表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/38

8 酒盛り



 乾杯後、魔界産の赤ワインをひとくち。



「なにこれ、うまい!」



 ハルカは目を丸くした。これは並みのワインではない。



 繰り返しになるが、ハルカは大の酒好きである。安くても高くても、酒なら何でも好きな方の酒好きである。



 とくに(おご)りで飲む酒は大好きだが、自分の金で飲むときは、コストパフォーマンスを重視するので、「飲み放題」か「宅飲み」と決めている。



 ワインも同様で、オシャレなバーやレストランのグラスワインの1杯や2杯では到底満足できない。都会に住んでいたころは、会員制ワインバーの『飲み放題メンバー』となり、仲良くなった美人ソムリエールがすすめてくれるワインを、産地、シャトー、品種を問わず、月額5千円の週1ペースでガブガブ、ガブガブ。ドリンクバーのように飲んでいた。



 そうしてワインの良し悪しについて、なんとな~く、わかるつもりになっていたハルカだったが、シルヴィーが持参した魔界産の赤ワインをひとくち飲んだ瞬間、その美味さに衝撃を覚える。



 なんだこれは! うまいったら、ありゃしない。まさに別格。色、香り、後味、どこをとっても、ハルカ史上最高の味わいだった。極上ワインに、雄叫びをあげる。



「生きていて良かったああああ~~~」



 そこからは、もう止まらない。



「どうぞ、全部飲んでください」



「ありがとう。では、遠慮なくっ!」



 シルヴィーの言葉に甘えに甘え、ワインボトルを片手に手酌でグビグビ~



 ハルカ的には味わいながらも、生ビールをジョッキで飲むようにグビグビ~



 そんな飲み方をしていれば、瓶底はあっという間にみえてしまう。



「もう空っぽかあ~」



 ボトルを逆さにして、どんなに一生懸命振っても、一滴たりとも落ちてこない。



 ボトルではなく、できれば樽ごと欲しい――そう思わせるワインであった。



 用意したツマミには、まだ手をつけていない。まだまだ飲み足りない。



「シルヴィー、付き合ってくれるよね。今度はわたしが、とっておきの酒をご馳走するよ」



 本格的な酒盛りをはじめることにしたハルカは、ふたたび台所に向かい、先日、引っ越しを手伝ってくれた村役場の若手職員から「引っ越し祝いです」と贈られた、とっておきの純米酒を、暗所から取り出した。



 銘柄は【妖界】、蔵元は「きっかい酒造」である。



 お気に入りの江戸切子の徳利(とっくり)御猪口(おちょこ)。一升瓶を持って縁側に戻り、【妖界】をなみなみと注ぎいれた徳利をお隣さんに渡す。



「シルヴィー、冷酒にして」



「お安い御用です」



 江戸切子の繊細な彫りに、形の良い唇が寄せられた。吸血鬼の冷たい吐息がかかる。



「これくらいで、いかがでしょうか?」



 ハルカの手に戻された徳利はヒンヤ~リ、じつにいい具合だ。



「よし、シルヴィー。ここからが本当の『引っ越し祝い』だよ。呑もう、呑もう」



 ホロ酔い気分で、ご機嫌なハルカ。



「呑みましょう。呑みましょう」



 さらに上機嫌なシルヴィーが、御猪口もほどよく冷やしてくれた。



 陽の傾いた縁側には――空っぽのワインボトルと一升瓶が転がっていた。



 ハルカは御猪口を握ったまま、すぅー、すぅーと、シルヴィーの膝を枕に眠っている。その頬は、ピンク色。アルコールの分解が異常に早いシルヴィーは、いくら呑んでも酔うことはなかった。



 酔いつぶれて気持ち良さそうに眠りこけるハルカの薄紅色の髪を、どさくさ紛れに撫でながら、



「カワイイ。カワイイ」



 デレデレとした顔で、飽きることなく寝顔を堪能していたのだが、次の瞬間――異次元の速さで板の間からスーツの上着をとり、すっぽりとハルカを覆い隠した。



 急激に冷めた視線を縁側の先にある垣根へと向け、念で怒気を飛ばす。



《 みるな、のぞくな、ちかづくな 》



 同時にテレキネシス、いわゆる念動力をぶつけた。



 垣根のそばで、古民家の様子を伺おうとしたコウモリが、「――ピキイィ!」と鳴いて、日暮れの空に弾き飛ばされていった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ