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第4話:ギアをさらに上げた2日目の衝撃

ベールを抜いた橘選手。打者、外野手、走者としてもデビューする。

松山市内のホテルの朝食コーナー。昨日の橘投手の衝撃のピッティングの余韻から2人はまだ興奮していた。

「アンダースロー投手としては世界一の素材でしょうね」

「昨日の映像監督見てくれたかな?あんまり話ができなかったからな」ベテランスカウトの後藤が悔しいそうに口を開いた。

「見たらさすがにびっくりして連絡あるでしょう」ピッチャー専門のスカウト大田原が自信を持って答えた。

「昨晩記者の上野の目が輝いてたな。しかし実績があまりないから明日か明後日の新聞に出るかどうか見たいだな」

おじさん3人はまだ気が付いていないが、既に橘投手のピッティングはYouTubeで再生回数が増え、野球マニアやゲーマーの間で話題になっていた。さらに橘投手の高校の同級生がの何人かが気づいていた。


「今日は11時からの第2試合では、野手で出て、負けそうだったらリリーフ。勝てば、決勝でリリーフのようです。昨日と合わせて100球を限度とするみたいですね」

「無名のままで肘や肩を怪我したら、ドラフトどころではないからな」


■第2試合 野手で出場

橘選手はライトで先発。3番打者。1回表の1打席目は1アウト2塁。鋭い打球で2塁手の左側を抜け、センターが右斜め後ろに回り込んでボールを確保。橘選手はあっという間に2塁ベースに到達した。2塁打。パスボールと内野ゴロで自ら2点目のホームを踏む。

3回表の2打席目は1アウト1,2塁のチャンス。ピッチャーは外角一辺倒。しかし3球目を左中間深いところに運んだ。ここでこの大会初めて全力に近い走りを見せる。スピードだけでなく、飛ぶように前に進む走りに昨日より多い観客がオオオー!と沸いた。野球選手ではなく本物のスプリンターの走りだ。


「速い速い!こりゃまたスゲーもん見ましたね」スカウトの大田原も昨日に続いて興奮した様子。

「前の走者まで後5,6メートルぐらいやったな。確かに1塁けってからなんというかカモシカ?違うなチーター?まあとにかく速い」

「野球の俊足な選手は、盗塁や守りのために、歩幅が小さめですが、橘のは大股でジャマイカの短距離選手見たいですね」

「俺よりいい例え出したな(笑)。特に外野の守備は歩幅が小さい方が目線がぶれずにボールが追えると昔から言われているからな」

「でも圧倒的なスピードを前にするとそれも小さいことのような・・・」

ちなみにこの試合はライトでの守備機会が1回だけそれも平凡なフライで守備の見せ場は無かった。試合も6回コールド勝ち。


■第3試合 野手&リリーバー「監督興奮しとったな。やっぱり左のアンダースローでこんなに本格的なピッチャー誰も見たことないし。しかも球が速くて変化球もコントロールもいいときてる」

「でも育成かドラフトか迷うな~と言われてたんでしょ?いやドラフトでしょ」

「一流打者、一流投手との対戦がほぼ0というのは、素人ということやから、そう簡単ではないってことだな」

決勝戦の前に昨日のビデオを見た監督から電話があったのだ。

「さて、決勝戦の相手は、今回唯一の強豪だな。アマチュアのいい打者にどういうピッティングを見せてくれるか楽しみだ」

「言ったら悪いですが昨日が3流で、今からが1.5流ってとこですね。相手チームにはトライアウト受ける選手も何人かいるようですから」

橘選手はやはりライトで3番。


試合はいきなり1回に4点取られる厳しい展開。しかしライトオーバーに打たれた守備で見せ場を作った。頭上を越されたものの追いついて2塁へ送球。スリークヲーターのフォームで投げられたボールはあっという間に2塁手に届いて、悠々アウト。昨日より多い500人の観客が沸いた。

「守備も凄くいいな。守備では上からスムーズに投げられるんやな」

「足の速さはプロでもトップレベルですが、バッティングも守備も余裕で合格点のような気がしますね」


打者では第1打席三振。3回相手チームが6点目を取って尚、ツーアウト1,2塁。ここで橘選手がマウンドに上がる。

「出てきましたね!さあ今日は昨日より打力があるチームで今はランナーもいるから、どんなピッティングをするのか?」

「クイックと牽制が上手いかどうか?」1塁牽制。アンダースローから素早い牽制。初球。クイックで外角低めストレート。

「140。クイックいいですね」

「牽制も上手いし、センス感じる」

2球目。クイックからのシンカーで空振り。

3球目。外角ツーシームでボール。

4球目。高めストレート。空振り三振。

「145。3球目はわざと外して高めストレートで仕留めたんですかね」

「しかし今日は明らかにホップして無かったか?」

「してましたね。昨日より身体がほぐれて理想的なフォームなんでしょう」アンダースロー特有の下から上への高めの速球は、空気抵抗でホップすることがあるが、それはよほど速くてキレ・伸びのある速球に限られる。

「ライジングボールか。しかもシュート回転するライジングボール。これは一流バッターにも相当やっかいなボールだ」

「ライジングボールを意識させて、シンカー、ツーシームにチェンジアップ。さらにはカッターにパワーカーブ。これはマジでプロで見てみたいっすね」


橘投手は、この日2回1/3の7人だけのショートリリーフ。そしてなんと7人全員を三振に仕留めるという昨日以上に圧巻の投球をして、地方の地味な大会にしては球場が多いに盛り上がった。スタンディングオベーションまでちらほらといた。


そしてまたライトの守備についた。

「右バッターへのインローストレートは、フロントドアになってましたね」

「シュート回転のフロントドアを投げられるピッチャーはプロでも限られる。アンダースローでここまで武器を持ってるのは恐れ入った」

試合自体は相手チームの楽勝ペースだが、橘選手がマウンドに立っている時は強者と弱者が逆になるという不思議な光景であった。


橘選手がマウンドを降り、6回表に追加点を取られて0対7となったところでつまらない試合展開となったと思いきや、まだ衝撃的な瞬間がおとずれた。


6回裏の橘選手が3打席目。1アウト1,2塁のこの試合初めてのチャンス。橘選手の2打席目はショートへの内野安打で、今日のピッチャーから長打は無いと見られていた。3球目の外角スラーダーを強振。多少泳がされながらもバットの芯で捉えて強引に振り切ったのだ。右中間への特大ホームラン。


「130m以上飛んだんじゃないか?」

「はは・・・バッティングのパワーまでありましたね!」

「おまけでいいもん見せてもらった」

「これは全国区になりますね。他球団もドラフト候補にしてきますよ」

「参ったな。まさしく嬉しい誤算だ。しかしこうして目の前に見てしまうと、ぜがひでも欲しいな」


2人のスカウトは、昨日今日のニュースや映像が出ると、全国の野球関係者やファンが注目するだろう、他球団も俄然騒ぎ出すだろうと予想しながらタクシーで道後温泉に向かった。しかし実際にはそんなもんでは無かったのだ。後日野球に全く興味の無い者の間でも知れ渡って、連日の大騒ぎになろうとは・・・・


2日間に渡る派手過ぎるデビューが終わった。しかしその夜からSNSがバズリ始める。

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― 新着の感想 ―
タイトルがキアをあげたとなっていますがギアですかね?
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