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23 恋愛運 

 


「通販?」



 縁側でショットグラスを手にしたシルヴィーが、コテンと首をかしげた。



「あれ、知らない? 魔界にはないの?」



 某有名通販会社のカタログや、印刷した通販サイトの画面を見せながら、ハルカは大雑把に説明していく。



「ふむふむ、ふむふむ」と耳を傾けていたシルヴィーは、カタログ冊子をパラパラとめくり、



「あっ、これが欲しいです」



 注文ナンバー〖4151〗 恋愛運アップ 縁結び姫の恋々ストラップ



 ピンクのハート型に金文字で『恋人(きた)る』と、あまり御利益がなさそうな品だった。



 さらに、もうひとつ。



「あっ、これも欲しいです!」



 注文ナンバー〖5151〗 恋愛運爆あがりTシャツ



 ショッキングピンクのドギツイ色に白文字で『恋人募集中』と、恥も外聞もなくデカデカとプリントされた安っぽいTシャツを「欲しい~」と目をキラキラさせた。



 カタログには、どちらも大特価となっており、おそらく在庫をかかえてしまっているのだろう。



 シルヴィーの欲しい物はさておき、ハルカは説明をつづけた。



「そういう風に冊子や電子カタログを見て、欲しい物があったら注文書を郵送するか、インターネット、電話で注文して、後日商品が発送される仕組みなの」



「お支払いはどうなるのですか?」



「色々よ。主な支払い方法は代金引換、振込み、金融口座からの引き落としかな」



「なるほど。それでハルカさんは、このような通販会社を開業したい、ということですね」



「そうそう」



 ハルカが作成した事業計画書にも目を通しながら、シルヴィーは訊いてきた。



「こういった販売形態が、人間界では好まれるのですか?」



「そうね。年代層によって利用頻度に差はあるけど、1度は利用したことがある人族が半数以上だと思う。それぐらい浸透しているわ。つまりは競合必至。どんな商品にも類似品があるから、価格と品質でガチンコ勝負しないといけないわけ。でも、わたしは勝算ありと睨んでいるわ」



 ハルカの目がキランと光り、商品リストをパラパラ。



 ・エルフ族〖コスメ・エルフ〗の万能魔法パウダー


 ・同じく〖エルフ茶園〗のハーブティー


 ・巨人族が経営、生産する新鮮野菜


 ・妖精ピクシーのジャムやクッキー


 ・ドワーフ族が製造する金物や装身具


 ・きっかい酒造の妖命酒、クラフトビール



 それ以外にも、ハルカが長年きっかい村で「これは売れる」と目を付けた商品がズラリとリストアップされている。



「それで、シルヴィーに相談なんだけど。秋になったら極上ワインも商品化したいんだけど、どうかな?」



 金髪の吸血鬼は、間髪入れずに了承した。



「いいです」



「えっ、いいの?!」



 利益配分とか、まだ全然話していないけど……



 ハルカの心配をよそに、シルヴィーは乗り気だった。



「ワインの取引に関しては、オーナーである僕が了承しますので、販売価格や本数などはハルカさんの一存でお決めになってください。あとでウォーレンにも話しておきます」



「えっ、わたしの一存でいいの? でも、卸値とか売上の配分とか……」



「売上? いりません。利益はすべてハルカさんのモノでけっこうです」



 吸血鬼の王様は太っ腹だった。



「ええっ、でも、それじゃあ、あまりに申し訳なさすぎるよ。どうしたらいいかな……あっ、そうだ。これからリストアップした商品を取引してもらえるように交渉するんだけど、シルヴィーさえ良かったら、わたしの相談役になってくれない。経営パートナーというか。そうすれば、全体の利益率に応じて報酬を……」



 そのとき、今度はシルヴィーの金の瞳がギラッと光った。



「報酬ですか!」



「うん。赤字のときはゼロだけど、黒字化したときは上期と下期でお金を――」



「金銭は一切いりません!」



「えっ、でも、金銭報酬じゃなかったらいったい何を」



「……あの、図々しいのを承知で申し上げますが。それはその……僕の希望する報酬でいいのでしょうか」



 金銭的要求をしてこない吸血鬼が欲しいものとはなんだろうか。



「報酬の内容にもよるけど、ちなみにシルヴィーは何がいいの?」



「僕が望むのは……ハルカさんとの……デ、デ、デート権」



 キャッ、云っちゃった――と、真っ赤になった吸血鬼は両手で顔を覆った。



 そんなのでいいのかと、軽く「いいよ」と応じたハルカに対して、



「相談役として、必ずやお役に立ってみせます! 黒字化! 黒字化!」



 シルヴィーは並々ならぬ闘志を燃やした。



 その後、ハルカとシルヴィーはさっそく、商品を取り扱う異種族たちとの交渉にでかけたのだが、きっかい村の住民たちは、



「うん、いいよ」



 だれもかれもが、事業計画や利益の話を聞きもせず、快く了承してくれた。



 吸血鬼の王様しかり、エルフ族しかり、妖精ピクシーしかり。異種族たちはあまりに無欲だった。



 元外資系キャリアウーマンとして、泥沼の交渉を経験してきたハルカは「こんな簡単に……」と、壮大な肩透かしをくらったのだった。





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