表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/38

34 夏まつり(2)

 


 ハルカが『エルフの森』で商売上手なダークエルフを覗き見していたころ。



 チーフプロデューサーのアカネは、担当する目玉イベント『体験型アドベンチャー』のモニター室で、エリアマネージャーの巨人族・コレット男爵と複数のモニターを固唾を飲んで見守っていた。



 まずは、体験コース〖A〗洞窟ダンジョン。モニターは全部で4つある。



 そのうち、2組の勇者パーティを追いかける〖Aー1〗と〖Aー4〗モニターが映し出しているのは、洞窟ダンジョンでモンスターバトルに挑もうとしているパーティの様子だった。



 〖Aー1〗モニターでは、パーティ名【天空の(ライ)アンド(ライ)】が、オーク系の大型モンスターを相手に、前衛の勇者と戦士が剣を振り回し、後方からは魔法使いと神官が魔法の呪文を詠唱している。



 勇者の青年が「ライジングーッ、○▽○▽!」と技名を叫んだ瞬間、雷を帯びた剣が一閃。青系の稲光が2秒ほどあって、ほど良い電撃がモンスター役の魔物を襲った。



 そこそこのダメージを与えたところで、今度は戦士が「灼熱のぉ―ッ、▢△▢△!!」と斧を振り抜くと、戦士の足元から吹き上がった紅蓮の炎が地を這い魔物に襲いかかって、討伐完了。



 やられた魔物は空中で霧散していくという、みごとな去り際の演出効果だった。



 コレット男爵が唸る。



「今は役場の職員ですが、やはり、実戦経験豊富な元魔王軍の方々は要領を得ていますねえ。卓越した魔力操作です」



 アカネはというと、モニターの前でスタンディングオベーションだ。



「完璧ですよ! 雷といい、炎といい、タイミングから視覚効果まで。それに、モンスター役のジャイアントさんも素晴らしいオークっぷり! やっぱり大きいからフィールド映えします! 巨人族とダンジョンの相性最高!」



「お褒めに預かり光栄で……おおっ、アネカワ殿! 〖Aー4〗モニターを見てください! こちらのパーティも、いよいよ魔物と相対しましたぞっ!」



「ええっ、見たい、見たい! たしか、パーティ名が【村人、覚醒しました】だったよね」



 もうひとつのバトルを中継する〖Aー4〗モニターでは、皮の胸あてにヒノキ棒を装備した村人設定の最弱勇者が叫んだ。



「なんだ、これは! オレの身体が焼けるように熱い!」



 魔物とのバトル中に突如として起きるフィールド内での覚醒に、アカネとコレット男爵は手に汗握った。



「ダン! どうしたんだ! オマエの身にいったい何が起きているんだぁ!」



 現場では、これから魔法使いになる予定の村人Bも、勇者の名前を叫びながら雰囲気を盛り立てる。そしてついに、勇者の額が発光し、何らかの紋章が浮き上がってきた。



 まばゆい光が、最弱勇者ダンを包みこみ、一陣の風が吹き抜けたとき。そこにいたのは、どこからどうみても覚醒したドラゴンメイル姿の勇者ダン。



 ヒノキの棒を投げ捨てた覚醒勇者は、腰元の鞘から剣を抜いて叫んだ。



「ドラゴン・スラッシュ!」



 技が決まり、倒れた魔物。茫然とする勇者の元に集う仲間たち。



 〖Aー4〗モニター前で、アカネとコレット男爵は拍手喝采した。



「クオリティ高っ! 成り上がり勇者ストーリーの完璧な1話目じゃない。これからどうなっていくのか、楽しみでならないわ!」



「いやあ、いい出来でしたねえ! しっかり録画していますから、あとで動画販売も可能ですぞっ! ダンジョンから出てきたら、プロモーションで流していいか、ご本人様たちに確認を取っておきましょう」



「さすが、男爵! 抜け目なしね!」



 きっかい村役場観光課の魔族で構成された『洞窟ダンジョンチーム』は、その後も素晴らしい演出の数々を見せてくれ、、モニター前のアカネとコレット男爵をおおいに楽しませてくれた。



 かたや、体験コース〖B〗の『妖都で潜入ミッションチーム』の活躍も見事だった。



 魑魅魍魎が巣くう魔京であり、最恐のあやかし四天王が君臨する舞台設定の妖都。そこで現場を取り仕切っているのは、天狗村長の息子。烏天狗の若大将である。



 天狗衆を率いる若き烏天狗の長は、まさに神出鬼没。ミッション中の参加チームを翻弄し、攻略魂に火をつけさせ、ときに秀麗な御尊顔をチラつかせ、女性参加者のハートを鷲掴んだ。



「いやはや。天狗村長の御子息・黒羽(クロバネ)くんは、妖界で夜警を担当するバリバリの指揮官だからね。さすがに配下の統率がとれているなあ。烏天狗の精鋭が揃うと圧巻だよ」



 コレット男爵の説明にあったとおり、妖界から応援にかけつけてくれた烏天狗部隊は、制服効果も相まって、とにかくカッコいい。



 とくに指揮官の黒羽は、美しくも冷たい表情にダーク系の制服がこれでもかとマッチし、



「はじめまして。烏天狗の息子で、妖山に棲む黒羽と申します。父がいつもお世話になっております」



 隙のなさといい、敬語口調といい、アカネの好みドンピシャだった。



 流れるような刀さばきをみせる黒羽の映像が〖B〗コースのモニターに映し出されると、チーフプロデューサーのアカネは溜まらず叫んだ。



「敬語、制服、超絶いいっ! 鱗も好きだけど、今日からわたしは天狗推しよ! お願い、プロモーションビデオ撮らせて!」 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ