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6 求愛行動

 


 ヴァン爺という、タツ子にゾッコンだった吸血鬼を間近で見ていたこと。



 幼少のころから、きっかい村に出入りしていたこと。



 これらの経験値により、異種族たちの求愛行動について、ハルカはある程度理解していた。



 魔族にしろ、妖怪にしろ、獣人にしろ。異種族たちは人間と同じか、それ以上の知性や品性を備えた者たちが多く、粗野で乱暴なモノは、ごく一部だった。



 きっかい村はとくに、真面目で穏やかな気質のモノたちが集まっていることもあって、トラブルはほとんどない。しかし、どんなに穏やかで理知的な彼らであっても「唯一」急変することがあった。



 それは――彼ら、彼女らが、恋に落ちたとき。



 たとえば、道ですれ違った瞬間。



「いま、突然にアナタのことが好きになりました! 結婚してください!」



 図書館で、3度目に顔を合わせたとき。



「どうして、いまの今まで気づかなかったのか! わたしの目は節穴だったのです!」



 ひと目みて~のときもあれば、何度目に会ったときもある。どちらにせよ、そこからは理性をかなぐり捨てた、本能剥き出しの求愛行動が開始されるのである。



 ストーカー行為に該当する「待ち伏せ」「出待ち」「張り込み」は基本中の基本で、プレゼント攻勢&四六時中のデートのお誘い&延々につづく愛の告白、などなど。



 晴れて両想いとなれるその日まで、執拗で性急な、度を越しまくった、うっとおしい求愛行動がつづくのである。



 人族のハルカからしてみれば、求愛する方も、される方も大変だろうと思うのだが、多くの異種族からすればめずらしくもない、ごくごく普通のことらしい。たいてい、「しょうがないよね~」でおさまっている。



 しかし、稀に「しょうがない」では、済まされないときがある。それは、恋敵(ライバル)が現れたとき。



「オレの方が、愛している」



「何をいう、ワタシの方が数倍愛している」



「バカを云え、オレはオマエの100倍愛している」



「バカも休み休み云え、わたしは1000倍愛している」



 理知的だったはずの彼らは、じつに幼稚な舌戦を繰りひろげたあと、本能のままに「どっちが愛しているか」バトルを勃発させるのだ。



 きっかい村をバトルフィールドに3日3晩。より激しい戦闘をするため、魔界や妖界に戦場をうつして数日間。決着がつくまで闘いはつづくのである。



 しかしながら、いざ決着がついたとて、バトルの勝者が必ずしも愛を得られるとは限らない、というのが恋愛問題の難しいところ。



 傷つき倒れた敗者を胸に抱き、



「いや、死なないで! いま気づいたの。わたしが愛しているのは、アナタよ。アナタじゃないと、わたしはダメなの」



 なんてことは、けっこうある。



 不運にも、そういう場面に出くわしたことがあるタツ子は、しみじみ云っていた。



「もう、目も当てられないよ。満身創痍で勝ったっていうのにさあ……終わってみたら完全に当て馬というか。愛の咬ませ犬っていうのかねえ……こればっかりは、どうにもならないんだけど、可哀相でねえ。人間も人外も、恋っていうのは難儀だよねえ」



 そんなわけで、異種族特有の恋愛衝動、求愛行動について、ハルカは多少の理解と免疫があったので、シルヴィーの突然の告白にも、



「へえ、そうなんだ。いつから?」



 という具合に、冷静沈着に対処できたのであった。



 逆に、シルヴィーの答えが、幼いハルカを見たときから――と、聞いたときの方が驚いた。本能に抗い、よく我慢できたなと思うが、それはさておき。ヴァン爺から熱烈求愛を受けていたタツ子からは、求愛行動への対処法も、しっかり伝授されていた。



「まあ、要は(しつけ)だよ。本能だろうが、なんだろうが、ダメなことはダメだと、最初にしっかり教え込んで納得させること」



「なるほど」



「つぎに、ルールや約束ごとを決めることだね。なに、そんなに難しいことでもないさ。異種族はおおむね規律や掟、契約を重んじるからね。1度口にした約束を反古にすることはまずない。契約によっては制約もかかるからね。破れば命を落とすこともある」



「ふんふん」



「あとは人間同士の恋愛と同じだよ。まずは、お互いを良く知ることだね。相手の話しをたくさん聞いて、自分のことも同じくらい話す。何が好きで、何が嫌いか。一番うれしかったことは何か。最後に泣いたのはいつか。どんな生き方をしてきたか。恋人に求めるものは何なのか。好きとか嫌いとかは、その先にあることさ」



「わかったよ。婆ちゃん」



 きっかい村で楽しく過ごすため。お隣さんと良い関係を築くため。ハルカは、さっそく実行した。



 爽やかな風が吹き抜けるなか。乱れたシルヴィーの金髪を整えてあげながら「あのね」と話しはじめる。



「シルヴィーの気持ちは嬉しいよ。でも、ゴメンね。わたしは今日、会ったばかりだから、今すぐ好きになることはない。でも、シルヴィーとは仲良くしたいから、まずは婆ちゃんやヴァン爺がそうだったように、茶飲み友だちからはじめない?」



「お友だち……僕が、ハルカさんのお友だち……」



 金の瞳(ゴールデンアイ)が、キラキラと輝きはじめた。



「そう。お友だちとして、節度あるお隣さんとして仲良くなりたいの。それでもいい?」



「もちろんです! ハルカさんを尊重し、礼儀正しく節度ある吸血鬼として、役に立つお隣さんとして、誠心誠意お仕えすることを誓います!」



 力強く宣誓するシルヴィーに満足して、ハルカはその先をつづけた。



「お友だちとして、お隣さんとして仲良くするために、古民家の覗き見はしないこと。役場のデータベースに侵入するのもダメだよ」



「お約束します!」



「それから~~~」



「なんなりと!」







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