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2ボール2ストライク

『ファールボール!』

 

 審判の叫び声が、俺の耳の中で苛立たしく反響する。


 内角高め、ストライクともボールとも取れるギリギリの高さに放らせたストレートを、バックネットへのファールにされたのだ。

 思うように打ち取れない苛立ちに、舌打ちのひとつでもしてやりたくなってしまう。


(くっそ、空振れよ……)

 

 ここまでの藤畑への配球は、初球アウトローにストレート、二球目は同じコースにスプリット、三球目、これまたアウトローへチェンジアップ。

 

 そして四球目、三球連続でアウトローに投げさせて、目線を外へ外へ、低め低めへと誘導させて、そのうえチェンジアップで球速差も存分に用意してやってからの、インハイへのストレート。

 

 こんだけお膳立てしてやったのに、それでも高めの速球で空振りが取れない。当てるなら当てるで、浅いフライにでもしてアウトになってくれりゃあいいものを。

 

(フェアゾーンにこそ飛ばされてねーけど、これまでの打席でも決めにいったはずの高めのストレートを、ストライクゾーン周辺の球はファールで逃げられ、ボールゾーンに外れた球は見逃された)

 

 憎たらしいほどのコンタクト能力と選球眼。

 思えばこいつには、今日に限らずシーズン中もずっと、凡退させるのに苦労させられていた。

 

 追い込まれるまで際どい球は振らない。追い込まれてもストライクからボールになる変化球には途中でバットを止め、チェンジアップにはスイングを遅らせてタイミングを合わせる。

 それでいてストライクゾーンの球は上手くヒットゾーンに運び、動く速球をコースに決めてもなお、詰まりながらもヒットにしやがる。

 こんなだってのに、少しでも甘く入ればスタンドまで一発ドカン、なのだから手のつけようがない。マジでどうしろってんだ。

 

 そんなやつを相手にしているのだから当然かもしれないが、他球団の多くのピッチャーと同様、うちの投手陣も先発、リリーフ関係なく、こいつに苦しめられ続けてきた。


 ……ああ、苦しめられてきたって意味じゃ、俺ももちろんそうだ。こんなやつを相手にしたいキャッチャーなんかいるわけがない。

 もっとも、4割打者を相手にしたらどんなピッチャーもキャッチャーも、大抵のやつは打ち取るのに頭を悩まされるだろうが。

 そしてそれは、片崎も例外とは言えなかった。


 片崎の、藤畑に対する今シーズンの通算打率は三割近い。もっとも、四割打者を相手に打率三割未満に収めている、という意味では、打ち取っている方ではあるのかもしれないが。

 

 今のストレートだって、他のバッターが相手なら高めに外れたボールゾーンに投げさせているところだ。


 片崎のストレートは、高めボールゾーンに投げさせても始めはストライクに見えて、途中からホップするかのような軌道でボールゾーンへと吹き上がってくるから、大抵のバッターは手を出して空振りしてくれる。

 だがこいつは、その球を振ってくれない。


 2ストライクまで追い込んでもなお、審判次第ではストライク、というような際どい高さにでも投げさせない限り、滅多に手を出してこない。そしてその際どい高さのストレートを当ててきやがるのだから始末に負えない。

 

 とはいえこいつも、この打席で打率4割がかかってる。もういい加減、際どいコースの球はそう易々とは見逃せないはずだ。

 

(なら、ここはどうよ?)

 

 なあ審判、今日の試合で、片崎のコントロールは散々見てきたよな? ここに、ギリギリに投げさせるから、ちゃんと見ててくれよ?

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