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ファンタジーな村に引っ越したら、「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた  作者: 藤原ライカ


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27 エイエイオー!

 


 観光課のデーモン・ジュニアを通じて、ハルカが急遽、村役場に呼ばれた理由は、



「来月開催される毎年恒例『きっかい夏まつり』のアドバイザーになってもらいたい」



 というものだった。



 ハルカが10月に営業を開始する通販会社で、きっかい村の商品を取り扱うと耳にした天狗村長は「参考までに、どんな商品が人族に好まれるのか」と根掘り葉掘り聞いたあと、今回のアドバイザー打診について話してくれた。



 人族との友好的な関係を築こうと、地域交流を目的に200年前から毎年行っている『きっかい夏まつり』。しかし、異種族が多く暮らすド田舎村を訪れる人族はほとんどおらず、来場者数は例年1桁どまり。一昨年は、道に迷ったハイカーがふたり。昨年はついにゼロを記録した。



 村おこしの一環として予算を増額し、今年はなんとか2桁にしたいと意気込む村長は、きっかい村の商品を人間界に発信しようとしている人族のハルカに、白羽の矢を立てたのだ。



 ハルカとしても悪い話ではなかった。イベントで集客できれば、『ファンタジー暮らし』の宣伝効果が期待できる。



「開催する日は、決まっているんですか?」



「末広がりの8月8日」



「夏休み期間中だから悪くはないですけど、可能なら土日開催の方が集客は見込めると思います。たとえば、8月第1週の土日とか」



「なるほど!」



 うんうんと頷く村長のとなりでは、いつの間にか運び込まれたホワイトボードに、デーモン・ジュニアが《土・日開催決定》と、すでに決定事項として書き込んでいる。



「村長、ちなみに去年のイベントでは、どんな催しがあったんですか?」



「デーモン、昨年のタイムテーブルと屋台の詳細じゃ!」



 村長に命じられ、デーモンがパチンと指を弾くと同時に、ホワイトボードのとなりには魔力操作による大型ディスプレイが現れた。



 こんなことができるのなら、ホワイトボードなんていらないんじゃないかと思ったが、そこはお役所のことなので黙って画面に目を向けて――ああ、これじゃあ、人を呼べないわ。



 納得の内容に、ハルカは頭を抱えたくなった。




 《 お楽しみステージイベント 》


 午前0時 きっかいラジオ体操 披露


 午前3時 きっかい読書クラブ 朗読会


 午前6時 きっかいカラオケ大会


 午前9時 ちびっ子きっかい太鼓 披露


 午前11時 きっかいスピーチ大会


 


 なぜ、真夜中からはじめるのか。


 

 朝6時のカラオケ大会なんて、地獄でしかないだろう。しかも、夏まつりを盛り上げるイベントは午前で早々に終了。屋台に関しても、どの店も午前0時から正午まで。



 おまけに屋台は、「茹で」「焼き」「蒸し」のように調理法のみが店先に表示され、その名も『御神籤(おみくじ)屋台~何が出てくるか、乞うご期待!』と、まるで料理ガチャのような趣向がこらされていた。これでは怖くて誰も注文できないだろう。



 いったい何を参考にして企画したのだろうと訊くと「初詣」という答えが返ってきた。どうりで午前0時からスタートするわけだ。



 村長をはじめ職員たちが案を出し合い、話し合った結果なのだろうけど、残念ながら間違いだらけの企画運営となっている。



「あのですね……村長」



 その日、ハルカはアドバイザーから早くも昇格し、夏まつりの全権を一任された『きっかい村おこし室長』に就任した。



 翌週。ハルカは友人と会うため、実家に里帰り。



「ハルカ! 元気だった?」



「アカネは変わりない?」



 カフェで待ち合わせたのは、大学時代の同級生・姉川(あねかわ)朱音(あかね)



 アカネは卒業後、大手広告代理店経て独立。現在はイベントプロデュース会社の社長をしている。ハルカの起業についても快く相談にのってくれる頼もしい先輩起業家なのだ。



 近況報告をしたのち、ハルカは本日の目的である『きっかい夏まつり』の資料を見せた。



 アカネの反応は、ハルカとほぼ同じ。



「早朝カラオケかあ……異種族は元気だね。料理ガチャは……斬新だね」



 そこからカフェで2時間、居酒屋に移動して朝方まで話し合いをつづけた結果。



「よろしくお願いします」



 全権を一任されているハルカは、アカネの会社に夏まつりのプロデュースを依頼した。



 それから1週間後――



 仕事の速さとクオリティの高さに定評がある女社長は、草案と概算見積り書を持って、なんと直接、きっかい村にやってきた。



 古民家に「今日、泊めて」と突然現れたアカネ。



「だって、連絡の取りようがないから」



 驚くハルカを「時間がないから」と追い立て、そのまま村役場に直行したアカネは、天狗村長ならびに観光課職員、なんだ、なんだと集まった多くの職員を前に、



「わが社にまかせて頂けたら、成功まちがいなし!」



 プレゼンテーションを決行。



 満場一致で企画案の賛成、了承を得て、しっかりと前金を領収した。



 その夜。



 古民家ではアカネとハルカが、



「おつかれさまー」



「かんぱ~い!」



 床の間に積まれた金塊を愛でながら酒を飲んでいた。



「さすが、国から補助金をたっぷりもらっているモデル地区なだけあるわ。予算が潤沢だし、金払いも最高! お土産にって、お酒や特産品もたくさん貰ったし~」



 大型契約にウハウハのアカネは〖妖命酒〗をがぶ飲み。



 ハルカは、単独で村までやってきたアカネの行動力を賞賛したうえで訊いた。



「妖怪とか魔族とか怖くなかった? 女郎蜘蛛の糸ゑバァは迫力があるから。わたしでも最初はビビったんだよ」



「まだ小さい会社だからこそ怖いなんて云ってられないのよ。仕事を途切れさせないように、毎月しっかり社員の給料を払えるようにって必死よ。ありがとうハルカ、いい仕事を紹介してくれて。競合が少ないうえに支払い確実な自治体様は逃せないわ! わたし、がんばる!」



 責任感の強い女社長は、金塊に頬ずりしながら、



「みんなで成功させよう……村おこし、エイエイオー!」



 挙を突き上げたまま、酔いつぶれた。





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