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お化け捜査官の詩  作者: 加賀山みやび
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水野さん

 まず、僕ら三人はお互いの顔を見つめあった。それぞれが、それぞれの方法で自分達が正常であることを確認した。

 背の低い聡は、いつもと同じ丸い眼鏡の向こうから、僕の目を見上げた後で、ゆきを見つめ、その後で、再び僕に目を移した。いつもは冷静な聡が、少しばかり動揺しているのがわかった。

 ゆきは、あたりをキョロキョロと見渡した後で、僕を見た。『何が起こっているのか教えて?』と心の中でつぶやいているように見えた。

 僕は、聡を見て、ゆきを見た後で、もう一度、老人を見てみた。幽霊? 足はある。僕らと違って、立派な登山靴を履いている。僕も聡もゆきも、履いているのは、いつも学校に行くときの、普通の運動靴だった。どれも二千円もしないような安物だ。

 僕は、思い切って、聞いてみた。

「幽霊さん。お名前は?」

「水野と言います」

あ、名前はあるんだ。僕は勝手に、『幽霊に名前なんか聞いちゃいかん』と、言って、はぐらかされるものと、想像していたから、逆に驚いた。

「君たちは、お化け捜査官だろう?」

その言葉は、僕を驚かすというよりは呆れさせた。いったいどうなっているんだ。僕はだめもとでもう一度聞いてみた。

「どうして、そんなことまで、わかるんですか?」

「どうしてって、私は幽霊だから」

やっぱり。今度は想像通りの答えに、逆にちょっと安心した。


 水野さんから少し離れた場所で、僕ら三人は相談した。

「どうしよう」ゆきは、不安と好奇心の入り混じった複雑な顔をしていた。

「俺は信じないぞ。どう見ても人間だ」聡が言った。

「でも、夕子もあんな感じだったな」

「そうなの」

「ああ、普通に靴も履いてたし」

聡と違って、僕はまるっきり信じない訳では無かった。信じる半分、信じない半分、そんなところだ。


 その後、僕らは水野さんと一緒に下山をした。

「水野さんはおいくつなんですか」

「忘れたな。幽霊にそんなことを聞いてはいかんよ」

聡は、歩きながら、なんとか水野さんが本当は何者なのかを聞き出そうと、懸命に質問していたが、いつも、楽しそうに笑う水野さんに、はぐらかされていた。

 僕はその後ろから、ずっと水野さんの背中を見つめていた。華奢ではあるが、そこには、そこはかとないパワーの発散が感じられた。その足取りもしっかりとしていた。日頃から、しっかりとトレーニングをしているに違いなかった。時折見せる横顔には、深いシワが刻まれていた。おそらく、見た目以上に高齢なのではないか。そんな気がした。

 もちろん、幽霊でなかった場合、ということではあるが。


 やがて、キャンプ場に到着すると、水野さんは言った。

「今日は、会えてよかった。また、いつか会える日を楽しみにしているよ」

「せめて、連絡先を教えてくれませんか」

聡はあくまでも、幽霊ではないことを前提にして、そう言って食い下がったが、水野さんが折れることは無かった。

「それは、やめておこう。縁があればまた会える。今日、ここで会えたということは、おそらく私達は、強い縁で結ばれているのだ。その縁の強さを試してみようじゃないか。では、さようなら」

水野さんはそう言って僕らに背を向けた。

 僕等は、去ってゆく水野さんを見つめ続けた。

 そのまま無言で駐車場に向かった水野さんは、ちょうど、ゆきのお父さんの車の隣に止まっていた白い軽自動車に乗り込むと、あっという間に走り去ってしまった。

「絶対に、幽霊じゃないじゃん」

聡の考えに、その時は、さすがに、僕も同意したい気分だった。

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