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ファンタジーな村に引っ越したら、「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた  作者: 藤原ライカ


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25 三日月と満月

 


 その日の夕方。



 古民家にやってきたシルヴィーに、



「商品の注文方法について、ご相談したいのですが、よければ城の方でいっしょに夕食をとりながら~」



 かなりタイムリーな相談を持ち掛けられたハルカは「行くっ」と即答。



 パアアァァァッと、顔を輝かせたシルヴィーにそのままついて行き、



「ようこそいらっしゃいました。ヒトさま~」



 コウモリ執事のピエールに出迎えられてダイニングルームに案内されると、そこには『ゲッソリ』という言葉がピッタリのウォーレンがいた。



「お久しぶりです。ブルーマウンテン」



 呼び方は相変わらず。



「久しぶりだね。元々悪かった顔色がさらに悪くなっているけど大丈夫?」



 吸血鬼とはいえ、心配になるレベルの血色の悪さである。



「ご心配には及びません。俺はこう見えて……」



 云っているそばからフラフラ~とよろけた赤髪の吸血鬼は、壁に手をつき踏ん張ると、



「まだ負けたわけじゃない……まだ負けたわけじゃない……まだ、やれる、まだ、やれる……勝つんだ、勝つんだ……そうさ、俺はウォーレン・フォン・ブランドル……がんばれ、ウォーレン」



 ブツブツと念仏のように唱えている。あきらかに精神的にまいっているようだ。



 メンタル不安定な赤髪の吸血鬼は、念仏を唱え終わると懐から何やら取り出し、



「こちらをご覧ください」



 ハルカの手に、三日月型のクロワッサンのような形をした乳白色の石をのせた。



「こちらは魔石の一種で、魔力によって形状が変化する石なのですが、当家の戦闘狂……いや、姉が、商品の注文に利用してはどうかと……」



 説明しながらウォーレンが、指先でトントンと三日月をタップすると、本物の月のように輝きだした三日月が形をかえていき、なんと円型の満月になった。



 そして満月の表面が小波のように揺らめくと、月面には――



「なにこれ、すごい! ディスプレイじゃない?! うわっ、ふつうにスクロールできるんですけど―ッ!」



 満月ディスプレイに表示された商品画像をスライドさせたり、拡大縮小したり、選択式のプルダウンを操作して、ハルカは歓喜の声をあげる。



「ウォーレン、すごい。これ、どうしたの?!」



「姉のメアリージョーが以前、戦場にて戦闘員の配置と伝達、敵陣の情報収集に使っていたものを改良したらしく……」



「うんうん、それで、それで」



 悔しそうに顔を歪めるウォーレンとは対照的に、ハルカの顔はどんどん輝き、自然と前のめりになっていく。



「仕組みを簡単に説明しますと、これを顧客に1台ずつ渡せば、商品が注文されるたびにマスター端末の方に更新されるそうです。情報漏洩を防ぐため、あらかじめ設定された魔力を持つ者しかマスター端末は閲覧することができないようになっています」



「ようするに、認証システムね」



「はい……顧客用の魔石にも認証者の魔力を紐づけておけば……入力された個別の注文内容を、マスター端末で集約することが可能になります……もちろん、マスター端末から商品の画像などを入れ替えることも、決済サービスも可能です」



「リアルタイムで注文状況がわかる上に決済まで! それって、素晴らしい管理システムよ。既存のシステムを商用に改良するなんて天才だわ!」



 ウォーレンは「チキショーッ」と悪態をついたのち。



「魔力感知型ですので通信設備は必要ありません。こちらの魔石は、トランシルヴァーリア領に石コロ同然で転がっているので、数万台単位で顧客用の端末を準備でき、認証用の魔力も識別できる程度の微量で済みます……」



「マーベラス! コスト面までカバーしているなんて、魔界最高峰の逸材にちがいない!」



 ふたたび「チックショーッ」と悔しさを吐きだしたウォーレンは、この日、もっとも嬉しい報告をハルカにしてくれた。



「通信不要のため、きっかい村でも使用可能です。主君の魔力を認証用として設定し、ブルーマウンテンにアクセス許可さえしておけば、商品の注文状況をいつでも確認、管理できるので、人間界でも採用してはどうか……とか、なんとか、姉が申しておりました」



 当然ながら、三日月型の満月ディスプレイは即採用となり、ハルカとシルヴィーの夕食がはじまった。



「ウォーレンのお姉様って素晴らしい方ね。1度会って、ぜひとも御礼を伝えたいな」



「それでは近いうちに、メアリージョーをこちらに呼びましょうか?」



「本当、嬉しい! でも、とっても忙しいんでしょ? 国境を防衛しながらトランシルヴァーリア領の領主まで兼任して、注文管理システムまで構築しちゃうなんて……」



「そうですね。しかし、メアリージョーが魔界を離れる際は、ウォーレンのヤツに代行させればいいので」



「あっ、そっか。でも、あまりにお姉さんが出来すぎるから、ウォーレンは比べられて可哀相かも」 



「まあ、それも良い経験になるでしょう。ところで、メアリージョーに、何か褒美を与えようと思うですが、いかかでしょうか?」



「さすが、シルヴィー! 部下をしっかり評価する上司ってステキよ。よし、今日は乾杯しよう!」



「そうしましょう!」



「メアリージョーの素晴らしき功績に乾杯!」



 ◆  ◆  ◆  



 ハルカとシルヴィーが、極上ワインで祝杯をあげているころ。



「チキショー! 姉さんばっかり褒められやがってえっ! 血濡れのメアリーのくせにぃぃぃ!」



 素材となる魔石を集めるため、ウォーレンは魔界にトンボ返りさせられていた。








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