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2―遭遇

 数十分後。

 僕の横に歩くつまようじをくわえた男は、あろうことか本当に高校生の僕に定食、しかも三人前の代金を払わした。三人前だが三人いたわけではない、男が一人で食べた。


「いやー、ありがとな。少年、こんなに食わしてもらって」

「拒否権がなかったんですけど……」

「かっかっかっ、まあ細かいこと気にすんなよ」


 男は細身な体とは裏腹な豪快な笑い声を上げ、僕の背中を叩く。


「自己紹介、まだだったな、俺は白宮聖しろみやひじりだ」

「偽名ですね」

「本名だ」

「本当に白宮聖なんて名前なら、そんな性格にはなりません」

「おいおいおいおい、そりゃ酷すぎるぜ。じゃあ、なんだ。お前は殺人撲打って名前なら人殺しって決めつけるのか? 小鳥を愛するベジタリアンかも知れねえだろうが」

「僕は先にあなたの性格知っちゃたから、名前聞いてビックリしただけですよ」

「そうか。まあ、どっちにしろ失礼なことには変わりないけどな。で、お前の名前は?」

「山田太郎です」

「偽名だろ」

「高校生からお金を盗る人に本名は教えません」

「人聞きが悪い。高校生に奢らした人だ」

「それも人聞き悪いですよ」

「かっかっかっかっ! それもそうだ。お前、面白い奴だな」


 中々、白宮さんは掴みどころのない人だ。食事している最中にも会話をしたが、本音を話しているけど話してないような、心の奥底に本心を隠している。不思議な人だ。で、想像した通り、変な人だ。


「時に、山田くん」

「はい」

「ここ最近変わったことはないか」

「……特にないですけど……それが何か?」

「いや、何でもない。何か、困ったことがあれば俺に言えよ。じゃあな」


 白宮さんは僕に手を振り、曲がり角で曲がって去っていった。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 幸せって何だろう?

 それは人類みんなが一度は考えたことがある問題だと思う。お金、成績、誉められた時、他人を貶した時、その姿は人によって違うと思うけど、案外簡単に答えられる。

 なら、この質問はどうだろう。

 今、幸せですか?

 これに対しては「はい」か「いいえ」、まあ、「分からない」ってのもあるけど、大まかに分けて二択だ。今、現在の状況を考えて答えればいいだけの質問のはずなのに、皆、答えに戸惑う。自分が幸せな自信がないからだ。

 だけど今、僕ははっきりと自信を持って言える。僕は幸せだ。何故なら、


「ただいま」

「お帰り、お兄ちゃん」


 妹が無事退院し、家で僕の帰りを待ってくれてるからだ。

 リビングに入ると、テーブルには昼食が並べられており、千鶴ちゃんはもう席についていた。鞄をその場に置き、僕も千鶴ちゃんの向かい側の席についた。


「「いただきます」」


 昼食を食べながら、他愛もない会話をした。

 学校や、勉強、部活、ほとんど千鶴ちゃんの方が喋っていたけど、千鶴ちゃんの嬉しそうな顔が見れるだけで、僕も嬉しくなる。


「……なんでニヤニヤしてんの?」

「いや、別に」


 自分の顔を触り確認する。ニヤニヤしてたかな?


「何か、お兄ちゃんらしくないな〜」

「何で?」

「お兄ちゃんが笑うなんて思ってたから」


 冗談かと思ったが千鶴ちゃんは真顔だったので、僕は少しヘコンだ。


「酷いな、僕がロボットみたい言い方じゃないか」

「うーん、ロボットとは違うよね。お兄ちゃんは何か、上手く言えないんだけど……自分と世界を切り離して見てるって言うか、話してる時に心がないみたいな?」


 心がナイフで刺された。

 かなり昔っから、似たようなことを言われたことがあったけど、妹からの一言は結構効いた。


「そんなに……僕って冷た」

「うわー、凄い事件起こってるんだね」

「あの」

「首切り殺人だって、こわいこわい、隣町で起きてるんだって」


 千鶴ちゃんはニュース番組を見ながら、僕の言葉を軽く流した。てか、聞こえてないだけか? 聞こえてないだけだよね!? 計算じゃないよね!?

 そんなことを言うと、シスコンみたいで嫌だから言わなかったが、確かにこの首切り殺人は怖い。

 今月の頭に始まったらしく、今日で三人目の遺体が発見された。凶器は鉈のようなもので、事件名と同じように首を切って殺害。被害者は無差別、犯行時刻はバラバラ。首を切った後、死体を一旦どこかに持って行き、夜になってからばらまいてるらしい。

 うん……何か嫌な予感して来たぞ。正直キリコさんと会ってからロクなことないな……。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 部屋に入ると、部屋の隅でキリコさんは三角座りをしながら、ぶつくさと僕の悪口を言っていた。人畜災害、悪魔より悪、冷徹アンドロイド、考えているようで考えなし、等々、造語で、それでいて嫌な通り名をつけてくれる。


「何で私が自由を奪われなきゃいけないのよ」

「しょうがないだろ、千鶴ちゃんがキリコさんを見たらどう思うか」

「彼女?」

「愉快な脳みそだね」

「でも私はあの子の命の恩人なのよ」

「確かにそうだけど、それはそれ、これはこれ」

「人外差別よ!」

「差別じゃない、分別だよ」

「区別じゃないの!?」


 僕はギャアギャア騒ぐキリコさんを無視し、ベッドに潜った。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日、学校の補習に行き、いつも通りの帰り道。

 一目のつかない路地裏で、数人の男が一人の少年を囲んでいた。かつあげをしてるんだろうな。

 男はみなピーキーな髪の色をしていて、見るからにヤンキーや街のチンピラという言葉が似合いそうな奴らだった。そんな男たちに囲まれている少年はとても青白い顔をしていて、今にも貧血で倒れそうな程、線が細い少年だった。

 やっばいな〜、やっちまったな〜、助けてあげようかな〜。よし、助けようか。


「あのー、すいません」

「ああ!?」


 声をかけるとチンピラの一人がガンを飛ばしてきた。声かけただけでそんなにキレないでよ。


「……かつあげ……してますよね?」

「ああそうだよ。わりぃか? 何もしなかったらてめえには何もしねぇよ。さっさとどっか行け」


 チンピラはシッシッて手で僕を追い払おうとする。

 僕はチンピラから少し離れ、携帯を取り出しカメラを使い、少年を囲むチンピラの写真を撮った。

 軽快なシャッター音が響くと、チンピラ全員の視線が僕に刺さる。うわー、冷や汗がー。


「てめっ!」

「写メ撮っちゃいました。てへっ」

「ぶっ殺す!!」


 チンピラたちが僕に向かい一斉に駆けてくる。

 僕はチンピラたちに背を向け一目散に逃げ出した。

可愛く言っても駄目か……


  ◇◇◇◇◇◇◇◇


 人の合間を縫い、街角を曲がり、追いかけてくるチンピラに見えるくらいの一定の距離感を保ちながら僕は逃げる。チンピラたちの煙草や飲酒をしているガタガタの体と僕の人外の体、走り勝つのは目に見えている。次々と、チンピラたちは膝に手をつき諦めていく。

 数分後。

 僕は自分の家の前に到着していた。夏という暑い季節の中走ったので、結構な量の汗をかいた。シャワー浴びよう。

 家に入り、僕はバスルームに入ってく、今日は千鶴ちゃんは出かけてるみたいだ。

 ノズルを捻り、シャワーを頭から浴びる。冷えた頭で僕は考える。

 あのチンピラたちが助かったかどうかを。

 他人を助けるなんて僕らしくないかな? でも、あの少年はヤバい。彼の体を青白い光が覆っていた。しかも、その周りには恨めしそうな目で彼を見る、頭だけの数人の人の幽霊がいた。

 多分、彼が今回の犯人何だろうな。スッゴい恨み買ってるし。

 シャワーを止め、バスルームから出る。体にまとわりつく水滴をタオルで拭き取る。リビングに入り、昼食を取りながらテレビを見る。何をしても忘れられない、少年のあの目。

 あの目はチンピラから搾取されるような目じゃない、強い意思がこもった人を殺すのをいとわないような目だった。

 背筋が震えた。

 僕は関係ない、関わりはない。


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