表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/38

14 異世界産

 



 時刻は午前8時45分。



 ハルカは本日の『青空市』において、最大の目玉商品を手に入れるため、一つ目小僧の職員が持つ【本日の目玉商品☆最後尾はコチラです】と掲げられたプラカードの列に並んだ。



 入場口で配られていたチラシに目を通す。



【お見逃しなく! お買い忘れなく! 午前9時より販売開始~人気☆異世界野菜☆各種1玉/1円!】(注:各100玉限定。1世帯3玉まで。売り切れゴメン)



 これは見逃せない。買い忘れなんて、もってのほかだ。



 きっかい村で平均100円を超える高級野菜。それが『異世界産の野菜』である。量り売りが主流のきっかい村において、単価設定アリの強気販売をする理由は、その出荷数の少なさにある。



 妖怪スーパーにも滅多に入荷しない異世界産の野菜を、ハルカも1度は買ってみたいと思っていたのだが――列に並んで思った。



 今日は、買える!



 意気揚々と目玉商品の列に並んだハルカが「1、2、3、4……」と数えたところ、先頭から30番目だった。販売開始を今か今かと待ちつづけ、そうして手に入れた異世界野菜は制限数の3玉。



 《妖怪カボチャ》と《モンスター・キャベツ》と《七色マジカルレタス》を、ハルカは合計3円で購入することができた。



「やった! やった! やったあ~!」



 小躍りしてしまうほど嬉しい異世界野菜とは、いったいどういうものか。



 まずは《妖怪かぼちゃ》から。コチラはどんなに厚くカットしても、煮る、焼く、蒸す、などなど。いかなる調理法であっても、わずか20秒で火が通るという、最強時短野菜である。



 つぎに《モンスター・キャベツ》とはナニか。こちらは半分にカットして保存するたび、翌朝には元通りの1玉に戻るという、驚異の再生能力を持つ葉物野菜である。この再生は約1か月間持続するので、大家族にはもってこいの野菜である。



 さいごに《七色マジカルレタス》であるが、これは葉の1枚、1枚が、とってもキュートなハート型になっており、盛り付けると七色のパステルカラーに変化するという、料理の彩りには最高の野菜である。



 買物を終えたハルカが、空色の紙袋をぶら提げ、鼻歌まじりに駐車場へ向かっていると、



「おおっ、そこを歩くは、すっぴん風メイクでご来場の青山さんではないですか!」



 出口近くに本部がある農業振興課のテント前で、ヘビ彦につかまった。



「本日の目玉商品は、お買い忘れないですか?」



 ハルカが空色の紙袋を開いて見せると、



「異世界野菜コンプリート! さすが、買物上手のすっぴん風メイク!」



 そう云ってヘビ彦は、紙袋のなかにイチゴ3パックを詰め、紐で結わえたバナナ3房をハルカの肩にかけ、ネットに入ったキウイフルーツ10個を「ご来場プレゼントです」と持たせてきた。



「きっかい酒造からの〖春のクラフトビール・お試し1ケース。大瓶20本セット〗は、お車の荷台に積んでおきましたので!」



「ありがとう! 絶対に持てないと思ったよ!」



「そうでございましょう。藪蛇ヘビ彦に抜かりはございません! しつこいだけではございません! またのご来場をお待ちしております! どうぞ、お気をつけてお帰りくださ~い!」



 ヘビ彦に見送られ、肩にも腕にもずっしりと重さを感じながら、ハルカは駐車場に到着した。



 鍵のかかっていない車のバックドアを開けると、すでに荷台はいっぱいだった。



 きっかい酒造のロゴ入りクラフトビールが1ケース。それから「あおやまのイモ」と書かれた麻袋がひとつ。絶対に2キロ以上ありそうな「あおやまの野菜おまかせ」と書かれたダンボール箱が乗せられ、さらに「あおやまの米」と書かれた米袋まであった。



 心優しき太っ腹な大男に、ハルカは手を合わせて拝んだ。



 ありがとう――ジャイアントさん。



 そのままバックドアを閉じたハルカは、助手席に空色の紙袋とバナナ、キウイフルーツと大量のティーバッグとクッキーを、「よっこらせっ」と載せた。



「これで10円だもんなあ……」



 しみじみ思う。



 きっかい村に住む限り、向こう10年の食費は、酒代込みで1万円でいけるんじゃないだろうか。いや、イケる。青空市がある限り、きっと大丈夫だ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ