第110話:激闘のポストシーズンが始まった!
なんとか地区1位になったニューヨーク・ヤンキースは、テキサス・レンジャースとのディビジョンシリーズを向かえた。
===
第1戦では、弟の橘壮太郎が先発し、兄橘周が9回を抑えて勝利。
第2戦と第3戦は敗北し、後が無くなったが、第5戦は中4日で橘壮太郎を先発させ、大勝して最終戦。2-1で迎えた8回1アウト2塁3塁の大ピンチに、三振を取れる橘周がマウンドに上がった。
バッターが緊張しているのを感じた橘周は、浮き上がるストレートと沈むシュートを武器に連続三振に切ってとってピンチを脱した。バッターは身体がガチガチになると、余計に速いボール・動くボールにコンタクトしずらくなるので、空振りが取りやすくなる。
9回は一転してライジングカッターとツーシームを混ぜて抑え、ディビジョンシリーズを征した。
===
続いてすぐに始まったシアトル・マリナーズとのリーグチャンピオンシップシリーズ。
しかし、ヤンキースはいきなり2連敗を喫して、3戦目に禁じ手の作戦を取った。
クローザーの橘周をライト先発4番で起用したのだ。橘周は、バッターとしてチャンスに強く、いまだに足もかなり速いし、守備も上手い。しかし、それ以上に不思議な突破力を持ち、チームの雰囲気を一気に変えるムードメーカーでもあるのだ。
メジャーリーグでは、最強打者を1~3番に配置し、4番神話のある日本とは随分異なるが、それでもクローザーを4番でしかも野手で起用するのは、史上初めてのことである。
監督は、打力や走力よりも暗いムードを変え、選手全員が戦う姿勢になることを期待し、コーチの反対を押し切って、橘周を野手で先発させたのだった。
1回にいきなりその力を発揮した。
2アウト2塁から勝負強くライト線を破って、3塁まで走りスリーベース。陸上選手のような豪快な走りを目の当たりしたヤンキースタジアム全体もチームもガラッと雰囲気が変わった。次の打者のショートゴロを相手選手が焦ってスローイングがそれ内野安打になる間に、橘周はホームインし、あっという間に2点先制だ。
その後は、点の取り合いで6-3の9回に、外野からクローザーとして橘周が登板し、1勝をもぎ取った。
しかも7回には、追加点を取るセーフティスクイズまで決めていた。
橘周は、またしても違う形でヒーローになり、ヤンキースタジアムはもうワールドチャンピオンになったかのような騒ぎとなった。




