第17話:高校編②ボクシング部でブチ切れww
ハンドボールの公式戦に助っ人として出場した数ヵ月前のこと。1年生の終わり頃。教室で、ボクシング部の同級生に話かけられていた。
「周!お前柔道強いな。陸上と球技以外も才能あるとはずりーぞ!」
「ハハ、小さい頃アメリカで空手習ったからね」
「そうかあ。空手だけ」
「いや、親父が格闘技好きで頼んでくれて、レスリング、合気道、テコンドウ
をスポットで習ったかな。後トランポリンやってるから、役に立ってるかも。空間認知能力が鍛えられた」
「ボクシングは避けとんのかい!」
「ボクシングは、家でちょこちょこ野球の練習の合間にやらされたよ」
「そうか!よし、今度ボクシングに来ないか?2,3日でいいからさ」
「えー。習ってみたい気がするけど、無理やろ。ボコボコになれると痛いし」
「ミット打ちと軽いスパーリングぐらいよ。この前先輩がお前がボクシングやったらどんなんか見てみたいと言ってたしね。俺も見てみたい」
「かわいがり(イジメ)されないならちょっとやってみたいね」
ということで、2日間だけ参加することになった。
1日目は、基礎の練習。ディフェンス、コンビネーションやミット打ち。
しかし、サンドバックを打ったところで、部員達が驚いた。当然それは、パンチ力が凄まじかったこと。ボクシングのパンチ力は腕力によるのはほんの一部のこと。つま先で踏ん張ったと同時に、足、腰、背筋、上腕、握力等を瞬時に使いながら体重を拳に載せてこそ強烈なパンチ力を生む。抜群の身体能力と運動センスを備えた橘周は、既にそれができていたのだ。
2日目には、漫画で良くあるパターンが待っていた。その日はコーチが不在。2年生の外崎が話しかけてきた。彼はミドル級の有望株である。
「橘、ちょっとスパーしようぜ、体格俺と同じぐらいやし」
この頃の橘周は77,8キロで確かにちょっと絞るとミドル級(72.57キロ)である。
「いや痛いの嫌ですよ」
「ヘッドギア付けて1ラウンド軽くやるだけよ。お前のセンスを見てみたいんよ」
「えーホントに軽くですよ」
しかし、外崎はスポーツ万能で顔もスタイルがいい橘周をちょっと痛い目に合わそうと企んでいた。ミドル級のホープだが、性格がヤンキー系だった。
橘周は最初半分ぐたいの力で習ったワンツーやディフェンスを確かめるように戦った。対して外崎は半笑いでおちょくるようにテクニックを見せてきた。
「ホレホレ、いけめん君どうしたあ。真面目にやれよ(笑)」
フットワークを使ってかわしながら、小さいパンチを当ててくる。
そして、アッパーとボディにけっこういいのが入った。
「うっ!」橘周は一瞬痛くて立ち止まった。
そして珍しくキレたのだ!
「お、怒ったか?どうしたー、モテモテの橘周はそんなもんかーーー?」
と、さらに煽ってきた。
橘周は、スイッチが入った。
父親から「左手は絶対に痛めるな」と命令されていたこともあって、右ジャブ中心に応戦した。同時に瞬発力を活かしたフットワークも使った。そして、まさかのジャブ10連発のうち2発ほど入った。
「お、ちょっと効いてるぞ」集まっていた生徒の1人が小さめに叫んだ。
橘周は次に縦方向に大振りの左フック。拳を痛めないために外崎のグローブに強く打ち込んだ。グローブ超しに顔面を捉えて、軽めの脳震盪。
そのチャンスに渾身の右ボディアッパー!
「うご!」と呻いて外崎はうずくまった。直後にレフリーをしていたキャプテンが間に入って「ストーップ」
外崎は・・・KOされて動けなかった。
通常ボディでのKOは実力差がある場合に起りがちだが、スポット参加2日目の素人にボクシング部で一番強いとされた外崎がそのボディで一発KOされた。かなり恥ずかしい終わり方だ。
外崎のダメージが大きく、次の日も学校を休んだ。おちょくって煽ってKOされて学校を休むなんて、中々情けない(笑)。
でも次の日橘周のクラスに外崎はやってきたのだ。腹をさすりながら(笑)。
「橘ーー。一昨日は悪かったな。お前凄いよ」
「いえ、先輩が油断しただけっすよ」
「油断はあったことは確かだが、とにかく俺ははずいぞ(笑)」
「・・・・」
「それより、お前ボクシング本格的にやれよ。将来世界チャンピョンに成れるかもしれんぞ。俺の目には1億のファイトマネー稼げるチャンピョンに成れる気がするぞ」
もちろん、橘周は二度とボクシング部には行かなかった(笑)。
ただ無残に素人にKOされた外崎は、その5年後に日本チャンピオンに上り詰めたから、橘周が”億が稼げる世界いチャンピオン”に成れたかもしれないことは、当たっていたかも。