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1ボール2ストライク

 藤畑が腰砕けのスイングで引っ張った打球は、ライト方向へのファールとなった。

 これで1ボール2ストライクだ。

 

(うん、良いチェンジアップだ)

 

 片崎のピッチングを見守りながらひとり頷く。

 ベンチで横から見ていると、この球の厄介さがよく分かる。

 出だしの角度や軌道はストレートによく似ているにもかかわらず、速度には明らかな差がある。バッターからすれば途中までチェンジアップなのか速球なのか判別できず、対応に苦労するだろう。

 

(それでもファールで逃げてみせるあたり、相手も大したもんだけどな)

 

 スイングを止めることこそできなかったが、途中で腰の回転を遅らせてバットに当て、ライト方向のファールゾーンへと引っ張った。並の打者なら空振りで終わるところだ。打率4割は伊達ではないといったところか。


 だが、20キロ近い緩急の差は次のボールにも活きてくる。今日はストレートが良く走っているからなおさらだろう。

 

 今思い返しても、春季キャンプの時点から、片崎の調子は去年より良さそうだった。

 

 今年の春季キャンプ2日目、ブルペンに入り、立ち投げを始めた片崎のボールを見た時点で、おっ、と思った。去年のこの時期よりも、球に勢いがあるように見えたのだ。

 

 それはキャッチャーを座らせてからも変わらず、制球の良さはそのままに、スピードが去年より速くなっているように見えた。球速としてはプラス2、3キロといったところだろうか。

 

 力感は去年と変わらないように見えるから、去年と同じ配分の力を加えても、より速度が出るようになったということだろう。オフシーズンでのトレーニングや調整が功を奏している様子だ。

 そしてそれは、シーズン中の成績にも如実に表れていた。

 

 この試合を除く今日までの片崎の成績は13勝4敗、防御率2.23、奪三振数148。これらは全てリーグ三位内に入る数字だ。

 残念ながら、この試合を含めてもタイトル獲得に至ることはなさそうだが、堂々たる成績と言ってよいだろう。

 

 それほど好調だった今シーズンの中でも、特に今日は調子が良さそうだった。そういう意味では、ここまでノーヒットだという事実もそこまで驚くべきことではない。驚くべきことではないが……。

 

(なんだ? 今日の片崎のピッチング、なんだか違和感があるな……)

 

 別に投球フォームがおかしいわけでも、特定の球種の調子が悪いわけでもない。

 

 何かが悪い、ということではないのだ。もっと些細な、それでいて普段とは違うところ……。

 

(……ああ、そうか。今日はあの球をあまり投げていないのか)

 

 違和感の正体に気付き、ひとり納得する。

 もっとも元々あのボールは、片崎の持ち球の中では投げる割合が一番低い球種だ。おそらくシーズンを通しての投球割合は、1割前後といったところだろう。

 

 だからあまり使っていなかったとしても不思議ではない。

 だが、そこまで考えて、気付く。

 

(ん? あまり使っていない、どころか……)

 

 もしかして、一球も投げていない……か?

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