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お化け捜査官の詩  作者: 加賀山みやび
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亀石

「ねえ、匠君」

お調子者の木村は毎朝気さくに声をかけてくる。

「ねえ、匠君。あの話聞いた?」

「あの話って?」

「お化けの話だよ。さてはまだ聞いてないな」

夕子にもらった黒い手帳が、サッと僕の頭をよぎった。あの手帳の一ページ目にはなぜか『お化け捜査官 浜 匠』と、書かれていた。もちろん、この手帳のことは誰にも話していない。

 お化け捜査官だなんて。

 それは、小学五年生にしては随分と子供っぽい遊びに思えた。まさか、木村は何か知っているのか。手帳のことは、こいつにだけは知られたくなかった。

 その後も、木村は一方的に喋った。木村によると、最近この学校ではお化けが出るという噂があるらしい。僕は、密かに安堵のため息をついた。手帳のことがバレたわけではないようだ。 

「じゃあ、今夜ね」

木村がそう言って、話を終わろうとした時、僕は、後半部分の木村の話を、ほとんど全部聞き流していたことに気付いた。何が今夜なのか。

「何のこと?」

「全くもう。聞いてなかったの? お化けだよ、お化け。今夜見に行くって言ったじゃない」

「誰が」

「だから、匠君と僕」

知らない間に、僕はお化けを見に行く約束をしてしまったらしい。


 僕の通う小学校は、南側を向いた急な斜面に建てられていた。太陽を真正面から受けるその場所は、冬でも比較的暖かかった。また、森や田畑に囲まれているせいか、夏でも、常に爽やかな風が吹き、極端に気温が上昇することを防いでいた。

 校舎の北側は、杉の木の森に面していた。夕子と出会ったジメジメの古墳はその森の中にあるのだが、ほとんどの生徒は、その存在を知らないようだった。東側には同じような斜面があって、そこには小学校が建てられる前から、段々畑が広がっていた。西側は下りの斜面になっており、そこを下りきったところには小さな川が流れていた。校舎の南側は、古くからの住宅地となっていて、古くて大きな建物や、最近になって建て替えられたと思われる、新しい一戸建ての住宅なんかが混在していた。


 実は数年前、いや、数十年前と言った方がいいかもしれない。この場所が世間の注目を集めたことがあった。

 この学校の建設中、その現場から、かなり規模の大きな縄文時代の遺跡が発見された。以前から、地域の住民達は、自分たちの庭や畑から、黒曜石や土器がゴロゴロと見つかることに気づいていたが、その時まで、この場所にそれほど、貴重な文化遺産が眠っているとは夢にも思っていなかった。

 その遺跡の発見により、小学校建設は一旦中断され、県の教育委員会などが中心になって綿密な調査が行われた。一部の人々からは、小学校の建設を中止して、遺跡を保存するべきではないかと言う意見も出されたようだ。しかし、一度始まってしまった、小学校の建設をやめるわけにもいかず、結局、なるべく遺跡を残しつつも、小学校の建設は続けられたのだった。

 夕子と出会った古墳も、その関連で最初は大切に扱われていたらしい。しかし、残念ながら、その縄文の遺跡とは時代がだいぶずれていた。そのため、あまり重要視されることがなくなり、最終的には、放置されてしまったようだ。


 木村の言っていた、お化けの舞台となるのは、学校の敷地と、北側の森との境目だった。そこに二メートルほどの丸い大きな岩がある。校舎ができた時から放置されているものらしい。その形が亀に似ているということで、生徒達はそれを亀石と呼んでいた。ちょうど、亀の頭に当たる部分には、小さな別の石が出っ張っており、よくよく見ると、目のように見える窪みもあった。

 ところが最近、この石の周りで不思議なことが起こるのだという。

「目が光った」

ある生徒は言った。誰が言ったのかは木村も知らないらしいが、とにかく、どこぞの生徒が深夜この石を訪れて、亀石の目が光るのを見たそうだ。

「ピアノの音が聞こえた」

また、ある生徒は言った。音楽室から遠く離れたこの場所で、ピアノの音が聞こえたので、おかしいなと思い、音の出所を探ったところ、亀石からだった。もちろん曲が流れてきたわけではなく、単音、ポーンと鍵盤を叩くような音がしたらしい。

「ラの音だって話だけど」

木村はそう聞いてきたらしいが、どうも嘘くさい。

「赤いスカートの少女を見た」

またまた、ある生徒は言った。僕は夕子のことを思い出してドキッとしたが、木村は、これはデマだと言い放った。

「そりゃ、少女くらいいるよ。ここは小学校なんだから」

 とにかく、夜、亀石に来ると何かが起こる。そんな噂が立っており、最近では、亀石ではなく、お化け石と呼ばれているらしい。

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