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ファンタジーな村に引っ越したら、「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた  作者: 藤原ライカ


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32 夏まつり前日

 


 30文字縛りのメッセージのやり取りができるようになり、『きっかい夏まつり』の準備は順調にすすんだ。



 開催日は8月第3週の土・日に決定。



 イベントのテーマは、『みんなでファンタジー!』



 イベントのテーマについて、チーフプロデューサーのアカネは、「集客ターゲットは全属性、全年齢層!」と意気込んだ。



 さらには――



「良い子、悪い子、暴れん坊! 泣き虫、弱虫、人見知り! 照れ屋、威張り屋、あわてん坊! 戦略的メインターゲットは、ボーダレスな小児世代! 子どもの心を捨てきれないアダルト世代も、幼き日々を懐かしむノスタルジー世代も、マジであの頃に戻りたい世代も! ありとあらゆる『エイジレスこども世代』の好奇心、冒険心、性癖を刺激するのです!」 



 白熱した企画立案会議のあと、古民家での密談にてアカネは裏設定を暴露した。



「良く云えば、夢と魔法の国作戦だけど、ぶっちゃけ、全属性対応型イメージクラブ戦略よ。田舎村っていう限定的なフィールドで、非現実的な妄想を実現できると知れば、妄想脳内プレイで日々悶々としている厨二病こじらせアダルト、なりきり願望絶大なコスプレ愛好者たち、お姫様設定至上主義のレディたちは、足を運ばずにはいられない衝動にかられるはず」



「イメクラか……なるほど。女王様に制服フェチ。ヒーロ、ヒロイン願望に、もふもふ、鱗派、たしかに、きっかい村ならオールジャンルの妄想が叶いそうだよ」



「そうでしょ。かくいうわたしは、嫌われ属性・敬語・制服・鱗派なんだけど。ハルカは?」



「そうねえ、わたしは闇属性・サイコ系アンチヒーロー・スーツ眼鏡・現代もの同僚設定からの溺愛発展かな」



「やばっ、細かい! でも、それは主人公より人気が出てしまう裏ヒーローだね」



「なんだかんだで、裏も表も王道コンセプトはハズせないよねえ」



「わかる、わかる」



 開催日程、メインテーマ、裏コンセプトの方向性が決まり、つぎは会場と具体的なプログラムが、数百回に及ぶ短文メッセージのやり取りを経て決定、村民たちを集めた説明会で賛成を得て、きっかい夏まつり実行委員会で承認された。



 会場は、これまでの役場前にある広場から変更。荒れ放題だった村の北側にある竹やぶを整地して、見晴らしの良い芝生広場をつくり、そこにステージを設置、広場全体をイベント会場にした。



 会場周辺には、木々を利用したアスレチック場や大型の遊具があり、リアル小児世代は遊び放題。



 また、少年少女時代をファンタジー小説とアニメに夢中になり、お金と時間に余裕ができた今は、テーマパークの長蛇の列に並ぶ体力はない、という世代向けに『エルフの森』を再現したリアル・ファンタジーな散歩道をつくった。



 妖精ピクシーたちに誘い込まれ、のんびりと森林浴をしながら楽しみ、これ見よがしに点々とあるツリーハウス型ショップで、美形エルフ店員にすすめられるがまま、いつのまにか大量の異世界グッズを購入してしまうロード・オブ・ザ・ショッピング。



 そしてここからが、今回の目玉イベント。妄想脳内プレイで悶々としているアダルトたちの夢と渇望を叶える体験型アドベンチャー。選べる体験コースは〖A〗と〖B〗を用意した。



 〖A〗 洞窟ダンジョン


 集え、勇者パーティ! 

 世界に選ばれし者たちよ。魔窟を攻略して地底神殿にある聖剣を手に入れろ!



 〖B〗 妖都で潜入ミッション


 アナタは陰陽庁特務隊の陰陽師。

 仲間の術師たちと妖都に潜入し、百鬼夜行を阻止せよ!



 どちらのコースも、装備品、衣装の持ち込みは自由。手ぶら組には、本格装備、衣装、小道具のレンタルがある。



 広い会場には、アミューズメント仕様の休憩所も用意している。



 青空市でおなじみ、空模様のテント『青空カフェ』を設営し、フリードリンク&異世界サラダバーのフードスペースと直売所を併設する。



 さらには、紳士淑女の妄想を掻き立てる『執事とメイドのロイヤル・アフタヌーンティー・ガーデン』に、もふもふパラダイスを満喫できる『幻獣茶屋』という、コンセプト系の飲食サービスを展開して、ここでも収益を狙う。



 それ以外にも、夏の風物詩である〖お化け屋敷〗や有翼種組合による〖天空メリーゴーランド〗など、盛りだくさん。



 ステージイベントは午前10時をスタートにして、これまでの『初詣スタイル』からタイムテーブルを一新した。



 プログラムの内容は、人気ラジオ番組『おはよう、ろくろっくびネエさん! ネエ聴いて!』の公開生放送や、きっかい酒造による利き酒大会。ステージ前にある特設リンクでは、異種族総合格闘技トーナメントを開催する予定だ。



 ちなみに、これほど大掛かりなイベントであるにもかかわらず、異種族たちは異能の力を存分に発揮し、広場の整地、エルフの森、アスレチック場、ダンジョン設営などなどを、わずか2日間でやってのけた。すべてボランティア。



 資材や費用については、アカネに惚れている『鬼頭組』の頭領と、ハルカのお隣さんである吸血鬼の王様が競い合うように出資した。



 8月に入り、宣伝や告知を本格的に開始。空想市の主要駅から無料のシャトルバスを手配して、準備万端整った。



 最終チェックに余念がないアカネは、『きっかい夏まつり』開催の3日前から村入り。



「空想市周辺の駅でも1万枚のチラシ配りをしてきたわ。手ごたえも十分」



 集客に自信を見せつつも、ハルカにこっそり耳打ちした。



「万が一のことを考えて、当日、うちの全社員が家族総出でやってくるから、最低ラインで人族30名は確保したわ」



 ハルカも声をひそめる。



「青山家と大江家に動員をかけたから、親戚縁者合わせて15名。あと、前の会社の先輩後輩を、表沙汰にはできない過去ネタで脅したから、暴露を恐れる5名は確実に来る」



 しっかりと保険をかけたチーフプロデューサーと村おこし推進室長は、前日の酒を控え、『きっかい夏まつり』本番を迎えた。





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