしが一緒に寝てあげるよ!」


 アリアだった。よほど慌てていたのか、パジャマが着崩れている。両腕で枕を抱きしめている。


 俺とレナは顔を見合わせて、ぷっ、と吹き出す。


「じゃ、レナはアリアと寝てやってくれ」


 部屋を出ようとすると、アリアにガシッと腕を掴まれる。


「無理しないで、みんな一緒がいいと思うな!」


「おいおい」


 俺が困った顔を向けると、レナは微笑んだ。


「私も、一緒がいいな」


「仕方ないな……」


 きっと、もう嫌な夢を見たくないのだろう。


 俺たちはひとつのベッドに3人で潜り込む。


「ふふっ、あったかいなぁ……。ありがとう、ふたりとも……」


 同胞(レナ)の幸せそうな声に、俺は満足して眠りについた。

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