同時世界で違う俺
肉体を持つ前の段階、まだ形状が決まっていない魂は目映いばかりの光溢れる空間の中で、三体ある箱を目の前にして空中を浮遊している。
この光景には見覚えがある。
自身が肉体を持つ前には、必ず同じ選択をせまられていた。
箱の数はその都度異なっており、選ぶ箱により生きる道が決められる……決めるのは自身しかいないので、本能を頼りに独りで選ぶしかない。
何度も同じ経験をしているとのいうのに何故かその選ぶ瞬間に起きた光景だけは空白になっていて、どうしても記憶が甦らない。
(前の記憶は、どうやら部分的にリセットされてるようだな。
こうなったら、勘を頼りに選ぶしか無さそうだ!)
魂の選択は決定した。
これは間違いがないという箱を目指して進んでいき、選んだその箱をイメージで開けた。
(この箱で多分正解だろう!
どうだ⁉)
選んだ箱には銀色に光る鋭い牙が入ってある。
牙は箱が開けられると、待っていたかのように魂の唇におさまった。
〈あなたの来世が決まりました。
あなたは今より黒魔界に転生され、悪魔として生きる事になります〉
(あ……?
悪……魔……?
俺は……悪魔)
牙をつけた魂は、姿が悪魔の赤ん坊と化している。
目映い光は赤ん坊の魂を包み込み、黒く渦巻く空間へと解き放った。
〈あなたは悪魔として、その暗黒世界を生きるのです。
行ってらっしゃいませ〉
(俺は、悪魔だ!)
三体ある箱のうち、妙に気になる箱が在る。
何故だかは分からないが、その箱が魂を呼んでいる気がしてならない。
もしかするとその箱こそが、魂の選ぶべき存在なのかもしれない。
(他に考えられない。
俺の運命を左右するのは、この箱だ!)
気が付くと魂は選んだ箱の前に移動しており、それをイメージで開けていた。
箱を開くときに向こう側から、それは心地好い空気が流れてきた。
選んだ箱の中に入っていたのは、今ある空間と同じくらい目映い白い翼だ。
(おおお……っ、美しい……!)
翼は魂の背中に飛来し、自然な感じで体に根を下ろした。
痛みはなく、それよりも胸の奥から慈しみの感情が湧き出してきた。
〈あなたの来世が決まりました。
あなたはこれから空の向こうに在る天聖界で天使として人々に幸せをもたらし、そしてその千年先には魂を導く役目を担うことになります〉
かなりの役目を果たす運命を、魂は掴んだ。
(私は天使……幸福の象徴)
この箱を選んで本当に良かったと、魂は心より感じていることを感謝している。
〈行ってらっしゃいませ〉
(私は、天使……!
全ての存在を幸福に導く為、いざ参ります)
どの箱にするか決めた魂は、特に何の感じもしないぱっとしないそれを選んだ。
選んだ後に気が付いたが、この箱はもしかすると凄くつまらないモノであり、逆にとんでもなく刺激に溢れたシロモノかもしれない……そんな予感がした。
箱は簡単に手で開けられた。
〈あなたの来世が決まりました。
あなたは、これから人間として地に足をつけあらゆる道を歩んでいくのです〉
箱には透明の丸い宝石が入っていた。
説明するのは困難だが、透明の丸い宝石は簡単に壊れそうであり、また何で壊そうとしてもびくともしない感じの物だ。
それを手にするのは大きな何かを背負う事になるのだと本能で理解する。
(僕は、人間として生きていく‼
きっと生きていく道は棘よりも鋭いだろう……その険しい道を歩んでいこう)
〈行ってらっしゃいませ〉
(行くね)
僕は一歩踏み出して、険しい道へと進んでいった。