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お化け捜査官の詩  作者: 加賀山みやび
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聡(さとし)

 次の朝。

 学校へ行ってみると、入り口に人だかりができていた。集まっている生徒達は、口々に何かを話しており、その会話の中に時々、『亀石』『お化け捜査官』という言葉が混じっていた。そのため、僕は少しばかり不安になった。昨日のことと、関係があるのかもしれない。

 人混みをかき分け、人だかりの先頭に出てみると、原因がわかった。昇降口の掲示板になにやら大きな紙が貼られていた。そこには筆で巨大な文字が書かれていた。縦に長い紙で、一見すると書初めのようだった。ただ、残念なのは、その字が、とてつもなく下手くそだったということだ。

『亀石のお化けはデマなり』

デカデカと書かれた文字の左横下に、小さな文字が付け加えられていた。

『お化け捜査官』


 上野聡は、僕と同じ五年生で、隣のクラスの生徒だった。掲示板に張り紙をしたのはもちろん彼の仕業だった。いろいろと聞きたいことがある。その日の午後、僕は彼を図書館に誘った。

「これが僕の手帳」

お化け捜査官と書かれた部分を開いて見せると、聡も自分の手帳を開いて見せた。

「全く同じだね」

聡は全然驚いていないように見えた。まるで、僕が手帳を持っていることは、前から知っていた、そんな感じだ。

「聡君はこれをどこで手に入れたの?」

「聡でいいよ。これ、父さんの部屋で見つけたんだ。勝手に持って来ちゃったんだけどね、開いたら自分の名前が書いてあったからちょっと驚いたよ。父さんが子供の頃に流行った遊びなんだってさ。匠君は、どこで手に入れたの? やっぱりお父さんからもらった?」

「匠でいいよ。俺、父さんいないんだ」

少しばかり、気まずい風が吹いた。いつものことだから、この沈黙にもだいぶ慣れた。

「古墳の近くで、拾った」

嘘をついた。夕子のことがうまく説明できなかったからだ。頭のいい聡はすぐに僕の嘘に気付いたようだった。

「拾った手帳に、自分の名前を書いちゃったってわけかい。まあ、いいよ。本当のことを話す気になったら教えてよ。でも、俺ら、もう友達だよね。匠君」

「匠でいいよ」


 背の低い聡は、一見すると同学年の中では、だいぶ幼く見えた。しかし、しばらく話をしてみると、むしろ、同学年の中でも、飛び抜けて大人びていて、しかも、かなり頭が良いことがよくわかった。時々、わざとらしく子供っぽい話し方をするのは、そんな自分の子供らしくない部分を理解しているからかも知れない。悪く言えば、ちょっと、小狡い部分もあり、そこは、僕と似ていると思った。

 そんな聡が、意外にも、自分以外にもう一人のお化け捜査官が現れたことで、すっかり舞い上がってしまっていた。

「お化け捜査チームができたね」

「いや、俺は別にそんな子供っぽいことする気はないけど」

「とかなんとか言っちゃって、匠君、君も結構乗り気なんじゃないの。じゃなきゃ、拾った手帳に名前書いたりしないって」

一瞬、本当は、手帳には最初から名前が書いてあったのだと、言おうかと思ったが、やはりやめておいた。夕子のことを話さなくてはならなくなる。それはかなり面倒なことに思えた。

 こうして、なし崩し的に、お化け捜査チームが出来上がった。僕は、ブツブツと言いながらも、それ以上反対をしなかった。なんだかんだ言いながら、少しだけ、その気になっていたのは確かだった。

 

 木村は、昇降口に張り紙をしたのが聡であることには、当然、気づいているようだった。そこで、木村とは、ちょっとした取引をすることにした。木村がこれまでにやってきたインチキについては目を瞑る代わりに、お化け捜査官について、誰かに話をすることを禁じたのだ。

「まあ、喋るだろうな、あいつは」

と言うのが、聡と僕の共通の見解ではあった。でも、その時はその時だ。別に正体がバレても困ることは何もない。五年生にもなって、お化け捜査官というのは、ちょっとばかり恥ずかしい。それだけだ。

 亀石事件の中で、残った謎が一つだけあった。木村の証言によると、赤いスカートの少女についての噂だけは、木村が流したものではなかった。


 夕子のことは、今はまだ、僕だけの秘密である。

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