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6―僕の日常(KAI)


 街灯の灯りがポツポツと点いている道を、キリコさんに肩を貸してもらいながら足を引き摺り僕は歩いていた。

 靴が削れるなー、なんてことは考えてない。

 さっきの戦いでボロ雑巾のようになったTシャツは捨ててきたから、まずは上になんか着たいなという感じ。

 色々なことがあったな、一週間で。

 人の一生は平均的に七十年ぐらいで終わりを告げるらしいけど、この一週間は、いや、寧ろ今日は今まで僕が生きた中で一番濃密で、僕の今までの十五年間とこれからの二十年ぐらいを合わせても今日ぐらい濃密にならないだろう。

 さすがに今日の出来事は僕の一生に匹敵すると言っちゃえば、僕の一生がとても薄っぺらいものに思われそうなので止めといた。


「ねぇ」


 考えていたら、キリコさんが話しかけてきた。


「ん?」

「何であの時、私が来るって分かったのよ。来て欲しかったら事前に命令すればいいじゃない?」

「何でって言われても、そんなこと言って、あいつに聞かれてたら終わりだろ?」


 本音を言うと一杯一杯なだけだったんだけどね。


「それでもリスクが高すぎるわ。あの時、私が来なかったらどうしてたのよ。私が狐にのしかかられている貴方を見つけたのも偶然よ」

「まあ、来なかった時は、来るまで喋り続けるつもりでいたけど、それは無理っぽかったね」


 息切れでろくに喋れなかったし。


「たださ、キリコさんは僕との契約を失いたくないんだろ? だったら僕を助けるしかないでしょ?」

「それが嘘だったらどうするのよ」

「主に嘘はつけないんだろ? ただキリコさんを信じてた、ってのは理由にならない?」


 自分なりの最高の笑顔をキリコさんに向け「ぐげっ」グーで殴られた。

 頬の痛みと共に心がしくしく、なんか悪いことしたっけ?


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれから五日後の二日前、要するにあれから三日後、平凡な毎日に何事もなく僕は舞い戻れた。

 狐との戦いで負った傷は二日の間ずっと、寝て起きてご飯食べて寝て起きてご飯食べてを繰り返したら治っていた。

 身体能力だけじゃなく治癒力も上がってるみたい。

 そして、健康になった身体でゆったりくったりのんびりのっそり学校に向かっていたら、後ろから後頭部を叩かれた。

 振り返ると加藤が立っていた。


「ういっす!」


 気さくに片手を上げて挨拶してきた彼を、僕は気さくに無視して学校に急ぐ。

 僕が歩き出したのを見て、加藤は慌て小走りで僕の横まで来ると、僕と歩幅を合わせて並走する。


「秋白く〜ん? 無視はないでしょ? 無視はいけグボッ!」


 金髪ロリコンの鼻っ面に裏拳を叩き込んだ。

 だが、ロリコンも大したもんで鼻を押さえがらも歩みを止めない。


「何するんだ!」

「いや、五月蝿かったから、まさに五月に現れた蝿の如く」

「友達に対して裏拳するか普通!?」

「ごめんめん」

「謝る気ないだろ」


 茶目っ気謝りは加藤に効かなかった。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 何ら変わりのない生活から、大きく変わったことが三つあった。

 一つ目は、千鶴ちゃんに取りついていた狐を倒したことで、千鶴ちゃんが回復に向かっているのだ! ヤッホー! 両手を上げて僕大喜び、病気が治ったことを知らせた医者は苦笑する。

 幸せにこれからよろしくと挨拶し、不幸せに今後一切関わりたくはありませんと土下座する。

 閑話休題、千鶴ちゃんは病気が治ったので、四階の孤独一人部屋から二階の大部屋に移動することになった。

 ただ、弱りきった身体を治すのと、様子を見るためまだ家には帰れないみたいだ。

 まあ、同じ部屋の人間がみんな歳が近く、見舞いに行く度元気に話しをしてる姿を見ると、案外病院も悪いもんじゃないかな、と思い直した。

 今では、あの病院の匂いの中には生きる希望を持つ人の匂いや、早く元気になれと願う人の匂いも混じっていると考えると、嫌いだった病院の匂いもそれほど嫌じゃなくなった。

 二つ目は、キリコさんに僕の家の中であれば、僕が呼び出したり命令しなくても、自由にしててもいいという命令をした。

 まあ、今回の僕なりのお礼。

 ただ、人に見られないという条件付きだけど。

 だから、この頃毎日僕が帰るとキリコさんが迎えてくれる。

 今日も、家に帰ってリビングに入ると、キリコさんがソファーに寝転がって僕の秘蔵ポテチを食べながらテレビを見ていた。


「あら、お帰り」


 キリコさんは首だけこちらに向けて言った。


「……それ、僕のポテチ」

「隠し場所が甘いわよ、ベッドの下なんて」


 キリコさんはスナック菓子に大ハマりで、次々となくなっていくお菓子を見て危機を感じた僕が色んなところに隠したのだが、帰ってくる度、一袋見つけだして食べている。

 てか、


「それは、僕が楽しみにしてた期間限定の地中海風パスタ味!」

「ごめん、全部食べちゃった」


 目から煮汁が出そう。


「自由にしていいからって、自由にし過ぎだろ!」

「良いじゃない家の中だけなんだし、嫌なら命令したらいいじゃない、死にかけた貴方を助けて、ボロボロの貴方を家まで運んで、結果として貴方の妹を助けた恩人は誰!?」

「……キリコさんです」

「そう、私よ! でも、私は心が広いから命令するのを許してあげるわ。さあ、命令したかったらしなさい! この、私に!」


 クソー、ソファーに寝転がりながら良い顔するなよ。

 千鶴ちゃんの事を引き合いに出すのは反則じゃないか。

 そして、三つ目は……ごめん、二つだった。

 そんなこんなで僕の生活は少し変わってしまったが、普通に戻っていった。


はい、ども、心楽です。


まず、ここまで読んでくれた方、ありがとうございます! 今回の第0章は結構多めのプロローグです。一人称を長編でやるのは初めてで、不安で脳が満たされてます。感想、アドバイス、評価、一言、叱咤激励、どんな些細なことや、気になることでも、何でもドシドシ感想・コメントに書いてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします!


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