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お化け捜査官の詩  作者: 加賀山みやび
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山口家の人々

「友達と霧ヶ峰にキャンプに行きたい」

と、ゆきは、両親にそう切り出したらしい。『作戦を考える』と言っていた割には、実にシンプルで、もはや、作戦と言えるレベルではない。そして、もちろん、彼女の両親はそれを許さなかった。当たり前である。その代わりの案として、ゆきの父親は、ついて行くと言い出した。

「ちょっとめんどくさいな」

聡が言った。ゆきには悪いとは思ったが、正直僕もそう思った。

「でも、どちらにしても子供だけでは、キャンプも登山もできないわ。この際、お父さんも巻き込んじゃいましょうよ」

確かに、いろいろと調べてみると、保護者なしではキャンプ場が利用できないことがわかった。それに、一般的に子供だけの登山と言うのも許されない。

「まあ、しょうがないかな」

僕も聡も認めざるを得なかった。

「でもさ、お化け捜査官の話は、ゆきのお父さんには内緒にしよう。あくまでも、今回の目的は、キャンプと登山だ」

そう言う聡の気持ちは、僕にはよくわかった。自分たちの子供っぽさを認めたくないのだ。この気持ちは、なかなか、ゆきには理解できないようだった。女の子で、しかも一つ年下。仕方ないのかもしれない。


 夏休み直前の日曜日に、僕と聡はゆきの家に招待された。

 招待というよりは、要するに、審査だ。

 ゆきからすれば、ただ友達を家に呼んだだけだろうが、その両親からして見れば、どんな奴が現れるのか、興味津々というところだろう。悪くすれば、攻撃的な視線を向けて来ることもあるかもしれない。僕も聡も、その日は、かなり緊張していた。愛娘をたぶらかす不良少年に見えなければ良いのだが。

 ゆきの家は、一本杉から百メートルほどの場所にあった。実際に門の前まで来てみると本当に学校に近いことが実感できた。とても大きな家だ。周辺の他の家と比べても際立って大きくて広い。それに、大きな門があるのは個人の家としては珍しい。さらにすごいのは、その庭園だった。門から玄関までは、十数メートルの距離があり、両サイドにはたくさんのモミジが植えられていた。今は、緑だが、秋になり赤く色付いた時の風景はさぞかし見事なものに違いない。僕は昔見た京都のお寺の庭園を思い出していた。

「もしかして、ものスゴイお金持ちなのかな」

聡がこっそりと、僕の耳元で囁いた。


 ゆきに案内されて、リビングに入った。正面には巨大なテレビがあり、それを囲むような形でソファーが配置されていた。右側の壁面はそのほとんどが巨大な窓になっており、部屋全体は爽やかな、自然の光で満たされていた。窓から見える風景は、遠くの景色を借景として取り込んで、一枚の絵画のようだった。

 ソファーには三人の大人が座っていた。

 ゆきが、お父さんとお母さんと、おばあちゃんだと言い、同時に、僕と聡のことを簡単に紹介した。ゆきは、約束通り、お化け捜査官のことは口に出さなかった。

 ゆきの両親はびっくりするほど若かった。もしかしたら、おばあさんの方が、僕の両親に年が近いのではないか、そんな気がするくらいだった。僕らの名前を聞いた時、おばあさんの頬が一瞬緩んだ。少しだけ笑ったようにも見えたのだが、もう一度見ると元に戻っていた。気のせいだったのかもしれない。


「私は、子供たちだけで、キャンプをするのは基本的に賛成なんだ」

ゆきのお父さんは、そう言った。

「特に君達くらいの年の男の子の場合、そのくらい元気な方がいい」


 ゆきのお父さんはとても優しそうな人だった。体全体から、『優しさの波動』とでも言えるものが溢れ出ている。ブルーのジーンズに半袖のポロシャツ。痩せ型で背が高く、スポーツ選手を思わせるキリッとした体型をしている。スッキリとした顎はいかにも切れ者、という感じであったが、一方で、目の両脇の笑いじわにより、穏やかでお人好しな印象も人に与えていた。

 お母さんは小柄でちょっとぽっちゃりとした体型。いつも笑顔を絶やさず、家族の太陽のような存在だ。優しく、暖かい人柄がにじみ出ている。そして、小学生の僕が言うのもなんだが、可愛らしい人だった。コーヒーを入れたり、お菓子を出したり、さっきからこまごまと動き回っているのは、もしかしたら、僕ら以上に緊張しているから、かもしれない。

 おばあさんの持つ独特な雰囲気は、僕を少しばかり不思議な気持ちにさせた。まず、最初に感じたのは、何とも言えない親密感だった。『もしかしたら、どこかで出会ったことがあるかもしれない』、そんな、懐かしさのようなものを感じた。

 そして、不思議なのは、もしかしたら、おばあさんも、僕と同じような懐かしさを感じているのかもしれない、と思えることだった。おばあさんの視線の先には、常に、僕、もしくは聡の瞳があった。そして、その目の光の中には、明らかに、懐かしさを感じている部分があった。

 

「でもね、残念ながら、やっぱり子供だけで行かせるわけには行かないんだ。親としてね」

雑談の後で、最後にゆきのお父さんはきっぱりと言った。優しさと、甘さとは違うものなのだと言うことを、子供達に伝えなくてはならない。そんな大人の使命感を持った一言だった。

「だからこうしよう。僕は霧ヶ峰まで車で行く。君たちは私とは関係なく、自力で辿りつけばいい。キャンプ場は、私の名前で二セット申し込もう。一つは君たちが自由に使って良い。当日は、私は同じキャンプ場にいることになる。でも、私はなるべく君達の行動には口を出さない。遠くから見守るだけだ。当然のことながら、君達は私を頼ることはできない」

「わかりました」

「ありがとうございます」

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