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ファンタジーな村に引っ越したら、「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた  作者: 藤原ライカ


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37 夏まつりのあとで

 


 金色のキャンプファイヤーが、特設リンクで勢いよく燃えている。



 大成功に終わった夏まつりを祝して、大宴会がはじまった。



 シャトルバスの送迎をほとんど魔王ベゼルデウスに任せていたシルヴィーは、有り余った魔力でリンク上のキャンプファイヤーの他にも、会場を照らす金の篝火を焚いてくれた。



 金の火の粉がそれは美しく夜空を舞うなか、きっかい酒造は酒蔵から樽酒を運んできて大盤振る舞い。ウォーレンとピエールもワイン樽を持ち込んで、「おつかれさまで~す」と村民たちに振舞った。



 美味い酒と極上ワインが飲み放題となり、否が応でも酒宴は盛り上がる。



 ウサギの着ぐるみを脱いだ魔王ベゼルデウスには、ひょっとこのお面がかぶせられ、その周りに集まったゾロ目殿下たちは揃いの狐面で久々すぎる親子の時間を過ごしていた。



『幻獣茶屋』の矢倉の上では、小鬼たちが太鼓をたたき、ろくろっくびネエさんや雪女、エルフたちが盆踊りをしている。



 虹色ウォータースライダーで盛り上がっているのは天狗衆たち。とくに若大将の黒羽は「楽しい……」と見た目のクールさに反して、だれよりも水飛沫をあげてナイトプールを楽しんでいた。



「ギャップ萌え」



 砂浜から、それを眺めているのはアカネで、推しが「ひゃっほぉぅ!」とスライダーから滑り落ちてくる様を酒のツマミにしている。



 そのとなりに陣取った羅漢刹は、



「桃太郎のつぎは天狗か?」



 口を尖らせたが、女社長アカネから「今後ともお付き合のほど、よろしくお願いしますね。羅漢刹CEO」と接待酒をつがれると、頬を染めてボソリと云った。



「ふたりのときは、羅漢刹でいい」



「……それじゃあ、わたしのこともアカネで」



 広場の至るところで、呑めや歌えのドンチャン騒ぎだったり、家族水入らずだったり、恋のはじまりを予感させる良い雰囲気が漂うなか。



 ハルカとシルヴィーは、



「何はともあれ、シルヴィー、おつかれさまー」



「おつかれさまです。大成功でしたね。それでは乾杯!」



「かんぱ~い!」



 古民家の縁側さながら、イベントステージに腰掛けて酒を呑んでいた。



「運営側だったけど、わたしもすっかり楽しんじゃったよ。今まで、一番楽しい夏まつりだったなあ」



「僕も楽しかったです。笑い声というのは、いいものですね。叫び声よりずっといい」



「そりゃ、そうだよ」



「……思いきって、連れてきて良かったです」



 そう云って笑ったシルヴィーが見つめる先には、夜空を見上げるひょっとこ面がいる。



「ベゼルのことですが……」



 魔王の名を口にしたシルヴィーは、篝火に照らされた美しい顔を俯かせ、200年ほど前に魔界で起きた悲しい物語を話しはじめた。



「父である前魔王から玉座を奪ったのは、母である前王妃に操られたベゼルデウスです」



 前王妃の陰謀に気づいたベゼルデウスの亡き妻は、夫の呪縛を解こうとしたが、前王妃の手先だった侍女に裏切られ殺された。



「ベゼルが正気を取り戻したのは、前魔王の断末魔が玉座に響いたときでした」



 もう何もかも取り返しのつかない状態で、自暴自棄になったベゼルデウスが、自身の魔力で己を滅しようとしたとき、それを止めたのがシルヴィーだった。



「魔界において、如何なる理由があろうとも、魔王の王位継承争いに吸血鬼の一族が首を挟むのは禁忌とされています。悪魔とアンデットは勢力が拮抗している分、魔王の座にアンデットである吸血鬼が君臨するのではないかという恐れが生まれ、無駄な争いが起きるのです」



「それなのに、どうしてシルヴィーは助けてあげたの?」



 金の魔性は、少し照れたように頬をかいた。



「らしくないのですが……魔王城からあまりに悲痛な叫び声が聞こえてきて、気づいたら転移していました。しかしまあ、そのときベゼルの魔力が暴走状態で、魔王城が崩壊寸前だったこともあり……それを救ったような感じになりまして」



「なるほど。タイミングって大事だよね」



「はい、そう思いました」



 結果として禁忌ではあったものの、魔王城の崩壊を防ぎ、次期魔王となるベゼルデウスを救った金の魔性は悪魔たちにとって大恩ある存在となり、魔王に次ぐ大公位を授けられたのである。



 その後、尊敬する父と愛する妻を失った魔王ベゼルデウスは憔悴し、諸々の処理が終わるなり引きこもりになってしまった。



 それからというもの魔王領で諍いが起きるたび、「大公様~」とやってくる悪魔たちから、すっかり頼られるようになったシルヴィー。



「今回、無理やりベゼルを引っ張ってきたのも、魔王の側近たちから『そろそろ、なんとかして欲しい』と、しつこく相談されまして……ちょうど良い機会になりました」



「魔界もいろいろあるんだねえ」



「そうなんですよ」



「それじゃあ。がんばるシルヴィーに、わたしからご褒美をあげましょう」



 話しを聞きながらもハイピッチで酒を呑んでいたハルカは、ホロ酔い気分で「はい、プレゼント」と渡した。



「前にカタログを見て欲しがっていたでしょう」



「……こ、これは! 某有名通販会社の!」



 プレゼントを手渡されたシルヴィーの肩が震える。



「注文ナンバー〖4151〗 恋愛運アップ、縁結び姫の恋々ストラップ!」



「そうそう。それとTシャツも欲しいって云っていたけど、そっちはオーダーメイドにしたよ」



 カタログをみてシルヴィーが欲しがっていたのは『恋人募集中』のプリントがされたショッキングピンクのTシャツだった。さすがにそれは「ヤバイ」と思ったハルカ。



 アカネのツテでイベント用のオリジナルTシャツを扱う業者に依頼し、正面には縦書きの『天下無双』、背面には横書きのカタカナで『キング・オブ・ヴァンパイア』と金字で印刷された黒Tシャツをプレゼントした。



 アカネからは「それもどうかと思うよ」と云われたが、オリジナル黒Tシャツに顔を埋めたシルヴィーは、「嬉しいです!」と感極まっている。



「喜んでもらえて良かった~」



 気分があがったハルカは、一升瓶を持ち上げた。



「よしっ、今夜は飲み明かそう!」







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