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28 五重塔

 


 村役場の2階。村長室のとなりに新設された『村おこし推進室』は、ハルカを室長にすえ、3名の部下が配属された。



 まずは観光課からの異動で、悪魔のゾロ目殿下。つぎに、村民課窓口から猫田又作。そして、農業振興課からは藪蛇蛇彦が「よろしく、よろしく、よろしく~」とやってきた。それとは別に、村長との力比べに勝利したシルヴィーが、ハルカの室長昇格により空席となったアドバイザーに就任した。



『ファンタジー暮らし』の営業開始を控えたハルカは、推進室をオフィスがわりに利用する許可がおり、事務用品も使い放題、備品の保管場所も確保できてルンルンだった。



 夏まつりの準備を並行させながら、忙しくも充実した日々を過ごした週末の土曜日。



 古民家の縁側で、「ビールが飲みたいなぁ」と呟いたハルカのリクエストに応え、シルヴィーがビールサーバーを持ち込み、ウォーレンはきっかい酒造に、クラフトビールを買いにいかされた。



 次に、「なんか、バーベキューしたくなるよね~」というハルカの独り言により、コウモリ執事のピエールがやってきて、肉や野菜、炭や鉄板など、バーベキューのセッティングをわずか5分で完了させた。



 縁側に座り、ポツリと口にしたことが、魔法のように実現されていく様を見て、「これほどの贅沢はないわ」と感謝したハルカは、



「さあ、楽しもう! 肉の焼き加減はまかせて」



 左手にジョッキ、右手にトングという出で立ちで、ジュージューと肉を焼いた。



 みんなでワイワイやりはじめて、30分が経ったころ。



 最初に異変を察知したのはシルヴィーだった。



「ハルカさん、こちらに」



 ハルカの腰をさらい、しっかりと自分のそばに引き寄せると、ウォーレンとピエールに命じた。



「あやし区に防護魔法をかけろ。こちらに攻撃をしかけてくるようであれば迎え撃て」



 そう云い残すとハルカを横抱きにして浮上。縁側の庭から古民家の屋根へと移動した。



 屋根のうえ。小高い丘の上にある「あやし区」からは、村の様子がよく見えた。そこでハルカも、村を縦断するように土煙が上がっているのに気づく。それは一直線に、あやし区に迫ってきていた。



「シルヴィー、あれは何?」



「地表からそう深くない場所を、何かが勢いよく掘り進んでいるようです」



 シルヴィーが云う「何か」を追いかけてきたのは、制止の大声を上げる有翼人たち。



「止まれーッ! どこに行くんだぁぁ!」



「速度違反だぞーッ! ダメだ、聞こえてなーいッ」



「アオヤマさーんっ、気をつけてー! そっちに行ってるよぉ―ッ」



「うわー! ゴホッ、ゴホッ……」



 しかし、こちらへの注意喚起を最後に、立ち昇る土煙に巻き込まれ見えなくなった。



 地中を猛スピードで移動している「何か」のせいで、地面は大きく揺れ動いている。幸い古民家の周辺は、シルヴィーの魔法のおかげでまったく揺れていなかったが、きっかい村の異種族たちが止められないほどの勢いで、地中を突進してくるなんて……いったい何だろうか。



 巨大なモグラの化け物を想像して、ハルカはギュっと、シルヴィーの真っ白なシャツを掴んだ。その様子に「大丈夫です」と、シルヴィーは安心させるように背中を撫でる。



「ハルカさんのことは、僕が必ず守ります。防護魔法もかけていますので、古民家に被害が及ぶこともないでしょう」



「シルヴィー」



 吸血鬼の王様がお隣さんで良かったと、今日ほど思ったことはない。



 そうこうしているうちに、地面を隆起させながら丘を上りはじめた「何か」は、いよいよもって、あやし区に接近してきた。止まる気配はない。



 《 撃て 》



 シルヴィーの念を受取ったウォーレンとピエールの一斉爆撃がはじまった。



「威嚇です」



 涼しい顔でさらりと云うシルヴィーだが、あやし区への侵入を拒むように、丘の中腹で集中砲火を浴びせている。



「それでも止まらない場合は――」



 狙いを定めたシルヴィーの左手が金色に輝きはじめた。笑顔の金の魔性がさらりと宣言する。



「仕留めます」



 ついでに、地中に向かって《 滅すぞ 》と念を飛ばし、さすがに動きを止めた地中の「何か」。



 風が吹いて土煙も消え、視界がクリアになったところで、ボコボコになった丘の中腹から――にょきっ。耕した畑に芽が出るように「何か」が顔をだした。



「なんだろう、あれ」



 てっきりモグラ系の生き物がでてくると身構えていたハルカだったが、地面から突き出てきたのは槍の尖端らしきもの。



 ――にょきッ、にょきッ



 先端はどんどん伸びていき、今度は金属の輪が連なった部位が顔をだした。数メートルの長さになった柄をみて、ハルカは思った。



 これって、仏塔の上にあるヤツ。相輪(そうりん)じゃないのかな。



 そう思った直後だった。それは空に向かって、一気にそそり出てきた。



 にょきッ、にょきッ、にょき、にょきぃぃッ――――!



「あっ、やっぱりそうだ!」



 ハルカの予想どおり相輪の下からは、一段、二段、三段……と、重箱のように層になった楼閣が姿を見せる。



 あやし区のちょい手前。 古民家のほぼ真向いにお目見えしたのは、見るも鮮やかな朱色の大物建築物。



「ご、ご、五重塔だぁ!」



 さすがのハルカも、ビックリ仰天した。






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